034 緊急事態発生
護衛の転移陣でクロスハートへ急行したジークフリードは早速詳しい報告を受けた。
複数の転移門による同時使用が引き金で大気中の魔力が増え、魔力障害が発生した。
そのせいで防御結界が魔法事故と誤認して作動したという内容だった。
「やはりそうか。もう限界だな」
これまでも同じ理由で魔力障害や魔法機器類の誤作動があった。
その度に大気中の魔力濃度を上げないような対策を講じて来た。
だが、『アヴァロスの心臓』と呼ばれるだけあって、多くの人々が集まる大都市。
日常生活における魔法や魔動機器・魔法具が多く使用されており、大気中の魔力濃度が上がりやすい環境だ。
さすがにそれだけで魔力障害が起きるわけではないが、思わぬことが原因で大気中の魔力濃度が上がってしまう場合もある。
もう転移門は増やせない。
それどころか、減らすべきだった。
不便になるだけでなく莫大な手間と費用がかかるが、魔力障害が起きないような場所に転移門を移すのが最も有効だとジークフリードは思った。
「調整が難航しそうだ」
その担当はしたくないというのがジークフリードの本音。
「まあ、帰って報告するか」
その時だった。
けたたましい警報が鳴り響いた。
「またか!」
「おかしい」
「なんとなく不気味だ」
「ポートは全面停止しているはずだ」
異様な魔力の気配が押し寄せて来るのを魔法騎士達は感じた。
「最上級の防御態勢を取れ!」
ジークフリードは叫びながら空を見上げた。
魔法騎士達も同じく空を見上げ、驚愕に目を開かせた。
落ちて来る。
「守れーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!」
ジークフリードは空へ向かって両手を突き出すと、最速最大で放出した魔力を上空へ飛ばした。
その瞳はオレンジ色に輝いている。
「《アヴァロスの盾》!!!!!」
大絶叫と共に巨大な盾が発現した。
ドドーーーーーーーーーーーーン!!!!
メリメリメリメリメリメリメリメリメリッッッ!!!
バリバリバリバリバリバリバリッッッ!!!
上空から想像を絶する轟音が次々と響き渡った。
落ちて来たのは空中ポート。
今は地上ポートによる魔力障害が発生した影響で、常備されているはずの防御結界が作動しない。
誤作動があったため、解除するために動力を切った状態だ。
空中ポートの落下を食い止めたのは、膨大な魔力を持つジークフリードが発現させた魔法の盾だった。
「すぐに防御結界を作動させろ! 長くは持たない!」
ジークフリードの魔法の盾は空中ポートの落下を完全に食い止めているわけではない。
クロスハートに直撃するのを一時的に防いだだけ。
音から察するに、魔法の盾はかなり傷ついている。なんとか耐えている状態だ。
空中ポートが再浮遊するか、空中ポート等の落下物に対応するための防御結界が作動しなければ、魔法の盾が壊れた瞬間に地上へ落ちる。
そうなれば、クロスハート壊滅もありえる大惨事だ。
「防御結界を起動させろ!」
「急げ!」
すでに転移陣を使える魔法騎士が何名も伝令に向かった。
それ以外にできることはない。
誰もジークフリードの代わりを務めることはできない。
魔眼がない。
「全員、落ち着いて聞きなさい」
オリバーは張り詰めた表情で口を開いた。
「魔法の盾が壊れたら、私が王太子殿下を連れて転移します。ノールドは失敗した時の補助をしてください。他は転移陣を使える者のみ残り、ギリギリまで王太子殿下の護衛に当たりなさい。自力で転移できない者と転移に自信のない者はすぐに退避。これは命令です」
ゴクリと息を飲む音が聞こえるほどの静寂。
「動け」
ノールドの一言で魔法騎士達は時間が戻ったかのように動き出した。
ほとんどの者が退避を選択した。
魔法の盾がなくなれば空中ポートが落ちて来る。
魔力障害が起きている状況で転移を成功させるには高度な技量が必要だ。
しかも、近距離の転移では意味がない。遠距離必須。
失敗すれば命の保証はない。
「王太子殿下、無理は禁物です。ほとんどの者はシェルターへ避難しています。残っている者は覚悟がある者ばかりです」
「無理でもやる!!!」
ジークフリードは苦しそうな表情で叫んだ。
「大地がえぐられるに決まってるからな!!!」
地下シェルターは地上における魔法事故から身を守ることはできる。
だが、あまりにも大きな事故であれば、大地がえぐられる。
地上に近い場所にある地下、少なくともシェルターの上部は一緒になくなってしまうということだ。
シェルターの最深部であっても必ず助かる保証はない。
都市だけでなく、人命においても甚大な被害が出る。
オリバーは何もかもわかっていて、少しでもジークフリードが自身を責めないように予防線を張ろうしただけだった。
「ノールド、何かできませんか?」
ノールドは土属性が得意だ。
防御魔法と言えば光。そして、土。
「空中ポートだぞ? さすがに無理だ」
空中。巨大。
ノールドの技量であってもカバーしきれない。
常識に考えて、個人で対応できる域を越えている。
唯一それを越えられるのは魔眼の持ち主だけ。
今まさにジークフリードがそれを証明していた。
「どこかに相当な魔力持ちがいませんか?」
「盾を補強するのは無理だ」
ジークフリードのオリジナル魔法だけに、他の者は使えない。
「空中ポートを破壊させるのです」
現時点における最上策だとノールドは思った。
「ポートを小さく削るだけでも構いません。被害を少なくできるはずです。探してください」
オリバーはいつでもジークフリードを連れて転移できるようにしておかなくてはならない。
万全を期すためにも、探すのは他の者に任せることにした。
「誰か地上を見ろ。地下を見る」
ノールドはそう言うと、探索魔法を発動した。
「いた」
「もう?」
「ゼノンがいる」
知り合いだけに見つけるのが早かった。
しかも、最高の適任者だ。
「ヴェラもいそうですね?」
空中だけに風使いは必須。
そして、最終手段になりそうな者もいそうだった。
「ルフもいるでしょうか?」
「連れて来る」
ノールドが転移した。
「間に合うといいのですが……」
オリバーはジークフリードに視線を移した。
「何分持ちますか?」
「知るか!!!」
当然過ぎる答えが返ってきた。




