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聖女からの大降格  作者: 美雪
第二章 修道院編
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008 世話人



 食事が終わると、二人が来た理由を説明することになった。


「他の修道院へ移動するかどうかが検討されたのですが、役職に空きがないようです。当分はこのままということになりました」

「神殿は何もしてくれないのか?」


 ルフが不満そうに尋ねた。


「強盗団の事件がありましたので、特別な配慮はします」


 見舞金として金貨一枚を支給する。


 物価が安い地方だが、修繕費がかかるといった現地の状況を考慮し、支給金の減額もしないことをゼノンは説明した。


「支給金を使って世話人を雇って欲しいそうです」

「オースの町で雇うのか?」

「オクルスの村からです」

「俺しかいない」

「わかっています。ルフを雇えということです」


 女子修道院だけに、男性の雇用に反対する声も上がった。


 しかし、ド田舎。王都とは事情が異なる部分が多々ある。


 ただ生活するだけでも大変。女性だけでは難しい力仕事もある。


 強盗団が出るほど治安も悪い。


「いざという時は護衛役をこなせる男性の方がいいということになったんですって」


 ヴェラも諸事情をゼノンから教えられていた。


「修道女の息子で、幼少時の恩義を返すために高齢の修道女の面倒を見ていたことを考慮しました。信用できると判断されたのです」

「なるほど」

「強制ではありません。二人の気持ち次第です」

「私はルフがいいです」


 スノウは即答したが、ルフは考え込んでいた。


「何か問題でも?」

「悪い噂が立たないか?」


 修道女は貞潔の精神が求められ、異性との接触を避けなければならない。


 修道院がある場所や状況によっては守りにくいこともあるが、基本的には必要不可欠な場合のみ。最低限に抑える。


 高齢の修道女の世話をルフがすることになったのは、力仕事もしなければならないのに奉仕の精神で無報酬だったことから誰も面倒を見たがらなかったという事情があった。


「私もその点が気になりますが、神殿は気にしないことにしたのです」


 簡単に解決できるがゆえに。


「契約書にサインすればいいそうです」

「面倒なことが書いてありそうだ」

「普通はそうですが、理解できないようでは困ります。非常にシンプルなものになりました」


 雇用主はスノウ。そのため、スノウに従う。


 それだけだ。


「これです。確認して下さい」


 ルフは契約書を確認した。


「……こんなのでいいのか?」

「神殿はそれでいいと思っているようです」

「余白が多い。後で書き込まれたら困る」

「私もそう思います。ですので」


 ゼノンはペンと印章を取り出した。


 文面の周囲を囲むような線を書き、その上に印章を押す。


「囲んである部分のみが有効です。印章は私が個人的に所有しているものなので、神殿が勝手に押すことはできません」

「随分立派な印章だ」

「父が公爵だからです。私は跡継ぎです」

「貴族なのか」

「ここにルフのサイン、そしてスノウのサイン。証人として私とヴェラもサインします」


 公爵家の跡継ぎである聖騎士と王宮魔導士の証人がいる。


 神殿は契約書に手を加えることはできない。


「他に問題は?」

「報酬は金貨一枚になっている。経費もここから出せということか?」

「いいえ」


 スノウには一か月につき金貨三枚の支給金が出る。


 一枚はルフへの報酬。


 残り二枚でスノウは生活する。経費はスノウの分から出す。


「高給だ」

「実はそうでもありません」


 今後、ルフの支払う税金が増える。


 オクルス村にいるのがルフだけだからだ。


 ルフは自動的にオクルスの村長になり、村長特権が付与される。


 その代わり、税金納付の責任を負わなくてはならない。


「オクルス村にかかっている税金をルフ一人で払わなくてはなりません」

「人数が減ったら安くなるはずだ」

「最低額が設定されています。それ以下にはなりません」


 通常は村にいる全員から集めた金で税金を払う。


 但し、どんなに人数や収入が少なくても、村として存続する以上は最低額の税金が課せられる。


 それを払えなければオクルス村は廃村。基本的には住めなくなる。


 ルフはオースの町あるいは別の村か町へ行き、住民登録をしなければならない。


 住民登録をした場所ならではのルールがあるため、スノウの面倒を見るのが難しくなるかもしれない。


「報酬を金貨一枚にしたのは、税金額を考慮したからです」


 スノウの世話人をすれば、オクルス村の最低額の税金を払える。


 住居は修道院。二人での共同生活になるため、食費や日用品はスノウの経費で落とせばいい。


「嗜好品を購入するためにはもう少し報酬が欲しいかもしれません。ですが、これ以上は増やせません」


 元々スノウ一人しかいない。物価も安い地域だ。


 一か月につき金貨三枚を支給すること自体が特別対応だった。


「一応、個人的にスノウを心配している者が何かと融通するつもりではいます」

