第9話 『戦争』という名の現実
『ルキア?』
「あ、ご、ごめんなさい!」
『さっきのは仕方ないと思います。 ライフルの威力が強すぎて脱出できなかったみたいですし』
『そもそもルキアだって、こんなのがあるなんて知らなかっただろうしな』
先程のビームライフルという強すぎる威力を持った武器で人を死なせてしまった事にショックを受けた私に、アルムとフェリア軍曹がマナフォンで声を掛けてきた。
やはり、心配だったらしい。
しかし、今回の人の死を目のあたりにした事で思い知らされた。
「これが……戦争なんですね……」
『ルキアさん……』
こうやって、帝国や魔王軍と戦うにあたり、今のような形での人の死をこれからも見てしまう事になる。
戦争である以上、それが避けられない現実をいきなり突き付けられたせいで、前の世界では魔物相手にしか戦わなかった私の心がどうにかなりそうだ。
『マスター。 ひとまず後退して心を落ち着かせますか?』
「子機にしては、気配り上手なのね」
『マスターとマスターの仲間となる人達の命が最優先事項ですから』
ホントに子機なのに周りの気を使うのね。
この手の類いだと大概は人の心情なぞ無視して、殲滅を強要するもんだけどね。
「無理強いするつもりはないけど、アルム大尉やフェリア軍曹達がまだ戦ってるから、私もやるしかないわよ」
『でしたら、最初に使ったアイスニードルバルカンを中心に戦いましょう。 接近戦用の武器も搭載はしてますが……』
「まさかビームサーベルとかじゃないでしょうね?」
『その通りです』
「言いきった!?」
『ですが、今のマスターからの視点で言うなら強すぎて人すら殺す威力なので今の時点ではおすすめしません』
『ビームサーベルまであるのか……。 ともかく、ルキアは無理しないようにな』
「はい!」
何とか心を持ち直して、私は残りの帝国軍のMGT相手にアイスニードルバルカンのみで立ち回る事にした。
「あ、あれが動くなんて聞いてないぞ!」
「な、何とかして……ぐわぁっ!」
「ひ、火が……! 爆発する!?」
「し、死にたく……!」
牽制用として搭載されているアイスニードルバルカンでさえ、当たると兵士の阿鼻叫喚の叫びと共に機体が爆発する。
「うぐ……」
何人かは脱出出来なかったらしく、機体の爆発と同時に死んでしまったのだろう。
私はその有り様を見て、吐き気を催す。
「お、お前はぁーっ!!」
『ルキアっ!』
「あっ!」
(しまった! 狙われた!?)
人の死を見て吐き気を催している為に気づかなかったが、一機の帝国のMGTの持つサーベルが私に向けて振り下ろされる。
ビームサーベルではないが、魔力を帯びたオリハルコンの剣なので、まともに斬られたらどうしようもない。
「くっ!!」
私は咄嗟にガードするイメージを手すりに付いているオーブに送る。
すると、両腕が交差するようにガードの体勢を取った。
「うぐっ!」
ガキンという音と共に両腕の中のバックラーっぽい部分でサーベル攻撃を凌いだものの、防いだ際の衝撃だけはどうにもならない。
コクピットにも伝わる衝撃による痛みが伝わる。
さらに向こうの攻撃は、かなり重い一撃だ。
ガードし損ねたらそれこそ致命的になりかねない。
それだけ、こっちに殺意を向けてきてるんだ。
辛いけど……やらないと死ぬのは私。
「ごめんなさい……」
そう呟きながら、私は赤いボタンを押す。
頭部から放たれるアイスニードルバルカンが、振り下ろした際に無防備になった相手の機体を容赦なく撃ち込んだ。
多分、コクピットにも撃ち込んだのだろう。
脱出できないまま、爆発と共にその操縦者も死んでいった。
「もう、後戻りできないわね……。 自分からこの道を進んだのだから」
『マスター……』
それを眺めつつ、私は小声で自ら呆れるように呟いた。
このアパタイトに私が選ばれたとはいえ、自らこの戦争の道を歩んだのにだ。
その様子を見た妖精さん姿の子機も心配そうに私を見ていた。
本当にあなた、人の気遣いが上手いわね。
『ルキア、大丈夫か?』
一人で黄昏ていた時に、アルムがマナフォンから声を掛けて来た。
どうやらアルムやフェリア軍曹たちも終わったみたいだ。
「ええ、何とか……うぐっ!」
『ルキアさん!?』
やば、スピードに振り回されたり、剣を防御した際の揺れや着地に失敗した時の衝撃のダメージを忘れてた。
帝国軍が殲滅した瞬間、気を抜いたのがいけなかった……。
そもそも前の世界でも私は回復魔法が使えなかったのになぁ。
『マスター! しっかり!!』
『フェリア軍曹、ミュリア軍曹! ルキアが乗ってる機体をベースのデッキまで運ぶぞ! それからルキアを軍の医務室へ!』
『は、はいっ!!』
こんな形になってもアルムは流石大尉と言わんばかりの的確な指示。
軍曹たちの慌てぶりと比較したら冷静に思えるよね。
(あ、不味い、痛みで意識が……)
横腹辺りを押さえながら私はシートに座ったまま意識を手放してしまった。
こんなので、この先……この世界でやっていけるのだろうか。
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