184 住人達の夕食会
「戻って来たヴェラと住人同士の集まりに乾杯!」
夕食会の会場は屋内。
食堂と談話室にある全てのドアを開けっぱなしにして開かれた。
雰囲気は和気あいあい。
ゼノンが帰って来た時のバーベキューが楽しい催しになったからでもあるが、ヴェラが風使いであることも理由の一つ。
ドラッヘン王国には多くの風使いがいることもあり、風使い同士としての親しみやすさがあった。
「転移魔法はできるのか?」
「はい。できます」
さすがにドラッヘン国王への対応は丁寧にしようとヴェラは思った。
「王都からここまで一気に?」
スカイも尋ねた。
「はい」
成人している第一王子のスカイにも慎重対応。
ルフと同じ年齢なだけに、ヴェラよりも年上だ。
「長距離転移が可能なのか」
「遠距離転移は?」
転移魔法において目的地までの距離が遠い場合は長距離転移というが、より遠い場合や他国に直行できるような場合は遠距離という言葉を使う。
「場所によりますが、遠距離も可能です」
ヴェラは何度も外交官の送迎担当になっている。
遠距離転移も可能であることは調べればすぐにわかるため、隠す意味はなかった。
「大陸を越えられるか?」
キターーーーー!!!
最も警戒していた質問が来た。
世界は広いが、陸地がつながっている場所であれば遠くても比較的移動しやすい。
だが、海を越えて別の大陸に行くとなると話が違う。
「無理です」
ヴェラはきっぱりと答えた。
「一度ではさすがに。遠すぎます」
但し、海上に浮かぶ島々を経由しながら複数回に分ければ、不可能とは言い切れない。
魔法薬ガブ飲み。心身が耐えきれればだが。
「あまり詮索はしないでください。お互い様だと思うので」
スノウが助け舟を出した。
「そうだな。風使いと聞いてつい興味を持ってしまった」
「一般的な質問です。加速魔法はできますか? 得意ですか?」
スカイが尋ねた。
何が一般的よ! スノウの言葉を聞いてないじゃない!
ヴェラは心の中で怒りをぶちまけた。
「得意ではありません。風を直接操る方が好きなので」
ヴェラの不満が口調にあらわれた。
スカイが眉を上げる。
二人の視線が睨み合うようにぶつかった。
その時、
「コプルス菜のニンニク炒めだ!」
ルフが大皿に載せた炒め物を持って来た。
「農作業を手伝ってくれただろう? ぜひ味わってくれ!」
全員の視線と興味が料理に向いた。
「ニンニクか。元気が出そうだ」
「見た目はとってもシンプルね?」
コプルス菜とニンニクのみ。
様々な野菜や肉が入った炒め物に慣れているドラッヘンの者達にとっては非常に珍しい一品だった。
「とっても美味しいですよ!」
コプルス菜のニンニク炒めは大人気。
あっという間になくなった。
「全員で取るとすぐになくなるな」
「ルフ、グラタンは沢山作っているんでしょうね?」
ヴェラは気になった。
「おかわりなしとか言わないで!」
「……わかった。追加で仕込んでくる。これももう一回作る」
ルフはすぐに空いた皿を持ってキッチンに戻った。
「招待してくれたのは嬉しいが、大人数だけに悪いな」
ドラッヘン国王はルフがゆっくりする暇がないことを懸念した。
「招待したのはこちらですから。ワインのおかわりはいかがですか? 高級品ではありませんが、コルプス産のものです」
「正直期待していなかったが、素晴らしい香りと味だ。価格はどの位なのだろか?」
「確か」
スノウが値段を言うと、ドラッヘン国王は目を見開くほど驚いた。
「桁が違うのではないか? 安すぎる!」
「この地域の物価は安いので」
但し、地元で販売される数はかなり少ない。
ほとんどは昔から取引をしているような商人達が買い占め、より大きな都市で転売してしまう。
「コルよりもコクサの方が何でも多く売っているそうです。その分、値段は高めのようですね。それでもコルプス内というだけましで、外になると一気に値段が代わってしまうとか」
ド田舎と言われるアマデウス地方は魔法の恩恵が全くと言っていいほどない。
魔法という存在が知られている程度で、はるか遠い場所の話という感覚だ。
日常生活において魔法がないのが当たり前。
販売される場所が遠くなるほど馬車による輸送費がかさみ、価格に反映されてしまう。
「コルやコクサか」
ドラッヘン国王は素早く魔法の地図を展開して場所を確認した。
「近い。転移魔法で買いに行こう」
「スノウさん、今夜のご招待もだけど、色々とごめんなさいね」
アデルはスノウと話したくてウズウズしていた。
「驚かせてしまったと聞いたわ。本当のことを言って欲しいのだけど、気に入らなかったかしら?」
「工事のことでしょうか?」
「そうよ。綺麗になるなら何でもいいと言われたから……でも、よくよく考えたらここは修道院。宮殿や個人の屋敷とは違うものね」
外装はそのままで内装だけを変えている。
だからこそ、その違いがあり過ぎる。
「大丈夫です。皆様がくつろげるようなお部屋にしていただければいいので」
