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聖女からの大降格  作者: 美雪
第八章 

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148 集まって、よく聞いて



 護衛の聖騎士見習いに背負われてスノウは食堂に到着した。


 食堂は騒然となり、慌ててマヌエラや一緒にご飯を食べようと待ち構えていた者達がやってきた。


「お疲れなのです」

「足を使い過ぎて」

「筋肉強化のためにあえて治しません」

「光速を発動できるようになったせいです」


 見習い騎士達がことの顛末を説明した。


 理由がわかったことで食堂内は落ち着いた。


 まずはゆっくり休みながら食事を取ろうということになったが、スノウはしげしげと自分の周囲に陣取った者達を見回した。


「……そろそろ聞こうと思っていましたけれど、私の周囲の席はどうなっているのでしょうか?」


 最初はマヌエラを始めとした討伐支援団に派遣された者達が多かったが、だんだんと違う者、スノウの知らない者も座るようになっていた。


「入れ替わることでしょうか?」


 正式な神殿総監世話役になったマヌエラが応じた。


「そうです。マヌエラ以外は毎食ごとに入れ替わります。なぜですか?」

「スノウ様と一緒に食事をしたがる者が多いせいです」


 正式な世話役になったマヌエラが付き添うのは当然だが、他の者は違う。


 本来は決められた自分の席で食べなければならない。


 そこで上司に許可を求めて席の移動をしていたのだが、だんだんと許可を求める者が増えてしまった。


 役職者達は許可を与えるのが大変になってしまったため、当番のように交代で行くなら許可を求めなくてもいいということになった。


 だが、スノウの周囲の席数は限られている。


 早いもの勝ちは不公平だとなり、各部門で誰が座る権利を得られるのかを決めた。


「スノウ様の周囲の席は各部門に一席ずつ振り分けられています。三百六十五日、朝昼晩の三回ということで計算され、予約者に交代することになっています」

「予約……」


 まるで魔法治療の予約のようだとスノウは思った。


「自分の席があっても別の場所で食べたい者がいるということですよね?」

「そうです。スノウ様の側は様々な話が聞けますし、部門を超えて交流もできます」

「じゃあ、食事の席を自由化できるか会議で聞いてみますね」


 スノウは早速改善しようと思った。


「席を自由化ですか?」

「神職者なのに?」

「そんなことが許されるでしょうか?」


 神職者は規則正しい生活をしなければならない。


 だからこそ、食事の席も決められている。それが当たり前。


 部門分け・階級・序列の意味もあるため、勝手に移動はできない。


 規則を破ると処罰を受けることになっていた。


「自分の席について食事を取るというのは大切なことだと思います。でも、神職者同士で仲良くしたり、会話から知識を吸収して自身を向上させるのは良いことです。食事の時間に良いことができるなら、席を変えてもいいと思います」


 試用期間を設けるだけなら承諾を得られるのではないかとスノウは思った。


「神殿内は部門ごとに壁があって、同じ神職者同士なのによくわからないと感じることもあります。食事席の変更をきっかけにしてより神殿内のことをもっと知って貰えればと思って」

