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聖女からの大降格  作者: 美雪
第六章 

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55 雑草取り



「マジでやるの?」


 イエルは嘆くように言った。


 だが、すでに王都から来ている時点で答えは出ている。


 やる気満々の者もいる。


「絶対に勝つわ!」


 力強く答えたのはヴェラ。


「勝負の方が面白い」


 自信満々なグウィン。


「久しぶりに腕がなる!」


 護衛に睨まれながらも招待は断れないと言い張って来たジークフリード。


 当然のことではあるが、魔眼は禁止。


「調子に乗るな」


 珍しく先に注意するノールド。


 今回は計測係を務める。


 トレフェも同じく計測係。


「消火係は気を抜かないように。王太子殿下の力は普通ではありません」


 注意をしたのはオリバー。


 火属性魔法による被害を防ぐ消火係はイエルとワイアット。


「ドキドキしますね!」


 合図係のスノウ。


「地図を確認してくれ」


 主催者であり、自らも参加するルフ。


「怪我のないように。いざという時は私が治療してあげましょう」


 忙しいはずだというのに、帰らずに残っているゴードン。


 強者揃いのメンバーが参加するのはオクルス及び周辺地域にある雑草取り。


 そして、審判を務めるのは人手を集めたゼノン。


「ルフ、グウィン、イエルは東。王太子殿下、ヴェラ、ワイアットは西からです」


 三人ずつのチーム編成。


 地図に従って雑草を取りながら逆方向へ向かう。


 地図上で半分の場所まで先に雑草取りを終えたチームが勝利。


 注意すべき点として、雑草以外のものは対象外。


 環境破壊や建物損壊・器物破損には可能な限り気を配ること。


「畑などの視認しにくい場所は黄色の旗があります。形は地図を見て確認して下さい。毒類は使用不可。薬類は浄化をしないで済む安全なものだけ。道路のみ使用可能です」

「道路係かなあ」


 ルフは火魔法だけでなく風魔法も使える。


 イエルが消火係を務める機会はなさそうだった。


「王太子殿下は道路や土壁を範囲の目安にして下さい」


 ワイアットは土属性もそこそこ使える。


 中距離という制限があるが、逆転移もできる。


 オクルスまで一度で来ることができるよう鋭意修練中だった。


「では、準備を」

「《風速範囲》《浮遊靴範囲》!」


 ヴェラ達は全員で一気に転移する準備。


「《光速展開》《天空の翼範囲》《光の鎧範囲》! これでいいか?」


 ジークフリードは英才教育を受けていただけあって、極めて難易度の高い魔法も使える。


 天空の翼は、背中に光の翼があらわれ空中を飛ぶように移動することができる魔法。


 使える者はかなり少ない。


「光速と翼が欲しい」

「欲しいねえ」


 グウィンとイエルは羨ましがった。


「《風速展開》《雷速展開》。あとは各自で頼む」


 ルフは雷速を習得していた。


「わーい! 風と雷だー!」

「十分だ。《浮遊靴》」

「《浮遊靴》!」

「スノウは合図をして下さい」

「じゃあ、始め」

「《転移陣》!」

「《転移陣》!」

「《転移陣》!」

「《転移陣》!」

「《逆転移》」

「《逆転移》」

 

