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僕を忘れた君へと紡ぐ。西編  作者: とかげになりたい僕
たくさんの感謝を 〜Obrigado por tudo〜
28/30

答え 〜responder〜

 どうやら酷く崩れたのは、あの開発部周辺だけだったようで、ハヤトたちが食事を採ったあの広間は傷ひとつすらついていなかった。だからといって、開発部で働いていた研究員が無事だったわけではなく、食事を摂ろうと連れて来られたところで、すんなり喉を通るわけではない。

 しかし、目の前の少年王は気にもせずに食事を進めている。彼は自身を神機と言っていたが、食事を摂る神機などハヤトは知らなかった。

「……ま、食べないのはいいとしてさ。(イスト)が何しに来たんだい。その様子だと、あの気に食わない顔を拝むことになりそうで、とても不愉快なんだけど」

 フォークに刺したままの肉を上下に動かし、レオは隅に立ったままのドロップを睨みつける。ドロップはさして気にしておらず、レオに視線をやらずに、窓の外をただ静かに見つめていた。

「うわ。躾のなってない犬だね。このボクが話してるんだから、こっちを向いて……」

「来たようだ」

「は?」

 レオが問う暇も与えず、ドロップは壁に向かって拳を繰り出した。木っ端微塵になっていく我が城に目を丸くし、何も言えずにレオはただ呆然と破壊された壁を見つめる。それはルエも同じで、いきなりのことに頭がついていかず、隣に座るハヤトの服の端を小さく掴んだ。

「な、な、な!?これだから!(イスト)は嫌いなんだ!なんでも力で解決するなよ!」

 やっとの思いで声を絞り出すが、裏返ってしまい、威厳も尊厳もあったものではない。扉近くに控えているクレハが「修理費……」とぽつりと呟く。

 ドロップが破壊した壁の向こう側には、ハヤトたちがここに向かう際に乗ったものと同じ、箱型の神機があり、それは遠慮なく広間に入るとその動きを停止した。

「よう。久しぶりだな、従妹殿」

 箱から出てきた人物、ルドベキアはルエににやりと笑いかけ、そして背負っている白髪の少年を示してみせた。

「ルド兄様!ゼロ!」

 嬉しげな声と共に駆け寄り、ルエは背中のゼロにそっと手を伸ばした。意識は無いようだが、目立った怪我はないように見え、ルエは安心するように胸を撫で下ろした。

「なぜルド兄様がここに?どうしてゼロが?そうだルド兄様、兄様が……」

「落ち着け、従妹殿。この阿呆は、そうだな……ここに来る途中森で見つけたんだ」

 ルドベキアは一瞬ハヤトに視線を送る。ハヤトは察したようにルエの隣に並び、落ち着かせるようにその肩を抱いてやる。

「……レイのあの風に巻き込まれて飛ばされたんだろう。ルドベキア陛下、ゼロを助けて頂き、感謝致します」

 そう言い深く頭を下げる。

「いや、構わん。兎に角、この阿呆を手当てしてやってくれ」

「では、わたしがお部屋まで案内させて頂きます。恐縮ではありますが、ルドベキア様、ゼロ様を連れてきては頂けませんか?」

「構わん」

 扉を開けたクレハに、ルドベキアとドロップが続いていく。それを面白くないと言わんばかりの表情(かお)で見送り、レオは刺したままだった肉を頬張った。

「で。もう1人、呼んでない奴がいるようだけど?」

 何も刺さっていないフォークを箱に突きつけ、レオは忌々しげに吐き捨てる。その仕草は、先程のルドベキアに対するものよりも、さらに不愉快極まりないと言わんばかりである。

 ルエだけでなく、ハヤトも驚いて箱に視線をやる。ため息と共に出てきたジェッタは、しかしいつもの優しげな表情ではなく、冷たい怒りを漂わせていた。

「呼んでない、とは酷い言い様ですな」

中央(セントラル)の……あれ?キミ、騎士団長かい?おかしいなぁ、団長はまだ37だったかそれくらいのはずだ、キミみたいな初老ではなかったはずだ」

 ジェッタを頭から足の先まで食い入るように見つめ、それからレオは「あ」と何かを思い出したように手を叩いた。

「わかったわかった、キミ、ストレイフだね?(イスト)に流した神機、キミがやったんだろ?あーゆーの、困るんだよねホント」

 はははと笑うレオに、ハヤトは困惑した顔を向ける。父親はジェッタという名であり、彼の言うストレイフは全く聞いたことのない名だったからだ。それは隣のルエも同じで、レオとジェッタを交互に見ては、ハヤトを不安げに見上げた。

