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聖女からの大降格  作者: 美雪
第九章

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210/243

210 ボンジュウからの客



 午後。


 引き続き広場で雲龍の講習会が行われていたが、客が来た。


「元気そうだな?」


 バートだった。


「バート!」

「お久しぶりです!」


 ルフとスノウは笑顔でバートを迎えた。


「先客がいるようだ。多いな?」

「あー、まあ、そうだな」


 ルフはスノウを見た。


 スノウもまたルフを見た。


「説明しないとですよね?」

「バート様!」


 ヴェラが転移して来た。


「お久しぶりでございます」


 スノウが神殿を飛び出した時に、ヴェラとバートは顔合わせをしている。


「大変そうだな? ワイバーンが飛んでいる」


 バートは上空を飛び回っている小型化したワイバーンに気づいていた。


「実はまたしても国家機密レベルのことがありまして」

「オクルスらしいな」


 バードは苦笑した。


「内密にしていただけるのであれば、私の方から説明させていただきますが?」

「オクルスのことは全て秘密にする約束をアヴァロスの王太子している。問題ないだろう」


 ヴェラがバートにうまく説明してくれることになり、スノウとルフは助かったと思った。


 そして、ドラッヘン王家一家もボンジュウの高名な土使いであり建築家が来たと知り、個人的に顔合わせということで紹介が行われた。


「夜はバーベキューだな」


 歓迎会も決まった。


「どの位、滞在するんだ?」

「相談して決めるつもりだった」


 スノウとルフの都合もある。


 難しいようならすぐにでも帰るつもりだった。


「息子を置いていっていいのかわからなかったからな」


 バートの息子の名前はハルバート。通称ハル。二十二歳。


 オクルスでルフのゴーレム作りや農作業を手伝う代わり、しばらく修道院に滞在したいと要望していた。


 ハルが優秀なゴーレム使いだと聞き、スノウとルフは喜んだ。


「オクルスで静養したいということでしょうか?」

「人形作りをしたい」


 ハルはゴーレム作りを専門にしている。


 オクルスで自主研究をしようと思っていた。


「ルフのゴーレム作りと農作業をしっかり手伝わなければ駄目だぞ? スノウに迷惑をかけるのも絶対に駄目だ」

「わかっている。秘密も守る」


 ハルは広場に視線を向けた。


「それで、俺はどうすればいい? 別の魔法の練習をしているようだが?」

「今日は農作業をする気がなかったからな……」


 ルフは考え込んだ。


「突然来たのはこっちだ。適当に過ごしている」

「なんだか悪いな」

「別にいい」


 ハルは目つきが鋭い。


 礼儀正しくしようとしているが、愛想がないのは確実。


 バートが息子を置いていくことを懸念するのは当然だとヴェラは感じた。


「なんか……ゼノン系よね」


 ヴェラがぼそりとスノウに呟いた。


「言いたいことはわかります」


 人を寄せ付けない雰囲気がある。


「あいつは雷だ。俺とは正反対だが?」


 しっかり聞こえていた。


「見た目というか」

「金髪碧眼のはずだ。俺は違う」


 茶色の髪と灰色の瞳。


 雷氷の騎士と呼ばれるゼノンは有名人。


 修道院に出入りする者として、ハルは情報を得ていた。


「雰囲気というか?」

「一緒にするな」


 ちょっとどころか、結構なクセがありそう……。


 父親とは大違いだとヴェラは思った。


「仲良くしてくださいね。修道院にいる以上、それがルールですので」


 スノウがにっこり微笑んだ。


 さすがのハルもしかめた顔を崩した。


「……努力はする」


 やっぱり、スノウ最強!


