130 追加作戦
「ヴェラ!」
スノウはルフの腕の中から抜け出すと、今度はヴェラに抱きついた。
「何だか久しぶりのような気がします。体調はどうですか?」
「昨日はごめんね? でも、疲れちゃって」
ヴェラは一回目の討伐に参加しなかった。
魔力を回復するためにも休養が必要で、王宮魔導士としての勤務を考えてのことだった。
「気にしないでください。ヴェラの所属は王宮魔導士団です。王宮魔導士団は討伐には参加していません」
「そうなのよねえ。支援の話も出てないし」
「でも、今夜は違うのですか? なぜここに?」
「仕事よ。王太子殿下への伝令として来たの」
「そうでしたか」
スノウは納得した。
「じゃあ、すぐに帰ってしまうのですね」
「普通だったらそうね。でも、王太子殿下がスノウにも伝えてくれって」
ヴェラが伝令として伝えた内容は魔物の生け捕りについてだった。
これまで持ち帰られたのは死骸ばかり。
より詳しく生態を解明するためにも、今夜の作戦が終了する際にザリガニ型と魚型の魔物を生け捕りにして持ち帰れという国王命令が出た。
「今夜でなくても魔物は沢山いると思うけれど」
「倒しても倒してもキリがないぐらいですからね」
「ただ、魚は釣りをしないと駄目よね?」
ユージンがピクリと反応した。
「わしが釣ろう」
「やっぱり! 王太子殿下もユージン先生が適役だと思ったみたいです」
真夜中頃になればスノウが起きる。
その際に指揮を交代して、ユージンに魚型の魔物を釣って欲しいというのがジークフリードの要望だった。
「釣りの道具はお持ちでしょうか?」
「ある! 巾着に入れておいた」
「さすがユージン先生!」
「だが、問題がある。泥で濁っていて水の中がわからん」
魚がいそうなポイントがわからない。
ポイントを変えながら釣りをするとしても、一人で調べるのは辛い。
「カーターにも手伝って貰っても良いか?」
「カーター先生も釣り道具を持っているでしょうか?」
「常備しておる」
「特別な水槽を持ってきました。総合本部にありますので、生け捕りにしたのはそれに入れて欲しいのですが」
「一人で釣って捕えて運ぶのは辛い」
「ですよねえ」
ヴェラがにやりとした。
「なので、私がお手伝いをします。水槽に入れるのも浮遊サポートもお任せください!」
「おお! ヴェラがいれば心強い!」
「でも、カーター先生もですよね? 別行動をするならもう一人風使いがいないと」
「何匹ぐらい必要だ?」
「水槽は二十あります」
一匹につき一つの水槽を用意した。
捕獲した後は転移魔法か馬車で運ぶことになる。
「少し離れた程度の位置で釣りますか? それなら私だけでもお二人をサポートできると思います」
「糸を伸ばして、別々の方向へ投げ入れればいいか」
「それもありです」
「各十匹ならすぐかもしれない。地底湖では入れ食い状態だったからな!」
急遽、魔物の生け捕り作戦が決行されることになった。
総合本部へ関係者が集まって話し合った結果、当初より多くの者が参加することになった。
「では、各自の役割を確認する」
釣り師はユージンとカーターで、魚型とザリガニ型の魔物を十匹ずつ釣る。
釣った魔物を水槽に入れるサポートはヴェラ。
土塁上での作業になるため、巨大な魔物の警戒役としてスノウとマヌエラも同行。
出現と防御に備えてゴードン率いる特殊部隊も同行。
浮遊サポートは魔力に余力のあるジークフリード。
水槽への水入れと捕獲した魔物の管理はワイアットとイエル。
必要ない魔物の処理はグウィンとトレフェ。
オルフェスは撮影係。
護衛騎士のオリバー、ノールド、アルト、クラースは護衛担当。
四人は王族二人を最優先に守るため、ルフとゼノンも護衛要員として同行する。
「こんな感じだが、大丈夫だな?」
「大丈夫だ」
撮影用の魔法具を覗き込みながらオルフェスが答えた。
「バッチリです!」
ヴェラも勢いよく杖を上げた。
他の参加者も頷き合う。
「では、魔法騎士団長。後は頼んだぞ!」
本部の主要メンバーが釣りに行くため、全体指揮は魔法騎士団長が一時代行することになった。
「どうかお気をつけて。グウィン、わかっているな?」
「命にかえてもお守りします」
「戦闘は控えろ。退避優先だぞ!」
魔法兵団長も見送りをしてくれた。
「行くぞ!」
浮遊状態で前進。
総合本部の置かれた北西方面の水辺で釣りが開始された。
「釣れない」
「そうだな」
ザリガニはあっという間に釣れた。
だが、魚が全然釣れなかった。
「よく考えたら、魚を見たのは最初だけじゃないか?」
しかも、動かずに浮いた状態で、いつの間にかなくなっていた。
「元気に動き回っている姿を見たか?」
「地底湖ならいたが」
「地上では見ていません」
「見てない」
「見てないですね。水辺をずっと見ていたわけではありませんが」
水辺での戦闘は危険ということで、土塁を越えた魔物を対処するという方針だった。
魚は水中に生息しているため、最初の討伐では一匹も倒していない。
「もしかして、地上湖にあの魚はいないのかも?」
ヴェラの予想を否定する者はいなかった。
元気に泳ぎ回る姿を見ていない以上、否定できない。
「地底湖って、意外と綺麗だったよね?」
「水質ということでしょうか?」
イエルの質問にワイアットが尋ねた。
「そう。濃い魔力水でちょっぴり毒性があるみたいな感じだったけれど、透明度が低いわけじゃない。周囲が暗すぎて良く見えないだけでさ」
「そうですね。透明度についてはここよりもはるかに上です」
「ここは泥のせいでかなり濁っている。ザリガニがいっぱいいるせいか濁りも落ち着かない。それでいないのかもね?」
「ありえます。泥水を忌避するのかもしれません」
「そうなると、釣れないな?」
「釣れないでしょうね」
グウィンとトレフェが確認するように発言した。
「比較的透明度が高い場所ならいるかもしれない」
「夜よりも昼に来た方が透明度を見分けやすい」
「そうだな。オルフェス、昼間の様子を撮影していないか?」
「撮影したが、分析に回してしまった」
撮影された映像から釣りのポイントを探すのは無理だった。
「昼の方が魔物も少ない。安全に釣りができるかもしれない」
「夜行性だと釣れないかもしれないが」
「前に見たのは午後でしたが?」
「地底湖は暗い。地上は相当明るく感じるだろう」
様々な可能性がある。判断しにくい。
「今夜は早めに撤収するつもりだった」
討伐はわざと土塁を崩して行っている。
それを作戦終了前に修復しておけば、昼間の監視が楽になる。
「さっさと土塁を修復して、できるだけ大勢で釣りをする手もある」
「釣り竿がないような?」
「魔法兵団の備品でないか?」
「釣り竿は常用装備ではないので……」
その時、
「仕方ない」
カーターが口を開いた。
「個人的に所有している釣り竿を貸してもいい。但し、レアなものは駄目だが」
釣りが好きなカーターは多くの釣り竿を個人的に所有しており、魔法の巾着に入れていた。
「わかった! 壊してもいいやつを貸してくれ!」
「壊していいのはない。だが、事情が事情だけに特別に貸すというだけだ」
「必ず直す! 弁償金でもいいぞ!」
「王太子殿下を信用する。できれば最新式の釣り竿に交換して欲しい」
「それで決まりだ!」
話がまとまった。




