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聖女からの大降格  作者: 美雪
第九章

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189 交渉の行方



「無理に討伐しようとは思っていない。だが、多くの魔物を討伐してきたドラッヘンが協力してくれるのであれば頼もしい」


 討伐した方が今後の憂いがなくなるのは事実だ。


 とはいえ、周辺地域への被害が出ないようであれば、監視体制を維持するだけでも十分。


 実戦に限らず戦略・無力化・補給・監視・など多種多様な支援から可能な部分で協力してくれればいいことをジークフリードは伝えた。


「その程度でいいのか?」


 特殊な魔物の情報であれば価値がある。


 魔物を専門に扱うドラッヘンだからこそ、その価値を吊り上げることが可能だ。


 必ず実戦に加わる条件にすれば、アヴァロスは損害を被りにくくなる。


 だというのに、それをしない。


「私が言うのもなんだが、アヴァロスは大損だろう」

「そんなことはない」


 ジークフリードにあるのは冷静さだけではない。


 ドラッヘンとは違う価値観もある。


 良心と善意を大切にしたいという気持ちも。


「最も重要なのは魔物を討伐することではない。魔物によって被害が出ないことだ。アヴァロスだけではない。ドラッヘンについても同じだ!」


 自分さえ良ければいい。相手は利用できるから仲良くする。自分の損害が少なくなるのであれば、相手側に多大な犠牲が出ても関係ない。


 そのような考え方も関係も友好ではない。ただの損得勘定だ。


「アヴァロスとドラッヘンは国交状態を改善する取り組みをすることで合意した。この件についてはただの損得勘定ではなく、真の友好を築くための内容と協力関係でありたい」


 甘いな。


 それがドラッヘン国王の考え。


 ジークフリードの言葉は綺麗ごとでしかない。


 国際協調が叫ばれる時代だとしても、弱肉強食はなくならない。


 面と向かって武力衝突をしないだけで、自国の持つ武力や経済力を誇示しながら有利な状況や立場を手に入れる。


 それが政治の世界。


 損得勘定という意味においては商人と大差ない。


 とはいえ、ジークフリードの言っていることがわからないわけではない。


 ただの損得勘定による絆は弱い。


 益がなくなればさっさと手のひらを反すに決まっている。


 信用ならない。笑顔の裏で疑いの目を向け、探り合っている。


 それでもいいと互いに割り切るならいいが、長期的な関係を望むのであれば、損得勘定以外の絆を作った方がいい。


 永続的でありたいと望むのであれば、より強固な絆を結ぶべきだ。


「アヴァロスが欲しいのは都合の良い取引相手ではない。信頼し合い、真の友好を築いていける対等な相手だ。アヴァロスとドラッヘンが手を取り合えば、より強き光と風になれるだろう」