 八人が消えた。


「てください……」

「フライングですね」

「言い終わる前に魔法が発動していました。加速のせいでしょう」


 ゴードンとオリバーが冷静に指摘した。


「全員減点です」


 全員という理由で帳消しにはしないのがゼノン。


「見学の方角は?」

「私は西へ行きます」


 オリバーは護衛。


 ジークフリードの側を離れるべきではない。


 その火力が強すぎることへの懸念もある。


 後始末をする可能性も含め、ゼノンも一緒だ。


「私とスノウは東を見てきます」


 残った四人も転移した。






 東。


 ルフ・グウィン・イエルは互いの魔法の邪魔をしないよう手分けして作業をすることにした。


 風魔法が得意なグウィンは風速と雷速の効果で風のごとく移動し、次々と雑草を刈り取っていた。


「楽勝だな!」


 アヴァロス最強を誇る魔法騎士団において、グウィンの実力は上位。


 風属性が得意なだけに空中感覚のレベルも高い。


 宙返りをしながら風魔法を撃っている姿は遊んでいるようにしか見えなかった。


「楽しそうだねえ」


 空中転移ができるだけあってイエルの風属性も強いが、道路担当を名乗り出た後、特殊な水を撒いて雑草を溶かしていた。


 浄化の必要がない安心安全の特殊魔法水ではあるが、溶けるまでに時間がかかる。


「思った以上に遅い。風に変えようかなあ」

「風は楽しいぞ!」


 童心に戻ったように嬉々としていたグウィンだが、突如逆さになったままピタリと止まった。


 その先にはルフがいる。


 雑草を刈り取りながら火で燃やす作業をしていた。


「刈り取りながら燃やしているねえ」

「賢いな」

「誰かさんは細切れするだけだよね」


 グウィンに対抗心が芽生えた。


 同じチームであっても、そういった気持ちはある。


 スノウにプロポーズしたのはグウィンの方が早い。


 出会いも先。目を付けたのも先。


 魔法騎士団で訓練を受ける者としても先輩。年上。


 総合的に見て、兄貴分。


 次々と負けたくない理由が思い浮かんだ。


「あれぐらい」


 表情を引き締めたグウィンは火魔法を使った。


 刈り取った草が燃える。


 だが、遅い、


 ルフのように手際よくできなかった。


「燃やすの遅いなあ」


 グウィンはイエルを睨んだ。


 火が苦手なやつに言われたくないと思いながら。


「溶かすのはもっと遅いわけだが?」


 閉口したイエルは道路上に水溜まりを作った。


風を起こし、刈った草を運んで溶かす。


「この方が早そう!」


 溶かしている間に刈って運ぶと丁度良さそうだった。


「勝負だ」

「面白くなってきた!」


 刈っては燃やす騎士と刈っては溶かす騎士の戦いが始まった。


 そこへやって来たのは見学・監視ペア。


「凄いです! もうあんなに草が!」


 一帯全てが雑草に埋もれていたはずが、道が見えるようになっている。


 周辺の草も綺麗に刈り取られているだけでなく、刈った後の草もしっかり処理していた。


「刈ってすぐに燃やしたり溶かしたりしているんですね。効率的です」

「神殿や魔法学校でも修練と社会奉仕の一環で草刈りをします」


 上級者は街中や公園、未熟な者は川縁や草原などの広い場所の担当になることをゴードンは説明した。


「三人の実力は学生以上のはずだというのに、非効率的です」


 三人はバラバラに作業をしている。


 せっかくチームを組んでいるのに、力を合わせていない。


「頭を働かせていません。遊んでるのと同じです」


 ゴードンはそう言うと手をかざした。


「む」

「あ」

「結界?」


 グウィン、イエル、ルフは球状の結界に閉じ込められた。


「《風の陣》《炎の陣》」


 ゴードンは巨大な二つの陣を描いた。


「《大鎌鼬》」


 激しい風の音と共に大量の草が刈り取られて空に舞った。


「《炎の風》」


 炎を纏う風によって草は燃え上がるが、結果で守られている三人は無事。


「このように陣で囲ってからまとめて処理すると効率的です。大事なものは結界で守っておけば被害を受けません」

「やっぱりゴードン様は凄いです! あっという間にこの辺りの全てが綺麗になりました!」

「結界が使えないとしても、代替え魔法はいくらでもあります。試すにも丁度いいというのに、定番の方法だけでは向上できません。残念です」


 結界が消えた。


 ゴードンを見つめながら三人は心の中で思った。


 厳しい。だが、正しいと。





「楽しいな!」


 ジークフリードはご機嫌だった。


 なぜなら、面倒な調整をすることなく広範囲魔法を発動させれるから。


 その理由はワイアットにある。


「まず、水の陣を描きます。すると、火や炎属性の魔法が使いにくくなります。つまり、王太子殿下の魔法の効きが悪くなるので、広範囲を一気に焼きやすくなります」


 という感じ。


 ジークフリードは魔力が豊富だが、修練ができたのは成人するまでだった。


 魔眼さえ抑えることができれば修練の必要はなしと言われ、成人後は執務ばかりをさせられていた。


 だが、それだけが理由ではないこともわかっている。


 ジークフリードは暗殺対象。安全な場所にいて欲しいのもあるのだ。


 複雑な事情による縛りは仕方がないが、運動も魔力発散もなければ調子が悪くなる。


 診察と治癒魔法で病状が治っても、疲労感が残り気落ちするという悪循環。


 どうせなら治療に魔力を使って疲れるのではなく、有意義なことに使って気持ちよく疲れたい。


 その方が精神的にも肉体的にも健康的ではないのかとジークフリードは常々思っていた。


