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俺と×××  作者: satomi
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いつになったら……

俺は変だろうか?

 周囲は俺は変だ、変わり者だという。理由は俺が黒電話に固執して、スマホを持たないからのようだかそんなの個人の自由ではないか?それで変だと言われても、理不尽な気がする。


 俺の名前は“葵大成”だ。たいそうな名前だよなぁ。誰がつけたんだか、はぁ。家名は仕方ないとして、いやゴツイけど、“大成”は大器晩成から取ったらしい。

 と、すると俺はまだまだ成功してないのか?いやいつになったら成功するのか?不吉な名前を付けたもんだ。響きはかっこいいけどね。

 一応、名家の跡取りで進学校を卒業していて、名門国公立大学に入学しているが、ダメのようだ。そんなに大成するのは晩年なんだろうか?


 だって、スマホを中心に生活したくないし、便利って言っても機種変更を繰り返し、面倒じゃないか?

 便利なものに頼りすぎると、自分が衰える。俺はパソコンを使う。

 パソコンで文字を打つことが増えると漢字を書けなくなる。それも顕著に。大学入試の前日が一番頭良かったんじゃないかと俺はつくづく感じてしまう。

 パソコンだけでそんなポンコツさを感じているのに、加えてスマホまで身近になってしまえばさらに漢字を忘れていってしまう事だろう。それを避けるためにも読書をするようには心掛けているが、視力の低下と眼精疲労が気になる。


 よって俺は黒電話を愛用している。スマホで電話の機能を使っている人は結構マレだ。

 家で電話するなら、黒電話で十分だ。一人暮らしだから、電話の内容を聞かれる心配もないし。

 何が悪い?変?

 持ち歩かないし、体に悪影響のある電波も出ていない。実にクリーンだ。


 俺は合理的だと思うのだが?


 ある日の事、名門国公立大学生のサダメか?名門女子大とのコンパに参加しないか?と声をかけられた。

 俺は一応、名家の跡取りなわけで、幼き頃より許嫁なるものが存在した。名前だけ知っていた。あと、年齢。同い年。顔も知らない。どうせ政略結婚だからそんなんだ。


 だが、公表してないし、俺も男だしOKした。


 当日、コンパの会場に行くのに苦労した。

 場所がわかりにくい!地図と住所でもよくわからない。こういう時にスマホを使うんだろうなぁ。と思いながらもなんとか、時間に遅れそうになりながらも間に合った。


 自己紹介でもう帰りたくなった。

 浮かれた空気が肌に合わない。

 その時、よく知った名前が耳に入った。

「小林アカネです。一応華道と茶道とやってます。今日は葵大成さんが参加するって聞いてきました」

 マジか?何でいんの?って俺が参加するからか。俺はもう帰りたいんだけど。

 なんか盛り上がってるけど、俺は「悪い。もう帰る」と帰った。


 翌日、俺は男に壁ドンされた。そんな趣味はない。

「何で昨日帰ったんだよー。アカネちゃんかわいーよな」

 確かに。初めて会ったが、思った。

「あー、小林アカネさんは俺の許嫁ってやつだ。昨日初めて会った」

「えー?許嫁って顔くらい知ってるだろ?」

「俺が知ってたのは名前と年齢だけだ」

「マジかよ?」

 うちの親に言ってくれ。

「アカネさんも同じじゃねーの?俺の顔確認に合コン参加」

「だよなー。誰の誘いにものらねーの」

 俺はちょっと安心した。


 のも束の間だった。大学の門で小林アカネが待っているではないか。何故?


 アカネさんはスーパーの袋を高々と掲げて見せて言った。

「今日は私が夕飯を作るわ。もちろんあなたの分」

「いや、うちはヘルパーさんに頼んで……」

 話を遮られた。

「それ、うちの親から手をまわして今日の夕飯はないわ」

 マジかよ、この女。

「私の事、知ってほしいし。さぁ、行きましょう!」

 とアカネさんは俺を引っ張って行った。他の学生に冷やかされるのを無視して。


「へぇ、タワマンの最上階ねぇ」

「一応御曹司というやつなんで」

「さぁ、台所はどこ?」

 アカネさんについてわかった。ゴーインだ。

「台所はそこにある」

 俺は観念することにした。どうせ美しい和食が食卓に並ぶんだろうな……と思っていた。

 台所から煙が……。火事か?!

