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聖女からの大降格  作者: 美雪
第三章 王都事件編

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024 公聴会



 公聴会が開かれた。


 大衆紙のタイトルになったように、


 真の聖女に相応しいのは治癒の聖女か、それとも王都の水を守った解毒士か。


 それをはっきりとさせるためのものでもあった。


「静粛に」


 ざわめきを抑える進行長の声が響き渡った。


「これより治癒の聖女に関する噂及びその噂の原因になったと言われている解毒士サーザの証言を検証し、真偽のほどを確かめる」


 今回の公聴会には貴族だけでなく多くの一般市民からも真実を追求する声が強く上がっている。


 そのため、公聴会の傍聴席には王家の者や貴族だけでなく、公募によって選ばれた一般市民が多数列席していた。


 そして、公聴会の内容や結果を公表することで王都全体の混乱を収めるべく、報道関係者も陣取っていた。


「始めに現在王都中に広まっている噂がどのようなものかを説明するように」

「ご説明いたします」


 進行役は調査によって集められた噂をまとめた書類を読み上げた。


 全て治癒の聖女に関することで、好ましからぬことや問題なりそうなことばかりだった。


 本来であれば治癒の聖女を得る資格がない。相応しい人物ではない。


 だが、特出した治癒魔法の能力のせいで秘匿されていたという内容だ。


 どの機関が調査したのかも公表され、調査機関の責任者も流れている噂が報告した通りの内容であることを証言した。


「次にこのような噂が流れた原因について説明するように」

「調査によりますと、噂が広まったのは神殿の広報を務める解毒士サーザによる発言が原因だと判明しました」


 解毒士サーザは王都を騒がせた毒事件の対応策をするために派遣される者の一人になり、井戸がある場所を巡って健康被害があるかどうかの調査を行うような活動をしていた。


 しかし、王太子が陣頭指揮を執り、魔法兵団が新開発のポンプを井戸に設置した。


 それによって神殿から解毒士を派遣する必要はなくなった。


 サーザは自身の活動を広報に活かしたいと神殿上層部に願い出た。


 そして、上位の者達が許可をしたため、広報活動に従事することになった。


 サーザは毒事件への対応に協力したことや、神殿が優れた教育機関であることなどを宣伝した。


 ただ、他の広報担当者とは違い、治癒の聖女にまつわる話もしたことが説明された。


「神殿内についての守秘義務があるにもかかわらず、サーザは個人情報を漏洩しました。そして、治癒の聖女に関する真実を歪ませ、悪意や疑惑を煽るようなものにすることで注目を集め、自らの名声を高めようとしました」

「異議あり!」


 サーザの弁護人が叫んだ。


「サーザが話したのは真実です。歪ませてはいません。また、個人情報という部分についても適切な表現ではありません」


 治癒の聖女は有名人。


 サーザの話したことはすでに一般的に幅広く伝わり、社会的に認知されていた情報だ。


 サーザが全てのことを初めて話したわけではないと弁護人は主張した。


「異議あり」


 治癒の聖女の弁護人もまた叫んだ。


「進行役による説明は公正かつ冷静で客観的であり、第三者である調査機関の調査結果に基づいています。その内容は正確で間違ってはいません」


 サーザ側と治癒の聖女側で主張が対立することは最初からわかっていた。


「検証を行う。解毒士サーザを呼ぶように」


 人々の注目が集まる中、サーザは特別な席へと移動した。


 その表情にみなぎるのは自信。


 ……嘘は言ってはいないわ。本当のことを話しただけよ。この公聴会で勝利すれば、自身の正しさが証明される。今後の状況次第では聖女にもなれるわ!


 サーザは心の中でそう思っていた。


 広報としての仕事をする際には言動に細心の注意を払っていた。


 直接スノウの悪口を明確に言うようなこともしていない。


 ちょっと言い方を工夫しただけ。


 勝手に悪く取った相手が悪い。


 噂を広めたのもサーザではなく、サーザを招待した者や食事会や茶会に参加した者、そういった者から話を聞いた者だ。


 別に広めてくれと言ったわけでも頼んだわけでもない。


 他の誰かが勝手にしたことをサーザの責任にするのはおかしい。


 自分は無実。完全に。


 サーザはそう信じて疑わなかった。






「公聴会は事実の確認及び真実の追求のために開かれている。偽証は許されない。宣誓を」


 宣誓後、サーザは質問を受けることになった。


「解毒士サーザ、貴方は神殿の広報に抜擢され、仕事を行いましたね?」

「行いました」

「様々なことを話しましたね?」

「話しました」

「多くのことを話したはずですが、全てのことを確認する時間はありません。そこで今回はその中から一部を抜粋して質問します」


 質問をするのはサーザの弁護人だ。


「調査をするにあたって、情報提供場所や情報提供者については公表しなくてもいいということになりました。ですので、その点については指摘しません。サーザ、貴方はとある貴族の催しに招待されました。その際の発言についてです」


