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聖女からの大降格  作者: 美雪
第八章 

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166 結界部門



「おはようございます!」

「おはよう」

「おはようございます!」


 スノウが訪れたのは結界部門の中で最も重要な役割を担う設計部だった。


「私がこちらに来たのは神殿の結界を」

「ぶっ壊せ計画ですね!」

「新生計画だ」

「利便性向上かつ無駄のない省エネ方針ですよね?」


 次々と設計部に所属する者達が活き活きとした表情で言葉を発した。


「まあ……大体そんな感じかもしれません」

「やはりそうか」


 結界部門長は他の部の役職者達と顔を見合わせ頷き合った。


「全体通達の後、すぐに結界部門内でアイディアを募り、有望そうな案をリストにまとめた。目を通して欲しい」


 スノウは早速手渡されたリストを見た。


 基本は全体結界の調整か部分結界。


 実現可能かどうかのレベルもわかりやすく記載されている。


「様々な案があるようですね。でも、私が結界を縮小したいのは庭園維持の水やりを雨水に変更するためです。でも、ここにある案だと、それができていないように思うのですが?」

「全ての庭園を結界から外すことは難しい」


 まず、建物に囲まれた中庭。


 ドーナツ型のように中央だけをくり抜くことはできないため、建物を結界で包む以上は一緒に包まれてしまう。


 また、特殊な草木が生えている場所も結界が必要だ。


 外国産の植物が多く、維持するには特別な環境を結界で保持する必要がある。


 どうしても外せないのが門の間がある付近の自然保護地域。


 ここの部分を結界から外すと、座標さえわかれば門の間に転移できてしまうようになる。


 それは神殿の地下に勝手に侵入できてしまうのと同じ。


 総神殿長の命令で修正されたばかりだと結界部門長が説明した。


「門の間への転移はできなくなったのですか?」

「外部からはできなくなった。だが、そのせいで結界が広がってしまった」


 結界が広がれば、魔力消費も増える。


 奉仕活動としての補充石作りのノルマも、外部からの魔石購入代も増える。


 神殿にいる者達の負担が増大したということだ。


「正直な話、多くの負担と引き換えにしてまで、門の間を守るべきなのか疑問に感じる。だが、門の間がどのような場所でどのような目的のためにあるのかも知らない。結界部門は総神殿長の指示に従うしかない」


 総神殿長や高位神職者にとっては重要な場所なのかもしれないが、長年結界の保護対象外のままで問題がなかった。


 スノウが庭園部分への水やり負担の削減という名目で結界を縮小すれば、門の間は保護対象外になる。


 神殿全体の魔力負担が相当減るということを結界部門は知っていた。


「そういうことでしたら、門の間についてもしっかり考えないとですね」


 実を言えば、スノウは門の間の重要性を総神殿長ほどには感じていなかった。


 歴史的にも芸術的にも価値の高いレリーフだということはわかるが、国王や総神殿長を始めとした一部の者が魔石のライトアップを贅沢に楽しむ場所でしかない。


 はっきりいって、隠すこと自体が無駄ではないのかと思っていたほどだ。


「中庭は結界内になってしまうのですよね?」

「そうだ」

「では、中庭に結界で保護しなければならない植物を植え替えたらどうですか?」


 スノウの提案に結界部門長は驚きの表情になった。


「そうか! それなら結界で守らなければならない植物を維持できる!」

「あまりにも多いようなら、欲しそうな相手に譲ればいいと思います」


 王宮は王族及び国家機関の安全確保のために結界が張られている。


 その中に植えれば、アヴァロスの気候に合わない植物も育てられる。


 植物を研究しているような場所や学校に譲ってもいいという意見をスノウは述べた。


「スノウ様、植物園にしてはいかがですか?」

「植物園? 薬草園みたいなものですか?」

「様々な植物を見学できる場所です」


 民間にもそのような施設があり、有料で珍しい植物を見学できる。


 今の神殿は見学で多額の寄付金を集めているが、あくまでも一時的なものでしかない。


 そこで持続的に寄付金を集められそうな施設を作ってはどうかという意見だった。


「秘宝殿と一緒に検討してみます」

「秘宝殿?」

「そんなものがあったか?」

「これから作ろうかと。ちなみに、門の間のことです」


 門の間の位置は神殿中央部から遠い大聖堂方面にある。


 そこで神殿を守る体制とは切り離し、人員配置による警備体制にする。


 但し、常に警備員を配置する負担が生じる。


 そこで門の間を秘宝殿として公開し、見学料を集めて警備費用を捻出する案をスノウは説明した。


「門の間には秘宝があったのか!」

「それで守りたかったわけだ」

「盗まれたら大変だからか」


 確かに盗まれたら困るものがあった。


 スノウが自作してきた魔石が。


 だが、今は補充石に置き換えられている。


 レリーフ自体は盗めるようなものでもなく、保護のためにも平面保護結界で守られている。


 レリーフが本当に悪魔を封じているわけではないとわかったからこそ、レリーフに対する考え方も対応も変更できる。


「神殿の運営には多額の資金が必要です。だからといって大勢の人々が常に神殿を見学できるようにすると、悪影響が出るかもしれません」


 神殿内部の透明化は進むが、神殿にいる者のプライバシーが侵害される恐れがある。


 神殿内で研究されている新しい魔法・術式・技術などの機密情報が漏れやすくもなってしまう。


 管理体制も警備体制も非常に厳しくしなければならず、対応者の負担が増大しそうだった。


「総合的に考えると、神殿を常時見学させるのではなく、敷地内にある別の場所を見学させた方がいいと思うのです。その候補が最も評判が良い勝利の女神の神殿と貴重なレリーフが見学できる秘宝殿です」


