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聖女からの大降格  作者: 美雪
第三章 王都事件編
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017 王都へ



「属性検査と健康診断は受けた方がいいと思います」


 スノウは王都へ行くことに賛成した。


 スノウ自身、自分の魔力について知ることや健康状態を知ることは大切だと思って来た。


 ルフは強い魔力を多く持っていそうなだけに、今まで何もしてこなかったことも含め、体のことを心配していた。


「もし行くとして、スノウも一緒か?」

「当然です」


 ゼノンが答える。


 どうせ修道院に誰かが来ることはない。


 町に行く時も留守にする。短期間であれば問題ない。


「金がかかりそうだ」

「言い出したのは王太子殿下です。費用は全て出してくれるでしょう」

「そうだわ!」


 ヴェラが叫んだ。


「王都観光よ! 丁度いいわ!」

「だったら王都図書館に行って見たいです」


 スノウは要望を出した。


「ちょっとだけね。スノウは別の一般知識を増やさないと」

「足りませんか?」

「神殿と王宮しか知らないでしょう? 全然足りないわよ!」


 スノウもルフと一緒に王都や様々なことについて勉強することになった。





 後日。


 オクルス修道院を不在にする準備が終わり、スノウとルフは王都へ来た。


 表向きは冬に備えての買い出しだが、王都観光と勉強、属性検査と健康診断もする。


 宿泊先は王宮。王太子の私的な客として客間を使うことになった。


 元聖女がいるとなれば騒がれることを考慮し、素性等は秘匿。客が宿泊していること自体、関係者以外には知らされていない。


「楽しく仕事ができるわ! ゼノンも良かったわね!」


 ヴェラは王宮へ宿泊する客人の対応役になり、通常業務ではなくなった。


 ゼノンも同じく。


 聖騎士ではあるが、貴族として王宮関連の仕事を任されることもある。今回はそれだ。


「じゃあ、早速出かけましょう!」

「外出ですか?」

「検査は?」

「後になります」


 高度測定器は予約者が日中に使用するため、人目を避けるためにも夜に検査する。


 診察の方は数日後で、それまでは王都観光や必要品の買い物をする予定であることが説明された。


「初心者コースを順番に回るから」

「歩いて行くのか? それとも馬車か?」

「転移魔法に決まっているでしょう!」


 ヴェラが対応役になったのは移動のためでもある。


「日用品は好きなだけ買い物をしてください。全て王太子殿下に回します」


 買い物し放題の特典付き。


「但し、魔法書や魔法具のような高価なものは応相談です」

「魔法武器店と魔法防具店にも行きたい」


 ルフは初心者用の剣に魔力を込め過ぎて壊してしまったため、別の剣が欲しいとゼノンに相談していた。


「それは別の日に。測定結果を見てからにします」

「わかった」

「美味しいものもいっぱい食べるから!」


 予定は盛沢山だった。





 転移魔法による移動は効率的だった。


 王宮魔導士と聖騎士の証を見せればどこも特別待遇。


 スノウとルフは有名な観光地を次々と訪れ、自身の目で確認することができた。


「一見百聞にしかずだな」


 観光用の本を見れば王都で有名な場所やその歴史、解説等はわかる。


 だが、知識だけでは得られないものがある。


 体感だ。


「イメージも随分違った。安心した」


 王都に住むほとんどの者が魔力持ちなのだろうとルフは思っていた。


 だが、実際の王都を見ていると、魔力持ちではない者が多くいた。


 誰もが魔法を使えるわけではない。


 微量の魔力や魔石でも動かせる魔法具が普及しているからこそ、便利で快適な生活を送ることができていることがわかった。


「それにしても王都の物価は高いな」


 ルフもスノウも欲しいものがあったが、どれも高価過ぎて買えないと思った。


「いつか魔法の巾着が欲しい」

「私は魔糸が欲しいです」

「ルフはわかるけれど、スノウはなぜ魔糸なの?」

「いざという時の巾着補修用です」

「だったら壊れた時に用意すればいいわ。それよりも、オクルスでは手に入らない柄の布地や刺繍糸を買ったら? 普通のものなら値段的に大丈夫だと思わよ」

「そうします」

「アイスは美味しいな」


 四人は王都で大人気のアイスクリーム屋に来ていた。


「作ってみては?」

「材料があれば。作り方も知りたい」

「手配します。冷蔵庫と冷凍庫も買いましょう」


 ゼノンは乗り気だった。


「いいのか? 高価だろう?」

「大型は魔力消費が増えます。小型で魔力消費が少なく管理しやすいものにすればいいでしょう。価格も抑えることができます。型落ちや中古であれば大型のも安く購入できます」


