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聖女からの大降格  作者: 美雪
第二章 修道院編
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009 魔法剣





「魔力の属性がわからなかったので、どの属性でも対応できるようにしただけです。魔法剣とは関係がないものもあります」

「魔法剣についても知りたい」

「武器と一緒に教えます」


 ゼノンは一本の武器を魔力で引き寄せ手で掴んだ。


 それを見たルフは驚くしかない。


「それも魔法か?」

「違います。魔力の扱いになれれば誰でもできます」

「誰でも……」

「嘘よ。できるのは一部の人だけだから」


 ヴェラが解説した。


「嘘なのか」

「嘘ではありません。できない者は修練が足りないだけです」

「ゼノンの常識は一般人の常識じゃないから」


 天才、エリート、上級者、専門家、マニアなど。


 特殊な者達の常識だった。


「この剣は初心者用です。どの属性であっても乗せることができます」


 ゼノンは手本として雷属性の魔力を込めた。


 刀身が光り出したかと思うと、紫色の電流がビリビリとうごめく。


「雷の剣です。この雷に触れてしまうと、耐性のない者はしびれてしまいます」

「凄い!」


 ルフは初めて見る魔法剣に興奮した。


「魔力調整で効果や威力を高くすることもできますが、触れるだけで相手を仕留めることはできないと思って下さい」

「雷撃の魔法の方が強いということか?」

「あれは魔法でこちらは魔法剣。別物です」

「別物なのか」

「様々な属性を乗せることができる武器は便利ですが、欠点もあります」


 魔力を込めるほど強くなるが、上限値が低い。


 高い威力や効果を出そうとして無理に使うと、上限値を越えて剣が壊れる。


「魔力を込め過ぎないように。壊れます」

「壊れにくい武器はないのか?」

「あります。属性専用の武器です」


 該当する属性のみに特化した武器であれば、魔力を多く込めても壊れにくい。


 威力も効果も上げられるということだ。


「ルフのように様々な属性がある魔力は素晴らしいのですが、属性専用の武器を選びにくくなってしまいます」


 雷属性専用の武器に別の属性の魔力を込めると、違う属性が反発する力に耐えきれず壊れてしまう。


「それは困るな」

「氷属性に変えます」


 ゼノンは魔力属性を氷に変えた。


 たちまち剣のまとう色が変わり、ひんやりとした空気が漂った。


「氷になった!」

「雷属性専用の武器ではこのようにできません。この剣は雷も氷にもできる剣だからこそ可能なのです」


 単純に一属性の魔法剣の効果を上げるには属性専用の武器にした方がいい。


 複数の属性の魔法武器を使うためには、武器自体を変更しなければならない。


 兼用の剣にすれば、状況に応じて適切な属性に変更できる。但し、上限が低く効果が落ちるということをゼノンは説明した。


「一長一短ですので、自身の嗜好や戦闘術にあわせるといいでしょう」


 一属性しか使わないと決めているのであれば、属性専用の武器にする。


 戦闘中に変更したいのであれば、複数属性に対応する武器にすればいいということだった。


「私は雷と氷を得意にしていますので、二属性に対応できる剣を使っています」

「そういうのもあるのか」

「特注品です」

「金がかかりそうだ」

「誰に依頼するかも重要です」

「腕のいい職人ということか」

「材料も多種多様です。貴重なものを使うと良いものができます」

「さすが聖騎士だな。詳しい」

「この程度は魔法剣の初歩です。学校で習います」


 ゼノンは淡々と話しているが途切れない。


 普段は無口な方であることを知っていれば、上機嫌だとわかる。


「これを」


 ゼノンは自身の持っていた剣をルフに渡した。


「魔力を込めてください」

「わかった」


 すぐに剣に変化が生じた。


「雷ですね」

「さっき見たのをイメージした」

「そのせいでしょう。ですが、魔力の雷属性が特に強い可能性もあります」


 ルフはスノウに渡した雷撃のペンダントを使いこなしていた。


 その威力を考えれば、魔力量だけでなく魔力の性質も相性がいいのは明白だ。


「氷にできますか?」

「氷か」


 ルフはゼノンの魔法剣を思い出しながら魔力を込めた。


 剣が冷気を纏う。


「できますね」

「簡単だ」


 ゼノンは表情を変えないが、ヴェラは顔をひきつらせていた。


 魔法剣を使いたいのであれば魔法剣化は必須。


 初歩にして最大の試練と言っても過言ではない。


 それを簡単に越えてしまった。


 しかも、二属性。


「これは無属性なので属性抵抗が少なく、魔法剣にしやすいのです」

「なるほど。それで簡単にできたのか」


 ヴェラはげんなりした。


 魔法剣化ができない者が多すぎるからこそ、魔法剣化がしやすい剣がある。


 それでも魔法剣化ができない者が大勢いるというのが一般常識だ。


「安定しているように見えます。魔力の性質も量も問題なさそうですが、時間が経つほど維持するのが難しくなります」

「だろうな。魔力を消費するだけでなく調整にも気を遣う」

「飲み込みが早くて結構。火か炎にして下さい」


