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聖女からの大降格  作者: 美雪
第九章

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208 歩み寄り



「ここは王太子宮なんだがなあ」

「我が妻らしくはある」


 アデルとゼノンが魔法剣による手合わせを始めたことに気づき、応接間にいた者達は芝生庭園へ移動していた。


 そして、二人の対戦する様子を見て呆れた後、観客に加わった。


 アデルは王妃。ゼノンは騎士。


 魔法剣士としてはどちらもトップクラスの実力者だが、本気で対戦することはできない。


 国賓であるドラッヘン王妃に何かあっては困るため、ゼノンが防御に専念するのもわかる。


 勝負の落としどころをどうするかが最も難しい部分であり、見所だった。


 アデルはいかに自分が優勢かを印象付けるような戦い方をして、心理的な優勢勝ちを狙いにいった。


 ところが、ゼノンは牽制用にしか使えないと思われている雲龍の魔法を戦闘に活用し、なるほどと思わせることで勝負の落としどころにしようとした。


「見事だった。あまりにも」


 ゼノンが使った攻撃はアデルの剣にわざと当てた一回のみ。


 だというのに、勝負がついた。


 優秀な騎士であり、魔法剣士であり、魔導士であり、策士でもあることを証明した。


「雷氷の騎士の実力をまさに見せつけられた」


 ドラッヘン国王は世界の広さを思い知るばかりだ。


 増えていく。一人、また一人と。


 世界のどこかに次々と新しい命が生まれ、育ち、活躍している。


 途方もない可能性を秘めながら。


 ドラッヘン国王は心からの感動を味わっていた。


「アデル王妃は魔物討伐をするのか?」


 ジークフリードが尋ねた。


 今の対戦を見る限り、王宮で大人しくしていそうもないというのが正直な印象だった。


「本人次第だ。軽い運動程度には許している」


 やっぱりするのかと思いながら、ジークフリードはため息をついた。


 アデルはアヴァロス王家につながるほどの大貴族の令嬢であるにもかかわらず、魔法剣を得意とする女傑だった。


 見聞を広めにアヴァロスへ来ていたドラッヘンの王太子に見初められたが、玉の輿というよりは、魔物討伐のための戦力補充ではないかと疑われたほどだった。


「先に言っておくが、家族は討伐作戦に参加させない」


 作戦日、アデルとレオの二人は護衛騎士と共に留守番だ。


「ヒンメル王子もか?」

「連れてはいくが、見学のみで作戦への参加はしない」


 魔物討伐は命を失う可能性がある。勝利よりも王族の安全が優先だった。


「わかった。まあ、新しい作戦をどうするかを早く考えないとだな」


 ジークフリードとしては、巨大な魔物をおびき寄せ、逃げられないようにしてから倒すという方法で問題ないと考えていた。


 流れとしてはドラッヘン側も悪くはないと思っている。


 問題なのは誰がどの役割をするか。


 そして、その役割をどのような方法で実行するかだった。


「案はあるが、無償で提供する気はない」


 ジークフリードはため息をついた。


「いくらだ?」


 ドラッヘンは魔物を討伐することしか請け負わないわけではない。


 有効な対策を考えることも請け負っている。


「金ではなく、ワイバーンに乗ったまま出入りできる広大な場所が欲しい。今よりも大きな大使館を作るためだ」


 ドラッヘンの正式な拠点はアヴァロスの王都にある小さな大使館のみ。


 他の拠点は国ではなく、魔物討伐業を行う事業者としての名義になっていた。


 なぜかといえば、両国の関係が悪く、人口が多い場所ではワイバーンを持ち込むのも飛行させるのも難しいからだ。


 しかし、アヴァロスとドラッヘンはワイバーンの持ち込みや飛行制限を撤廃する約束をした。


 三年の準備期間に、ドラッヘンはアヴァロス国内における拠点を拡充する気だった。


「地上湖の側の土地が欲しい」

「地上湖をエサ場にする気満々だな」


 地上湖のザリガニ、魚、水はワイバーンが食べても問題がないことが確認された。


「我々が滞在する期間には限りがある。魔物のスタンピードが起きれば、アヴァロスには構ってはいられない。現地へ急行することになるだろう」

「それはわかっている」

「ワイバーン騎士団が常駐できる場所がアヴァロスにあれば、大使館兼中央大陸における駐屯地にできるが?」

「上から目線だな?」

「魔物だけでなく周辺国にも有効だろう」


 ドラッヘンの駐屯地があれば、魔物関連で問題が起きた時の相談も依頼もしやすい。


 そして、周辺国はドラッヘンの拠点がアヴァロス内にあることを重視せざるを得ない。


 アヴァロスへ戦争を仕掛ければ、ドラッヘンに迷惑をかける。


 強大な軍事力を持つドラッヘンを怒らせるのは得策ではないため、アヴァロスに手を出さなくなる。


「小型の魔物を延々と見張り処理する費用をどうする? 王都や国際的な都市の近くだけに、気を緩めるわけにもいかない。魔物が溢れ出したら遷都をする気か?」


 さすがドラッヘン国王だとジークフリードは思った。


