鎖は不要
いたたまれない静けさを打ち破り、エリカ様が口を開いた。
「ふたりとも馬鹿な事言ってないで、速やかに席につきなさい。そして、大人しくしてなさい。バーリ、悪いけれど、そこの招待されていないふたりに席をつくってあげて。あ、ふたりの席はできるだけ離しといて。面倒だから」
と、エリカ様が執事のバーリさんに指示をだした。
確かに面倒よね……。
が、今度は席の場所で、偽エルフと王太子様の間で小競り合いが始まった。
一応、王太子様の婚約者である私の席の隣に王太子様が座ることになったのだけれど、偽エルフが文句をいいだしたから。
「ねえ、バーリさん。ぼくの隣はルシェにして。魔力の鎖でつながっているから、離れられないんだ。だから、席、替えてくれる?」
こてんと首を倒して、にっこり微笑みながら、変なことを言いだした偽エルフ。
それにしても、鎖でつながってる?
やっぱり、私をペットか何かと思ってるのね!
そんな嘘、信じるわけないでしょう?
と思ったら、バーリさんが驚いたように言った。
「魔力の鎖でルシェル様とつながっておられるのですか!? それは、どのくらいの長さなんでしょう? 隣といっても、離れすぎたら不便ですよね?」
あ、実直なバーリさんが信じている……。
バーリさん、それ、偽エルフの嘘です。
こんな人のいいバーリさんを騙すなんて許せないわね。
ガツンと注意しようと思ったら、王太子様が割って入った。
「バーリさん、こいつとルシェの間には、なにひとつ繋がっている物などありませんよ。こいつは、ルシェルから一番遠い席にしてください。それに、ルシェルと運命の鎖でつながっているのは、この私です」
と、真顔で変なことを言いだす王太子様。
今度は、運命の鎖……?
魔力が運命に変わっただけで、鎖は鎖……。
王太子様も私をペットみたいに思ってるんじゃない?
ほんと、ふたりとも私をなんだと思ってるのかしら!?
「私にはなんの鎖もついていませんし、これからも鎖はつきません! 私はペットではなく、人間です!」
と、大きな声で宣言した私。
一瞬、部屋がシーンとなった。
ブハッとふきだしたのは、ノーラン様。
「人間って……! もう、ルシェ、かわいー! ぼくだけの使い魔にしたい!」
と、笑いながら恐ろしいことを言いだす偽エルフ。
「ペットだったら、一生、私の部屋からださずに飼いますけどね」
真顔で恐ろしいことを言いだす王太子様。
「あーもう、ふたりともルシェルから離れなさい! 変態と変態はとっとと席に座る! ロジャー、お願い!」
荒れた口調でエリカ様がロジャー様に指示をとばした。
「よし、わかった、エリカ!」
ロジャー様の張り切った声が響いた。
エリカ様に頼まれたロジャー様は、いつだって、ものすごい力を発揮する。
ということで、力づくでふたりは席に座らされた。
そして、開始の時間になった。
「あ? でも、まだルビーさんが来ていないです。時間にはきっちりしているルビーさんなのに、どうしたのかしら……。もしかして、道に迷ったのかも!? 私、ちょっと近くを見てきます!」
と、言った私に、エリカ様が首を横にふった。
「ああ、それはやめて。ルシェルのほうが迷いそう。すごい方向音痴だもの。それに、ルビーにはノアが護衛でついているから大丈夫よ」
あ、そうか。ノアがいたわね。
でも、私、そんなに方向音痴かしら?
その時だ。
「遅くなって、すみません」
と、ルビーさんの声がした。
あ、良かった!
そう思って、入口のほうを見た私。
え? ええええ!?