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聖女からの大降格  作者: 美雪
第八章 

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105 検証



 通路の間にはジークフリードとオルフェスの護衛であるオリバー、ノールド、アルト、クラース、そしてラフターがいた。


「話し合いは終わったのか?」


 スノウとルフが戻って来たため、ラフターが声をかけた。


「いいえ。準備中です」

「準備中?」

「その間に博識なラフター様にお伺いしたいことがあります。かつて門の間は通路の間とつながっていたというのは本当でしょうか?」

「本当だ」


 相当昔のことではあるが、最初は転移魔法でなくても行けるようになっていた。


 だが、特別な部屋を見たいと思う者が密かに出入りする事件が起き、門の間にあった貴重品が盗まれてしまった。


 そこで防犯のために通路を全て塞ぎ、転移魔法でしか行けなくなってしまったと伝えられている。


「ラフター様はご自身で転移できるので、門の間がどの方向にあるのかわかりますよね?」

「当たり前だ」

「ルフもわかりますか?」

「わかる」

「こっちの方角ですよね?」


 スノウは壁の一つを指差した。


「そうだ」

「ノールド様、ここから門の間までまっすぐに通路があったとして、それは探索魔法でも調べられるのでしょうか?」

「無理だ」


 神殿には結界がある。


 そのせいで結界内の探索魔法が制限されてしまうのだ。


「結界がなければ調べられるが」

「そうですか。残念です」

「スノウは通路が今も残っているのか知りたいのか?」


 ルフが尋ねた。


「そうです。防犯のために通路を埋めてしまうのはさすがにやり過ぎだと思ったので」

「仕方がない。極めて貴重なものがある」


 ラフターの口調は揺るぎない。


 それは門の間やレリーフ、言い伝えの全てを強く信じ切っている証拠だった。


 信じることは大切だが、妄信は視野を狭めると思うが?


