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聖女からの大降格  作者: 美雪
第三章 王都事件編

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021 解毒士サーザ

 スノウをいじめていた人のお話です。

 ご注意ください。



「イライラするわ! うまくいっていたのに!」


 自室にいたサーザは怒りと悔しさに顔を歪ませていた。


 王都を揺るがす毒事件が起き、解毒士の存在に注目が集まった。


 自ら名乗りを上げ、率先して不浄な場所を巡り、毒調査と解毒治療をした。


 不安がる住民に優しく微笑み、個人的配慮で毒のせいかどうかに限らず体調不良の者には診察を行うと伝える。


 毒による健康被害を調べるため、元々不調な者は全員診察して毒のせいかどうかを調べることになっていた。


 だが、言い方を工夫するだけで住民はサーザが慈愛に溢れていると勝手に思う。


 本当は毒のせいで体調不良になった者しか見てくれないはずが、そうではない者も個人的な配慮で診察してくれると勘違いしてくれるのだ。


 転移魔法が使える者は貴重なため、馬車と歩きでの巡回。


 面倒臭い。疲れる。だが、仕事。自分のためでもある。


 にこやかに手を振り、愛想よく振る舞った。


 新聞にサーザのことが紹介され、一気に知名度と評判が上がった。


「ついに来たわ! 私の時代が!」


 何年も命がけで戦場に行き、多くの兵士を癒す必要もない。高度な治癒魔法を使えなくてもいい。


 王都の井戸を一か月ほど回るだけで、簡単に名声と輝かしい立場が手に入る。


 聖女の称号も夢ではないとサーザは思った。


「解毒の聖女サーザ。素敵な響きだわ」


 そして、アヴァロスの聖女と言えば、サーザになる。


 治癒の聖女スノウの存在は消える。


「いい気味だわ。治癒魔法しかできない馬鹿真面目でムカつく女」


 だが、予想外のことが起きた。


 王太子が設置させた魔動ポンプだ。


 そのせいで井戸に毒物を入れることができなくなった。


 サーザは活躍の場を奪われたと感じたが、魔力がすぐに切れて使えないという苦情が出た。


 サーザの運は尽きていない。まだあるように思えた。


 ところが、魔法兵団が手動と魔動の兼用ポンプを開発し、王都中の井戸へ設置した。


 神殿からの解毒士派遣は必要なくなってしまった。


「足りない……もっと活躍しなければ聖女になれない!」


 サーザは神殿上層部に願い出た。


 魔法兵団と兼用ポンプのせいで、神殿が行ってきた解毒士派遣という素晴らしい活動がかすんでしまう。


 活動に参加した解毒士として、王都中の井戸の安全を守るために巡回したことを話し、神殿の慈愛と奉仕、権威と名声をより広く確固たるものにするための活動をしたい。


 切々に訴えた。嘘泣きもした。


 サーザの部屋のドアがノックされた。


 やって来たのは広報部の神官だった。


「要望を認める許可が出ました。魔法兵団に手柄を横取りされないよう神殿の広報としての仕事をして貰います」

「ありがとうございます! 懸命に務めます!」


 自分のために。聖女になるために。


 サーザは笑みを浮かべた。





「皆様、今日は神殿から素晴らしい方がお見えです。解毒士サーザ様です」


 社交界で影響力のある貴族の屋敷にサーザはいた。


 貴族は社交活動をする。


 特に女性は昼食会やお茶会を頻繁に開いており、有名人をゲストとして呼ぶというのが一種のステータスになっていた。


 新聞で紹介され知名度と評判が上がったサーザもその対象者になれた。


「解毒士のサーザです」


 サーザは笑顔で挨拶をした。


「本日はお招きいただき光栄です。皆様に神殿のことをよく知っていただけるよう様々なお話をしたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします」

