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聖女からの大降格  作者: 美雪
第六章 

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57 考える王太子



 執務室でジークフリードは深いため息をついた。


 問題は次々と発生する。きりがない。


 だが、誰かが対処しなければならない。


「父上が羨ましい。面倒なことは息子と臣下に任せればいいだけだからな」


 嫌味。


 弟のオルフェスがいつも言っているように。


 但し、独り言。


「まあ、仕方がない。遺跡が見つかったのであれば調査のために工事は中止するしかないか」


 クロスハートに隣接する広大な草原に山を作ることになった。


 山を作る大量の土が必要だ。


 魔法で作った土砂は崩れやすく土台造りには使えない。


 そこでクロスハート周辺を掘り下げることにした。


 最初の構想では現在のクロスハート都市部が山のふもとになる予定だったが、中腹扱いに変更。別の場所を一番下にすることにした。


 魔法と魔法機器があれば、掘るという単純作業は相当早い。


 だが、掘りまくると遺跡が見つかって工事が止まった。


 今回は神殿の遺跡のようだという報告もある。


 そうなると学者だけでなく神殿もしゃしゃり出て来るため、調査期間が長くなりそうだった。


「オクルスへの転移門がまた遅れる……」


 遺跡が見つかったのは一番掘り進められていた場所。


「オルフェスが何か言いそうだ……」


 オルフェスが大学で専攻していたのは歴史学。


 王妃の希望で大学に通うことなく講師も優秀な学生も王宮に呼び寄せて学ばせていた。


 取り巻きも歴史学の関係者が多い。


 カーラミアもその中の一人だった。


 古代文明については古代語で記された内容から推察するしかない。


 だが、古代語の解明は難しく、未だに全てを解読できていない。


 オルフェスは古代史や翻訳の知識が多いカーラミアを重宝がって気に入った。


 ずっと取り巻きの一人だと思われており、恋人だという話を聞いたことはなかった。


 オルフェスのことを誰よりも知っていると自負している王妃でさえ取り巻きの一人としか思っておらず、寝耳に水だった。


 秘密の仲だったと言えばそれまでだが、本当に恋人だったのか怪しい。


 だが、婚約者にしたのは事実。


 宰相の姪だけに簡単には婚約破棄できない。それなりの覚悟はあるはずだ。


 しかも、カーラミアは光魔法が使える。


 得意なのは光魔法の中で存在感も有益度も極めて低い解呪魔法。解呪士の資格も持っている。


 古代遺跡や遺物等にかけられた呪いを解くことができるために学び、実際にそのようなものを解呪した経験もある。


 学問や魔法を通じた貢献をしていると言えなくもない。


「だが、さすがに解呪ではなあ……」


 解呪対象になる者も物も少ない。醜聞を避けるために呪われていたことを伏せたい場合が多い。


 解呪の能力者が公の場で堂々と活躍する機会はなく、裏方に徹するだけ。


 アヴァロスで一番の解呪士でもない。


 聖女にするほどの技能者でもない。


 それでもオルフェスはカーラミアを聖女にしたがっている。


 聖女が常に最上の技能者でなければならないということ自体を変えたいのだ。


 聖女は神職者。地位と称号を返上しなければ結婚できないせいで、政略結婚には使いにくい。


 そこで定番の手段。特例処置。


 相手が王族であれば、聖女のまま結婚することができるように変更したい。


 聖女兼王子妃になれるということだ。


 そうすれば、王家と神殿を強く結びつけることができる。


 神殿も聖女を失わない。王子妃としての地位がより強く聖女と神殿を支えてくれる。


 王家の王子と神殿の聖女を代々結婚させることもできる。


 魔法以外のメリットを拡大させるため、最上の技能者ではなくても別の理由で聖女にできるようにも変更する。


 ジークフリードから見れば、より強く聖女を縛り上げ、権力者にとって都合の良い政略結婚の駒にできるようにするための変更だ。