 実を言うと、ゼノンなりに下調べをしていた。


「ゼノンはアイスクリームが好きなのよ。そっちに行った時に欲しいっていうアピール同然ね!」

「そうなのか。だが、オクルスの冬は寒いからな」

「わかってないわね。冬なのに暖房をきかせた部屋で冷たいアイスクリームを食べるのがいいのよ! 季節に逆らう感じが贅沢でしょう?」

「贅沢は駄目です」


 修道院は清貧を尊ぶ。


 スノウは若いが、その頭の中は厳格で保守的な神官に教えられた通りのルールが存在していた。


「アイスクリームは贅沢品ではありません」


 ゼノンが反論した。


「私もそう思うわ。裕福な修道院には貴族が入るから、アイスクリームだけでなくケーキだってお菓子だって出るんだから」

「暖房のための薪が多く必要になるのは困るのでは?」

「結界で解決です」

「アイスクリームは一般市民が普通に楽しむものよ。だからこそ、こういうお店があるの。手作りなら、お店を利用するよりも贅沢じゃないわ!」


 ゼノンとヴェラの説得により、スノウは丸め込まれた。





 夜。


 夕食を取るため四人は定食屋に向かった。


 王都の一般常識を知る勉強もあるため、原則的に王宮では睡眠と入浴だけ。


 食事は全て外食で、顔見知りに会わなさそうな店を利用することになった。


「すぐに入れて良かったですね」

「ここは定食屋だけど、夜は居酒屋になるの。遅い時間の方が混むわ」


 早い時間は家族連れ、観光本を見てくるような客の方が多いことをヴェラが説明した。


「食事の種類が凄いな。知らない食材名もある。食品店や市場にも行きたいな」


 ルフの行きたいところが増えた。


「料理のレパートリーを増やすためにも、ジャンジャン食べて!」

「遠慮なく注文して下さい」

「わかった」


ルフはテーブルの中央に置かれたカトラリーボックスの位置をスノウから遠い位置に変えた。


「そのままでも大丈夫です」

「気になっただけだ」

「何?」


 ヴェラは気になった。


「邪魔だと思った」

「真ん中の方が取りやすくない? まだ料理も来ていないし」

「料理が来たら渡せばいい。一度取ればいいだけだろう?」

「そうだけど」


 注文をした後は王都観光の話題に移る。


 やがて、注文した食事が運ばれて来た。


「お待たせしましたー!」


 定食屋なので、それぞれが好みの定食を選んだ。


 デザートと飲み物は別注文。食後に届く。


「先に取ってくれ」

 