 すでに魔法剣における高次元。


 普通は一属性の魔法剣化のみ。


 火か炎を指定するところに、ゼノンの思惑があるのも明白だった。


「実際に見ていないから難しい」

「刀身に火か炎を纏わせるよう意識します」


 剣はすぐに変わらなかった。


 だが、下の方から徐々に炎を纏っていく。


「火ができた」


 天才ではない。それよりもはるかに上だ。


 初心者。オリジナル。反属性。


「これは炎です」

「違うのか?」

「広義ではどちらも火ですが、違うものと考えます」

「どう違うんだ?」

「激しさが」


 ルフは顔をしかめた。


「燃焼状態のことか?」

「見た目だけで言うと、火属性はこれほど火が揺れません。属性の本質については教本の方で確認してください」

「本質か」

「魔法剣にするのに手間取りましたね?」

「そうだな。難しかった」


 魔力を込めてもすぐに魔法剣にならなかった。


「明確にイメージするということがとても大事な証拠です」


 誰かの魔法剣や教本の絵を見ればイメージしやすい。


 だが、そのイメージに固定されてしまい、自分らしいイメージではなくなる。


「人や教本の真似ばかりでは、オリジナルの魔法剣になりません」


 ルフは驚いた。


 魔法や魔法剣は教えて貰うものと考えていた。


 自分で作り出すこともできる。オリジナルもあるということに気付かされた。


「手間取った理由は多くあるでしょう。反属性のせいかもしれません」


 ルフは氷属性の剣を手にしていた。


 反属性は火または炎。


 自身の魔力属性を切り替えるのも難しいが、剣もまた同じだ。


 反対ゆえの抵抗と負荷が自然とかかってしまうため、瞬時の切り替えがしにくいことをゼノンは説明した。


「水属性から火属性に変えるのも同じ。反属性なので難しくなります」


 普通はできない。優秀でもできない。不可能に近い方。


 魔法剣士として破格であるゼノンも反属性の魔法剣は作れない。


「そういうことか」

「雷と氷は反属性ではありません。相性も悪くありません。そして、雷属性の性質に速度が関係します」


 それぞれの属性には属性ならではの効果や特徴がある。


 雷属性は速度の性質を持つせいで発動しやすい。


「性質を深く理解することは非常に大切です。魔法剣理論の本を読んでください」


 魔法剣理論上においては光や雷の魔法剣は速度の性質がある。


 早く魔法剣化ができるということだ。


 逆に硬化の性質を持つ土属性や氷属性は魔法剣化が遅い。


「わかった」

「魔法剣化すること自体にもこだわるべきでしょう」


 魔法剣化や属性変化中の剣本体は無防備と言ってもいい。


 その一瞬をつかれて剣本体を破壊されるのは魔法剣士にとって最大の屈辱だ。


「魔法剣を先に出した方が勝ちという状況もあります。かなりの実力差がない限り、光や雷の剣を選択しなければ負けると思った方がいいでしょう」

「そうなのか」

「かつて私は氷属性でしたので不利でした」


 魔法剣化が遅く、速さを競う勝負に勝てなかった。


 だが、雷属性の魔法剣を作ればいいとスノウに言われた。


――私の魔力属性は氷なので無理です。

――取りあえず、練習してみるとか。

――無駄です。

――でも、魔法剣化するだけですよね? 初歩では? 魔法剣の強さも効果も関係ありません。反属性でもないですよ?


 ゼノンは気づいた。


 魔法剣化だけ。重要なのは速度。魔法剣の威力でも効果でもない。


 魔法剣の初歩だ。魔力の相性が悪くなければ可能だ。


 特訓したおかげでゼノンは雷属性の魔法剣を作れるようになった。


 速度も増した。


 これまでゼノンを見下していた者達を勝負に勝つことで見返した。


 しかし、ゼノンは満足しなかった。


 強くしたい。効果を上げたかった。


 懸命に修練を重ねた結果、ゼノンの願いは叶った。


 そして、魔力を調べてみると、氷だけでなく雷も強属性になっていた。


「興味深いな。そういう勝負があること自体も」

「魔法や武器での勝負は難しく、下手をすると命にかかわります。ですが、魔法剣化の速度勝負であれば命をかけずに勝負できます」

「なるほど」

「私と勝負してみますか?」

「したい」

「では、礼儀作法も一緒に」


 ゼノンは自身の剣を手にした。


「まずは相手と向き合います。剣を構える時にポーズを付けることが許されます」

「ポーズ?」

「見ていてください」


 ゼノンは剣を胸の前で素早く動かした。


 空中に光る模様があらわれ、それを剣で斬り払う。


「その動きはなんだ?」

「多くの者は見た目だけ。いわゆる、かっこいい動作です」


 見学者の声援を得るためや人気取りのためのものと思う者もいる。


「……それは絶対に必要なのか?」

「任意です。すぐに剣を構える者もいます。ですが、私は魔法陣を描きました。これで瞬発力を高めることができます。開始の合図と共に魔力を込めやすくなります」

「なっ!」

「このように全ての動作を無駄なく活用することで相手を出し抜くのです」


 出たわ。ゼノンの本質が。


 常に冷静沈着。聖騎士の鏡のような高潔さと潔癖さ。品行方正。


 それがゼノンに対する周囲のイメージと評価だ。


 しかし、その本質は強く激しく欲深い。力と勝利への渇望がある。


 厄介どころかヤバイ奴だから注意して!


