第5話 国内に燻る『埃』
「つまり、アルム大尉が他の兄妹と比べて劣ってるという事ですか?」
「大臣たちがそう言ってましたね。 能力測定でアルムだけが低い水準にとどまったのが知れ渡ってから」
アウロラ王妃が辛い表情をしながらアルムの事について話をする。
ちらっとセラフィーナ王女様を見てみると、俯いたままだ。
心なしか泣いてるように見えるが……?
「私達はアルムがどうなろうと家族として接したいと考えてました。 ですが大臣たちが許してくれませんでした」
「大臣たちが……?」
「ええ、大臣や家臣が『第一王子や第一王女は天才なのにアルム王子は無能。 無能まで一緒に居たら王族のイメージは下がるぞ』と」
「酷いですね。 彼だって人間なのに」
「でも大臣や家臣はそうは考えてないです。 アルムをサリエルの代わりのパーツとしか考えてないようです」
「だから、アルムは我々と距離をかなり置いているのだ。 軍人になっておるのも大臣や家臣が軍を毛嫌いしておるから近づこうとせんからだと知っておるからな」
アルムが置かれた境遇が何となくわかって来た。
天才の王子ならびに王女と挟まれた上に、家臣や大臣に自分が無能だと知られて罵られ続けていたら確かに精神が保たないだろう。
幸い、軍内部はアルムを理解してくれている人が沢山いるから彼にしてみれば軍が居場所なのだろう。
だが、一つ疑問が残った。
「その家臣と大臣はあなた達でクビに出来なかったんですか?」
「ああ。 先祖がやらかした影響で人事に関しては議員の全会一致でないとクビにできないようになったのだ。 先祖が人事を勝手にイエスマンだけに者にしていた事でな」
「ええ……」
「さらにその議員たちも全て例の家臣や大臣の息が掛かった者で構成されてるのです」
うわぁ、人事権が掌握されていたわけか。
しかもアルムをモノ扱いにする事こそ正義という考えの家臣たちの息が掛かった議員だけで構成とか……。
これは確かに詰んだなぁ。
「故にそれを知っているアルムは出来るだけ私達に対する接触を避けて来たのです。 大臣たちの考えの起点となった兄サリエルや妹セラフィーナの事を憎んでいるから」
大臣や家臣はアルムをサリエル王子様の代わりのパーツとしてしか考えていない。
そして、そのきっかけとなった天才的なサリエル王子様とセラフィーナ王女様を憎んでいるのか。
彼の様子がおかしかったのも……それが理由だった。
(どの世界にもいるんだなぁ。 兄弟で比較したがる連中は)
そう考えながら、私は国王の指示の下で入って来たメイドさんと共に自分が使う部屋に向かう事になった。
途中で緊張の糸が切れたせいで、トイレの場所を教えてもらう羽目にはなったが……。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ルキア様」
「あ、はい、なんでしょう?」
部屋に入り、食事をしている最中にメイドさんが話しかけて来た。
「こちらに食事を運ぶ途中に大臣たちについて盗み聞きした内容なんですが……」
どうも、こっちに食事を持っていく最中に大臣たちの声が聞こえて来たのでこっそり盗み聞きしていたそうだ。
どんなの内容なのかを耳に傾ける。
「どうもルキア様を気を失っていた状態のまま、帝国に押し売りするつもりだったようです」
「はぁ!?」
「どうもアルム様がいる連合軍に保護しているのが気に食わないらしくて、こっそり忍びこんでは運びこもうと計画していたようです。 それがあなたが目覚めた事で破綻したようで激昂した声が飛び交ってましたね」
信じられない事を耳にしてしまった。
アルムをパーツ扱いしていた大臣たちは、私を帝国に身売りさせるつもりだったのか。
確かに大臣たちは連合軍を毛嫌いしていたと聞いてはいるが、そこまでなのか。
「王妃様付のメイドが言うにはどうも大臣たちは元々軍備に反対していたという話で、魔王軍に国を売ってでも話し合うべきと言う考えのようです。 そのために必要なのが自分達の主張がまかり通る傀儡の王政が必要なのだと」
「うわぁ……」
「これに関しては国王様限定で決められることですし、国王様は軍備を進める事を決めたのですけどね」
「そうなのね」
しかし、色んな所から埃が出てくるものだ。
戦争真っ最中の世界の中で、この国の癌は大臣や今の家臣たちじゃなかろうか。
魔王軍との戦いに反対しつつ、私を帝国に身売りさせようとしたり、足を引っ張ることにしか考えない。
さらに自分の目的の為に王家を利用しようとする始末。
先にこの大臣たちをどうにかしないと国だけでなく、私もヤバいかもしれない。
「これは私の妄想でもありますが、この国のMGTや魔導技師が減ったのもあの大臣たちのせいかも知れない……」
メイドさんが妄想であると付け加えてさらにある事を言い終える前に突如警報音が鳴る。
「何!?」
「これは……!?」
『帝国軍が東から攻めてきました! 数は20で全てMGTの模様! 軍以外は至急避難をお願いします!!』
軍からの報道で帝国軍がMGTを引っ提げてこの国を標的に攻めて来たようだ。
『……スター……、マスター……ワタシノ……トコロへ……』
(え!?)
「ルキア様、避難しましょう!」
「は、はい……!」
(今のは何? 直接私の頭の中に……?)
私はメイドさんと避難しようとしたが、どこかから私の頭の中に語り掛けるように声が響いた事で、一瞬躊躇ってしまったのだ。
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