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聖女からの大降格  作者: 美雪
第六章 

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62 奥へ



「十分だろう」


 かなり壊した。


 三人並んでも入れるほどの幅がある。


 足元は膝位までが残っているが、かがまなくても通れる高さも確保した。


「魔力持ちが軽く触ったら壁が壊れた。それだけのことだ」


 それで誤魔化すというオルフェスの意向が伝えられた。


「どうせ防音にしているんだろう?」


 ジークフリードが壊す間、大広間から学者達が駆けつけることはなかった。


 部屋の音が漏れないよう誰かが防音魔法をかけているのは明らかだ。


「内密の話にするのであれば必須です。ただ、口を閉じていられるかわからない者が一人います」


 オリバーの視線が向けられたのはカーラミアだった。


「宰相の姪でしたね?」


 ゴードンもわかりやすく言葉にした。


「カーラミア、他言無用だ。宰相であっても話すのは許さない」

「勿論です。状況からいってやむを得えなかったのは重々承知しております」


 カーラミアは壊れた壁の先の方を見つめた。


「あの先が気になります。オルフェス様は調べに行かれるのでしょうか?」


 何があるのかわからない。


 危険であるため、普通は調査を担当する者に任せる。


 だが、このような遺跡に興味がある者は大抵自身で調べたくなる。


 カーラミアもその一人。通路の先がどうなっているのかを知りたくてたまらない。


 オルフェス自身が調べると言い出してくれることを期待していた。


「行くに決まっている」

「いけません!」

「危険です!」


 当然の流れとして、護衛が止めた。


「学者達に調査させればいいだけです!」

「そのためにあの者達がいます!」

「わかっていない。あの学者達はこの壁が後から作られたものであることを見抜けなかった。無能な者に調べさせても意味がない。何もないと騒ぐだけだ」


 オルフェスの顔はスノウに向けられた。


「スノウ、ここが鼻だとするとこの先には何があると思う? 口か?」

「人中では?」

「何それ」


 素直に尋ねたのはヴェラ。


「ここです。鼻と口の間にあるくぼんでいる溝の名称です」


 スノウは唇の上の部分にある溝を指さした。


「スノウって頭良いわよね。体に関係するようなことは」

「奥へ行くぞ」


 オルフェスは自身で行く気だった。


「王太子殿下!」

「止めるよう言って下さい!」


 オルフェスの護衛はジークフリードにすがるような視線を向けた。


 どれほど止めても聞かない時のオルフェスは聞かない。


 成人した王族だけに、よほどの事情がなければ強硬手段を取ることができなかった。


「羨ましい」


 ジークフリードはため息をついた。


「オルフェスの護衛は随分と甘いな。私の護衛はすぐに魔法で捕縛してくるぞ?」


 オルフェスは眉をひそめた。


「子供の頃の話だろう?」

「現在も同じだ。目と魔力がある限り、理由はなくならない」


 魔眼も豊富な魔力も危険。


 しかも、ジークフリード自身から切り離すことができない。


 ジークフリードを守るためにも、ジークフリードから何かを守るためにも、一生使える万能の理由になってしまうのだ。


「私は常に『自身の意志』で大量の魔力を抑えている。死にそうになれば、魔力を抑えることができずに魔法事故が起きるかもしれない。だから捕縛してでも危険なことをさせたくないし、暗殺者から守るためにも自由に行動できない。突然、魔法事故を街中で起こされては困るだろう?」


 オルフェスは言葉が出なかった。


 今初めて知る事実。


 兄は神の化身も同然。選ばれた証である魔眼と魔力があるからこその力があるからこそ、護衛達が絶対的に崇め、守っているのだと思っていた。


 だが、そうではない。何かあればすぐに魔法で捕縛する。


 護衛は監視者なのだ。


 オルフェスの護衛と同じ。問題が起きないように側にいる。


「奥は相当暗いはずだ。危険かもしれない。それでもいいのか?」

「お前も一緒に来い。盾を選んだだろう?」


 オルフェスは自身の狡さを知っていた。


 そう言えばジークフリードは断らないと思った。


「誘ってくれて良かった」


 ジークフリードは笑った。


「実は私も奥がどうなっているか気になっていた。未知の場所は危険がつきものだが、慎重に探ればいい。ゴードンがいれば大丈夫だろう」


 ゴードンはため息をつくとスノウとルフを見た。


「任意の社会勉強が始まります。ヴェラと共に外へ行きなさい」

「わかった」


 ルフはすぐに頷いたが、


「参加します」


 スノウは答えた。


「任意ですよね?」

「一緒に来るなら気を付けて来い」


 オルフェスが注意した。


 すでに壊れた壁を越えた場所にいる。


「ここは転移魔法だけで出入りする場所かもしれないからな」


 ジークフリードの表情が固まった。


 それはこの遺跡に来た際に考えたことだった。


「そうなれば魔導士が絡む建物だ。魔法の罠があってもおかしくない」


 幼少時、オルフェスは暗殺者によって牢獄と呼ばれる転移魔法でしか出入りできない場所に連れていかれた経験がある。


 ただ、その時と比べて違う部分があった。


 石で塞がれていたが、天井に穴が二つあったこと。


 大広間と名付けられるほど広く大きな部屋だったこと。


 細い通路と小部屋があったこと。


 全て牢獄にはない特徴だった。


 そして、スノウが通路と小部屋を鼻といったことで、闇の神テーネの神殿ではないかと思う気持ちが強まった。


 壁を壊した奥にも部屋があった。


 しかも、通路が並んで二つある。


 ジークフリードが光源を出しているせいで周囲がよく見えた。足元も。


「壁で塞がれていた部屋だけに埃が積もっている。だが、あの部分は積もっていない」


 二つの通路の手前にある場所だ。


「あそこが転移陣の座標になっているのかもしれない」

「頭がいいな!」


 ジークフリードはすぐに埃の積もっていない場所に行くと、転移陣の座標が残っていないかを探った。


「……正解だ。ここに転移した者がいる」


 大発見であり、大きな手掛かりだった。


 一方で、転移魔法を使える魔導士が出入りしていることも確定だ。


 魔法に関係する場所で、何らかの魔法が仕掛けられている可能性や危険も増した。


「元の座標が近いな。壊した壁の前からここに転移したようだ」


 そうなると、他の場所からこの遺跡へ転移した痕跡もどこかにありそうだった。


 とはいえ、すでに遺跡内には学者を始めとした調査関係者が出入りしており、その見取り図を作成している。


 埃の状態で場所を特定するのは難しそうだった。


「まあ、痕跡があるということはそれほど経ってない証拠だ」


 転移魔法を使うと必ず痕跡が残るが、永続的に残り続けるものではない。


 ある程度の時間が経つと自然と消えてしまう。


 そもそも魔力の痕跡を探るだけに、誰でもできることはでない。


 極めて高い探索能力が必要だった。


「王太子殿下、危険では?」

「そうだな」


 ジークフリードは頷いた。


「だからこそ、私が行こう。調査員を生贄にはできない」

「また置いて行くのは許さない」


 オルフェスの言葉の意味をほとんどの者は察した。


 一人を除いて。


「一緒がいいですよね? 私もその方が心強いです」


 スノウがそう言った。



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