 ヴェラはうんうんと頷いた。





 夜、広場でバーベキューが行われた。


 バートはすぐにドラッヘンと打ち解けたが、ハルの方は違った。


 ツリーハウスに移動し、つまらなさそうにぼーっとしていた。


「ハル!」


 やって来たのはルフ。


 取り分けた料理とパンを乗せた皿を持っていた。


「ここにいると食事が取れないが?」

「問題ない。携帯食がある」


 ハルはポケットを軽く叩いた。


 魔法の巾着に色々と入っているということだ。


「温かいものの方がいい」


 ルフが差し出した皿をハルは受け取った。


「普段の料理は俺が作っている。嫌いなものはあるだろうか?」

「肉よりも野菜が好きだ」

「わかった」


 ルフはハルの隣に座り込んだ。


「他には? 何か生活上のことで要望はあるだろうか?」


 ハルは広場の方を見た後、ため息をついた。


「正直、もっと静かな場所だと思っていた」

「ああ」


 普段はスノウとルフしかいない。


 ゼノンやヴェラが来ていたとしても、騒がしいというほどでもない。


 だが、今はドラッヘンがいる。


 増援で一気に人数が増えたため、静かとは言えなかった。


「ドラッヘンはもうすぐ移動する」


 地上湖の魔物討伐があり、それに合わせて監視拠点の側に設置した国賓用の宿泊地に移る。


「その後は静かだろう。基本的には俺とスノウしかいない」

「良かった」


 ハルはそう言うと、ルフが持って来たパンを一口サイズにすると口の中に放り込んだ。


「……美味い」

「良かった」


 ルフは笑顔を浮かべた。


「俺が焼いた」

「知っている」


 夕方、ルフは修道院に戻ってパンを焼いていた。


 周辺に良い匂いが漂い、放し飼いのワイバーンが反応するように鳴いていた。


「結構食べる方だろうか?」

「あまり食べない」


 研究に没頭すると寝食を忘れるタイプ。


 そのせいで家族も召使いもしょっちゅう寝たかどうかと食べたかどうかを確認する。


 うざい。


 そう思い、ハルはもっと自由に過ごせる場所で人形作りをしたいと思っていた。


 そして、父親からルフのこと、ゴーレム作りに挑戦していることを知り、自分が講師をする代わりに修道院に泊めて貰おうと考えた。


「魔力が多そうだ。少食だと疲れが取れないだろう?」

「携帯食と薬がある」

「そうか。でも、それはいざという時に取っておいて欲しい。普段は一緒に食事を食べてくれないだろうか? 味についての感想を聞きたい」

「そのつもりではいる。料理が美味いと聞いた」


 父親から情報を得ている。


 密かに、どんな料理が食べられるのかハルは楽しみにしていた。


「好きなものはあるか?」

「パンが好きだ」


 大地の味がする。


 ルフのパンはとても美味しかった。


「レオと同じだな。レオも俺の焼いたパンがとても美味しいと言ってくれる。スカイも。いや、全員か」

「魔力持ちが喜びそうな味だ」


 大地の味というと、土使いが喜びそうだが、実際は魔力持ち全員が喜ぶ。


 人は自分にとって良いかどうかを感知する能力がある。


 味覚もその能力の一つ。


 美味しいという言葉ではあらわしきれないものを、人間の味覚は感じている。


「ピザやパイは好きか?」

「普通だ。俺はパンだけの方が好きだ」

「そうなのか」

「混じっていない。シンプルだ」


 ルフは考えた。


「レーズン入りのパンより、何も入ってないパンの方が好きか?」

「何も入ってないパンが好きだ」

「普通のパンとミルクパンとバターパンのどれが一番だ?」

「普通のパンだ。何もつけなくていい」


 まさにパンだけ。


 なんとなく、ハルの性格をルフは察した。


「一人でいるのが好きなのか?」

「そうだ」


 ルフは頷いた。


「そうか。俺もずっと一人でいたからわかる。静かな方がいい。余計なことを考えたくない。ただ、生きていくのを邪魔しないで欲しいと思っていた」


 ルフは立ち上がった。


「ハルの好きなようにすればいい。そのためにここに来たんだからな。何かあったら声をかけてくれ」


 ルフはそう言うと、はしごへ向かった。


「ルフ」


 ハルは声をかけた。


「ん?」

「はしごを使うつもりか?」

「そうだが?」

「転移魔法も浮遊魔法も使えるだろう?」


 はしごを使う意味はない。


「レオがはしごで遊ぶのが好きなんだ。俺は普段使わないから、不味い点があっても気づかない。問題ないか確かめておこうと思った」

「そうか」

「そうだ」


 ルフは思いついた。


「ハルは土使いだと聞いた。浮遊魔法や転移魔法は使えるのか?」

「転移魔法は使える」


 土属性の方。逆転移だ。


「そうか。まあ、はしごもあるが、滑り台も滑り棒もある。大人も使える強度にしてあるからな」


 ルフはそう言うと、はしごを使って降り始めた。


 滑り台はわかるが、滑り棒というのは何だ?


 ハルは気になった。


 聞きたい。知りたい。それが研究者。


 だが、パンを一人でゆっくり味わいたい。すぐに追いかけるのも変な気がした。


 ……明日の朝、聞くか。


 ハルはパンを食べることを優先した。


 それほどにルフのパンは美味しかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] また癖のある若者がオクルスに仲間入りしそうな雰囲気ですね(*´艸`*)
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