 ルフがそう思った時だった。


 ゴードンが転移して来た。


「戻りますよ」


 部屋にいた全員が手分けして魔石を外したため、作業はすぐに終わった。


「三人一緒に」


 ゴードンはスノウとルフを連れて転移した。


 門の間にあるレリーフにはスノウの自作した十個の魔石だけが残っている状態になっていた。


 そのせいで部屋が相当暗く、ジークフリードが別の光源を出していた。


「交換用の石はここに入っている。こっちにスノウの自作した魔石を入れた」


 ジークフリードは二つの巾着を差し出した。


「ありがとうございます」

「私がやろうか?」

「大丈夫です。それよりも部屋をもっと明るくしていただけるでしょうか?」

「わかった」


 ジークフリードが部屋の中央の天井付近に光源を出したため、一気に部屋が明るくなった。


「浮遊魔法も欲しいのですが」

「俺がかける」


 ルフがスノウに浮遊魔法をかけた。


「では、先に結界用と鍵の場所を確認したいので場所を教えてください」

「結界と鍵の場所?」


 総神殿長は怪訝な表情になった。


「確認してどうする?」

「術式があるはずです。何もはめ込んでいない状態でも大丈夫かどうか調べようと思って」

「そういうことであれば仕方がない」


 すでに一番重要な場所がどこなのかは知られている。


 隠しても仕方がないと総神殿長は思った。


「スノウ、鍵の場所はここだ」


 スノウがレリーフを調べることをあらかじめ知っていたオルフェスは、はやる気持ちを必死に抑えながら鍵のくぼみの側で待っていた。


「ここにはめた魔石を取ると結界が消える」

「なるほど」


 スノウは早速巾着に手を入れ、取り出した石を強く握りしめながら魔力を込めた。


「では、ちょっと調べてみますね」


 スノウの手が開く。


 そこにあるのは光属性の石だった。


 それを鍵の場所にはめ込むと、レリーフ上に淡い光があらわれた。


 結界だ。


「馬鹿な!」


 総神殿長は信じられなかった。


「結界用の魔石は一つだけでいいようだな?」


 ルフがそう言うと、オルフェスは堪えきれずに笑い出した。


「十個必要だと言ってなかったか? 間違っているではないか!」

「試しにはめ込んで見ればわかるというのに」

「歴代の総神殿長は結界の専門家ではないばかりか、このレリーフについて詳しく調べようとは思わなかったようですね?」


 古い時代の結界は今のように複雑で高機能なものではないだけに魔力消費は少ない。


 範囲も狭い。壁の一面だけ。


 いくら魔法文明が遅れていたからとはいえ、必要とされている魔石も予備石の数も多すぎる。


 鍵石によって結界があらわれたり消えたりすることを考えれば、鍵石だけは必須。


 むしろ、鍵石だけで結界を張ったり消したりできるのではないかという疑問が生じなかったのかとゴードンは不思議に思うばかりだ。


「鍵石だけあれば結界が張れるようですね!」


 まさにそれが実証された。


「なので、それ以外の魔石は予備石も含めて必要ありません」

「予備は必要だ! いつ魔力が切れるかわからないではないか!」

「大丈夫です。補充石なので」

「ほ、補充石だと!!!」


 魔力がなくなった魔石に再度魔力を注入した補充石は魔石よりもずっと安価。


 広く普及している一般品だ。


「この部屋には魔法機器の空調があります。それと一緒にレリーフの方も確認して魔力を補充すればいいだけです。長期間に渡って確認しなくていいという理由のためだけに高価で貴重な天然の魔石や自作の魔石を使用する必要はありません」


 昔は補充石がなく、天然か能力者が自作した魔石しかなかった。


 それだけにいつ切れるかわからないことを考え、魔石の在庫を用意しておくという考えがあったのだ。


 しかし、魔法文明の発達で補充石が誕生した。


 わざわざ稀少で高価な天然の魔石を使用しなければならない理由は全くない。


 光が消えていないか、不具合が起きていないかを確認するついでに魔力を補充すればいい。


 魔法機器を作動させるためのエネルギーであることを考えれば、補充石の方が利便性も安全性もコストパフォーマンスも優れているのだ。


「次の場所を調べますね!」


 スノウは補充石を外して結界を解くと、結界用とされていた石のはめ込まれていたくぼみを教えて貰い、白いものを押し込み始めた。


「スノウ、それは何だ?」


 総神殿長は見ただけで白いものが何かを判別できなかった。


「魔砂粘土と呼ばれるものです」


 砂状になった魔石のくずを練り込んだ粘土だ。


 魔石不足を補うために考案された類似品だが、必要なサイズや形状に変えやすいために重宝されてる。


「調べるために使っているだけなので、後で全部外します」


 十カ所に魔砂粘土を入れ終わると、再度鍵の場所に補充石をはめる。


 発動した結界は先ほどよりもやや強く光っているだけでなく、魔砂粘土もわずかに発光していた。


「結界用のくぼみは補助石を配置する場所ですね。でも、結界の効果を増すわけではないので必要ありません」


 スノウはレリーフの側まで来ていたゴードンに顔を向けた。


「ですよね?」

「そうです。古い時代の結界術式では魔力量に応じて結界の強度を上げることはできません」


 当時の魔法や技術は遅れており、光が強くなれば魔法も強くなると考えられていた。


 補助石をつなげると結界が強く発光するため、結界の強度も効果も上がると勘違いしてしまったというのがゴードンの推測だ。


「連動性については理解していたようですが、直線配置ですので初期の段階でしょう」

「『悪魔の門』も調べます」


 スノウは空中を階段のように昇った。


 そして、戦いの神の目にはめられている魔石を取り出した。


「まさか……すべて外してしまう気なのか!」

「交換するには外さないとですが?」


 総神殿長は顔をしかめたまま黙り込んだ。


 スノウは取り出した自作の魔石をまたすぐに戻した。


 それを何度か繰り返し、逆の目についても同じように外したりはめ込んだりを繰り返す。


 なぜそのようなことをするのか総神殿長にはさっぱり理解できなかった。


「どうだ?」


 しびれを切らしたオルフェスが尋ねた。


「予想通りでした。ただの灯りですね」


 嘘だ!!! 空耳だ!!!


 総神殿長はそう思った。そうでなくてはならないとも。


「このレリーフは極めて重要なもので、世界に悪魔が溢れ出ないよう封じていると言われているのですよね?」

「……そうだ」


 総神殿長は戸惑いながらも答えた。


「魔石をはめ込んでも魔力はほとんど流れていきません。他の場所と連動するような兆候もありません。魔法を発動させる動力源にはなってはいないということです」


 今のスノウは魔力が回復しているため、自作した魔石の魔力がどのように流れているのかを感知することができる。


『悪魔の門』のためだと伝えられているくぼみにはめこまれた魔石の力は別の場所へと流れていかない。


 一番近くにある目の場所も同じ。二つの場所は術式による直結した状態での連動をしていないのだ。


「部屋が明るいとわかりやすいのですが、くぼみの中に小さな黒い丸いものがあります。これは汚れでもゴミでもありません。埋め込まれている伝導体です。ここに魔石が触れると魔石が光ります」


 魔石が光るのは術式の動力源になっているせいではなく、伝導体に触れることで魔力が流れ出すために生じる現象だった。


 通常はこの伝導体がつながるような部分に術式があり、魔法を発動させる。


 その場合はより多くの魔力が流れて消費されることになるが、そのような兆候もない。


 つまり、


「『悪魔の門』用の魔石は伝導体と魔石の接触を利用した灯りです。レリーフをより素晴らしく見せるためのライトアップと言うべきかもしれません」


 そんなはずはない!!! 悪魔を封じているのだ!!!


