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聖女からの大降格  作者: 美雪
第八章 

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114 援護要請



「遅いですね」


 調査員一人、聖騎士一人が戻ってこない。


 調査員が多忙でも聖騎士がいる。


 拡声魔法での通達が聞こえないわけがなかった。


「魔石が見つからないのかもしれません」

「今日はなかなか見つからなかった」


 他の調査員達も意見を言い合う。


「いつもより早めの時間なので駆除していなかったとか?」

「集めると聞いて慌てて駆除しているとか」


 洞窟ザリガニをおびき寄せるのは簡単だ。


 魔力のある非生命体を水辺に近づけると、魔力感知で寄ってくる個体がいる。


「水魔法を水面に投げれば次々来ます」

「魔法剣にも寄ってきます」

「それは駄目だ」

「剣にまとわりついて攻撃しにくくなる」


 自分で風魔法が使える者はいいが、土魔法の使い手だと払いにくい。


 浮遊魔法で空中に逃げにくいため、危険だという意見が多く出た。


「通常剣で倒した方がいい」

「数が多くなってきたら範囲魔法だ」


 聖騎士達は毎日のように洞窟ザリガニを駆除している。


 戦い方についてもそれぞれが工夫していた。


「嫌な予感がします。集合していないのは土使いです」


 逆転移は使えるが、浮遊魔法は使えない。


 一緒にいる調査員が浮遊魔法を使えればいいが、戦闘中における魔法の連携やサポートに慣れているとは思えなかった。


「調査員を先に戻らせてもいいでしょうか? 聖騎士に探しに行かせます」

「そうしよう」


 聖騎士は二人一組で戻って来ていない二人を探すことになった。


「もう少し時間がかかりそうだ」

「魔石が落ちているか見てみるか」


 オルフェスの言葉に応えるようジークフリードは足元の方を良く見えるよう光源を強くした。


「少し数を減らすぞ」


 一つ当たりの光源が強くなると眩しくなりすぎるため、ジークフリードは適度に光源の数量と数を調整した。


 しばらくオルフェスは足元を睨んでいたが、魔石は一つも見つからなかった。


「全然ない!」

「もっと水辺の方かもしれない」

「以前はこの辺りまで水があったはずだ」

「調査員が日々拾っている。そのせいだろう」

「そうだ!」


 オルフェスは思いついた。


「魔法探知で探せばいいか」

「無理でしょう」


 魔石は極めて小さくその力も微弱だ。


 魔法水の湖が近いせいで正確に探知しにくい。


 近距離かつ極めて能力が高い者でなければ正確な探知はできないだろうとローイは予想した。


「確かに湖の気配は邪魔だ。魔物の気配も全くわからない」


 魔物が生息する場所は通常の自然界とは環境が異なっている。


 人間が足を踏み入れれば、どのような事態が起きるかわからない。


「緊急通達! 魔物多数! 援護してくれ!」


 拡声魔法による救援要請が響き渡った。


「ザリガニが多く来たのか?」

「ゴードン様、サポートをお願いできませんか?」


 ゼノンは自身も救援に行くため、ゴードンに支援を頼んだ。


「奥だとスノウ達の魔法効果を延長できません」


 ヴェラでは光属性の防御魔法が使えない。


 空調機器を一時的に使用することで空気環境は改善しているが、防御魔法なしで活動できる場所ではない。


「私が行くか」


 光魔法も風魔法も使えるジークフリードが名乗り出た。


「私も行く。習得した魔法を使ってみたい」


「俺も行く。戦闘経験を増やしたい」


 オルフェスとルフも名乗り出た。


「スノウとローイはヴェラと共に地上へ退避しなさい」


 ゴードンは自分が行った方が良さそうだと判断した。


「私の風で魔物を吹き飛ばした方が早いような?」


 わざわざ魔物と戦闘をする必要はないとヴェラは思った。


「どのような習性の魔物が見ておきたいですね」


 ローイも同行を申し出る。


「全員で移動してさっさと片を付けよう」


 話し合っている時間が勿体ないと感じたジークフリードはそう判断した。






 浮遊魔法で奥の方へ移動したスノウ達は聖騎士達が戦闘を行っている様子に驚いた。


