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聖女からの大降格  作者: 美雪
第九章

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171 ドラッヘン一行



「ルフ!」


 転移魔法をしたルフにスカイの声が聞こえた。


 拡声魔法がかかっている。


「訪問は歓迎するが、畑に着陸するな! 作物が駄目になってしまう!」


 ルフは初めて見るワイバーンに驚きながらも、畑を守るために拡声魔法で答えた。


「近くに空き地はありませんか?」

「一度に全員は無理だ」


 オクルスは森を切り開いて作られた村だけに、必要そうな場所しか開けていない。


「一匹分のスペースだけでも構いません」

「それなら牧草地がある」


 ルフは薬草園を作る予定の牧草地へ誘導した。


「順番に着陸します」


 まずはスカイがワイバーンを着陸させた。


 その背中からスカイが降りると、ワイバーンはみるみる小さなサイズになった。


 またもやルフは驚くしかない。


「……サイズが変わるのか」

「乗らない時はこのサイズです。ヴァイス、ルフは友人です。覚えておきなさい」


 白いワイバーンはルフをじっと見ると、ルフを調べるようにその周囲を旋回した。


「言葉がわかるのか?」

「ドラッヘンのワイバーンはとても賢く、ある程度の言葉は理解できます。命令に従うよう調教もしています」


 スカイが手を掲げるように出すと、ヴァイスと呼ばれた白いワイバーンはその上にとまった。


「狩りに使う鳥のようだ」

「竜種です。とても可愛いですよ」

「それは魔物だ」


 ジークフリードが近づいて来た。


「やはりお前だったか!」

「久しぶりですね。どうしてここに?」

「スノウに接触する人物は確認している。神殿に来ただろう?」

「聖騎士が報告したのですか?」


 スノウの側にいたゼノンに警戒されているのをスカイはわかっていた。


 治癒の聖女には雷氷の聖騎士と呼ばれる極めて優秀な護衛がいることで有名だった。


 スノウが元聖女であれば、その者だろうと推測してもいた。


「訪問するにしても、わざわざワイバーンに乗って来ることはないだろうが!」

「正装です」


 ドラッヘンにおいてワイバーンは力の象徴であり、正式な礼装の一部とみなされる。


 正式な訪問や相手に礼を尽くす場合はワイバーンに乗って行くというのがマナーであり常識だった。


「ここはアヴァロスだ!」

「アヴァロスの王太子よ。貴君の怒りはわからないでもない。だが、国境で入国手続きはして来た。不法入国ではない」


 緑色のワイバーンから降りた偉丈夫はドラッヘン国王だった。


「事情は知っているのだろう? 我らはスノウに感謝を伝えに来ただけだ。長居はしない。大ごとにしたくもないのだが?」

「こちらも大ごとにしたくない。手早く用件を済ませて帰って欲しい」

「兄上!」


 黒いワイバーンが着陸し、子供が元気よく降りて来た。


「スノウの所へ行こうよ!」

「ルフ、先に転移して貰えませんか? 追尾します」

「わかった」


 ルフが転移した。


「父上、レオと先に行きます」

「わかった」


 兄弟が転移すると、主人を失ったワイバーンが空中を彷徨い始めた。


「修道院は北だ。ノルデン!」


 ジークフリードが指をさすと、白と黒のワイバーンは驚くべき速度で飛んで行った。

「魔物の置き去りは法律違反だというのに!」

「時間が経てば勝手に主人を探しに行く」

「迷子になるかもしれないだろう!」

「アヴァロス王太子、お久しぶりでございます。この度は家族で押しかけてしまい申し訳ありません。ですが、アヴァロスは私の故郷。どうか寛大なお心でお許しいただけないでしょうか?」


