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聖女からの大降格  作者: 美雪
第六章 

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59 救出作業



「《風来の陣》」


 ルフは雑草取りで学んだことを早速活かすことにした。


 魔法の風を操るには陣を張るのが有効。


 陣は通常の空間と陣内の空間を一時的に仕切る。


 魔法の風が陣外に影響を及ぼすのを防ぐことができ、自身の思う通りにしやすくなる。


「もう一つ作るわ。《風来の陣》」


 ヴェラはルフと同じように細長い陣を斜めに傾けて張った。


「風トンネルでしょう?」

「そうだ」


 掘る場所と地上の空き地をつなぐ細長い陣を張り、下から上に向かって風を流す。


 すると掘った土が風に乗り、陣の中を通って運ばれるという仕組みだ。


「深度が出てきたら一つのトンネル、上下で陣を分けましょう。私が上を管理するわ」

「わかった」

 

 深く掘るほど地上への距離が長くなる。強い風でなければ運びにくくなってしまい、使い手の負担が増す。


 そこで二つのトンネルを一本にまとめ、上下に陣を張り分けて短い距離を管理。


 使い手の負担を軽減しながら土砂を地上へ運ぶ作戦だ。


 ノールドとワイアットは加速しているのもあって、驚くべきスピードで土を掘り始めた。


「俺が掘る必要はなさそうだ」


 すぐにルフは風トンネルの管理に専念することにした。


「魔法機器以上の速さだな」


 フワフワと浮かびながらジークフリードが呟く。


 隣にいるのはゼノン。


 ある程度掘ってから崩れないように固めるため、今のところは出番がない。


「他にも手伝えることがあればいいのだが」


 掘る作業と運ぶ作業は順調だ。


 空中から見下ろしているからこそ、その様子がよく見える。


「ゼノンはどうやって凍らせるんだ?」

「魔法剣を使用します」


 ある程度の深さになったら地上に剣を突き立て、そこから下へ向かって凍らせる。


 それを四回繰り返し、氷の壁を四つ作るというわけだ。


「掘るサイズによっては八角形にするつもりです」

「真下に掘ればいいことを考えると……貫通系の攻撃はどうだ?」


 ジークフリードは思いついた。


「私の魔法で一気に削ればいい!」

「必要ありません」


 ゼノンは冷静に答えた。


「攻撃の加減が難しく危険です。強すぎると真下にある遺跡を破壊、救助を待つ人命を脅かすことになります。削った部分に土砂が流れるだけでもあります」

「それもそうだな」


 ジークフリードは別のことを思いつく。


「火魔法で土を乾燥させ、サラサラにしたら運びやすいのではないか?」

「それも必要ありません」


 土の乾燥度が高いと風に載って運びやすそうに思えるが、レンガのように焼き固めてしまう可能性もある。


 サラサラにできたとしても、地上で積み上げた際に崩れやすくなる。


 そうなれば、地上において土砂崩れを起こす可能性が高くなってしまう。わざわざ乾燥させる必要はない。


「氷魔法で固めた後に火魔法を使うわけにはいきません」

「光魔法の防壁はどうだ? 土砂崩れを防げる!」

「王太子殿下が帰った途端、土砂崩れが起きます。《光速》と《天空の翼》だけで十分です」


 実用的で役立つ魔法をもっと多く覚えておけば良かったとジークフリードは思った。






 驚くべき速度で土砂を取り除く作業が終わった。


 掘って掘って掘りまくり。運んで運んで運びまくった。


 出入口まで辿り着くことを優先し、途中からはより狭い範囲を集中して掘り進めながら、氷で固めて通路を確保した。


「出入口は見えたが、中にも流れ込んでいるな」


 穴の下にも大量の土砂が流れ込んでいるように見えた。


「ここからなら探索魔法が使えるんじゃないか?」


 すぐにノールドが地中探索を行った。


「ほぼ一カ所に集まっている。無事のようだ」

「真下ですか?」


 その場合は掘る作業を慎重にしなければならない。


「いや。横の方だ。ここからは少し離れている。空洞の端に寄ったのかもしれない」

「斜めに掘った方が?」

「その方が早そうだが、上手く掘れるかどうか」

「私が掘ってみます」


 ワイアットが掘ることになった。


「張り直す。《風来の陣》」


 ルフはワイアットの作業に適した位置へ風トンネルを作り直した。


「いいでしょうか?」

「大丈夫だ」

「掘ります」

「《豪風来》」


 ルフの魔法によって豪風が下から上へと流れた。


 陣の中であれば風の方向を管理できる。


 ワイアットが魔力で掘り上げた土が巻き上げられ、強力な魔法の風によって地上へと運ばれて行く。


 順調に掘り進められそうだったが、ワイアットの手がすぐに止まった。


「あ」

「どうした?」

「盾です」


 穴の下には土がぎっしりと詰まっているわけではなく、魔法の盾の上に土が被さっていただけだった。


「賢いな。出入口を盾で塞いだのか」


