第30話 不安を抱えるルキア
「ああ、ようやく俺達の機体も直ったか」
「総動員でしたからね。 ザック軍曹やミーナさんも帝国の無人MGTの調査が終わってから、手伝ってたみたいですし」
道中で、残りのジョージ中尉の部隊員を迎え入れた連合軍の魔導戦艦【フィールラスクス】。
賑やかになる格納庫の片隅で、アパ子と共にアパタイトのチェックをしていた私は、機体が直ったことに安堵するリュート小隊の隊員の嘆きと整備員の言葉を聞いた。
アーリントン達によって動作不良にされた上で、奪われた為に、リュート小隊は戦艦の中で歯がゆい思いをしていたようだが、もうすぐ最初の目的地に着く前に修理ができたようだ。
さらに、リュート小隊の機体はあの後総動員で修理したらしく、帝国のMGTの調査をしていたザック軍曹やミーナさんも手伝っていたらしい。
大変だったんだなぁ。
『そういえばマスター。 この戦艦は何処に向かっているのか聞いてます?』
「確か、マイア王女の故郷の【ロゼッタ魔法国】だったかしらね」
『ロゼッタ魔法国ですか。 確か、あそこ付近に帝国軍の前線基地の一つがあるんですよね』
「そうみたい。 これから、現地を守る部隊と協力して前線基地を叩くらしいよ」
『激しい戦いはこれから……ですかね』
「そうね。 アルムとか味方が多数いるけど、いざとなると不安ね。 私は未だにアパタイトの高い性能に頼ってる節があるから」
『マスター……』
現在、この戦艦はマイア王女率いる【魔法少女部隊】の故郷、ロゼッタ魔法国へと向かっている。
アルムから聞いた話だと、ファシナシオン王国からロゼッタ魔法国までは、西方向に馬車では片道一週間、この世界独特の技術の結晶の魔導乗用車だと片道3日は掛かる距離らしいが、戦艦なら数時間で着くという。
目的はロゼッタ魔法国の首都付近に構えている帝国軍の前線基地を壊滅させる事だ。
その任務を目前にして、私は抱える不安を口にした。
この世界に飛ばされてあまり日にちが経っていないのだが、それでもアパタイトの高い性能に頼ってる自分自身が、いつかアルム達の足を引っ張らないかという不安が過る。
「そこはまだ気にしない方がいい。 戦術とかはこれから試行錯誤でやっていけばいいさ」
「アルム?」
『アルムさん』
そんな悩みを抱えていた私の前にアルムが来て、そう声を掛けてきた。
「いつからそこに?」
「ついさっきだ。 リュート小隊の機体の修理具合を見に行こうとしてたら、丁度君を見かけたからな」
「リュート小隊の機体は、最終的に総動員だったみたい。 ザック軍曹やミーナさんも手伝ってたらしいから」
「ああ、あの二人には無理をさせたか。 それよりも……」
リュート小隊の機体の修理具合を見に行くついでに私を見かけたというアルムは、引き続き話を始める。
「ルキアはこの短期間で、よくやってくれてるよ。 色々不安な思いを抱えているのにさ」
アルムの言葉に私はじっと聞き入っている。
「これからもルキアのやれる範囲でやってくれればいい。 特に今は機体の性能に頼ってでもな」
彼の発言は、私の不安を吹き飛ばしてくれる。
「これからも、俺はルキアを支えたいと思っている。 だから、悩みがあったら打ち明けてくれ。 もちろん、仲間にもな」
「うん、ありがとうアルム。 少し前の世界での嫌な思い出を過ったから……」
「嫌な思い出?」
「ええ、それは……」
私はアルムに、自分が悩んでいた前の世界での嫌な思い出を作らせた人物について打ち明けた。
「なるほどな。 ルキアの世界にそのような考えの魔女がいると」
「一部とはいえね。 特にゼネアと言う女が常に私を見下していたからね」
「仲間や道具の性能に頼る魔女は底辺魔女とか腐ってるな。 そういえば、最近になって帝国周辺で確保されたゲートから出て来た女性が帝国軍の幹部として戦っているという情報があったな。 性格の方もさっきルキアが言っていた性格の女にそっくりっぽいけど……」
「流石にゼネアでないことを祈りたいけどね」
「まぁ、誰がどう言おうが、ここではそんな考えが通らない事を分からせてやるさ」
私を見下していたゼネアと言う魔女、そのゼネアの歪んだ考えなど、私が悩みを抱えている原因をアルムに打ち明けた。
最近になって帝国付近に転移された女性が、帝国軍の幹部として戦っているみたいだけど……ゼネアではないことを祈りたい。
アルムは、この【マナトピア】と言う世界ではゼネアの考えは通らないという事を分からせるとは言っていたが、あの女は通らないなら無理やり通らせるがモットーだから、厳しいんじゃないかと。
「アルムの言う通りだな。 俺もその情報は最近知ったばかりだが、この手の戦争では仲間との絆も必要だからな」
「ジョージ中尉、それにフェリア軍曹も」
「そうですよルキアさん。 もし、ルキアさんの悩みの主犯格が現れたらみんなで倒しましょう!」
後からジョージ中尉とフェリア軍曹がこっちに来て、私を気遣う。
そういえば、この二人は恋人同士だったんだよね。
「ルキアさーん、私達【魔法少女部隊】もお手伝いしますよー」
「防衛戦ではいい所がなかったから、我々リュート小隊も助太刀しますよ」
そして、マイア王女率いる【魔法少女部隊】やリュート小隊も私を励ましてくれた。
確かにこの世界ではこういう仲間の助けがありがたく思える。
ゼネアの見下しのせいで、私は一人でやるしかなかった前の世界とは大違いだ。
「もう君も連合軍の仲間だしな。 一人で抱えるなよ」
「そうね、ありがとうアルム」
『各員に連絡。 もうすぐ【ロゼッタ魔法国】の首都、【フェアリーテイル】に着きます』
「もう到着か。 ルキア、出撃準備はしておいてくれ。 俺達もすぐに出撃するから」
「ええ」
みんなの励ましや気遣いによって、安心感を得た私はアパ子と共に出撃前の最終チェックを行う。
こうして、最初の前線基地襲撃戦が間もなく始まろうとしていた。
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