77 突然の訪問者
今年もよろしくお願いいたします!
スノウは寒さに震えながら談話室に駆け込んだ。
「生き返ります……」
「やっぱり廊下は何とかした方がいいな」
中庭に面している廊下は密閉されていないために外同然。
ルフは生活空間を移動したが、冬のことを考えると元々の場所の方が良かったのかもしれないと反省した。
「どうしてルフが平気なのが不思議です!」
オクルスの環境に慣れているとはいえ、相当な寒さ。
なぜ平然としていられるのかスノウは不思議だった。
「寒いですよね?」
「そうだな」
「着こんでいないですよね?」
「そうだな」
「魔力のせいですよね!」
「昔からあまり寒くなかった気はする」
冬用のマントを羽織っていたが、よくそれだけで我慢できるなと村人に言われていた。
「魔力のおかげだったのかもしれない。少なくとも今はそうだな」
自身の魔力を感じられるようになったからこそ、魔力が体温を上げていることがわかる。
恐らくは自己防衛本能による働きではないかとルフは思った。
「スノウのおかげで心も寒くない」
「私もルフのおかげで心は寒くないです。でも、オクルスの寒さに慣れることができるかは自信がなくなりました。こんなに寒いなんて!」
オクルスは完全に雪に閉ざされていた。
降りそうでなかなか降らなかった雪が猛烈に降る日が続き、あっという間に白い世界に包まれた。
神殿暮らしのスノウにとっては予想をはるかに超えた寒さに突入していた。
「暖房がないと氷になってしまいそうです」
「これからもっと寒くなる」
「どうして大丈夫なのですか? 魔法もないのに!」
「暖を取るからに決まっている」
「魔力がなくても暖炉だけで耐えられるわけですよね?」
「そうだ。各家で工夫はしていた」
広い家や部屋だと暖を取りにくいため、狭くて小さい空間で過ごすようにする。
大きな窓は板をあてて小さくする。すきま風が入らないよう徹底的に外壁を塞ぐ。
細々とした部分を改善することで効果を高めていく。
「馬小屋を見て来る」
ルフは自身の馬を持ったことがないため、雪の季節にどうすればいいのかを知らなかった。
凍死しないよう小型の暖房機器を設置してみたが、室温が低くてあっという間に魔力がなくなってしまう。
「今更だが、大型の暖房機器にすれば良かった」
「仕方がないです」
「《転移陣》」
ルフの姿が消えた。
やっぱり魔力も魔法も便利だとスノウが思った時、ドアがノックされた。
「え?」
ルフではない。
ゼノンもヴェラも仕事。当分帰れないと聞いている。
ゴードン様? それともジーク様?
しかし、二人であれば必ず呼び鈴を鳴らすため、ノックはしない。
「ワイアットですか?」
ワイアットはノックする。必ず。
「スノウ様ですか? アルトと申します」
アルト?
スノウはすぐに誰なのかわからなかった。
「すみません。どちらのアルト様でしょうか?」
「オルフェス様の護衛を務めているアルトです」
あっ!
スノウは思い出した。
「鍵はかかっていませんのでどうぞ」
「では、失礼致します」
ドアが開いた。
スノウはアルトが入って来ると思った。
ところが、
「ここは暖かいな。結界があるのか?」
不機嫌そう表情のオルフェスが姿を現した。
「……なぜここに?」
魔力の気配を感じたルフはすぐに転移で戻って来た。
突然現れたルフを見てオルフェスは眉を上げた。
「転移もできるのか」
ルフが魔法を使えるのは地底湖でも確認済み。
詠唱することなく巨大な火の球を作り出せるということは、魔力も多く技能もあることを証明していた。
「ここは修道院だ。王族に突然来られても困る」
ルフはスノウを庇うような位置に立った。
「修道院だからこそいつでも誰でも来れる。スノウの招待を受けただけだ」
ルフは驚きの表情でスノウに顔を向けた。
「招待したのか?」
「相談があればいつでもどうぞと書きました」
チケットを返却する際の手紙はスノウが書いた。
一応は王族のため、角が立たないよう無難な文面にするということだった。
だが、その内容をルフは確認していなかった。
「相談に来たということか?」
「アルト、クラース、部屋を出ろ。スノウ達だけに話がある」
「はっ!」
「廊下におりますので」
護衛達はすぐにドアから出て行こうとした。
「廊下は寒い。隣の食堂なら暖房を入れているから暖かいぞ」
「お気遣いありがとうございます」
「大丈夫です。魔法防御をしていますので」
ドアが閉まった。
「そうか! 魔法防御をすれば寒さを防げる!」
「魔導士のくせに何を馬鹿げたことを」
オルフェスは呆れた。
「そもそも服で防げる」
「まあ、そうなんだが」
「いいえ。そうじゃなくて」
意味が違うとスノウは思った。
「オルフェス様の服は特殊です。一般人の服とは違います。魔法効果がありますよね?」
ルフもオルフェスも気づいた。
「それで薄着なのか!」
「お前も薄着だろう。まさか普通の服なのか?」
「俺には魔力がある。普通の服でもいい。だが、スノウは違う。それでなんとかならないかと思っていた」
「そういうことか。だったら魔法効果のある服を買えばいい」
「高価そうだな」
「神殿からの支給金は決まっています。魔法効果のある服は買えません」
オルフェスは眉をひそめた。
「そんなはずはない。慰謝料があるだろう?」
「慰謝料?」
「婚約がなくなったことに対する金だ。スノウの生活が保障されるよう払った」
スノウとルフは顔を見合わせた。
「私は知りません。初めて聞きました」
「スノウが貰った金は神殿のものになるんじゃないのか?」
「そういえばそうですね。寄付になります」
「じゃあ、寄付になったんじゃないか?」
「そうですね」
「まさか貰ってないのか? 全く?」
オルフェスは驚愕した。
「生活するのに金がいるだろう? どうしている?」
「神殿から貰っています」
「いくらだ?」
「金貨三枚だ」
ルフが答えた。
「それはお前の給与ではないのか? 聞いているのはスノウの生活費だ」
「私の生活費です。一か月分の」
スノウに支給されるのは一か月につき金貨三枚。
そこからルフへの給与として金貨一枚を支払う。
実質残った金貨二枚で生活費を賄う。
そのことを説明すると、オルフェスは茫然とした。
「馬鹿な……安すぎる!」
「ここは田舎なので物価が安いのです」
「修道院は清貧だからな。食料もできるだけ自給自足している」
オルフェスは一瞬だけ理解できそうな気がしたが、やはり違うと感じた。
この二人に言っても無駄だろうとも。
間違いなく金に疎い。都合よく言いくるめられ騙されるタイプ。
そして、オルフェス自身も大して変わらない。
見る目がなかった。
オルフェスは慰謝料を渡した大神官を思い出した。
ラフターめ!
魔法が使えなくても、頭の中に浮かんだ大神官の姿を粉々にするのは簡単だった。




