婚約破棄? いいえ、私たちは愛し合ってます。
文章の練習の為に構造の簡単なお話を書こうと思いました。
「コレー・フォン・イワノワ侯爵令嬢! 貴様とは婚約破棄し、ここにいるマリア・リリアリアとの婚約を結ぶ!」
突然夜会の会場に男の叫び声が響いた。
会場にいるものが振り返ると、そこにはこの国の王太子レオンハルト・ド・デーモニウムが一人の令嬢の肩を抱いて立っていた。
その前には、侯爵令嬢コレー・フォン・イワノワが立っている。
貴族令嬢として模範的に感情の読めない顔をして何を考えているかは分からなかった。
今までの経緯を知っている貴族達は、その修羅場と言っても差し支えない状況を見て、
「とうとうか……」
「この国唯一の王太子であらせられるのに、13の時流行り病にかかってから人が違って……」
「いくらイワノワ侯爵令嬢が闇魔法の使い手と言ってもこの扱いはあんまりでは……」
「近頃貴族家で婚約解消が続いてるがとうとう殿下まで……」
「ところでリリアリア家とはどこの家だ?」
「最近に貴族家になったのか、それとも特別に招かれた商家か何か」
「あら? あの令嬢どこかで見た事あるけれど思い出せませんわ」
「そう……最近貴族の殿方ばかりを狙っているという男爵令嬢ではなくって?」
と口々に囁きあう。
基本的に王太子の婚約者であるコレーに貴族たちは同情的だ。
それというのも5年前に致死率の高い流行り病が起こった時に倒れた王太子を、コレーが死を恐れずに看病を続け、ついには死神の鎌の下から救い出したとは有名な話だからだ。
しかし、小さい時から婚約者として仲睦まじかった二人だが、流行り病の後はレオンハルトはコレーを邪険にするという噂である。定期的なお茶会以外では会うこともないらしい。夜会でもレオンハルトはコレーをエスコートはしていない。
コレーは引き続き何も言わずにジッとレオンハルトとマリアを見つめ続ける。
「レオン様、私こわーい。コレー様っていつもあんな風に私の事睨んでくるんですぅ」
マリアが何も言わないコレーに焦れたのか、レオンハルトの腕にすがりついて甘えた声を出す。
「俺が守ってやる」
「きゃっ、素敵っ」
レオンハルトがそう言って、マリアを引き寄せると周りの騒めきはさらに大きくなった。
「何か言ったらどうだ。コレー!」
レオンハルトが威圧するように大きな声を出す。
すると、コレーはほほ笑んだ。
「婚約破棄? いいえ、私たちは愛し合ってます。そうですわね、レオンハルト様」
コレーがあまりにも場違いな告白をすると、周りがシン……と静まり返った。
そしてレオンハルトは少しの間の後、頷いた。
「そんな! レオン様は身分とか関係ないって、私と結婚してくれるって!」
たまらずにマリアが叫ぶと、コレーは首を傾げた。
「あらそう。そのように戯れで仰ったことを本気にするなんて、お可愛い事………。レオンハルト様の愛は私だけのものなのです。さあ、参りましょう。……レオ。皆さま、余興でお騒がせしたこと恐れ入ります。少し失礼しますわね」
【コレーの視点】
「どういう事だ、イワノワ嬢」
私がレオと一緒にレオの私室に入ると、そこにはまだ夜会に現れる前の陛下が居て早速声をかけられた。
王妃様も心配そうにこちらを見ている。
私はとりあえずレオを近くのソファに座らせてから、二人に向き直った。
レオは素直にソファに腰を下ろし、さっきの高慢な様子とは打って変わってうつろな目で前を見ている。
今、レオの私室には使用人もおらず陛下と王妃様と私とレオの4人だけだ。
私は闇魔法で念のため周辺の気配を探り、遮音の魔法を唱えた。
「レオンハルト様は多分、最近貴族たちの間で婚約破棄が立て続けに起こっているので真似をしたのでしょう」
……私だけがレオの事を全部分かっている。
私は昔の事を懐かしく思い出していた。
『闇魔法なんて希少な魔法使えるなんてすごいと思うよ。コレー、僕は光魔法がちょっと使えるし、バランス取れてて良いと思わない?』
小さい頃、お茶会の隅に居た私にそう声をかけてくれたレオ。