「素晴らしいです!」


 マヌエラだけでなく、周囲の者達もスノウの案に喜んだ。


 だが、上位や高位の者ほど自由化に反対しそうだという意見も出た。


 特に伝統派と保守派の者はうるさいだろうとも。


「では、一部だけということにしましょうか」


 昼食は奉仕活動の合間で忙しく、祈りの時間も短い。


 そこで昼食時の席だけを自由化する。


「伝統や規則を重視しつつ、時々は知識と友愛向上に努めるための場を設けるため、昼食時を活用するという説明をすればいいですよね?」

「それなら大丈夫そうです!」

「時々だけならきっと!」

「神職者は博識でないとですし!」

「友愛は大切ですよね!」


 この提案を部内に広め、賛同者を募って部門長に伝えようと周囲の者は思った。


「皆と一緒にいると、改善すべき点が次々と見つかりますね。一緒に食事をしてくれてありがとうございます!」


 スノウは微笑みながら感謝の気持ちを伝えた。


 その言葉に心を癒される者が続出した。


 スノウの改革・改善は着実に神殿や神職者を良い方向へ導いているとも感じられた。


「スノウ様、ちょっといいでしょうか?」


 教育部門に所属する者が尋ねた。


「何でも遠慮なく言って下さい!」

「修練のことなのですが」


 スノウは加速・浮遊・身体強化の魔法を修練中だ。


 成人してからでも魔法を習得できることを自ら体現しており、神職者の間でも新しい魔法の習得をしたいと思う者が多くなった。


 食事席の自由化が実現されれば、他の部門の者に教えを乞いやすくなる。


 多くの子供達を受け入れる準備に忙しい教育部門への問い合わせも減って嬉しいという感想だった。


「教育部門に問い合わせが多いのですか? 教えて欲しい魔法の専門部署に問い合わせるのではなく?」

「専門部署は基本的に光魔法なので。他の属性については教育部門に問い合わせをするのです。初歩から教える者が揃っているのもあります」

「そういえば、私も最初は教育部門で聞きましたね……」


 知識は魔法書で仕入れたが、実技の初歩については教育部門の者に確認した。


 専門に扱う者がいそうな部署へ行ったのは上達してから。


 食事の際に情報を仕入れることができたのも役立った。


「成人してからの独学は大変ですよね」


 スノウ自身がまさに体験中だからこその言葉だ。


 修練生時は勉強優先だったが、成人すると神職者として担当している奉仕活動が優先になる。


 勉強のためだといって奉仕活動をおろそかにすることは許されない。


 奉仕活動を行い、その合間に独学で修練するしかない。


「修練のために睡眠時間を削るしかない者もいます」

「でも、見つかると怒られます」

「灯りは魔法で出しているのに、ロウソク代が勿体ないと言われます!」

「ロウソクは使ってない!」

「ようするに、早く寝ろってことだろう?」


 様々な意見が飛び交う中、スノウは考えた。


 そして、思いつく。


「教育部門は人手が必要ですので、所属変更の希望者を募りましょうか」


 教育部門に所属すれば、様々な魔法を習いやすくなる。


「他の部門の数が減り過ぎても困るので、派遣もより充実させれるよう整えます」


 所属はそのままだが、特別な授業や臨時の手伝い等で一時的に派遣される者もいる。


 その枠を増やし、派遣中に教育部門の者に習得を目指す魔法について尋ねる機会を得られるようにする。


「大人になってからも魔法の修練をしたいと思う者を支援した方がいいと思います。神殿の人材がより豊富になるのを制限するなんて勿体ないです」

「スノウ様のおっしゃる通りです」

「外部では魔法大学に入って勉強を続ける者もいるのに」

「専門学校だってある」

「大学院もな」

「羨ましい」

「成人後もずっと学び続けられるような神殿になって欲しい」

「そうですね」


 スノウは頷きながら、その部分もぜひとも改革しようと思った。


「この件も会議で聞いてみますね!」


 笑顔と頷きが返された。


 そして、


「あの……私もいいでしょうか?」


 防御部門の者が発言した。


「どうぞ!」

「スノウ様はなぜ防御魔法を修練されないのでしょうか? 私はとても便利だと思うのですが?」

「修練したい魔法が多いほど、各魔法の修練時間が減ります。なので、まずは三種類に絞りました」


 普通は一種類。


 なかなか上達しないこともある。


 だが、スノウは短期間でメキメキ成長していることをその場にいる全員が知っていた。


「加速魔法はかなりの技能では?」

「まだまだです。上位は今朝になって初めて発動できたばかりですから!」

「でも、日々使用するなら下位の魔法で十分では? 神殿内の敷地は広いですけれど、スノウ様の実力はかなりだと思います」


 スノウは黙り込んだ。


 本当は自力でオクルスに行くためだとは言えない。


 自分を王都に引き留めるよう内々の通知が出ているのを知っているだけに、修練を邪魔されたら困る。


「上位の加速魔法よりも先に下位の防御魔法を習得されてはどうでしょうか?」

「身体強化も修練中です。魔法的に効果が被りますよね?」

「そうですね」


 防御部門の者は頷いた。


「でも、明日筋肉痛だという話をしていましたよね? それは身体強化魔法なしで加速魔法を使ったからですよね?」

「そうです。体が耐えきれませんでした」


 一気に疲労がどっと来た。


「体? 足ですよね?」

「そうですね。足が限界だと感じました」

「防御魔法を使えば大丈夫です。魔法の反動にも耐えられるので、筋肉痛にもなりませんが?」