 ドラッヘン王妃のアデルはアヴァロス王家の傍系にあたる大貴族の家柄だ。


 つまり、アヴァロス王家とドラッヘン王家は遠い親戚ということになる。


「個人的にはそのつもりでいる。父上に知らせると絶対にうるさいからな。それから、レオンハルト王子の病気が悪癌種とは知らなかった。完治して本当に良かった」


 ドラッヘン王家は第二王子が病弱であることを公表していたが、悪癌種で何度も再発していることについては隠していた。


「すぐにお知らせして治癒の聖女の治療を受けれるようにして貰えばと何度も後悔しました。ですが、両国の関係を考えると難しいと言われて」


 治癒の聖女は神殿に所属している。


 神殿に一個人の支援者として多額の寄付金を積むのはいいが、アヴァロス王家に仲介を頼むことはできない。


 国や外交にも多大なる影響を与えるような方法は選択できないというのがドラッヘン国王の判断だった。


「懸念はわかる。父上というよりも、宰相が利用するに決まっているからな」

「非公式に伝えておく。私個人としては今回のことを極めて重く受け止めている。危うく息子を死なせてしまうところだった」


 ドラッヘン国内にも優秀な治癒士や魔法医がいる。


 悪癌種を治療することができる。完治させることができると誰もが思っていた。


 だが、実際は再発の連続。


 完治は不可能と言われてしまう状態になってしまった。


 その事実を知る者は心身共に疲弊。ついにはレオンハルト自身が延命拒否する事態に陥った。


 せめて最期は息子の望むようにと考えたが、奇跡が起きた。


 スノウは死を覚悟した子供を救うだけでなく、多くの責任と罪深さを感じていた家族、人々の心もまた救っていた。


「スノウには心から感謝している。ゆえに、アヴァロスとの関係も改善していければと考えている。検討して貰えないだろうか?」

「考えなくもない。だが」


 ジークフリードの表情はしかめられていた。


「それなら余計にワイバーンで来るべきではなかった。騒ぎになったら大変だろう!」

「正装にしたかった」

「ここはアヴァロスだ。魔物に乗るのは正装ではない!」

「時間もかかる。通常の方法では一日で移動するのは難しい」


 遠距離移動だけに、転移魔法とワイバーンによる高速飛行を駆使して来た。


「馬にすればいい。ワイバーンよりはるかに魔力負担が少ない!」

「ペガサスも魔物だが?」

「普通の馬で来い!」

「あまりにも遅い。軟弱過ぎる。海を越えにくいではないか」

「魔物と比べるな!」

「まあまあまあ」


 アデルが間に入った。


「このような場所で立ち話なんて。息子達も行ってしまいましたし、騎士も全員着陸しました。まずはスノウさんにお礼を伝えたいのですが?」

「そうだな。移動しよう」


 ドラッヘン国王は王妃と共に転移した。


 ドラッヘンの騎士達も次々追尾して転移する。


「また置いて行った……」


 牧草地に残された小型化ワイバーンが六匹。


 主人達が消えてしまい、ウロウロと飛び回っていた。


「あっちだ! ノルデンだ!」


 ジークフリードが手で示すと、それを見たワイバーン達が次々と猛スピードで移動を開始した。


「まったくもって調教が甘い! 放任主義ではないか!」


 だがしかし。


「思ったよりも少なくて良かった」


 ワイバーン騎士団総出で来るかもしれない可能性をジークフリードは懸念していた。


「転移魔法の定員があります」

「高速飛行できるワイバーンの数が少ない」


 オリバーとノールドが答えた。


「出発当初は多かったはずです」


 集団転移魔法で王家を優先に飛ばし続けた結果、サポート要員が魔力切れで次々と脱落したという予想。


「それにしても、よくワイバーンを連れて来ましたね」


 ワイバーンがいれば転移の魔力負担が大きくなる。


 それでも正装にこだわったのは、スノウに最高の礼を尽くそうとした証拠だ。


「むしろ、多い気がする。さすが、世界最強を誇る空域騎士団だ」


 ワイバーンが八体いれば、通常規模の都市を数時間で壊滅できる。


 ワイバーンを始めとした魔物の持ち込みが警戒されるのは、軍事行動や破壊活動へに利用できてしまうからだ。


「王都でなくて良かった。絶対に父上が激怒していた」


 仲が良くない国の王族が魔物を連れて来れば、挑発行為だと感じる。


 アヴァロスがある中央大陸の国々は魔物を脅威とみなし、飼いならす対象とは見ていない。