「何事だ?」と俺が台所に行くと、スマホのアプリを見ながら数種の料理を同時進行しようとしているアカネさんがいた。

「アカネさん、何事ですか?もう少しでスプリンクラーが作動し、消防隊が来てしまうのですが?」

 アカネさんがもじもじしている。

「あのー、アカネさん?」

「えーと、火を消すのを忘れたら鍋焦がしちゃった」

 焦がしちゃったじゃねーよ。火災未遂。鍋はどうするかなぁ?

「他のはどうした?」

「魚の3枚おろし、できると思ったらできなかった」

 それどうすんだ?

「あ、浅漬けはできたと思うよ!」

 野菜切ってつけとくだけだからな。

 アカネさんの事はわかった。料理が下手だ。

「そんじゃ、ピザのデリバリーでも頼むか?」

「ピザはカロリー高いからヤダ。ソバがいい」


 そしてその日の夕食はソバとアカネさん作の浅漬けだった。浅漬けでドヤ顔されてもな……。

「じゃ、アカネさんに課題。料理上手になるように!」

「ラジャー」

 と帰って行くが、荒れ果てた台所を片付けるハメになった俺は凹んだ。


 翌日大学にて、俺はまた男に壁ドンされた。

「昨日はどうだったんだよー。アカネさんの裸エプロンいいなぁ。料理は豪華絢爛で」

 妄想中悪いが、アカネさんの料理は火災未遂で浅漬けのみだ。アカネさんの沽券を守るためにも料理が下手ということは伏せておこう。


 そういえば、スマホ渡されたな。用がないから俺は電話しないが、メッセージがちょくちょく入る。今日はこれを作っただのなんだの。

 電話にしろよ。画像があるからわかりやすいが、本人作かも考え中。


 大学から家に帰った時、スマホに電話がかかってきた。

「家にいるから、家の電話にかけてくれ」と俺は電話を切った。直後、「ハテ?番号知っていたか?」と思い、スマホでかけなおした。

 瞬間、家の電話のベルの音。ん?と、出るとアカネさん。

「うちの番号知ってましたか?」と問うと、「葵のおばさまが教えてくれましたー!」と上機嫌。

「で、何の用なんだよ?」

「今日ね、ナンパされたけど、ちゃんと撃退しましたー!」

「あ、そう」

 結論どうでもいいな。あ、そうか。

「そういうの、メールで連絡じゃない報告でいいよ」

「えー、つまんなーい。リアクションを見たかったのに」

「俺も暇じゃないんでね、じゃーな」と俺は切った。翌日からアカネさんからの連絡などなくなった。

 痴漢撃退って良家のおじょー様なら護身術やってるだろうし、できて当然だろう。近くに護衛とかいそうだし。


 その間俺は考える。

1.俺は嫌われたのか?

2.アカネさんは当初料理ができないフリをした。チョコは上手だったし。


 その時電話のベルが鳴った。俺は秒、いや瞬で出た。なんだよ、大学の友人だ。

「また、合コン行かねー?」

 数合わせか?面倒だなー。

「お前のアカネさんが参加だけど……」と聞き、「行く」と答えた。


 何考えてんだ?俺以外の男?ないだろー?と俺は思った。が、女心はわかんないしなー。嫌われたかもだし。と弱気な俺もいた。


 合コン当日、アカネさんはキャバ嬢かよ?って格好をしていた。

 俺は目をひん剥いた。「他の男共!見るな」

「えーと、俺はアカネさんとちょっと話がある」と2人で抜け出た。


 歩きながら「何だ?その格好は?!」と俺は言った。

「えー?似合わない?」

 俺は頭を抱えた。

「似合う似合わないの問題じゃなくてだなぁ。あーもう。とりあえず、俺のシャツ上から羽織っておけ」

 その後も俺はブツブツ言っていた。

「あのねー、この格好してたら痴漢に遭っちゃった。親切な人が撃退してくれたよ」

 なんだと?俺すらコイツの体に触れていないというのに、痴漢ヤロー……。

「まぁ、そうだろうなぁ。ほら、この店の服買ってやるから着替えろよ」

「女性に服を買って着せる=後で脱がせるって事?」

「許嫁は清くあれ。料理上手になったのか?」

「精進します……」

「よろしい」

 となった。別に俺は嫌われてなかった。認めたくなかったが独占欲があるようだ。

 

 帰り際になって、

「あ、アカネさん。ちょっと上向いてー。ついでに目閉じてー」

 この段階で何をするのかわかるだろう。結構首を疲れさせた。

 アカネさんが「やーめた!」とやめたので、俺がかがんで普通にチューした。

 アカネさんに「不意打ちは卑怯よ!」と罵られようとも、やったもん勝ちだ。

「ついでにアカネさんじゃなくて“アカネ”って呼ぶことにした。そして俺は独占欲強いみたいだから今日みたいな格好はしないこと!」と言っておいた。


 アカネは「ねー、いつになったら私に手を出すの?」とごく自然に聞く。さっき出しただろ?じゃなくて本格的にか?

