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聖女からの大降格  作者: 美雪
第八章 
103/243

103 回復状況



 数日後。


 呼び鈴が鳴った。


「ジーク達だ」


 ドアが開いて、ジークフリードが入って来た。


「相変わらず雪が凄いな!」


 ジークフリードは中庭から浮かび上がり、周囲の状況を見てから来た。


「見た目が寒い」


 オルフェスも一緒だ。


 仲が悪かったのはいつの話なのかと思えるほど、ジークフリードと共に行動している。


「今日の土産はボードゲームだ!」


 ジークフリードは魔法の巾着から箱を取り出した。


「色々な種類のものを持って来た。これなら部屋の中で遊べるぞ!」

「スノウ、これを」


 オルフェスはピンクのバラの花束を差し出した。


 王都では季節に関係なく魔法栽培された花が売っている。


「とても綺麗ですね。ありがとうございます!」


 スノウは花束を受け取った。


「容器入りですか?」

「軽量花瓶だ。葉と茎の手入れもしてある。棘はない。包み紙を取って水を入れればいいだけになっている」

「助かります!」

「トランプも持って来た。一箱しかなかっただろう?」


 オルフェスは最高級ブランドのトランプも持って来た。


 特別なコネがないと手に入らない貴重な品だ。


「これなら人数が増えても遊びやすい。二手に分かれることもできる」

「食品も持ってきたぞ!」


 オクルスにいる人数が多いほど、食料の減りが早くなる。


 大量に蓄えているのは知っているが、足しになるよう厳選した食材をあれこれ持って来た。


「酒類もかなり持ってきた」


 ユージンは酒豪。


 寒い場所だけに体を温める飲み物が欲しくなる。


「ノールドはさすがだ! よくわかっておる!」

「前回好評だった米も大量に持ってきました」


 オリバーがそう言うと、次々と喜びの表情が浮かび上がった。


「ありがたい!」

「ドリアが食べたいわ!」

「おにぎりがいいです!」

「オムライスでも?」


 大量の土産品が取り出され、ルフとゼノンが検分しながら保管庫に運ぶことにした。


「ヴェラ、お茶を頼めるか?」

「了解!」

「私もお花を飾ったら手伝います」


 ヴェラはスノウの手を取ってキッチンへ転移した。


 ジークフリード達はテーブル回りの椅子を詰めて貰いながら座った。


「……もう花はいらないんじゃないか?」


 食堂には沢山の花が飾ってあった。


 オルフェスが持ってきたもの以外にも、見舞い品として届けられたものだった。


「延命剤を入れているのか?」

「入れていません」

「スノウがいるので必要ない」

「そういうことか」


 ジークフリードはため息をついた。


「で、どうなんだ? 体調は悪くなさそうだが」


 スノウのことだ。


「ようやく安定してきました」


 ゴードンが答えた。


「そろそろ話をしないといけないとは思っているのだが、二人だけの時に何かあったらと思うのもあってな」


 ルフは様々な魔法を使いこなすが、まだまだ修練中。


 光以外の属性がすべて強だからこそ、習得できそうな魔法が多すぎて修練するための時間が足りない。


 治療魔法が使えないのも懸念材料だ。


「転移能力は伸びたのか?」

「中距離なら二人でも転移できるようになりました。数回繰り返せば王都につけます」


 今のルフはやる気が違う。


 王都からオクルスへ転移できたことが自信になり、またスノウの体調が崩れた時のためにも能力を伸ばしたい気持ちが極めて強い。


 そのせいか一人の中距離転移はすぐにできるようになった。


 ゴードンを連れて行けるようになったため、今度は遠距離転移を習得すべく修練中だ。


「緊急手段を使えば一度で転移できます」


 魔眼のことだ。


 視力が悪化する恐れがあるため、緊急時以外の使用は推奨していない。


「転移門ができれば自力で転移する必要はありませんが」


 ジークフリードは遠い目をした。


 クロスハート関連の計画は鈍化の一方を辿っている状況だ。


 できるだけ早く地底湖に結界を張り、クロスハートの住民を移住させたい。


 だというのに、地下遺跡へ出入りする人の数は増える一方。


 地底湖や魔物の存在を知らない者からはクロスハートを代表する新たな観光地にする意見さえ出ていた。


「スノウは魔力のことを自覚しているんだろう?」

「勿論です。わからないわけがありません」


 ドアが開いた。


 スノウが花瓶に水を入れて戻って来た。


「やっぱりここにしようかと」


 スノウは暖炉の上に花瓶を置いた。


 軽く形を整えた後、優しく手で撫でるような動作をすると、花が活き活きとした。


 治癒効果のあるスノウの魔力の影響だ。


「もう一度キッチンへ行ってきます!」


 ヴェラを手伝うため、スノウが部屋を出て行った。


「……ゴードンが話すのか?」

「王太子殿下でも構いませんが?」

「そのために来たわけではないのだが」


 ジークフリードはため息をついた。


「総神殿長にそろそろどちらかだけでも戻るように言って欲しいと懇願された」


 ミイラ取りがミイラになり、ユージンが帰って来ない。


 総神殿長は我慢の限界だとしてジークフリードに相談したのだ。


「王太子殿下が来た時に話そうとは言っていたのですが」

「そうか」

「お待たせしました!」


 ヴェラとスノウがワゴンを引いて来た。


「人数が多いので飛ばします!」


 先にヴェラが宣言した。


 スノウがお茶を入れ、ヴェラがマグカップを順番に魔力で配った。


 お土産の中にあった菓子も早速テーブルの上に置かれた。


 ご自由にどうぞ状態だ。


 ジークフリードは迷わずチョコレートを魔力で取り寄せた。


「オルフェスもチョコレートか?」