 カトラリーボックスを回し、ヴェラ、ゼノンの順番で取る。


 ゼノンはスノウに渡そうとしたが、ルフの手が伸びた。


 ボックスを受け取ると、フォークをスノウに渡す。


「ありがとうございます」


 ヴェラは呆れ顔になった。


「そこまでするの?」

「世話人だ」


 間違いではない。


 だが、


「自分で大丈夫じゃない? それにナイフも渡さないと」


 スノウが頼んだのはハンバーグ。


 フォークだけでも食べられるが、ナイフで一口サイズに切って食べるのが普通だ。


「大丈夫です。フォークで切れます」

「俺が一口サイズに切ろうか?」


 まるで子供に対するようだとヴェラは思った。


「マナーをちゃんと習っているんだから、自分でさせればいいでしょうに」

「刃物を持たせたくない」

「食事用よ?」

「このままで大丈夫です。お祈りをして、冷めないうちに食べましょう」


 スノウは手を合わせた。


「神様、ありがとうございます。いただきます」

「短くていいわね。でも、カフェやアイスクリーム屋では違和感があったわ。ああいう店では心の中でお祈りした方がいいかも。目立つから」

「わかりました」


 食事が始まった。


 口に食べ物を入れている間は話さない。飲み込んでから話す。


 四人は食事のマナーを知っているだけに、しばし無言になった。


 評判通り、定食が美味しかったせいもある。


 すると、団体客がやって来た。


「良かった! 空いてるな!」

「ここは人気店だから、普通ならもっと混んでいるだ」

「そうなのか。運がいいな」

「毒事件のせいだろう」

「関連地域での外食を控えている者が多いらしいからな」


 毒……。


 ルフは気になる単語を拾った。


 その後、席についた男性達は事情を知らない者に毒事件のことを話し始めた。


 王都の生活水を供給している施設を第二王子が視察した際、異常が見つかった。


 施設で浄化された水は安心して飲めると言う説明が行われ、それを証明するために水質調査を魔法で行うと、毒が混入していることがわかった。


 すぐに第二王子は生活水の供給を中断し、なぜこのような結果になったのか調査するよう命じた。


 その結果、浄化した水を入れる貯水槽の一つで毒反応が高いことがわかった。


 通常はその前の処理で毒素が取り除かれるため、毒反応が出るのはおかしい。


 誰かが貯水槽に毒物を入れたのではないかと疑われた。


「大事件だな」

「色々な意味でな」


 第二王子はこれまでほとんど公務をしなかったが、婚約者の変更で評判が下がったため、公務をして取り返そうとした。


 そして、毒事件が起きた。


 第二王子のおかげで問題を発見できたと言われているが、貯水槽に毒物が入れられたのは視察のせいではないかという噂も囁かれていた。


「第二王子は王位を欲しがっているんだろう?」

「兄弟仲が悪いしな」

「王太子の陰謀とか言ってそうだ」

「王太子も大変だなあ」

「相手なんかしていないさ。忙しいだろうからな」


 国王は貯水槽と水道施設の安全確認のみで解決にした。


 だが、いつから毒素が混入していたのかはわからない。


 毒が混入しているのに気づかないまま、多くの水が供給されてしまった可能性があった。


 王太子は王都の水質検査と健康被害の兆候がないかを調べるべきだと提案したが、国王は却下した。


 そこで王太子は都知事と王都警備総監を呼び出し、王都整備及び治安の観点から調査することになった。


「国王の命令じゃないってところがミソだな」

「偉いやつらにとっちゃ、一般市民の健康被害なんて関係ないのさ」

「貴族や金持ちの家には浄水器があるからじゃないか?」

「王太子は俺達庶民の味方だ」


 それで忙しいのかもしれない。


 王都に到着した際、ジークフリードは非常に忙しく、すぐには会えないと言われた。


 毒事件のせいではないかとルフは推測した。


「毒事件なんて大変ですね」


 スノウもしっかり聞いていた。


「そうね。面倒なことになっているわ」

「水質検査は終わっています」


 水道施設に新たな問題は見つからなかった。


 だが、地下水を汲み上げる井戸で毒物反応が出た。


 王都では水道設備が普及しているが、一部の地域では高い水道代を負担しないで済む井戸が利用されている。


 誰でも使える。開放的だからこそ、毒物を入れやすい。


 手がかりもなく、捜査は進んでいない。


「毒物を混入した犯人は見つかっていませんが、対応策は実行されています」


 同じような事件が起きるのを防ぐため、水道施設の管理体制が強化された。


 給水管をより伸ばし、井戸の利用からの切り替えを進めることにもなった。


 予算や工事期間もあるため、長期的な計画及び対応策だ。


 そこで先に魔力を動力源にする魔動ポンプへの交換工事が順次行われている。


 ポンプであれば手桶で汲み上げる必要がなくなり、井戸を開口しておく必要もなくなる。毒物の投入を防げる。


 緊急的な一時対応としては、神殿から派遣された解毒士達が井戸のある場所を巡回している。


 住民が不安にならないよう毒物検査を行って安全を確認し、体調が悪い者に対しては解毒魔法での治療を行っていた。


「おかげで神殿の評判が上がっています」

「サーザって言った方が適切じゃない?」


 サーザは解毒士。


 井戸を巡回して解毒作業を行う役目に立候補し、積極的に取り組んでいる。


 慈愛と奉仕の精神に溢れた解毒士として新聞に載り、その評判と知名度が一気に上がった。


 一部では聖女になるかもしれないなどと噂されるほど、時の人として持ち上げられている。


「あのサーザが聖女になれるわけないわよ」


 ヴェラは知っている。


 サーザは昔からスノウをいじめていた者だった。


「スノウの悪口ばっかり言ってた性悪女だもの!」

「他の話題にしてくれ」

「その通りです」

「そうね。ごめんなさい」

「ハンバーグ、とても美味しいです。他のお食事はどうですか?」


 スノウは優しく微笑みながら、全員で楽しめる話題を振った。




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