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聖女からの大降格  作者: 美雪
第三章 王都事件編

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022 診察



「スノウ!」

「久しいな」

「ゴードン様! ユージン先生!」


 王都再訪時には出迎えてくれる者がいた。


 神官のゴードンとユージンだ。


 二人はスノウとの付き合いが長い。


 神殿で勉強する子供達の世話役や指導役を務めていたからだ。


「元気そうで何よりです。いずれ私もオクルスを訪ねたいと思っています」

「休みが欲しいのだがな」


 ゴードンとユージンはかわるがわるスノウを抱きしめた。


「お二人が診察をしてくださるのでしょうか?」

「しぶしぶだがな」


 ユージンはルフを睨んだ。


「おい、お前! スノウに何かしたら許さん!」

「診察前に言うべきではなかったと思いますが、もう遅いですね」


 やれやれと肩を竦めながら、ゴードンはルフを見て微笑んだ。


「診察はしますが、治療は難しいかもしれません。魔力の問題があるので」

「まあ、診てみるか」


 時刻は夜。


 ユージンは神殿で通常勤務として診察を行った上で来ているため、かなり疲れていた。


「魔法の診察は初めてか?」

「医者にかかったことさえない」

「わしは医者ではない。診察士だ」


 神殿は病院とは違う。


 そのせいで魔法治療と医療の区別がつきやすい名称を使うことになっていた。


「ぼんやりしながら座っていればいい。違和感があってもじっとしてろ」

「できるだけ力を抜いてください。好きなことを思い浮かべ、リラックスして欲しいのです」

「わかった」


 早速、ユージンによる診察が開始された。


「相当だな」

「ルフの魔力です」


 スノウが解説した。


「診にくい」

「そこをなんとかするのが診察士です」

「わかっておる」


 ユージンは両手をルフに向け、必死にその全身を診察しようとした。


 だが。


「駄目だ。診られない」


 ユージンは神殿でトップクラスの診察士。


 高齢で魔力は減退しているが、経験豊富な熟練者。


 そのユージンが診られないというのは極めて異例なことだった。


「ゴードン」

「無理ですね」


 ルフの注意が正面にいるユージンへ向いている間に、死角からゴードンも診察を試みていた。


 ルフの魔力が豊富だと聞いていたからこそ、何も言わずに二人がかりで同時に試すことにした。


 それでも無理だった。


「魔力の相性も悪そうだ。属性はなんだ?」

「高度測定器の結果では、光以外全てが強以上です」


 ゼノンが答えると、ユージンもゴードンも目を見開くほどに驚いた。


「光以外全部ですか?」

「強ではなく強以上なのか?」

「そうです。光属性はまったくありません。それでも診られませんか?」

「何歳だ?」

「二十歳です」

「無理だ」


 ルフは多くの教本や魔法書を読んでいたが、さっぱりわからなかった。


「スノウ、説明してくれないか?」

「魔法による診察は診察士の魔力で相手を探ります。高い能力がある者はすぐに診察ができます。魔法の詠唱や発動効果が目視でわかるかどうかは関係ありません」


 魔力なしの者は魔法や魔力に抗う術を持たないため、診察しやすい。


 だが、診察相手が魔力持ちだと難易度が一気に上がる。


「魔力保持者は体全体に魔力を宿しています。魔力が強いほど他の魔力に反発・抵抗します。そのせいで診察できません。診察できてもわかりにくいです」


 ルフの魔力が強すぎるせいで診察ができないということだ。


「大抵は弱点があります。魔力の属性や相性です。でも、ルフの場合は弱点も見つからないようです」


 光属性がないのは弱点のように思えるが、結果として無理だと判断された。


 魔法診察のポイントは極めて単純。


 非常に簡単なことでもいい。魔法診察だけで診ることができるかどうか。


 目で見てわかるような状態でさえも魔法診察でわからないのであれば、わざわざ魔法で診察する意味はない。


「年齢的に魔力が充実している場合は特に診にくいです。魔力が成長していない子供や歳を取って魔力が減退している者の方が診察しやすくなります」


 どうしても魔法で診察したいということであれば、別の者に頼んで試すしかない。


 だが、ユージンとゴードンの二人がかりで無理だとなると、他の者であっても同じ結果になる確率が非常に高い。


「……魔力が強いと駄目なのか」

「悪いことではないぞ?」


 ユージンが言った。


「お前自身の魔力が無意識に体を守っている。魔法耐性があるということだ」

「魔法防御の魔法をかけなくても、同じような効果が常時発動しているのです」

「雷の剣に触れてもしびれない。氷の剣に触れても凍らないということです」

「なるほど」


 ゼノンの説明が一番よくわかるとルフは思った。


 自分自身の魔力が勝手に相手からの魔法の威力を減らしたり無効にしてしまう。


 診察も魔法。だからこそ、邪魔してしまう。診ることができない。


「まあ、どこかが悪ければ、魔力が淀み弱くなる。そうでないなら健康だと思っていいだろう」


 魔力持ちは健康を損なうと必ず魔力に影響が出る。


 魔力が乱れやすくなったり、一部に集まったり、流れが悪くなったりする。


 頭痛・めまい・吐き気・腹痛・疲労感の継続・睡眠障害といった症状が出ることもある。


 それで判断するという方法だった。


「そうか。健康なら良かった」

「スノウであれば診察できたかもしれない」

「多くの者はスノウの能力を治癒魔法だけと考えていますが、実際は診察の能力も極めて優れているのです」

「魔法の診察を受けると違う魔力同士がぶつかるため、診察された者が体調不良になったり痛みを感じたりしてしまうのが普通だ。スノウの診察にはそれがなかった」


 スノウの魔力による診察に相手の魔力が反発や抵抗をしていない。不調や痛みにならない程度に抑えられている証拠だと考えることができる。


 スノウは治療する時も、患部に自身の魔力をなじませてから治癒魔法をかけることで最大効果を出すようにしていた。


 真似できない。誰にも。


 それはスノウだけができること。


 まさに聖女の領域だった。


「スノウは素晴らしい才能を持ち、努力で向上させた。そして、立派に聖女を務めた。もう十分だ。これからは自分自身の人生を生きればいい。聖女は多くの人々を癒せるが、代わりに自身の自由を失ってしまう。正直、これで良かったのだと思っているぞ」


 ユージンはスノウの頭を優しく撫でた。


「第二王子との破談も幸運だ。あんなろくでなしと結婚すべきではない!」

「私もそう思います」


 ゴードンが頷いた。


「王太子殿下から聞きました。頼もしい者がいて何よりです。人目につく前に戻ります」

「達者でな」

「はい。ありがとうございました。ゴードン様もユージン先生もお元気で」

「ありがとうございました」


 スノウとルフは深々と頭を下げた。


 ゴードンは笑みを浮かべ、ユージンは頷くと部屋を退出した。


「今日はこれで終了です」


 ゼノンが伝えた。


「スノウ、部屋を移動するわよ」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」

「ゆっくり休んでください」


 スノウは別の部屋に泊まるため、ヴェラと移動した。


 ゼノンは留まったまま。


「何かあるのか? 明日の説明か?」


 冷静に。決して怒りを見せてはいけない。


 ゼノンは自らの心に言い聞かせた。


 しかし、何も言わないという選択はすでになかった。


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