「早速だけど、神殿で魔法を学ぶのと魔法学校で学ぶのはどちらがいいのかしら?」


 サーザを招待した貴族には子供がおり、どちらで魔法を学ばせるのかを悩んでいた。


 このような悩みを持つ者は非常に多かった。


「魔力の強弱に関係なく、光属性があれば神殿、なければ魔法学校にした方がいいと言うのが神殿の見解です」


 またその話かとうんざりする気持ちを隠し、サーザは丁寧に答えた。


「光属性が弱くてもいいのね?」

「まったく問題ありません。なぜなら、魔力は成長と共に増えるもの。神殿に入れば、必ず光属性の力を伸ばせます」


 最初は弱くても、勉強と修練で強くすることができる。


 神殿にはその実績があった。


「神殿はゼロ歳からは入れますが、魔法学校は六歳にならなければ入学できません」


 アヴァロスの初等教育は六歳から。


 天性の素質があっても、六歳にならなければ学校へ入学することはできない。


「また、質の高い教育が受けれると評判の魔法学校に入るためには試験を受け、合格しなければなりません。神殿は魔力の測定をして、光属性があればいいだけです」


 非常に楽で簡単。


「裕福な方は家庭教師を雇うかもしれません。ですが、自分と同じような子供が多くいる中で勉強する方が伸びます」


 教官が教える以上に子供達は周囲にいる子供や環境から自然に学んでいく。


 競争心も芽生える。


 踏み台にできる者を探すにも丁度良い。


「特に着目していただきたいのは安全と安心です」


 神殿は光属性の魔力持ちがアヴァロス中から集まる場所。


 結界魔法も防御魔法も魔法治療も最高レベル。


「神殿には結界があります。防御魔法の使い手も多くいます。魔法事故を恐れる必要は全くありません。何らかの事情で病気や怪我になっても、最高の治癒士が常時います。安心して勉強ができます」