「え?」


 スノウは驚いた。


「筋肉痛にならない?」

「防御魔法なので当然です」

「でも、それは……えっと、自分の内側のダメージですよね? 外側から受けるダメージではなくても、防御魔法で平気ということですか?」

「種類によりますが、身体強化と同じような効果の防御魔法があります」


 それを使えばわざわざ強化魔法を使う必要はない。


 ただ、魔法中に防御魔法の効果が切れないようにしなければならない。


「魔力は人を守っています。それを自らの意志で強くしたのが防御魔法です。一時的に体の一部分を強化するわけではなく、全体を強化するわけです」

「一部分? 体の全部ですよね?」

「全部を強化するのは大変ですよね? なので、普通は一部分だけを強化しますよね?」


 スノウも周囲も認識が違うことに気づいた。


「まさか、スノウ様は体の全てに強化魔法を?」

「足だけでなく?」

「手も?」

「胴体も?」

「まさかそのせいで頭が冴え切っているのですか?」

「それは無理。あくまでも力的なものだろう?」

「未知の付属効果とか?」


 ザワザワザワ。


 聞き耳を立てていた者達も話題にし始めた。


「すみません。間違えていたようです。体全部を強化するのが身体強化魔法だと思っていました」


 スノウはしょんぼりと肩を落とした。


「あ、いえ、そうではなく……全部を強化できるのであればそれはそれで……でも、魔力消費も凄いですよね?」

「え? 凄くないですよ? 一つだけですし、節約しているので消費も多くないです」


 キョトンとしながらスノウは答えた。


「全身強化を一つの魔法で?」

「それって上級から?」

「全身は最上級だ」

「高位のもある」

「だが、魔力消費が大きいはずですよね?」

「少ないということは、オリジナル魔法だ!」

「凄い!」

「もしかして、防御魔法なんじゃ……」

「筋肉痛が出るなら強化じゃないか?」


 ざわめきは余計に大きくなった。


「スノウ様、お時間がある時に防御魔法部門に来ていただけないでしょうか? 防御魔法と強化魔法の違いや効能について確認していただいた方が良いのではないかと」

「すみません。勉強不足で」

「いえいえ! ちょっとだけでもスノウ様のお役に立てたらと思っただけなので」


 ちょっとどころではない。


 重要な間違いに気づいたとスノウは思った。


 すぐにでも防御部門へ行きたいが、午前中は魔法治療部門のサポートと会議がある。


「午後の第二予診が必要かどうかを確認したら行きます。部門長にも伝えておいていただけないでしょうか?」

「わかりました! 大歓迎します!」

「ありがとうございます! でも、会議があるのでそれまでの時間だけというか」

「わかりました。手短にご説明できるよう準備しておきます!」





 午後。


 第二予診後にスノウは防御部門を訪れた。


「ようこそ防御部門へ!」

「ありがとうございます!」

「スノウ様のおかげで日陰部署と言われなくなりました!」

「討伐支援団に参加できてよかったです!」


 スノウは防御部門から熱烈に歓迎された。


「こちらこそ、ご協力ありがとうございました! 実力が発揮できる機会があって良かったですね!」


 スノウはにっこりと微笑んだ。


「早速ですが、私は勘違いをしていたようです。防御部門についてよく知るためにも、防御魔法と強化魔法の違いを少しだけでも教えていただけたらと思って」

「みっちり教えたい」


 そう答えたのは防御部門長。


「だが、時間がないと聞いた。後でも読めるよう午前中に資料を作った。ざっと私の方から説明しよう」

「ありがとうございます!!!」


 スノウは喜びながら分厚い資料を受け取り、部門長からの説明をしっかり聞いた。


「……なるほど。全部を強化するなら防御魔法の方が得なのですね」

「そういうことだ。身体強化はあくまでも一部だけの時にした方がいい」


 浮遊魔法のバランス調整と落下防止には身体強化魔法の方がいいとスノウは思っていた。


 だが、総合的には防御魔法で全身を守る方が良さそうだとわかった。


 但し、自分の体を魔法なしでも大丈夫なように鍛えることはできない。


 防御魔法が切れたらそれまで。元々の状態になる。


「細かく見るほど防御魔法の種類も多いですね。こんなにあるとは知りませんでした!」

「防御魔法は奥深い。そもそも、防御魔法がなければ、強い魔法も生まれなかっただろう」


 なぜなら、威力のある魔法ほど、魔法の反動に耐えれる状態を必要とするからだ。


 魔力が多いだけでは耐えきれないほどの魔法が生まれている証拠でもある。

 

「取りあえず、基本の防御魔法を試してみます」

「ぜひ、そうしてみて欲しい」

「本当にありがとうございました。もしかすると、防御魔法を使えば上位加速魔法との併用が可能かもしれません!」

「普通は併用可能だが?」


 スノウは身体強化魔法を全身に効率よくかけるオリジナル魔法を一つだけ使っているつもりだった。


 だが、実は体の部位ごとの身体強化魔法を複数同時に発動させている。


 そのせいで調整がしにくく、他の魔法との相性が悪くなっているのではないかというのが防御魔法部門の見解だった。


「本当に本当にありがとうございました! これからも頑張ります!」


 きっとこれで進める! オクルスへ、ルフの所へ向かって!


 スノウの全身に喜びとやる気がみなぎっていた。


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