 ヴェラは心の中で叫んだ。


「知らなければ損だな」

「構えなさい」


 ルフも剣を構えた。


「剣の下部から上部へ向けて変化させます。先に最上部へ到達した方が先です」

「なるほど」


 二人は魔法剣化の速度勝負をした。


 ルフは雷。ゼノンは氷。


 それでもゼノンが勝った。圧倒的に。


「魔力を多く込めるだけでは勝てないな」

「当然です」

「コツはあるのか?」

「あります」

「教えてくれ」

「どのような属性もただ魔力をこめるだけでは多少の抵抗があります。それは属性が違う部分を自分の属性にしながら進むからです」


 しかし、先に全てを属性の剣にしておけば、同じ属性の中を進むために抵抗がない。


 属性専用の剣は魔力を流し続けるためにも有利だ。


「薄く剣を属性化しておけば、早く属性剣を作れます」

「それはズルじゃないのか?」

「上級者ルールでは下準備として誰もがしています」


 属性専用の武器を使うこと自体、薄く剣を属性化しているのと同じ。


 上級者で属性専用の武器を持っていない者などないない。


 無属性の剣を扱う者は下準備をしておかなければハンデになってしまう。


 そういった事情があるからこそ、問題ない行為として認められていることをゼノンは説明した。


「なるほど。奥深いな」

「常識です」


 ゼノンとルフの会話は弾みに弾んでいた。


 当初の目的である武器を選ぶということから脱線し、魔法剣の話題ばかり。


 駄目だわ。ゼノンのスイッチが入ってるし、ルフも完全に同類だわ。


 ヴェラは付き合うだけ無駄だと思った。


「スノウ、また始まったわよ。よく飽きないわよね」

「ヴェラも好きな話には夢中になりますよね? 同じです」


 スノウは魔法書を手に取り読んでいた。


「スノウも変わってないわね。付き合いが悪いというか」

「ああいった話題は長くなります。興味がないなら無理に付き合う必要はありません。向こうは私が本を読んでいることさえわかっていません」

「それはそうなんだけど……私と話をしようとは思わないわけ?」

「すみません! 魔法書が気になってしまって」


 スノウは慌てて魔法書を閉じた。


「スノウの部屋を見せてよ。どんな部屋なの?」

「案内しますね」


 スノウが歩き出すとルフが視線を動かした。


「どこに行く?」

「ヴェラに私の部屋を見せてきます」

「わかった」


 スノウは二階にある自分の部屋にヴェラを案内した。


「ここです。修繕と一緒に模様替えもしたので、とても綺麗になりました」


 確かに部屋は綺麗だった。


 真っ先に目につくのは大きな天蓋ベッド。


 高位な者が使いそうな立派なものだ。


 チェスト、鏡台、テーブルもある。


 ファブリックの色はベージュ。


 白いバラの刺繍も散りばめられていた。


「元々はとても暗い部屋だったのですが、ファブリックを変えたら明るくなりました。優しい色合いなので落ち着けます」

「でしょうね」


 もはやここは修道院の部屋とは思えない。


 貴族の館かホテルの快適で居心地の良い一室だ。


「客間を作っているところなので、完成したら泊りに来てください」

「どこ? 見せて?」

「こっちです」


 スノウは客間にする部屋をヴェラに見せた。


 家具などは一切ないが、補修自体は終わっているようだった。


「……ねえ、この部屋を私にくれない?」

「ヴェラに?」


 スノウは驚いた。


「家具は私が揃えるわ。王都で買ってここに置いておけば、いつでも泊まれるでしょう?」

「何度も泊りに来てくれるのですか?」

「一か月に一回は来るし、週末にも来るかも。休みなのに呼び出されて嫌なのよ。過労死しないようちゃんと休みたいのよね」


 ヴェラは転移魔法を使えるだけに何かと声がかかりやすい。


 他人にとっては便利で簡単そうだが、転移魔法は移動距離が遠いほど魔力と体力を消耗する。


 強気な性格だけに平気そうに振る舞っているが、実際は相当疲れが溜まっているのだろうとスノウは思った。


「わかりました。このお部屋を使って下さい」

「悪いわね。客間だったのに」

「気にしなくて大丈夫です。修道院は困っている人の避難所ですから」

「確かにそうね! さすが院長だわ!」


 スノウとヴェラは笑い合った。


*魔法属性……闇光火炎水雷土風氷


*理論上における反属性の基本

  闇と光 

  火・炎<水(風) 水<雷(土) 雷<土(水)

  土<風(水) 風<氷(火・炎) 氷<火・炎(風)


*能力や環境等別の要素によって逆転可能。



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