「大学卒業したらじゃねー?そのころにはアカネも料理の達人だろうし(笑)」

 アカネが頬を膨らますのでつい両手で挟んでしまった。空気が漏れて、変な音出た。


「重要な連絡は家の電話なー、スマホは一応持ち歩いてる」

「重要な連絡ってー?」

「うーん、“痴漢撃退”は違うな。何か和食が絶品でできたとかかな?」

「味噌汁でいいの?」

「それ以外だな。インスタントあるし」

 アカネがまさか……と俺を見る。

「まさか、私より料理上手?」

「そうだなぁ。一人暮らしだし、まぁ鍋を焦がすってことはないな(笑)」

「わかったー。お店で出せる的になったら電話する。しばらくはスマホにメールかぁ」

「でもまぁ、たまにはこうやって会って話すのもいいだろ?久しぶりにアカネに会ったら激太りしてたりしてな(笑)」

「笑えないってー。大成のとこのジムとかプールとか使いに行く!」

 うーん、水着姿を他の男に見られるのやだな。貸し切り状態にするか……。

「じゃ、気ーつけて帰れよ。そもそも、この服誰に貰ったんだよ?」

「えへ、キャバクラでバイトしてる先輩♡」

「もう着るな。即返却。俺は独占欲強いって言ったよな。故にこんな服は認めません」

「もう着ないよー。今日はワザとだもん」

 チクショー、可愛いなぁ。


 その後大学を卒業するまでこの清い関係は続いた。

 卒業までアカネは激太りすることはなかったが、俺のとこのジムやプールが気に入ったのか、度々来るので、俺は貸し切り手続きに奔走した。

 正直、大学4年になったら、自由時間も増え、会える時間、話す時間も増えると思っていた。……甘かった。理系学部で単位は残すところ専門科目少々と卒業論文のみだが、研究に時間がかかってかかって仕方がなかった。でないと論文書けなくて卒業できないし。

 大学4年は俺は忙しく、アカネは余裕があった。なので、アカネは着々と料理の腕をあげていた。


 卒業→結納→結婚となるのだが、異論はもはやない。一刻も早い初夜を二人とも望んでいた。

 あぁ、鼻血と戦って4年の月日。ついに俺のものになる。今までありがとう鼻粘膜。


 結婚後は俺のうちにアカネが来ることになっている。ジムもプールも気に入ってるし。ふっ、汗にも塩素にも負けない結婚指輪を用意したんだ。周囲を牽制できるだろう。


 アカネは黒電話に反対したが、俺はこれがお気に入りなのだ。

 それに俺がスマホを持っている事はアカネしか知らないし、アカネの番号しか知らない。使い方もよくわからない。

 ので、このままでいいのだ。


 さぁ、この長きに渡る俺の想いをアカネにぶつけようぞ!昭和的だと『今夜は寝かせない』というやつだ。

「大成!ごめーん。さっき生理が始まったっぽい……」

 あぁ、俺の想いは儚くも崩れた……。「大丈夫だよ。気にするなよ」と言いながらもやはり、名前が悪い!大器晩成って晩年に成功するのか?よくわからんな。簡単にはうまくいかないってのはわかるけど、コレはひどくね?

 という俺の想いとはウラハラに

「一緒に寝たかったんだー」と無邪気に布団に入ってこられると、俺の息子に血流が集中しつつなり、我慢しなければと鼻粘膜を応援してしまう。今後も鼻粘膜とは仲良くやっていこう。


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大企業の御曹司、葵大成君と小林アカネちゃんの物語だね。大成君は、今時、珍しくスマホを持つ事を害だと考えてる絶滅危惧種的な青年。アカネちゃんは、少しおっちょこちょいな、可愛い女子かな。許嫁だけど、名前し…
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