 しかしジェッタは呆れたように口元を歪め、それから深いため息をひとつついた。笑っていない目元が、冷たくレオを捉える。

「ストレイフ、久しぶりにそれを聞きましたよ。やはり、あれが流していたのか……それを聞けただけで、私がここに来た甲斐があったというものです」

「ストレイフ、じゃない……?じゃキミは一体」

「思い出させましょう、陛下」

 ゆらりとジェッタの身体が揺れ、それは息を呑む間もなくレオとの距離を詰めた。レオの首を左手で掴み、高く高く持ち上げ力を込めていく。

 しかし神機であるレオは呼吸することに意味はなく、至って冷静にその手を掴み返すと引き剥がそうと力を込めた。そしてにやりと嫌な笑みを口元に浮かべ、ジェッタを面白いとばかりに睨みつけた。

「キミ、ホントに団長なんだ。あー、もしかしてアレかい?息子、勝手に弄ったこと怒ってる?別にいいじゃないか。キミの子供じゃないんでしょ、どうせ血は」

 繋がってるかわかんないし、と続けようとしたレオは、自分の頭が胴体と離れたことに気づき、それ以上を言えなくなってしまった。手の力だけで首を潰したとでも言うのか。やはりこの男は不愉快だと、レオは記憶の少年を思い出し、忌々しく舌打ちをした。

 ごとり。

 床に頭とそして離れた胴が落ち、ルエの悲鳴が耳に響く。塞ぐ手が今はないのだから、もう少し静かにしてほしいと思う。そうしてジェッタが握る剣を見、なんて危ないものを使っているのかと苦笑する。

「少しお喋りが過ぎるようですな、陛下」

 レオを冷ややかに見下ろすその目は、恐らく、ジェッタの後ろにいる2人は知らないだろう。どうやら、(イスト)の新王は厄介な奴を連れてきたようだ。しかし自分も神機を統べる西(ウェス)の王である、ここまでされて黙っているわけがない。

「キミ、さぁ。調子乗りすぎ……!」

 頭を浮かせ、胴体の元へ戻す。邪魔するかと思ったが、ジェッタはむしろ楽しみが増えたと言わんばかりの笑みを口元に浮かべた。

「唸れ、業炎。怒りを」

「解錠。展開、驟雨(しゅうう)

 レオが(スペル)を紡ぐよりも早く、ジェッタの神機が形を変え、無数の雨粒へと成り、それはレオのありとあらゆる穴から体内へ侵入していく。口、目、耳、鼻。声すらも出せない状況に、レオは忌々しいとばかりに、床に転がったまま手足をばたつかせる。

「少しは静かにして頂けますかな」

 ジェッタは剣の形へ戻した神機を、躊躇いもなくレオの腹に突き刺す。それはまるで昆虫標本のようで、堪らずルエはジェッタに向かって駆け寄り始める。

「ジェッタ様!」

 縋るようにその背に抱きつくと、ジェッタは先程までの冷たい感情を内へと抑え、半ば呆れたようにルエを振り返った。

「……ルエ様。レオ陛下は神機です、これくらいで死にはしませんし、何より貴方様の兄上をああしたのは陛下です。わかっておられるんですな?」

「でも、レオ様のお陰で、私は兄様と会えました。ジェッタ様の心の内がわからないわけではないです。でも、私は、まだレオ様に答えも言ってないです!」

「答え……?」

 ジェッタは神機をそのままに、何かあればすぐに対処出来る位置まで下がり、ルエの動向を見守ることにする。

「レオ様」

「なんだい、ルエディア。ボクを壊すのかい?」

 ルエは小さく首を横に振り、そして倒れたままのレオの隣にしゃがみ込んだ。

「心がない、生きていないヒトの思いを、どうやって持っていくのかと、私に問いましたよね」

「あぁ、そうだったね」

 そういえばそんなこともあったと、レオは記憶を辿る。研究員が来たせいで、答えを聞けず仕舞いだった。

「貴方様ごと、私は持っていきます」

「は?」

 素っ頓狂な声が出てしまう。離れた位置にいるジェッタも呆れているではないか、ハヤトは、まぁここからは見えないが。

「レオ様は、ご自身を心がないと思っているのでしょうが、ならレオ様自身を身体ごと、全部、私が背負えば解決しますよね」

「いやいや、意味がわからない。もっと理論的に」

 言いかけ、レオもまた、呆れたように口元を歪める。

 確かに突拍子もないことを言っているが、見えないものを見える形として持つと言うのなら、あながちそれも悪くはないかもしれない。今までそう言ったヒトなどおらず、むしろその答えが、レオにとって興味深いものだった。

「全く……。ならルエディア、ボクを最期まで連れて行きなよ。キミが求める、答えの先まで」

 ルエはふわりと笑い、その小さな手を優しく包んだ。


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