 弁護人は書類に視線を向けた。


「神殿の内部についてはご存じない方が多いので、知られていないこともある。そう言いましたね?」

「言いました。ごく普通のことです」

「言いました、だけで十分です。ごく普通かどうかは主観的な判断ですので、わざわざ言う必要はありません」


 弁護人は治癒の聖女の弁護人が異議を唱える前に注意した。


「ここだけのお話ということで。皆様は治癒の聖女をご存知でしょうか? と言いましたね?」

「よく覚えていません」

「多数の証言があります。サーザから治癒の聖女の話題を振ったと。ですが、これは別におかしなことではありません。治癒の聖女は有名人です。ごく一般的な話題の一つです」


 次からが重要だった。


「治癒の聖女が一日に治療するのは一人。せいぜい数人。治癒士よりもずっと少ない。そう言いましたね?」

「なんとなく覚えがあります」

「これは真実です」


 弁護人が強調した。


「神殿には治療行為の記録があります。聖女が治療する患者の予約数も記録されています。それによると、治癒の聖女が一日に治療するのは一人。せいぜい数人。そして、これは治癒士よりもずっと少ない人数です」


 治癒の聖女は重篤な症状でも治せた。


 軽症者を沢山治すよりは、治癒の聖女でなければ治せないような重篤者を治した方がいい。


 重篤者の治療は負担が大きく、魔力消費も激しい。


 そのせいで治療人数は少なくなる。当たり前のことだ。


 そのことを催しに出席した者に指摘された時、サーザは肯定した。否定していない。


 これは真実を歪ませていないということ、嘘を言ってはいないということだと弁護人は主張した。


「治癒の聖女は治癒魔法に特化していた。そう言いましたね?」

「言いました」

「真実です。誰でも知っています。治癒魔法に特化して能力を向上させたからこそ、治癒の聖女になれたわけですから」


 更に、


「治療行為の後、治癒の聖女は疲れ、護衛に運ばれていました。そう言いましたね?」

「言いました。目撃したことが何度もあります」

「それも真実です。サーザだけでなく、目撃者が多数います」


 特別な情報とは言えない。個人情報でもない。


 神殿にいる者にとってはよくある光景だった。


「治癒の聖女は我儘だったのかと尋ねられましたね?」

「はい」

「答えましたか?」

「いいえ。答えていません」

「これも真実です。自分の口から答えることはできないと言って断りました。きっぱりと」


 ざわめきが広がった。


 サーザは真実を話していた。嘘は言っていない。


 この後も質問が続いたが、サーザは真実を述べており、嘘は言っていないというものばかりだった。


 サーザは真実しか言っていない。


 治癒の聖女の悪口も言っていない。


 噂を流したのはサーザではない。別の者だということだ。


 サーザは王都の毒事件の際、多くの井戸を巡って真摯に自らの役目を果たした。


 その後は広報として同じく真摯に役目を果たしたということを弁護人は説明した。


「サーザは必死に勉強と修練に励み、優秀な解毒士になりました。そして、その能力を人々のために役立てる仕事にも真摯に励んでいます。聖女になれるかどうかはわかりませんが、誰かが聖女に相応しい人物だと個人的に思うのは自由です。以上です」


 拍手が起きた。


 公聴会で拍手をする必要はない。


 それでも拍手が起きたのはサーザへの応援のあらわれだ。


 聖女に相応しい人物だと思っている者が多いという印象を与えた。





「拍手が起きた。公聴会だというのに」

「珍しいですわね」


 公聴会に列席していた第二王子オルフェスは隣の席に座る婚約者カーラミアを見つめた。


 宰相の姪。伯爵令嬢。知的美人。慈善活動もしている。


 王子妃にしても問題がない。


 オルフェスにとっても王家にとっても役立つ女性だった。


 治癒魔法だけでなく聖女の称号もなくなったスノウとは比べるまでもない。


 公聴会でサーザが勝利すれば、今度こそ神殿はスノウを完全に見捨てる。


 ……それでいい。治癒の聖女はこれで終わりだ。


 そう思いながらオルフェスはジークフリードに視線を向けた。


 その途端、表情が変わる。


 オルフェスの予想では、ジークフリードは怒りを懸命に抑えるような表情をしているはずだった。


 だが、ジークフリードは何も聞いていないとでも言うように平静かつ目を閉じていた。


「公聴会だというのに、居眠りか?」


 オルフェスは嫌味を口にした。


 ジークフリードは目を開き、オルフェスに顔を向けた。


 その瞳はオレンジ。


「寝ていない。考えていただけだ。この後の展開が楽しみだな?」


 酷薄な笑み。


 悪魔め……!


 オルフェスは自然と震えてしまうことに抗うべく、手をきつく握り締めた。



*アヴァロス式の公聴会です。

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