 遺跡内に大量の土砂が流れ込まないようオルフェスの護衛が魔法の盾で出入口を塞いだのだ。


 強度の高い結界は張るのに時間がかかるが、盾はすぐに出現させることができる。


 元々の強度も高く、結界よりも維持の負担が少ない。


「退け」


 ノールドが魔法の盾を確認する。


「光の盾だ」


 一見すると白い盾。


 ジークフリードが空中に出した半透明のものとは違い、中の様子は見えない。


 ノールドは剣を取り出すと、魔法剣に変えて数回叩いた。


「魔法剣で壊すつもりか?」

「攻撃行為が使い手に伝わる。誰か来たとわかるだろう」


 しばらくすると、魔法の盾が消えた。


 下の方はかなり暗いが、小さな魔法の灯りが二つ見えた。


「ノールドだ! 無事か?」

「ノールド? 王太子殿下がいるのか?」

「転移門の異常があってクロスハートに来ていた。魔法騎士団よりも先に来て救出作業を指示された」


 内部への出入りができるようになった。


 遺跡に来ていた者は全員大広間と名付けられた場所にいた。


 揺れと轟音の後に穴から土砂が入ってきたため、すぐに魔法の盾で塞いだ。


 盾をなくした途端土砂が押し寄せて来るため、地上の護衛が救援を呼んで来るのを待つことにしたということがわかった。


 ジークフリードが降りて来ると一気に光源が増え、内部が相当明るくなった。


「オルフェスは?」


 オルフェスは暗い場所も好きではない。


 過去の事件の後遺症で、真っ暗にならないよう必ず灯りをつける。


 それを知っているジークフリードはできるだけ光源を増やして明るくしたのだ。


「眠っています。光源を節約したかったので」

「睡眠魔法があると便利そうだ」

「目を閉じればいいだけです」


 オルフェスの方を見ていたオリバーがそう言った。


「王太子殿下は最善を尽くそうとされました。転移したくても、座標がわからなければ転移できません」


 だからこそ土砂を取り除いた。


 学者達はそう思ったが、過去のことを知る者は違う意味に聞こえた。


「オルフェス様を起こさなくても構わないでしょうか?」

「そのまま王宮へ運んだ方がいいだろう。閉じ込められたことに強いショックを受けているかもしれない。今は一時的に通路を確保しただけだ。早く外に出た方がいい」

「大丈夫です」


 ゴードンがスノウを連れてやって来た。


「魔法騎士団が来ました。崩れた土砂を全て運んでしまうそうです」


 氷の壁が溶けない内に魔法騎士団が土砂を運び出し、土砂崩れを防ぐ金属板の防壁を設置することになった。


「作業が始まってしまうので、外に出るなら転移陣の方がいいでしょう。第二王子殿下が眠っていて良かったです」


 笑みを浮かべながらゴードンはオルフェスを見つめた。


 そんなゴードンを見たオリバーは顔をしかめる。


 ジークフリードは二人の様子に気付いていなかった。


「転移陣を使うなら眠らせたままがいいな」


 誘拐事件の時にそれができていればとジークフリードは悔やんだ。


「こんなものが埋まっていたのか」


 ルフは驚いていた。


 どう見ても人工的な建物。


 なぜ、土の中に埋まっているのかがわからなかった。


「大昔の人々が作ったのか?」

「そうです」


 答えたのは学者だ。


「地中に遺跡が埋まってしまうのはよくあるのですが、このように建物の形がそのまま出て来ることは極めて珍しいのです」


 通常は災害や地殻変動等によって低い場所に土砂が流れ、埋まってしまうことが多い。


 その場合は建物の損壊や崩落等が起きる。状況によっては閉じ込められてしまったものが見つかる。


 この遺跡は出入口付近しか見ていないが、今のところはそういった様子がないことが説明された。


「もともと地下に作ったもの、地下神殿かもしれません」

「神殿ということは、神を祀っているということか?」

「そうです。アヴァロには多くの神がいます。大地や地下を司る神もいるので、そのような神のために作った可能性があります」


 ルフは天井を見つめた。


 正確に言えば、穴を。


「穴が二つある」


 全員が天井を見上げた。


 ジークフリードのおかげで遺跡内は非常に明るい。天井部分もよく見えるようになった。


 そのせいで出入口にしている穴と同じ穴が少し離れた場所にあることがわかった。


「石で塞がれているように見える」

「向こうと同じような状態かもしれない」


 そう言ってジークフリードは天井を隅々まで見渡した。


「二つだけだな?」

「そうですね」


 学者が答えた。


「入口用と出口用か?」

「その可能性もありますが、別の場所へ通じているのかもしれません。掘るサイズを広げないとわかりません」

「調査が長引くのは困るのだが……」

「かなり広そうです。周囲を全て掘り上げるとなると、それだけで一か月程度かかりそうです」

「予算不足になりそうだな」


 予算がないなら調査はできない。工事優先になる。


「予算はつける」


 その声を聞いた途端、ジークフリードの表情が固まった。


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