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聖女からの大降格  作者: 美雪
第九章

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242 退殿式



 スノウが神殿を出る日が来た。


 それは神殿がなくなる日でもある。


 神殿の解体が決まったことで、スノウと共に神殿もアヴァロスから消えるのが一番だという意見が内外から多く集まった。


 スノウが退殿する日の式典は、新しい進路に向かう全員のための退殿式典に変更された。


 すでに分化された内部組織は新組織へ移行され、初期活動も行われている。


 もはや神殿という存在が残るのは名称だけのようになっていた。


 しかし、神殿があった場所に新組織の全てが収まっている状態ではある。


 完全に各新組織が独立運営していくためには、まだまだ多くの月日が必要だ。


 スノウは新組織を正しい方向へ進ませるため、監査と調整を担う委員会のメンバーとして名を連ねることにした。





「これより退殿式を執り行う」


 神殿の代表は総神殿長。


「神殿最後の総神殿長としてアヴァロスの神々に伝えます。アヴァロス国民のために、神殿はなくなります。ですが、神々への信仰と人々の自由な心は失われません。アヴァロスも、国民も、自由な心と共に存在し続けます」


 総神殿長の隣にいるのはスノウただ一人。


 全員が大降格されてしまったために、壇上にいるのは神々に挨拶をする総神殿長とスノウの二人だけだった。


「アヴァロスの神々に伝えます。私達をお見守りいただきありがとうございました! 新しい人生も頑張りますので、これからもよろしくお願いいたします!」


 神殿にいる人々の代表としてスノウがそう言うと、人々は一斉に祈りを捧げた。


 その願いは多種多様。


 何かを信じることによって生み出される力は人間を強くする。


 信じるものは神である必要はない。愛でも、希望でも、可能性でも良かった。


 自身の心が感じるまま、自由な選択ができる。


 多様性を認め尊重し合うことが平和につながり、人々の共存を支えていく。


 それがアヴァロスという国と国民が選んだ選択だった。


「ここに集まった者達に改めて伝えたいことがある。それは神殿の成り立ちだ」


 アヴァロスには多くの神々を祀る信仰があった。


 人々は自分の信じる神を信仰すればいいだけだったが、中には他の信仰に対して排他的な信仰もあった。


 信仰団体や信者同士の対立が起きる。


 そのような状況を憂いた勝利の女神の神殿は、勝敗をつけるのは勝利の女神であると主張することで話し合いの場を設けた。


 それが慣習化し、何かあると勝利の女神の神殿に話が持ち込まれるようになった。


 アヴァロスは政教分離を定めている。


 国としても信仰や宗教観の違いによる対立を王家や国の機関に持ち込まれることを歓迎せず、勝利の女神の神殿に任せることにした。


 やがて、アヴァロスの様々な信仰及び宗教団体の代表者が勝利の女神の神殿に集まり、問題が起きないよう話し合うことになった。


 歴史においてはアヴァロス信仰大会議と言われている。


 その会議の結果、信仰や宗教による争いをなくす目的で作られたのが、全ての神々を祀る総神殿だった。


 総神殿は様々な信仰を持つ者の守り手になることで一致団結する。


 排他的な信仰だとしても、信仰の自由を認めるアヴァロスの法律に従う。


 従えない場合はアヴァロスを去って信仰を継続させるしかないと決め、アヴァロス国内での争いを禁じた。


 ところが、一つの神殿が消えた。


 闇の神を祀る闇の神殿だ。


 その理由もまた闇に葬られ、伝えられてはいない。


 総神殿は全ての神々を祀る場所ではなく、闇以外の神々を祀る神殿になった。


 そういったことから総神殿はなくなり、闇以外の神々を祀る神殿ができた。


 神殿に集まった人々は次々と信仰や心の自由が消えないよう団結し、総神殿とは違う強固な体制を作り上げて来たということを総神殿長は話した。


「神殿は争いをなくそうと考え、平和と救いを求める人々の拠り所になって来た。しかし、いつの間にか人々が真に望むものではなくなっていた」


 世界のあらゆるものは変化する。人もまた同じ。


 必ずしも良い方向ばかりではない。悪しき方向に向かってしまう時もある。


 だが、人々は良心と英知によってそのことに気づくことができる。


「人々は真実、正義、そして自由を求めた。そうすることで、人々の心に宿る尊いものを守ることにした。新たに新設された総神殿は人々の心が自由であることを示し続けてくれるだろう」