 光源が少ないせいで見えにくいが、相当な数の黒いものが動いている。


「光源を出す! 眩しくなるから注意しろ!」


 ジークフリードは声をかけてから一気に多くの光源を出現させた。


「おいっ!」

「なぜこんなに?」


 想像以上に多くの洞窟ザリガニがいた。


 以前よりも大きい個体が増えている。


「全部、水の中から出て来たのか?」


 多くの光源で照らされても逃げない。


 聖騎士達は小刻みに範囲魔法を混ぜて駆除しているが、湖から次々と洞窟ザリガニが姿をあらわしていた。


「夜のような状況です」


 以前も広範囲で同じような状態になり、消耗戦になってしまう危険性を感じた聖騎士団長は全員退避を指示した。


「氷魔法を使います! その間に転移か浮遊を!」


 ゼノンは叫ぶと、氷魔法を範囲で展開した。


 水辺の方から次々と凍りついた洞窟ザリガニが動きを止める。


「今の内だ!」

「転移だ!」

「浮かべ!」


 だが、数人が残ったままだ。


「誰か浮遊魔法をかけてくれ!」

「転移できない!」

「浮遊できない!」

「邪魔される!」


 聖騎士達が悲愴な表情で叫んだ。


「ヴェラは手前を。私は奥からにします」

「了解」


 すぐにゴードンとヴェラが手分けして浮遊魔法のサポートに入った。


「ヴェラ~!!!」

「助かった!」

「ゴードン様、ありがとうございます!」

「死ぬかと思った」

「心臓が止まりそうだった」


 土使い達は九死に一生を得たような様子で集まって来た。


「全員、転移魔法ができなかったのですか?」

「不発でした」

「スペースがない判定になったようです」

「魔力が安定しません」


 足元には魔物がひしめいている状態。


 魔物は魔力を吸引するために向かって来るため、魔力が定着せず魔法陣が発現しないようだった。


「浮遊している者からサポートした方が確実だ」

「ここは地中だけに風魔法は使いにくい」

「土魔法も使いにくい気がする」

「湖があるせいで水が有利か」

「移動するぞ!」


 全員が浮遊状態だが、空中転移ができない者もいる。


 まずは浮遊状態で出入口まで移動し、安全な状況を確認した者から逆転移を含めた転移魔法での脱出を行うことになった。


「よし。ここからなら逆転移もできる。直接地上へ出られる者は」


 その時だった。


 轟音が響き渡り、立っていられないほどの揺れが起きた。


「地震だ!」

「崩れている!」

「地上へ転移しろ!」


 続々と転移魔法が発動していく。


 スノウとルフは驚いているうちにゴードンの転移魔法によって転移した。


「どこだ?」


 上空転移。


 地上でも地震が起きていることを想定したからこそ、安全な上空にゴードンは転移した。


 遺跡が発見された穴や付近にある建物が下に見える。


「向こうを見て下さい!」


 スノウが叫んだ。


 遺跡側に形成された仮設地から少し離れた一帯が陥没していた。


「地震のせいでしょうか?」

「この辺りは地盤が緩いのか?」


 すでに工事は止まっているはずだけに、突如陥没が起きてしまった原因はわからない。


 だが、地震が起きたのは陥没によって土砂崩れた起きたことに関係していそうだった。


「すぐに報告しなければ」

「本部に報告して来ます!」

「一緒に行きます」


 ゼノンとヴェラが伝令役として転移した。


「ゴードン様、一般の方が多くいます。クロスハートまですぐに避難させた方がいいのではないでしょうか?」

「そうですね」


 ゴードンもその方がいいと感じた。


「ですが、地震が起きて混乱していることでしょう。やみくもに避難を呼びかけてはいけません」


 慌てて避難しようとした者が一気に同じ方向へ流れれば混雑によって経路が塞がってしまう。


 避難がスムーズにいかなくなるだけでなく、怪我人が出てしまうかもしれない。


「避難については魔法騎士団と聖騎士団に任せた方がいいでしょう」

「では、救護関係のお手伝いをします。医務室がどこにあるのかご存知ですか?」

「いいえ。ゼノンに聞けば良かったですね」


 すでにゼノンはヴェラと共に本部に行ってしまったため、スノウ達も状況を見ながら本部の方に行き、医務関係者の手伝いをすることにした。


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