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1人と1台の物語

作者: 34

「そんな条件、いくら中古車でもありませんよ」


スーツの男は、いかにもめんどうくさそうにそう言いながらタブレットをスクロールした。


「まあ、こんなところですかね あと何キロ走れるかは知りませんが」


そこに表示されたのは、40年前に販売されていた走行距離50万キロの中古車だった。


「今どき自動運転もついてないですし、部品もないので壊れても直せませんよ」


それでも結局、古ぼけたシャツに身をつつんだ老人は書類に判を押した。



納車の日、やはり変わらずめんどうくさそうなスーツの男は、わずかな紙幣を受け取ると、鍵を差し出し、こう言った。


「簡単に洗車はしましたが他はなにもしてないので、まあご自分でやっておいてください」


老人は鍵を受け取るとそのまま店を出て、車のドアを開け、エンジンをかけた。店員が席を立つことはなかった。


「お久しぶりです。30年ぶりですね。」


老人はどこからともなく聞こえてきた声に驚き、何も言えずにいると、


「覚えていないでしょうか。あの嵐の日に、初めて出会ったことを。そして、突然別れたことを。」


ふっと記憶が蘇った。


「まさか...昔喋る車に乗っていたが...あの時の......」

「その通りです。思い出していただけました?」


そこからその車は、男と別れた30年のことを話し始めた。


借金取りに連れていかれ、遠く離れた中古車屋に売られたこと。そこで優しい青年に出会ったこと。その青年とともに日本全国を旅したこと。世の中のどんな車よりも大切にされたこと。その青年とも突然の別れが来たこと。そして今の中古車屋に売られたこと。


そして今、最初の持ち主である男に再会できたこと。



いつの間にか老人の目からは涙が零れていた。その涙が後悔なのか、感動なのか、それは老人自身にも、車にも分からなかった。



しばらくして、1人と1台は帰路についた。


30年前、男と車が別れた家よりも小さく、みすぼらしい家に。


それでも、1人と1台は30年前よりも、そして他の誰よりも幸せだった。


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