「自分で取る」


 オルフェスも魔力でチョコレートを取り寄せた。


 最初はオルフェスが魔力でものを取れることに驚いた者がほとんどだったが、今ではすっかり慣れていた。


 転移魔法もジークフリードが側にいれば怖くない。慣れたわけではないが、深呼吸をすれば自然に回復する程度。


 魔法も修練中で、現在は魔力消費を抑えながらの中級魔法を習っているところだ。


「美味いな」

「じゃあ、一つ」

「私も」


 ヴェラが魔力で取るのに合わせ、スノウもまた魔力でチョコレートを取ろうとした。


「あ」


 かなりの量を浮かばせてしまった。


 魔力の調整ができていない。


「一緒に食べましょう? おかわりするつもりだったから」


 すかさずヴェラがフォローした。


「沢山食べたい気持ちが反映されたみたいです。すみません」


 ルフとゼノンが戻って来た。


「ここにも山があるな」


 テーブルの上に山盛りになった菓子を見てルフが笑った。


「スノウが沢山出したいって」

「人数が多いので、皆で食べたらすぐになくなるかもしれないと思って」

「洋酒入りのもあるから注意しろ」

「ぜひ、食べたい」


 ユージンは魔力で洋酒入りのチョコレートを探してから取った。


「美味い! だが、スノウは気を付けないとだな。結構強い」

「ヴェラも気を付けないと」

「盛りつけたのは私だからわかってるわよ」


 お茶とお菓子を楽しんではいるが、菓子や土産以外の会話はない。


 様子を探り合うような状態だった。


 やがて、


「今日はジークフリード様とオルフェス様がいるので、大事な話をしたいと思います」


 言い出したのはスノウだった。


「魔力が戻りました」


 スノウは死にかけたが、息を吹き返した。


 最後の手段として使った魔石による治療が効いた。


 たぶん。


 そのせいか、門の間にあった全ての魔石は完全に力を使い果たし、砂のように崩れて消えてしまった。


「でも、以前よりは少ないです。感覚的には」


 測定器で測ってはいないものの、聖女だった頃よりも魔力は少ない。


 全快しているわけではないということだ。


「魔力量やその場所の調整がうまくできません。そのせいで無意識に瞳が輝いてしまうことがあります」


 無意識的に体の一部に魔力が集まることは普通にある。


 魔力が豊富な者だけでなく、成長期によって魔力の量や質が変化した場合にも起きやすい。


 スノウはたまたま目に症状が出たというだけで、手足・耳・鼻といった感覚が鋭い場所にあらわれることもある。


「急激に魔力が増えたからだと思います。なので、心配しなくても大丈夫です」


 スノウにはこれまでに積み重ねて来た経験と知識がある。


 心が落ち着いていれば、魔力が暴発することはない。


「でも、魔法は使えません」


 適量での使用ができないせいで不発になるか力を使い過ぎてしまう。


 一回発動するとその場に倒れ込み、その後は寝たきり状態だ。


 そういった状態を考えると使えないのと同じ。


 体への負担が大きいのも明らかだ。


「リハビリをしないといけません」

「焦る必要はありません。魔法が使えることよりも、命を大事にする方が優先です」

「その通りだ。体に負担がかからないようゆっくり取り組むべきじゃろう」


 ゴードンもユージンも無理は厳禁、スノウの体調に合わせながら少しずつリハビリをすればいい。


 むしろ、神職を離れるまではリハビリを控えた方がいいのではないかとさえ思っていた。


「それから、このことを神殿に伝えないといけません」


 スノウはオクルス修道院へ派遣される際、激減した魔力に変化がある時は報告するよう言われていた。


 しばらくは体調が悪かったのに加え、戻った魔力を維持できるのかどうかを確認する期間にしていた。


 一時的に魔石の魔力を体内に取り込んだだけの場合は使ったら終わり。回復しない。


 だが、スノウの魔力は使っても回復する。その感覚がある。


 今のスノウにあるのは魔石ではなく自身の魔力。魔力量が増えた。もう一ではない。


 スノウはそう確信したため、神殿に報告しようと思った。


「先に伝えておきますが、リハビリでどの程度回復するかに関係なく、私は恩義期間を返済したら神職から離れます」


 正式な誓いを立てた神職者になろうとは思っていない。


 ルフと結婚してオクルスに住むつもりだ。


「勉強して医者か薬師の資格を取ろうと思っています。それなら魔力がなくても働けますし、これからも人々の役に立てると思います」


 魔力や魔法だけが全てではない。


 これからは魔力や魔法以外のことも多く学び、その知識や技術を通して人々の役に立ちたい。


 オクルスにはいずれ魔法騎士団や魔法兵団の施設ができる。


 療養地としての需要を見込み、ルフやゼノンが短期滞在者用の施設を運営したり、薬草園を作ったりするような計画も出ている。


 医者か薬師の資格があればきっと役立てるはずだとスノウは思った。


「神殿が私の意志を尊重してくれるよう力を貸していただけないでしょうか?」

「勿論だ!」


 ジークフリードが力強く答えた。


「恩義期間の短縮は既に決定事項だ。国王も承認している。私の方で書類も作成して保管してある。絶対に変更させない!」


 スノウの恩義期間短縮の褒賞がなくならないようジークフリードは文書化し、関係者の承諾サインを貰って保存していた。


「報告する時は私も一緒に行く。神殿が約束を違えないよう見届ける!」

「ありがとうございます! そうしていただけると助かります!」

「日時を決めよう。ゴードンの方で調整して貰えないか?」

「わかりました」


 ゴードンが全員の予定や都合を確認し、スノウが神殿に行く日程を調整することになった。


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