 勝利の女神へ祈りや供物を捧げると加護を得られ、勝負運が上がると言われている。


 アヴァロスの主神の一人でもあるため、勝利の女神の信望者は極めて多い。


 神殿敷地内にある勝利の女神の神殿はアヴァロス最大級。


 莫大な資金をつぎ込んだ結果、国宝クラスの宝庫になっている。


 それらの一つ一つをじっくり見るには一日では足りない。


 何度も見に来れば、来た数だけ多くの発見と感動があるとスノウは説明した。


「スノウは治癒特化コースだろう? いつの間にそのような知識を身につけたのだ?」

「神殿総監として、特別見学者に配っていた豪華パンフレットを読んだ時です」


 ああ、という呟きと笑いが周囲から漏れた。


「新しく作ったパンフレットにも同じようなことが載っています。神殿見学の目玉なので」

「そうだな。他の場所を見ることができるのも貴重だろうが、一番見学したいのは勝利の女神の神殿だろう」


 だからこそ、勝利の女神の神殿だけを公開すれば喜ばれる。


 神殿の主要なエリアを見学できる特別見学との差別化もでき、これまでに見学した者に残る貴重な体験の価値を下げることもない。


「名案のように思える。ただ、祭事がある時は見学できないぞ?」

「そうですね。見学ができない日については事前に告知しないとです」

「むしろ、祭事に特別参加したがる者がいそうだ」

「寄付金を集める案が次々だな」

「皆で力を合わせれば沢山のことができます。では、結界の範囲は門の間を外していいので、可能な限り縮小する方向で設計してみてください。個人的には、勝利の女神の神殿を中心に変えた方がいいと思います」


 スノウの指摘が正しいことを結界部門の者達は知っていた。


 これまでに何度も中心点を変えた方がいいと進言してきたが、高位者会議で跳ね除けられてきた。

 

 神殿の中心は古き時代からある中央正殿であるべき。


 それが伝統。結界のために変更できるわけがないという主張だ。


 だが、結界部門はなぜ神殿の中心と結界の中心点を合わせなければいけないのかと思い続けて来た。


「スノウに任せれば、これまで無理だと突っ張られて来たこと全てが解決するかもしれない。ただ、高位神職者達は猛反対するだろう。説得できそうか?」

「できます」


 スノウは自信満々に答えた。


「総神殿長はきちんと正当性と必要性を説明すれば理解を示してくれます。高位神職者達は自分達の待遇と予算が減少しないかを気にしています。神殿内の無駄をなくして効率化に努め、収入を増やせば祭事予算を上げられます。そのことを伝えれば喜び、耳を傾けてくれるはずです」


 一番説得しにくいのは伝統派。とにかく変更を嫌がる。


 しかし、これまで通りのやり方を続ければ王家や国民から糾弾され、神殿の存在自体が危うい。


 神殿と共に消えてなくなることが本望だと主張されても、最善かではないことは理解して貰える。


 聖女として様々な儀式に出席し、高位神職者達の話に黙って耳を傾けてきた。


 それもまた経験。活用できるとスノウは思っていた。


「私の療養願いは却下されてしまいました。でも、皆が提出してくれた意見書のおかげで療養許可が出ました。とても嬉しかったです。その気持ちを力に変えて、私も頑張ります。高位者会議も乗り気ってみせます。任せてください!」


 スノウはドンッと胸を叩いた。


 その姿から感じるのは力強さと頼もしさ。


 聖女から当代最高と言われるほどの神殿総監になった女性だ。


「頼んだぞ!」

「応援している!」

「協力もするぞ!」

「皆で力を合わせればいい!」

「全員で改革だ!」


 結界部門の者達は拳を掲げ、団結の声を張り上げた。


「ありがとうございます! では、管理部門の方にも話を通してきますね!」


 スノウは笑顔で手を振ると、光速魔法を発動して移動した。


 スノウの姿が一瞬で消える。


 付き添っていたゼノンも同じく。


 まさに光雷のごとし。


 その実力は紛れもなく特級クラスだ。


「速い……」

「短期間であそこまで」

「凄いな」

「やっぱりスノウは頼もしい!」

「その通りだ」


 結界部門長が力強く頷いた。


「スノウを褒めるのも讃えるのもいい。勇敢で素晴らしい女性だ。但し、結界の専門家としては負けられない。勝利の女神の神殿を中心にした結界配置を設計するぞ!」

「はい!」

「わかりました!」

「やっと中心点が変わる!」

「効率アップだ!」


 結界部門の者達はやる気に満ちた表情で自らの仕事に取り掛かった。


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[気になる点] 「全体通達の放送を聞き、結界部門内ですぐにアイディアを募った。リストにしてため、目を通して欲しい」 というセリフの部分ですが、発言者が誰か分からないのはいつものことだからいいとして(多…
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