 ジークフリードによってアヴァロスの誠意は示された。


 討伐協力の内容をアヴァロスにとって有利な内容で固定せず、両国で決めた内容にするということで。


 そして、両国の強い絆になる理由もまた。


 アヴァロスとドラッヘンは常に対等。どちらが強者で弱者の立場なのかを伺う必要はない。


 広大な世界を照らす光や吹き抜ける風のような存在感を確固たるものにし、共に強者であり続ける。


 そのために手を取り合う。


 ……悪くない。


 ドラッヘン国王は決断した。


「良いだろう。映像及びアヴァロスが持つ詳細情報と引き換えに討伐協力をする」


 余りにも高い対価を求めれば、ドラッヘンの怒りを買う。


 そうならないよう適度な条件で話をつけるのが安全であり落としどころ。


 それがジークフリードの考えかもしれないとドラッヘン国王は思った。


「口約束でも反故にするなよ?」

「当然だ。ドラッヘンの名誉を穢すようなことはしない」

「オルフェス、映像を見せろ」

「一秒でいいか?」


 オルフェスは不満だった。


「駄目に決まっているだろう!」

「私はしっかりと書面にしてから映像を見せるべきだと思う」


 それがオルフェスの考え方だった。


「大丈夫だ。ドラッヘンのプライドは天を貫くほど高い。魔物討伐で築き上げてきた栄光と信頼を自ら叩き落とすようなことはしない」


 ジークフリードは手を出した。


「魔法具を貸せ」

「わかった。兄上を信じる」


 オルフェスはしぶしぶといった表情でポケットから魔法具を取り出し、ジークフリードに渡した。


「全部見せるなよ? 半分で十分だ。残りは書面にしてからでいい」

「細かいことを言うな」

「兄上が寛大なのは知っているが、国家間のやり取りには細かい決まりがあるんだ!」

「別に面倒がっているわけではないぞ? で、再生の時はどう使うんだ?」

「渡しても無駄ではないか!」


 オルフェスは魔法具を奪い返した。


「それで映像を再生するのか?」


 ドラッヘン国王はオルフェスの持つ魔法具に興味を持った。


「そうだ。録画もできる」

「どう見ても虫眼鏡にしか見えない」

「俺もそう思った」


 ルフが嬉しそうに同意した。


「老眼鏡のようです」


 スカイの意見への同意はなかった。


「アヴァロスは世界屈指の魔法技術大国だもの。ドラッヘンの魔法具や魔法機器とはレベルが違うのよ?」


 アデルは出身国の英知に胸を張った。


「それはわかっているが、虫眼鏡だぞ?」

「虫眼鏡型なだけだ!」

「ポケットに入るのは便利ですね」

「もういい。再生する」


 オルフェスが再生ボタンを押した。


 湖の映像が映る。


「遠い」

「暗いですね」

「どれ?」

「見せてー!」


 虫眼鏡のレンズ部分に映し出された映像をドラッヘン王家が覗き込んだ。


「見えないわ!」

「見えないよ!」

「仕事だ」

「母上とレオは邪魔しないでください」


 スカイがそう言うと、王妃とレオはしぶしぶ諦めた。


「黒いのがそうか?」

「そうだ」


 湖の中央に頭部だけを出している。


 仕掛けてみてはどうかと話し合っている内に、水中に戻ってしまった時の映像だ。


「……黒い。暗くてよく見えないな」

「映像はこれだけですか?」

「まだある」


 オルフェスは自信満々に答えた。


「これは兄上が撮影したものだけに最低レベルの映像だ。細かい調整ができていない。ただ単に録画ボタンを押しただけのものだ」


 反論できないジークフリードは落ち込んだ。


「だが、私が撮影した映像は凄い。迫力満点だ! 魔法騎士団長も魔法兵団長も度肝を抜かれていたからな!」

「それは見れないのか?」

「書面を作ってサインしたら見せてもいい。絶対に譲らないからな? 私が撮影したんだ! 映像の権利は私にある!」


 オルフェスは言い出したら聞かない。


 先ほどはなんとかできそうだったが、もう駄目だろうとジークフリードは思った。


「すまない。確かにあれはオルフェスが撮影したものだ。オルフェスに権利がある」

「わかった」


 急遽、護衛が取り出した用紙に討伐協力の合意する書類を作成。


 ジークフリードとドラッヘン国王がサインした後、放電する様子を撮影した映像を見せることになった。





「……驚くべき映像だ」


 ドラッヘン国王は凄まじい雷撃を放つ巨大な魔物の様子に強いショックを受けた。


 数々の魔物を討伐してきた。危険で凶悪な魔物も多くいた。


 だが、水中生物でこれほどの巨体を持ち、強烈な雷撃を放つ魔物を目にしたことはなかった。


「気を悪くするかもしれないが、絶対に確認しておきたい。これは人為的な映像編集をしたものではないのだろうな?」


 あまりにも迫力があった。


 事実を映しただけとは思えないほどに。


「映像効果を付け足すようなことは一切していない。画面の切り替えもないだろう? 全て事実。見たままの光景を撮影しただけだ!」


 但し、夜間かつ照明不足で暗かった。


 明度や解像度については上げた状態であることをオルフェスは伝えた。


「それは仕方がない。夜間だからな」

「信じられません……」


 スカイも映像にかなりのショックを受けていた。


「防御膜で雷撃を防いだわけですね?」

「そうだ」

「誰が防御膜を? 凄い使い手です!」

「ゴードンだ。咄嗟の判断で防御膜を張り、雷撃を一人で食い止めた」

「やはりゴードンは凄い! 天才です!」

「これほどまでの雷撃をたった一人で防御するとは!」


 ますますゴードンの評価が上がったのは言うまでもない。


「これがアヴァロスを代表する魔導士の実力よ!」


 アデルの鼻も高くなるばかり。


「凄くかっこいい! 僕、ゴードンの弟子になりたい!」


 無理難題。今はそれどころではない。


「想定外すぎる魔物であることはわかっただろう?」

「甘いのは私の方だった」


 ドラッヘン国王は反省した。


 交渉をいかに有利にまとめるかを重視するせいで、対象になる魔物の強さを軽視していた。


 ジークフリードが犠牲を出したくないと感じるのは当然だ。


 何の策もなく戦えば、多くの犠牲が出るのが目に見えている。


 伝説級の魔物と対峙するに等しい……。


 古き時代の者が討伐ではなく地底湖への封印を選択した理由もわかりやすかった。


「確かに無理に討伐するのは危険だ。重大な被害が出ていないのであれば、今後の対応をじっくり検討すべきだろう」


 世界最強を謳うワイバーン騎士団であっても、討伐依頼を即決できる魔物ではない。


 実戦協力においても熟考しなければならない案件だった。


「巨大な魔物についてはそうするつもりだ。ただ、湖内にいる別の魔物についても検討しなければならない」

「土塁を強化した方が良いだろう」


 現状の土塁では不十分だとドラッヘン国王は思った。


「今の時期はまだ小型のものが多いだろう。だが、脱皮を乗り越えた個体は大きくなる。それでも絶対に越えることができない土塁にすべきだ」


 ドラッヘン国王がすぐに自身の経験に基づく対応策を提案したのは、ジークフリードの誠意が本物であり、信用できる人物だと判断したからだ。


「そうだな」


 土塁の決壊を防ぐだけでなく、高さを上積みしなければとジークフリードは思った。


「土使いを多く集めれば楽だ」

「まあ、そうなのだが……」


 ジークフリードは渋い顔をした。


「いないのか?」

「公的職種の者には少ない」


 魔力持ちにおける土使いは多いが、その多くは民間人。


 公的職種ではないため、招集しにくい。


 公募すると守秘義務及び作業に関わる人件費や危険手当といった諸費用の負担が半端なく増える。


「まあ、一日で作らなければならないというわけでもないしな」

「悠長に構えるべきではない。脱走されたらあっという間に数が増えるぞ?」

「わかっているが……」

「水位が上がる可能性もある。これからの季節は雨が増えるだろう? 付近に水溜まりができやすくなる。移動しやすい環境が整いやすい」

「そうか! そうだった!」


 関係者による真剣な話し合いが続いた。



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ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] 経験者の知見がすごい!しかしそんな彼らでも知らないほどの大きさだったとは、本当に伝説の魔物を封じたのかもしれませんね。 ジークフリードとドラッセン王との取引もドキドキしましたが、映像をドヤ…
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