「ちょっとやり過ぎだと思う部分があるのは確かなのよ。アヴァロスではワイバーンの飾りをつけないし」
ドラッヘンの者達にとってはワイバーンの飾りが当たり前。
ドラッヘン風の宮殿様式の内装になっていた。
「気に入らなければ、我らが去った後に取り去ればいい。ルフは器用そうだ。装飾を取り外すぐらい簡単だろう」
「色合いも緑ばかりだし。本当にごめんなさいね。ドラッヘンは風使いが多くて、緑色が好まれるのよ」
「私も緑色が好きです。正装の帯は緑でした」
「スノウさんは本当に優しいわね!」
王妃はこのままスノウと話し込みたがったが、他にもスノウと話したい者がいた。
「森に凄いものができたよ! 絶対にびっくりするよ!」
レオが割り込んで来た。
「何ができたのでしょうか?」
「ツリーハウスだよ!」
「ツリーハウス?」
スノウにはわからなかった。
「木の上に家があるんだよ!」
「木の上ですか? 凄いですね! 確かにびっくりです!」
「はしごで上ったり下りたりするんだよ!」
「階段ではなく? 浮遊魔法を使わないのですか?」
「魔法が使えない者でも使えるようにしているんだよ」
レオは教えて貰った通りに説明した。
「階段は面倒だけど、はしごを上り下りするのは楽しい」
階段や魔法を使うのが当たり前なレオにとって、手足を使って垂直に上り下りするはしごは珍しかった。
そのせいで何度もはしごを昇っては降りて遊んだ。
「滑り棒と階段棒と滑り台もあるよ!」
「滑り台!」
スノウは喜んだ。
「それはぜひ試さないと!」
「広場も作りました」
牧草地はいずれ薬草園になってしまうため、ワイバーンと一緒に遊べる広場を作ったことをスカイが伝えた。
「いずれまた草木が生えてしまいそうではありますが」
「牧草を植え付けるつもりだ」
大皿を持って戻って来たルフが答えた。
「背丈が低い草原なら馬車も通れる。ワイバーンも着陸可能だ。他の雑草も生えにくくなるだろう」
「ぜひ、そうしましょう。種はあるのでしょうか?」
「牧草地帯から地面の一部をはがしとって持って行けばいい。地下茎で勝手に広がる」
「では、明日はその作業を」
「そのつもりだ」
「手伝います」
「助かる」
「こちらこそ、ワイバーンが離着陸できる場所があるのは嬉しいです」
「ルフ」
ドラッヘン国王が呼びかけた。
「牧草が広がるには時間がかかる。その間に別の雑草が生えてしまうのではないか?」
「広いだけに仕方がない。急いで仕上げる必要はないと思うが?」
「馬車が通る場所は固めた方がいいのではないか?」
「作業に対する魔力の負担が大きい気がする」
「ワイバーンを歩かせて踏み固めればいい。元の大きさに戻せば簡単だろう」
ルフはドラッヘン国王の提案に驚いた。
「ぜひ、頼みたい!」
「では、明日はワイバーンを元に戻して歩行練習だ!」
「ルフ、僕のワイバーンに乗せてあげるよ!」
レオが言った。
「嬉しい。だが、かなり揺れそうだな?」
「ルフなら大丈夫だよ。浮遊魔法も使えるし」
「ルフは私のワイバーンに乗るといいでしょう。乗り方のコツも教えます」
「駄目だよ! ルフはもう僕のワイバーンだよ!」
「ルフに選ばせればいい」
ドラッヘン国王がそう言うと、レオとスカイはルフをじっと見つめた。
「僕の方だよね?」
「この機会にワイバーンの正しい乗り方を覚えておく方が良いのでは?」
「……嬉し過ぎて大変だ」
「私もワイバーンに乗ってみたいです。どちらかに乗せていただけないでしょうか?」
スノウが助け舟とばかりにそう言った。
「えっ! じゃあ、スノウは僕の方に乗って!」
「危ないかもしれません。スノウは私のワイバーンの方がいいのでは?」
「危なくないよ! スノウだって浮遊魔法が使えるじゃないか!」
「浮遊魔法をあてにしなければならないこと自体が危ないのです。スノウに何かあったらどうするのですか?」
「今度はスノウが取り合いか」
「さすがスノウだ。人気がある」
ドラッヘン国王が嘆息し、ルフが笑った。
……すっかり仲良しねえ。
ヴェラはそう思いながら、ルフが持って来たコプルス菜炒めをおかわりしようとした。
「ヴェラさん、よろしくね?」
同じくおかわりをしようとしていたアデルに声をかけられた。
「よろしくお願いいたします」
ヴェラは丁寧に挨拶をして頭を下げた。
「気遣いは無用よ。堅苦しいのも嫌だわ。女性同士仲良くしましょう? 修道院の住人同士だし、私はアヴァロスの出身だもの。お願い。ね?」
アデルがにっこりと笑う。
めっちゃ美人! しかも、めっちゃフレンドリー!
ヴェラは心の中で叫んだ。
「この炒め物、シンプルだからこそ美味しいわね!」
「ルフの料理はどれも美味しいです」
「ヴェラさんはグラタンが好きなようね?」
「ルフのグラタンは絶品です」
「私もグラタンが大好きなのよ! とっても楽しみだわ!」
ルフの料理の魅力について、ヴェラとアデルは語り合うことになった。