 オルフェスは聖女を形骸化することで神殿の力を削げると国王には説明し、神殿には王家が強く支援するためと聖女の幸せを考えての変更だと説明している。


 有能な宰相と信心深い母親がついているのもあって、国王や神殿の反応は決して悪くはない。


 オルフェスの計画は水面下で着々と進行中だと聞いていた。


 ジークフリードはアヴァロスの行く末が心配でたまらない。


 王家も神殿もなくなった方がいいのではないかと感じてしまうほどに。


「実行したら、私は悪魔だろうな……」


 なにせ神を祀る神殿をなくすのだ。悪魔でなくて何なのか。


 しかし、ジークフリードは神を否定したいわけではない。


 神の名を盾にして勝手なことをしている人間をどうにかしたいだけだ。


 それが理解されるかどうかが重要。そして、難しい。


 魔眼があるせいで余計に。


「どう考えても、魔眼があるのは不利だ……」


 どうして魔眼なのか。


 もっと普通な感じ、魔法の瞳という名称にして欲しかった。


 神眼でもいい。カッコいい。悪く思われにくそうだ。


「名称変更をしたいーーーーっっっ!!!」


 コンコンコンッ! ガチャッ!


「王太子殿下、脱線しています。執務をして下さい」

「重要な書類が届いているはずだ」


 ドアを開けたオリバーとノールドがすかさず注意した。


いつも通り。変化なし。


 クロスハートの大事件が起きた時と同じだ。


 すでに新しい事件は起きている。


 雑草取りのために一生懸命片付けた書類の山がまたしても出現していた。


 クロスハートの山を作るよりも圧倒的に早い。


 犯人はわかっている。


 国王(父親)だ。


 オクルスに行きたい……。


 ジークフリードがそう思った時だった。


 ガチャッ!


 騎士の間の扉が乱暴に開いた。


「至急報告致します! 防御結界に異常が発生しました!」

「どこの防御結界だ?」

「クロスハートです!」


 絶対に魔法障害だと言いたいところだが、前回の内容は危機的だった。


 軽視してはいけない。


「緊急だ! 父上の所へ行くぞ!」


 いつも通りの指示があるはずだ。


 ジークフリードが担当に任命される。


 また空中ポートが落ちては一大事だから。


「念のためにゼノンを招集しておけ。ワイアットもだ。技師がいると便利かもしれない」


 工事関係者による人為的ミスに気付く者がいれば、空中ポートを破壊することなく電源力の正常化で対応できたかもしれなかった。


「はっ!」

「お待ちください」

「転移陣の人数が足りない」


 オリバーとノールドに定員オーバーを指摘された。


「ワイアットは中距離ができるぞ?」


 クロスハートなら一回で転移できる距離だろうとジークフリードは思った。


 無理なら二回に分ければいい。


 魔法兵なら不味い魔法薬も飲み慣れているはずだと。


「空中に弱いのが問題です」


 ワイアットは逆転移。土属性。


「風使いが必要になるかもしれない」


 ゼノンやワイアットをサポートする者だ。

 

 ジークフリードが知る最高の風使いは神殿にいる。


 不満が溜まりに溜まっているのが明らかで、爆発する前にガス抜きが必要そうな人物。


「ゴードンを呼べ。神殿に王太子が突撃する前に来いと伝えろ」


 何かあれば結界を張れる。まさに適役だとジークフリードは思った。


「はっ!」

「まだあります」

「書類だ」


 オリバーとノールドの視線が執務室の山に向けられた。


「そうだった。だが、この量では……」


 書類箱に入りきらないほどある。


「《石の壁》」

「《水隠れ》」


 書類の山は土属性の結界で囲まれ、水魔法で隠蔽された。


「追加の書類箱を用意させてください」

「担当に命じられたら、書類箱にしまえばいい」

「優秀さが桁違いだな! さすがアヴァロス最強の護衛だ!」


 率先して協力してくれた護衛への配慮は必須。


「書類箱を用意しろ! 最速だ!」


 ジークフリードは全員に光速範囲の魔法をかけた。


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