 小型であってもワイバーンが王都を飛び回れば、人々はパニックに陥る。


「馬なら誤魔化しやすいというのに」

「魔馬はそうですが、ペガサスだと難しいでしょう」

「羽がある馬は魔物にしか見えない」

「東の大陸の感覚はこっちの常識と違うからな……」


 ジークフリードは深いため息をつくと、修道院へ戻るために転移した。





 修道院では挨拶とお礼の言葉が順番に伝えられていた。


「我が名はライアート・ドラッヘン。悪癌種から息子を救ってくれたと聞いた。心から礼を言う」

「ご丁寧にありがとうございます。私の方こそ色々とよくしていただきました。素敵なカップケーキをいただきましたし、故郷に帰るのを手伝っていただきましたので」


 スノウは答えた後、視線をスカイとレオに移した。


「二人は王子様だったのですね」


 本名はヒンメルとレオンハルト。


 ドラッヘン王国の第一王子と第二王子だった。


「スカイとレオはアヴァロス風の愛称です。これまで通りで構いません」

「スノウが治癒の聖女だったって聞いた。どうして聖女じゃなくなったの?」


 レオの質問にオルフェスは動揺した。


 さすがに自分のせいだとは言えない。


「戦争に行って魔力が減ったからです。一時期はずっと一しかなくて、魔法も全く使えない状態でした」

「たったの一?」

「枯渇寸前でしたか」


 スノウの説明はおかしくない。


 だが、レオは納得できなかった。


「でも、今は魔法を使えるよね? 魔力だってある。僕の悪癌種を治すほどの実力だし、また聖女になれそうだけど」

「二度と聖女にはなりません。ルフと結婚するために神職者を辞める予定なのです」


 全員の視線がルフに向けられた。


「アヴァロス一の果報者ですね」

「そう思う」


 ルフはスノウを見つめた。


「本当に俺でいいのかと思う時もあるが」

「ルフでないと駄目です!」


 スノウはルフの腕にしがみついた。


「私にはルフしかいません! 結婚の衣装だって刺繍しました! 絶対に結婚します!」

「大丈夫だ。俺だってスノウしかいない。絶対に結婚する」


 スカイは不満たっぷりの表情を浮かべる弟を見つめた。


「諦めるしかないようですよ?」

「父上のせいだ」


 レオは父親を睨んだ。


「聖女の治療を速攻で手配してくれたら、スノウと結婚できたのに!」

「年齢を考えろ。婚姻は無理だ」


 父親は冷静に答えた。


「聖女の予約を取るのも大変だった。何年もかかる。王族だからといって優先されることはない。神殿に通用するのは身分ではない。コネと寄付金だ」


 スノウは落ち込んだ。


 ドラッヘン国王の指摘があまりにも正しかった。


 平等や公平さを尊ぶとしても、治療希望者の全員を治癒することはできない。


 だからこそ、治療するための条件がついてしまう。


 重篤者であっても順番待ち。なかなか治療して貰えない。


「少しずつ改善している」


 ルフはスノウの気持ちを考え、優しく頭を撫でた。


「そうですね。頑張ります」

「これで用件は終わりだ。国境で手続きをしたなら、その一報が王宮に届くのも時間の問題だろう。その前に出国していれば問題にならない」

「はるばる遠方から来たというのに、急かすのはどうかと思うが?」

「許可なくワイバーンを持ち込んだことへの危機感がなさすぎるのではないか?」

「そうだ! ワイバーンの持ち込みは違反だ!」


 オルフェスもジークフリードに同調した。


「どうせ小型化してペットか家畜として申請したんだろう? 偽証だ!」

「まあまあまあ」


 アデルが仲裁に入った。


「農作業があるとか。楽しみだわ!」

「そうだった!」


 ルフは時計を見た。


「悪いが出かけて来る。疲れただろうし、談話室で休んでくれ」

「私も行きます!」


 スノウもルフを手伝うつもりでいた。


「やり方を教えていただければ手伝います」

「僕も!」


 スカイもレオも手伝うつもりだった。


「お天気も良いし、私も手伝おうかしら?」


 アデルも乗り気。


「農作業だぞ?」

「水撒き位できますわ」

「言っておくが、魔法栽培じゃない」


 ルフは注意した。


「やり方は教えるが、無理に参加することはない。その代わり、邪魔はしないでくれ」

「わかりました」

「わかった」

「楽しみね!」


 結局、全員で畑に行くことになった。



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