「悪くない。だが、綺麗ではないな」


 刈ったわけではないため、燃えた雑草がそのまま残っている場所ばかり。


「大丈夫です」


 ワイアットが両手をかざす。


 すると土がボコッと浮かび上がり、細長く掘られていく。


 掘り起こされた土はすぐ隣に落ちるため、高い所と低い所ができる。


 あっという間に畝のできあがり。


 燃えた雑草の姿は土に埋もれてなくなった。


「これで見た目も綺麗です」

「畑になったな!」


 納得し合う二人。


 だが。


「ちょっと! ここは畑じゃないのよ! 勝手に畑にしたら間違えてしまうでしょう!」


 風の女王は今日も高い所から見下ろしていた。


「《暴風来》!」


 ゴオオオオオオーーーーという風の音と共に暴風が吹き、畝を削って平らにした。


「掘るなら直しなさい! いいわね?」


 チームメイトだけに遠慮なし。


 相手が王太子であっても自分より年上であっても関係ない。


 ヴェラには。


「やっぱり女王だなあ」

「異名は正しいかと」


 ジークフリードとワイアットは頷き合い、より親睦を深めていた。


 実を言えば、ジークフリードとワイアットは同じ年齢だった。





「審判として発表します」


 審判を務めるゼノンの表情は氷のように冷たかった。


「雑草は処理できましたが、問題行為がありました」


 土属性の計測係は務めを果たした。


 作業中の細かい部分や問題点もしっかりと記録して審判に報告した。


「雑草取りはチーム対抗。チーム以外の者が手助けをしてはいけません。これは修練も兼ねているからです」


 西チームはゴードンから効率的な雑草取りの指導があった。


 言葉で教えるだけならまだしも、実技披露もあった。


 ゴードンによって処理された範囲分、得をしてしまうことになる。


「ゴードン様が処理した範囲は無効です」

「狡いわ! 羨まし過ぎるじゃないの!」


 ヴェラが叫んだ。


「勝手に」


 ゴードンがしただけだと伝える前に、ルフの口はパクパクとするだけで無音になった。


 魔法の効果であるのは言うまでもない。


 グウィンとイエルの顔が強張った。


「何も言うな」

「触らぬ神に祟りなし」


 グウィンとイエルの視線はヴェラではなくゴードン。


 それに気づいたルフは察するように頷いた。


「ヴェラは黙っていてください。続きがあります」


 東チームにも問題があった。


 環境破壊は駄目だと注意したが、高火力の魔法で焼き、土を被せて誤魔化したことが判明した。


「計画的な野焼き・焼畑は壊滅的な自然破壊行為とは違う」


 灰と土を混ぜることで肥料の効果、植生の改善、病原虫の駆除をする効果があることをワイアットは説明した。


「火や炎の魔法を使うことは想定していました。ですが、積極的に火力を上げる必要はありませんでした」


 雑草は高火力魔法でなくても燃える。


 高火力魔法を段々と下げていくのはいいが、上げていく意味はない。


 燃えカスが完全になくなるまで焼く必要はなかった。


「上限を試すような行為は認められません。それは雑草取りでも修練でもなく魔法実験です」

「修練及び奉仕活動だというのに、調子に乗っていましたね?」


 オリバーにも指摘され、ワイアットもジークフリードも肩を落とした。


 広範囲を得意とする者同士の組み合わせだからこその安心と油断。


 確かに調子に乗っていた。反省すべき点がある。


「チームは三人。注意することもサポートの一つです」


 ヴェラは口でへの字を作った。


 畑作りについて注意はしたが。高火力魔法については何も言わなかった。


 高等魔法の暴風系を使っていたせいで、何とも思わなかったのだ。


「オリバー様」

「何ですか?」

「沼地にならないよう風で土を運んだそうですね?」

「違います。水溜まりが気になっただけです」

「環境破壊の証拠隠滅を疑われる可能性があります」


 凄腕の護衛騎士として畏怖されているオリバーにもゼノンは退かなかった。


 審判だけに正当な判断を下すのみ。


「開始早々、両チームの全員がフライングをしました。スノウは始めてくださいと言いましたが、全てを言い終わる前に転移していました。大減点です」


 結果を出せば何をしてもいいということではない。


 ルールを守った上で行わなければならない。


「審判だけでなく計測係、オクルス村長、オクルス修道院長の意見も聞いて考慮しました。ここに集まった全員が協力したということで、チーム対抗については引き分けにします」


――皆、頑張っていました! 何かしら力になりたいと思った証拠ですから!


 スノウは全員の努力と善意を評価した。


 その点を吟味した上で、全員としてどうだったのか、雑草を処理できたかどうかという目的達成を尊重することになった。


「スペシャルデザートは全員で平等に分けます。おかわりはありません」

「好評ならまた別の機会に作る。感想を聞かせて欲しい」

「お疲れ様でした! 総菜パンやサンドイッチもありますので、沢山食べて下さいね!」


 雑草取りの奉仕活動は終了。


 次の予定は楽しく美味しい慰労会だった。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] ジークフリートとヴェラ同い年…!! どちらにどう言っても差し障りがあるので沈黙しますが、なるほどなるほど… [一言] いい年した大人がはしゃいでしまうこと、草取りは案外そんなものですよ…
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