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聖女からの大降格  作者: 美雪
第六章 

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54 至上は何か



「無理です」


 スノウの魔力が封印されている可能性を考えた者はルフだけではない。


 他の者もいた。実のところ、結構多かった。


 ゴードンもその一人。


 子供の頃から親しまれている寓話の中には悪しき力や存在を封じたような話もある。


 単純に無力化したという意味かもしれないが、封印で力を抑えたのかもしれない。


 実際に結界は魔力や魔法を抑えることができる。


 とはいえ、誰かの魔力を一に抑えることはできない。


「結界はかなりの制限があるのです。まず、人間を対象にすることはできません。空間対象です」


 使い手の体に何らかの効果を及ぼすような魔法とは違うのだ。


「魔力封じの腕輪というのものがあります。それを身につけると魔力を抑えることができます」


 名称から考えると完全に魔力を封じているように聞こえるが、実際はそうではない。


 術者の魔力を吸収してすぐに排出するだけの魔法具だ。


「それをつけても魔力は一になりません。放出される魔力量が増えるだけだからです」

「沢山つけてもならないのか?」

「なりません」


 魔力を吸収する力が強いと、自己防衛本能が勝手に働く。


 魔力が強い者ほど抵抗力があるため、魔法具の効果は抑えられてしまう。


「スノウは魔法具をつけていません。ですので、魔力を吸収して一にすることはできません。むしろ、一まで下げるほど吸収力が強いのであれば、ゼロになるでしょう」

「多重結界は特定の者の魔力を吸収するんじゃないのか?」

「いいえ。あれは抑制の結界です」


 特別な多重結界に入る者は違和感を覚える。


 それは多重結界内が魔法を抑制する特殊な空間になっているからだ。


 そのせいで、自身の持つ本来の力を完全に発揮することはできない。


「多重結界内の空間は現実世界の空間とは違います。本人の感覚は現実世界のままなので普通だと思うのですが、実際はより効果が抑えられ、魔力消費も軽減されます」

「そういうことか……」


 ルフは使い手や個々の魔力や魔法に干渉しているのだと思っていた。


 だが、結界は空間対象。


 使い手のいる空間に干渉することで、間接的に魔法の効果を抑えていたのだとわかった。


「私は結界士としての知識によって推測を含めた答えを出すことができます。ですが、多重結界は国家機密。結界を使ってはいけないのと同じく、詮索してはいけません。アヴァロスに害をなす存在と思われ、暗殺対象の仲間入りです。それでもいいのですか?」

「嫌だ」

「では、オクルスで大人しくしていなさい。王都の情報は国王や神殿に最も伝わりやすい。ゼノンに合わせてばかりいると、極める方向へ向かってしまいます。そうなれば、スノウとは一緒にいられません。わかりましたね?」

「わかった」


 ルフがすぐに納得してくれて良かったとゴードンは思った。


「多くのことを知りたいと思うかもしれませんが、危険人物だと思われないように注意しなさい。ゼノンとヴェラは魔法の相談相手としては適切とは言えない部分があるのも忘れないように」

「そうなのか?」


 ルフは適切だと思い、二人に魔法についての相談をして来た。


「あの二人は特異特化型の実力者。常識を超えた者の常識は世間一般の常識とはかけ離れていますからね。全てとは言いませんが、役に立たないこともあります」


 確かに二人は普通の一般人ではないなとルフも思った。


「魔法騎士も同じです。魔法だけでなく魔法剣まで使える選ばれた者。一般人とはかけ離れたエリート達です。その常識が国民全体における一般常識であるわけがありません。王都の常識とオクルスの常識さえ違うのですから」

「そうだな」


 ルフは自身の周囲にいる者達はアヴァロスにおけるごく普通の一般人ではないのだということを改めて実感した。


「ルフが危険かどうかを判断するのは国王や神殿ですが、ごく普通の人々でもあります」


 ごく普通の人々の一般常識では魔力が豊富、魔法が使えるというだけで危険人物。


「魔眼を持つとわかれば、人間であることすら疑う者もいるでしょう。それほどまでに人々の感覚は違うのです」


 ルフはスノウの言葉を思い出した。


――安心して下さい! 人間です!


 それは言わなくてもわかると思ったルフだったが、軽く見ていたと今更ながらに理解した。


 魔眼を持つルフを村人が恐れたように、スノウもまた豊富な魔力や治癒の力のせいで人間ではないように思われ、苦労して来たのだと感じた。


「魔法のことは誰に相談すればいいんだ? ジークか?」

「火属性の結界を教えた時点で問題外です。結界における常識をわかっていない証拠です」


 反論の余地なし。


「相談だけなら私が乗ります。神殿における魔法の指導教官を務めることもあれば、神官としてアヴァロスの様々な一般常識にも通じています」

「あまり会えない気がする」

「自分で考えることも大事です。ですが、一番に相談すべきはスノウでは?」

「そうだな。スノウに相談する」


 ゴードンは強い眼差しでルフを見つめた。


「同じ過ちを繰り返さないように。これは神殿の教えです」


 人生には多くのことがある。


 失敗をすることもある。


 だが、それを繰り返さないようにすることが大切だ。


「スノウはスノウらしく、ルフはルフらしく生きればいいでしょう。自身の中にある愛・勇気・良心・尊いと思えるものを大切にしながら。ですが、スノウと魔法の両方を一番にすることはできません」

「俺の一番はスノウだ。魔法じゃない。スノウが二度と魔法を使うなというなら使わない」


 正直に言えば、ルフは自身の魔力を全てスノウにあげたいほどだった。


 ルフは魔力を使っていなかった。だが、スノウは魔力を使っていた。


「魔法を使える凄さがわかるほど、スノウが失ったものの大きさを感じる。辛いはずだ」


 ゴードンは同意しなかった。


 する必要はないと思ったのだ。


「スノウは今の自分を受け入れ、幸せを感じています。同情するのではなく、幸せをより強く大きく広げてあげて下さい。ルフも同じです。魔眼を持つことを受け入れ、幸せになれるように努めなさい。魔眼を持つからこその幸せが見つかるでしょう」


 ルフは強くしっかりと頷いた。


「わかった。話して良かった。さすが神官だな」

「ルフは秘密が守れますか?」

「守れる」

「では、教えておきましょう。私は本物の神官ではありません」


 ルフは衝撃を受けた。


「違うのか?」

「本物の神官になるのはとても大変なのですよ」

「修練中ということか?」

「本物の神官が至上とするのは神。ですが、私の至上は神ではありません」


 かつてのゴードンにとっての至上は魔法だった。


 しかし、今の至上は魔法ではない。人だ。


「この気持ちが変わらない限り、本物の神官にはなれないのです」

「俺の至上はスノウだ。神や魔法よりもずっと大切だ」

「愛を至上にする者は多くいます。大変素晴らしい選択だと思いますよ」


 ゴードンは温かい笑みを浮かべた。

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