笑顔が素敵で金髪が煌めいてまるで太陽のようだった。
闇や病気や死を操ることができる闇魔法の使い手なんて不吉だと、親にも一歩引かれていた私。
そんなだからすぐに私はレオの事が好きになった。
『コレーが好きだ。僕と婚約してください』
とレオも私の事を好きになってくれた。
レオと婚約できた時はまるで夢のようだった。
ずっとずっとこの幸福が続いていくのだと疑いもしなかった。
『コレー、うつってしまうから離れてて』
5年前の流行り病では、私は役立たずだった。
私は、人を病気や死に至らせることはできても癒すことができない。
もっとも、国中のどんな光魔法の使い手も流行った病を癒すことはできなかった。
でも、不思議と私は病気にかからなかったので、レオを必死で看病した。
陛下や王妃様は王族が故に周りからレオと引き離された。
……必死に看病したのに、レオは死んでしまった。
陛下と王妃のただ一人の息子であるレオの死を二人は受け入れられなかった。
私も認めることができなかった。
私は闇魔法で病気を癒すことはできないけれど、死を操ることができた。
私はレオを生きているように動かすことができた。
レオの死体を操り、まるで病気が治ったかのように動かし続けたのだ。
闇魔法で操れば死体は腐らないし、ある程度喋らすこともできるし、レオの残った記憶を操って簡単な執務をさせることもできる。
ただ、死体を操るという決断をするまでに陛下と王妃様と私の決意が鈍り、時間が経ってしまったことで頭の中身が傷んで若干変わってしまったようだ。
私が死体を動かすのはもちろん初めてだったこともある。
レオをなかなか思うように動かせずに、自分の屋敷にこもって研究する日々が続いた。
最近ではレオが操作者である私の言う事を聞かずに、周りの貴族男子たちをみて自分なりの行動をしてしまうことも増え困っていた。
けれど、変わらなかった事がある。
それは私とレオが愛し合っているという事だ。
頭の中身が傷んでしまっても、私への気持ちは頭の一番奥にしまっておいてくれたのだろう。
レオは私の事を愛してくれている。
……私は昔の事を思い出すのをやめて、うつろな目をしてソファに座り続けるレオに声をかけた。
「レオ。私を愛していますか?」
レオは私をしっかりと見て頷いた。
「周りの貴族のように自分で行動出来たらコレーに喜んでもらえる。コレー、嬉しい?」
「ええ、まるでレオが生きているようだったわ。ありがとう」
私の闇魔法でレオは自動で学習し、動くのがどんどん滑らかになってきている。
私の研究の結果、レオの体は食べた食物を分解して体の材料とし、成長しているように見せかけられている。
私とレオのやりとりを見ていた陛下と王妃様が、
「そういう事だったのか……」
と深いため息を吐いた。
「あの子があの時死んで居なければ……」
と王妃様が涙を零す。
王妃様としては、私がいくら一生懸命動かしていても昔のレオと違う所ばかり見つけてしまうのだろう。
その気持ちは私にもよく分かった。
だから、新たなことを始めなくてはならない。
そう、希望になるような事を。
「前々から考えていた計画を進めましょう」
私の提案に陛下と王妃は青ざめながら頷いた。
王家を続けるためには必要な事。
私とレオが愛し合っている証として必要な事。
この国を穏やかに続けるためには大事なこと。
王族の男は精通が起こったら必ず子種を取っておく。
それを光魔法で私の中に入れて子を作るのだ。
13歳の時に死んだレオはギリギリ子種の確保ができていた。
レオと憧れの初夜を迎えることなく子を作ることになるが仕方ない。
死体を闇魔法でいくら操っても、そのような人の生に関わりすぎている事は出来ないから。
それでも、レオの半分が私の中で子となって生きるでしょう。
子は生きて、私とレオの愛を証明するでしょう。
それは次の世代に延々と受け継がれていくのです。
だって私とレオは愛し合っているのですから。
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