「とてもわかりやすくて参考になるわ」

「そうね」

「やはり神殿がいいかもしれないわ」

「早くから教育を受けることができるもの」

「安全安心が重要だわ」


 サーザは豪華な食事を楽しみながら、神殿における魔法教育の素晴らしさをアピールした。





 食事の後はサーザの話になった。


「毒事件では大変ご活躍されましたわね」

「新聞で紹介されるほどですもの」

「慈愛と奉仕に溢れていますわ」


 心地よい賞賛の言葉にサーザは満面の笑みを浮かべた。


「ありがとうございます。ですが、私は神殿の解毒士として当然のことをしただけです」


 人々は神殿に神聖で高潔なイメージを持っている。


 それを確かなものにするのが広報係の務めだ。


 だが、美しい話ばかりではつまらない。内心では退屈だと思う者もいる。


 いつも同じような話では飽きられてしまうということをサーザは知っていた。


「ただ……なかなか伝わらない苦労もございます。神殿の内部についてはご存じない方が多いので、知られていないこともあるといいますか」


 貴族の女性はゴシップが好物。


 一般的には知られていない神殿の内部の話となれば、興味を持つに決まっていた。


「まあ、どのようなことかしら?」

「ぜひ、教えていただきたいわ」

「では、ここだけのお話ということで。皆様は治癒の聖女をご存知でしょうか?」

「勿論よ」

「知らないわけがないわ」

「色々あったわね」

「そうね。本当に」


 可哀想だと思う表情もあれば、面白おかしく笑う表情もある。


 それを見極めるのが重要だ。


「意外と知られていないのですが、治癒の聖女が一日に治療するのは一人。せいぜい数人。治癒士よりもずっと少ないのです」


 治癒の聖女は重篤な症状でも治せる。それは素晴らしいが、逆に言えば重篤でなければ相手にしないのだとサーザは話した。


「治癒士は懸命に大勢の人々を治しているのに、治癒の聖女はたった一人を治して疲れた、今日は終わりというわけです」

「まあ……」

「それは……」


 場の雰囲気が変わっていく。サーザの思惑通りに。


「でも、重篤な症状を治せるのは治癒の聖女様しかいなかったのでしょう?」

「重篤を治すので負担がかかり、疲れてしまうのでは?」


 間違いではない。


 しかしサーザは言葉を変えた。


「そう言われておりますわね」

「……」

「どのような治療をすればどれほど疲れるのかというのは目に見えるわけではありません。疲れたといえば疲れたということでしょう」


 サーザの作戦。


 それは治癒の聖女という誰もが知っている者の話をすること。


 一般的に知られているのが美談だからこそ、その後に続く末路や裏話も人気がある。


 出る杭は打たれる。


 強者没落。


 聖者の皮を被った悪者。


 そういった話を好む者が大勢いる。


「治癒の聖女は治癒魔法に特化していました。そのせいで他のことは何もできないといいますか……疲れると立てないと言って、護衛に運ばせていました。有名なのは雷氷の聖騎士様ですわ」


 公爵家の跡継ぎで雷氷の聖騎士と呼ばれるゼノンのことを知らない貴族はいない。


 成績優秀容姿端麗。特出した才能を持つ魔法剣士。


 若い女性が夢中になり、恋人や結婚相手として切望している相手。


 治癒の聖女がゼノンを気に入らないわけがない。


 いずれはゼノンと結婚したいと言い出すだろうともっぱらの評判だった。


「雷氷の聖騎士様もさぞ大変だったことでしょう。相手は治癒の聖女。我儘な女性の相手は疲れるものです」

「我儘だったの?」

「私の口から申し上げるわけにはいきませんので、ご想像にお任せしますわ」


 サーザは思わせぶりにそう答えた。


 そして、


「ですが、第二王子殿下はどのような女性なのかをよくご存知だったのでしょう」


 第二王子が突然婚約を拒否したことをサーザは活用した。


「ずっと側にいた雷氷の聖騎士様ではなく、第二王子殿下と婚約することを望まれるなんて。第二王子殿下が愛する女性を選ばれたのは当然です」

「……そうね、そうかもしれないわ」

「王家が何も知らないはずがないものね」

「神殿内部のことはなかなかわからないから」

「第二王子殿下もとんだ災難でしたわね」

「でも、おかげで……ねえ?」

「そうね。良かったというべきかしら?」

「落ち着くところに落ち着いたのよ」


 話は尽きない。


 楽しげでにぎやかだった。


 そして、茶会が終わる時間になった。


「サーザ様のおかげで楽しい時間でしたわ」

「ぜひ、またお話をきかせていただきたいですわ」

「今度はうちに来ていただけるかしら?」

「ありがとうございます。私も素晴らしい時間を過ごすことができました。神のお導きに感謝を。そして、皆様に祝福を」


 サーザは呪文を唱え、解毒魔法を行使した。


 発動した際にキラキラ感を取り入れたオリジナル。


 散らしてしまうせいで解毒効果はないも同然だが、見た目はいい。


 女性と子供、魔法をよく知らない者には大好評だった。


「まあ、綺麗!」

「素敵だわ!」

「祝福ね!」


 神殿の者はサーザのようなサービスをしない。


 毒の治療をするわけでもないのに、解毒魔法を使う必要はないと思う。


 効果が薄まるのも、キラキラ感の演出も魔力の無駄だと。


 わかってないとサーザは思う。


 一般人は魔法が使えるだけで凄いと感じる。


 どんな魔法なのかも効果の程度もわからない。


 キラキラしているだけで魔法だ、綺麗だと喜ぶ。


 そして、凄い魔法を簡単にできる者だと勘違いする。


 何も知らない愚か者にはこれで十分。魔法について知らない方が悪いというのがサーザの考えだった。


「やっぱりサーザ様は凄いわ!」

「本当に!」

「またお会いする機会を楽しみにしておりますわ!」

「ええ。私も皆様にお会いできることを楽しみにしております」


 うまくいったと感じながらサーザはにっこりと微笑んだ。



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