「私とゼノンよ。貸し出し扱いだけど、魔法書を持って来たでしょう?」

「後で見せますが、武器も持ってきました。他にも支援者がいます」


 ゼノンは小袋を取り出して置いた。


「銀貨です。スノウとルフで話し合って使ってください。秘密の資金ですので、誰にも言わないように。神殿にも言ってはいけません」

「なんとなくだけど、王太子殿下じゃないの?」


 ヴェラが予想を口にした。


「詮索は無用です」

「どなたかわかりませんが、感謝しますとお伝えいただけると嬉しいです」

「ルフはどうしますか? サインをしますか? もう一度言いますが、強制ではありません」

「契約は一年間か」

「何もなければ自動更新です。破棄する場合は言ってください」


 最低でも一カ月につき一回、ゼノンとヴェラで支給金を届けに来る。


 その時に何かあれば言えばいい。


 手に入りにくい必需品の手配もする。


「わかった。引き受ける」


 サインをするだけでいいため、契約書の作成はすぐに終わった。


「では、武器を」

「待って!」


 ヴェラが口を挟んだ。


「魔力の属性検査をした方がいいわ。武器にも影響するでしょう?」

「そうですね」


 先にルフの魔力属性を調べることになった。


「なんとなく予感はしていたのよね……」


 ルフの魔力は火・炎・土・水・氷・風・雷。


 光以外は全部。闇は測定できない。


「反応レベルを変えるわ」


 初期設定は微量でも反応するようになっている。


 反応レベルを変えると、強属性がわかる。


「同じですね」


 ヴェラの持ってきた魔法具の測定器では、全て強属性という結果になった。


「高度測定器じゃないと駄目みたい」


 まずは簡易の測定器で反応の強い属性を調べ、その後で反応があったものを高度測定器で調べるのが普通なのだ。


「高度なやつを今度持って来てくれ」

「無理よ」


 高度測定器は王宮や王都にある神殿や魔法学校といった一部の施設にしかない。


「魔法具じゃなくて部屋なのよ。部屋を持って来るわけにはいかないでしょう?」

「俺が王都に行けばいいのか?」

「そうね。でも」

「行ってはいけません」


 ゼノンが厳しい口調で止めた。


「調べる対価を求められます。一生王家や神殿に縛られる覚悟をしなければなりません」

「それは嫌だな」

「魔法学校や神殿に入るために調べるようなものだから」


 それが嫌で簡易測定器だけで調べ、独学で魔法を勉強する者もいる。


 しかし、正規の教育ではないために能力を向上させるのは難しい。


 魔導士に弟子入りする者もいるが、師の人格に左右される。


 必ずしも待遇がいいとは限らず、しっかり勉強できるかどうかもわからない。


「初級は魔法書で十分。魔法文字やわからないことはスノウに聞けばいいわ」

「スノウは魔力さえあれば簡単な魔法を使えるのか?」

「治療魔法に特化していたので……」

「可哀想な子なのよ」


 スノウは初級魔法を習う前に治癒魔法を使えてしまった。


 いわゆる天才。なんとなくできてしまった感じだ。


 そのせいで他の魔法は全部無視。治癒魔法のみをひたすら特化して鍛えることになった。


「治癒魔法以外は何も使えないわ。光属性の魔力がたっぷりあったのに、解毒も解呪も防御も結界もできないの。魔法書を見せて貰えなかったのよ」


 スノウはしょんぼりした。


 本当は様々な魔法を習い、使ってみたかった。


 だが、魔法書を見るのを禁止されてしまった。


 治癒魔法の使い手は貴重で、能力を向上させるほど凄さが増す。


 古の大聖女のようになれとはっぱをかけられ続けた。


 そのおかげで治癒魔法の効力が増した。


 だが、治療魔法が使えなければスノウの価値はなくなるのと同じ。


 もし他の魔法が使えたとしても、魔力が一ではどうしようもない。不発だ。


「落ち込まないでください。ここでなら魔法書を見ることができます。知識として蓄え、読書として楽しむのはいかがですか?」

「そうですね」


 スノウの気分は浮上した。


「ルフのおかげでずっと読みたかった魔法書が読めます。ありがとうございます!」

「俺は何もしていないが、スノウが喜ぶならいい」

「私のおかげよ。魔法図書館から借りてきたのは私だから」


 ヴェラは王宮魔導士のため、魔法図書館を利用できる。


 しかも、かなり上級のものまで借り放題。


「ちゃんと返してよね! 破損したら弁償よ。一冊につき金貨百枚だと思いなさい」

「高いな」

「さすがにそれほどはしません。魔法書によります」

「信用問題もあるのよ。王宮魔導士としてのね」

「では、武器を」

「覚悟した方がいいわ。ゼノンは武器にうるさいから」

「たしなみ程度です」

「絶対違うから!」


 ゼノンは魔法の巾着を取り出した。


「取りあえず持ってきたものを全て出します」


 ゼノンは巾着の中身を全て出すための呪文を唱えた。


 剣の山ができた。


「……いくつあるんだ?」

「この袋には千までしか入りません」

「もっと厳選してきなさいよ!」


 ヴェラはルフの気持ちを代弁するつもりで叫んだ。


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