 だが、アヴァロスの王太子として、やすやすと了承するわけにはいかない。


「美味しいらしいな?」


 洞窟ザリガニのことだった。


「人間も甲殻類を食べる。固い触感の食べ物を楽しむこともある。ワイバーンも同じような感覚なんだろう?」


 ドラッヘン国王は何も言わない。


 だが、図星なのをジークフリードはわかっていた。


 オルフェスが東の大陸における使役用や家畜用にされている魔物のエサについて調べてくれたのだ。


 洞窟ザリガニのような甲殻類の魔物は歯ごたえがあり、ワイバーンのエサに適している。


 魔力を貯めた胃石を持つ洞窟ザリガニは、柔かさと栄養面で御馳走扱い。


 洞窟ザリガニの胃石を使った薬が廃れたのは、植物の方が何かと都合が良いという理由だけではない。


 洞窟ザリガニ自体が魔物用のエサとして活用されているからだった。


「ドラッヘンには世界中から依頼が来る。魔物の死骸を引き取るサービスもあるそうだな?」


 魔物討伐をして貰った国にとってはありがたい。


 廃棄物の処理もしてくれるという感覚だ。


 しかし、ドラッヘン側にとってもメリットがある。


「ワイバーンのエサに加工するのだろう? そういったものも活用しなければ、数多くのワイバーンを飼育しにくい」


 やはりアヴァロスの王太子は優秀だとドラッヘン国王は感じた。


「ドラッヘンとは仲良くしたいが、交渉も商売も上手だ。無償で提供する気はないと言われると、こっちも無償で提供する気はないと言わなくてはならなくなる」


 すでに交渉は始まっていた。


「大使館には治外法権がある。アヴァロスでは魔物に関する法整備が十分ではない。大使館内でワイバーンに関係した問題が起きた際、それが敷地内だけで片付く保証はない」


 ワイバーンが命令を聞かず、本来のサイズで暴れ出せば、大変なことになるに決まっていた。


「ワイバーンの管理は厳重にする」

「東の大陸では結界による対策をしていない」


 莫大な費用がかかるため、放置している。それが常識。


「アヴァロスは結界が普及しているが、常に維持しているのは重要な施設のみだ。一般市民に被害が出るようなことは避けなければならない」

「地上湖の側には誰も住んでいないではないか。それとも、街中に大きな大使館を作っていいのか? ワイバーンを持ち込むことになるぞ?」

「今はどうやってあの巨大な魔物を討伐するかを先に考えなくてはならない。ドラッヘンの拠点作りについて話されても困る」


 アヴァロスとドラッヘンには様々な違いがある。


 優先したいことも別だ。


 アヴァロスは魔物対策。ドラッヘンはワイバーンが常駐できる拠点。


 ドラッヘン国王は視線を妻と息子達へと向けた。


 家族で過ごす拠点づくりも重要。


 一緒に安心して、心からくつろげる場所が必要だった。


 そのためにアヴァロスへ来たが、まさに最適な場所だった。


 妻も息子達も生き生きとしている。笑顔と幸せが満ち溢れる日々だ。


 新しい知り合いができ、交流を深めている。


 身分と才能からの孤高を感じていた長男が、同年齢のルフと友人になれたことも非常に大きい。


 アヴァロスを離れがたい理由が増えるばかりだ。


 ならば、夫としても父親としても、しっかりとした拠点を作らなくてはならない。


「家族のことで何かと世話になった。これからも世話になるだろう」

「オクルスにいる時点でわかっていたが、遠慮がないのも図々しいのも確かだな」


 王太子宮で突然魔法剣の対戦を始めるほどだ。


「自由にくつろいでくれとは言ったが、魔法関連は警報の誤作動につながる。私に声をかけてからにして欲しかった」

「夫として謝罪する。私個人の意見として作戦案の例を出そう」


 ドラッヘン国王は歩み寄りの姿勢を見せた。


「ドラッヘンの拠点やエサ場については個人的に検討する。スノウとルフに頼ってばかりもいられないからな」


 ジークフリードも歩み寄りを示した。


 ドラッヘンの拠点については考えなければならないのはわかっていた。


 ドラッヘン王家はオクルスを気に入っている。良い場所がなければ、オクルスを利用するのは目に見えていた。


 だが、オクルスには魔法騎士団や魔法兵団が療養施設を作る予定で、そのための転移門さえ準備中。


 オクルスや周辺の土地、その権利を巡る争いを防がなければならなかった。


「応接間に戻ろう。ここの結界は強い。ゼノンもいるだけに、また何か始めても大丈夫だろう」

「巨大な魔物に雷氷の騎士が全力攻撃したらどうなるか見てみたい」

「雷攻撃は効かないぞ?」

「氷なら効くだろう?」

「近距離攻撃は危険だからな。魔法攻撃をするなら、魔導士に任せた方がいい。騎士は小型の魔物を処理する方だろう」


 ドラッヘン国王は視線をルフへ向けた。


「ルフにさせたらどうだ? 強力な攻撃魔法が使える」

「一般人を巻き込むな」


 正論。


 だが、惜しい。勿体ない。興味がある。


 それがドラッヘン国王の本音。


 ……駄目元で、私案に盛り込んでみるか。


 ドラッヘン国王は心の中で呟いた。


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