 総神殿長は神々の間に集まった人々を見渡した。


「心身を労り、善良さを大切にしながら、自らの信じる道を歩むように。全ての人々に神々の加護があらんことを! 神殿はこれにて解散する!」


 歓喜の声が上がり、拍手が鳴り響いた。


 感動もあれば、涙もある。


 寂しさもまた。


 様々な感情と過去が混じり合った。


 多くの時間を神殿で過ごした人々にとって、一生忘れることはない特別な式典が終わった。


「神殿に別れを告げた人は神殿前の広場に移動してください!」


 スノウがそう言うと、人々は順番に広場へ向かって移動し始めた。





 神殿の周囲には神殿がなくなるという歴史的瞬間を見届けようとする国民で溢れていた。


 聖騎士団と神殿騎士団は厳戒体制。


 魔法騎士団、魔法兵団、王都警備隊も出動して警備にあたっていた。


「そろそろだな」

「そうですね」

「俺達も騎士ではなくなるな」

「私は別の騎士になるだけだ」

「明日からは兵士だ」

「隊士」

「警備員でもすることは一緒だ」


 神殿がなくなるのに合わせ、聖騎士団と神殿騎士団もなくなる。


 それぞれが魔法騎士団や魔法兵団、王都警備隊、新組織の警備員への転職が決定していた。


「出て来たぞ!」

「神殿がなくなった!」

「これで解散だ!」


 神殿の建物から人々が出て来るのは、神殿がなくなったことを意味している。


 数えきれないほどの群衆が大歓声を上げた。


 広場を中心にした空間に人々の歓喜と興奮と熱気が溢れ出した。


 魔法を使わなくても、空や大地を震わせるかのような力強さを誰もが感じていた。


 やがて、護衛を務める聖騎士に守られた女性が出て来た。


「治癒の聖女だ!」

「元だろう?」

「現在は魔法医だ!」

「スノウ様だ!」


 人々は満面の笑みを浮かべた。


 大歓声と大拍手が鳴り響く中、スノウは修練した拡声魔法で挨拶した。


「集まった皆様にご挨拶します。魔法医のスノウです!」


 スノウが直々に発言するとわかり、人々は歓喜した。


「たった今、神殿にいる全員の退殿式が終わり、神殿は解散を宣言しました!」

「おめでとうございます!」

「素晴らしい!」

「これこそがアヴァロス国民の願いだ!」

「国民の総意が示された!」


 熱狂する人々。


 だが、心寂しく思う気持ちもないわけではない。


 アヴァロスにとって神殿は長き歴史を紡いできた存在であり、神殿があったことで救われた人々が大勢いたこともまた事実だった。


「神殿がなくなっても、人々の心の中にある尊きものは失われません!」

「その通りだ!」

「尊きものはアヴァロス国民の心の中にある!」

「人々と共に存在し続けるということだ!」


 賛同する声が次々と上がった。


「アヴァロスの歴史に新しい一歩が刻まれます。これはアヴァロスと人々を幸せにするための一歩です。退殿した人々は皆様と同じアヴァロスの国民です。自身が信じる道を正しく進めるよう頑張ります。どうかよろしくお願いいたします!」


 スノウの言葉に応援と盛大な拍手が鳴り響いた。


 それは人々の優しさであり、期待でもある。


「では、心からの感謝を込めて、新しく作ったオリジナルの魔法をします!」


 スノウは叫ぶと、両手を広げて掲げた。


「眩しくなるので注意です! 魔法耐性がない人は少しの間、下を向いていてください!」

「え?」

「何かするのか?」

「わからないが、下を向こう」

「念のため」

「いきますよ! 皆が希望の光を感じられますように! 《広域回復ルクスぺス》!!!」


 スノウの体からまばゆいばかりの光が立ち昇った。


「魔法防御をしていても眩しい」

「そうだな」


 空中に広がった光が弾け、雪のような白い小さな光が舞い降りていく。


 美しい輝きは人々を喜ばせ、回復魔法の効果は優しさと安心感になっていく。


「光だ!」

「雪のようだ!」

「祝福だ!」

「これこそまさに希望の光だ!」


 人々の想いは声になり、幸せな気持ちが心を満たしていった。




 次で完結予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 神殿の終焉は人々のそしてスノウの旅立ちの日。 美しいフィナーレだなぁ〜と思いました。 次回でついに完結ですか……寂しいけれど、物語は完結してこそだもんなぁ……
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