 いくらスノウが真面目で勉強家で嘘をつかない者だとしても、到底信じられないと総神殿長は思った。


 だが、総神殿長以外の者達は検証結果に満足していた。


「他の場所で見つかったレリーフと同じだな」

「古い時代のままということであればその程度の装置です」

「複雑な魔法も技術もない時代だからな」

「秘密の門を閉じている魔法はないのか。残念だな」


 ルフの言葉は本心。


 古い時代から脅威と思われて来た存在がどこかにいると思うと恐ろしいが、門を封じている魔法や術式については興味があった。


 だが、今よりも魔法文明が遅れていた時代のことだけに、あまり期待しない方がいいとゴードンに言われた。


 そして、オクルスに集まった者達がそれぞれの知識や考察力を合わせてレリーフのことを考え、必要そうなものを準備し、総神殿長の目前で検証を行うことにした。


 神殿の奥深くに隠されていた特別なレリーフの真実が今まさに明らかになった。


 レリーフは歴史的にも文化的にも魔法技術の進歩を確認するためにも極めて貴重。


 代々のアヴァロス国王や総神殿長が神の偉大さを感じて崇拝するためのレリーフであり魔法具。


 だが、世界に悪魔が溢れないよう封じているわけではない。


 貴重な魔石を大量に集め、伝導体との接触で光らせることで世界は守られていると妄信していただけだった。


「無駄の極致だな」


 貴重な魔石を集め、みすみす力を失わせている状態と同じ。


「贅沢の極みでもある」


 国王と総神殿長及び一部の選ばれた神官だけが味わえる天然魔石を使った豪華なライトアップ。


「ただの灯りなら松明でもいいというのに、通路を塞いだせいでそれもできません」


 必要ない魔石を集めたせいで防犯上の問題が生じ、通路を塞ぐことでより魔石や転移魔法に頼らなければならない状況になった。


 秘匿性と神秘性は増したが真実を探る機会が失われ、光属性の魔石という重い負担が脈々と受け継がれることになった。


「近距離で魔石を配置すると不具合が起きやすくなります。単純な結界の術式だけだったので魔法事故が起きなかったのかもしれません。不幸中の幸いでしょう」

「全部、補充石に交換しますね」


 スノウは次々と自作の魔石を外し、巾着から取り出した補充石と交換した。


 勝利の女神の手の上にも大きな補充石が置かれた。


「大きい補充石のサイズですが、驚くほどぴったりです!」

「良かった。補充石でも大きなサイズは少ないからな」


 必要な物品を揃える担当だったジークフリードは安堵するように息をついた。


「この部屋は暗いので、光る方がいいですよね」

「そうだな。アヴァロスと呼ばれていただけに光り輝いていて欲しいと思った」

「随分穴が空いた」


 全部で百十一個のくぼみがあったが、補充石がはめ込まれているのは十一個のみ。


 百のくぼみが空いた状態だ。


「神殿には莫大な資金がある。宝石でもガラス玉でも好きなものをはめ込めばいい」


 かつて魔石がはめ込まれていた貴重なレリーフのほとんどは代替え品をはめ込んでいる。


 このレリーフについても同じようにすればいいだけだった。


「総神殿長様、ここへつながる通路が残っているなら掘って開通させた方がいいと思います。魔石を盗まれる心配はもうありません。補充石しかありませんから」

「そうだな。わざわざ転移でしか来れないようにする意味はない」


 ジークフリードも通路を使って来ることができるようにした方がいいと思った。


「転移魔法が苦手な国王でも安心してこの部屋に来ることができる。護衛も一緒で問題ない。貴重なレリーフを見せてやればいい」


 想像を絶する衝撃を受けた総神殿長はすぐにでも自室に駆け込んで寝込みたい気分だった。


 しかし、転移魔法でなければこの部屋から出ることはできない。


 転移魔法を使えない総神殿長は移動における不便さを嫌というほど実感した。


「……スノウ、回収した魔石はどうするのだ?」

「取りあえずは自分の治療に使ってみます」


 魔石を使った治療でスノウは命をとりとめただけでなく魔力も回復した。


 残っている魔石を自身の治療に有効活用できる可能性が高い。


 そう伝えれば回収に反対されにくいと予想していた。


「そうか」


 総神殿長は仕方がないと思った。


 正直に言えば、今はもう何も考えたくない。早く終わりにしたかった。


「では、これで報告は終わりです。オクルスで療養しながらリハビリします!」


 スノウは意気揚々と宣言した。




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