表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を忘れた君へと紡ぐ。西編  作者: とかげになりたい僕
またいつでも 〜Volte sempre〜
24/30

友 〜amigo〜

 ※



 驚いた、純粋に。

 ハヤトも、西(ウェス)にはそれなりに詳しいつもりだったが、まさか王が神機(しんき)そのものだったとは。

 目の前で、頭と胴体を器用つけていくレオをちらりと見やる。首を左右に振り、肩を鳴らすと「よし」とレオは伸びをしたところだった。

「ハヤト」

「口外はしません」

「違う違う。別にそれはいいよ」

 どうやらハヤトが思うような話ではないらしい。ハヤトは屈み膝をつくと、自分よりも小さな王に視線を合わせる。

「王子……レイガノールは、視えてると思うかい?」

 その質問に、ハヤトはしばし視線をレオの足元に落とし、

「行使、ではないですね。あれは」

「流石だね。そう、あれは石を持つ彼だけが出来る使役の力だ。ボクは、彼の中にいる彼を一緒にさせるつもりだったのだけど」

 レオの言っている意味がわからず、ハヤトは首を傾げつつも、その先の言葉を待つ。この王は、興味以外の何かに惹かれてレイガノールをああしたとでも言うのか。

「まぁ、ああなってしまった以上、彼を救う(すべ)はひとつしかないわけだけど。ハヤトにはそれが出来る?」

「レイを……いや、レイガノール殿下を妹姫様の元へ帰す。それが私の望みです」

 ルエが兄を探しているのはよく知っている。もちろんそれはハヤト自身もだ。

 今さら迷いなどあるはずがない。

 わかっているとでも言うように、レオは少し大袈裟に頷いてみせ、それから足早に上への階段を登り始めた。それにハヤトも続き、そして最下層であろうこの場から静かに見上げる。

 うっすらと見える明かりに、結構登る羽目になりそうだとため息が零れた。




「レイガノールは多量の神力を纏い、そして取り込んでいる。普通なら、ある一定の量を越えると肉体が耐えられず壊れてしまう。それは知ってるね?」

 少し乱れた息を整えつつ、ハヤトはなんとか返事を返す。流石神機(しんき)と言うべきか、レオは汗どころか、息ひとつ乱れていない。

「けれども、元素そのものを支配下に置き、使役出来る彼は違う。どれだけ取り込もうと壊れることはない。ない、けど、それと彼が扱えるかは別問題になるわけだ」

「……レイガノール殿下の」

「普通に呼びなよ、オトモダチなんだろう?」

 そう答えるレオの表情(かお)はよく見えないが、その声色は聞いたことがないくらいに優しい。少しは気でも使っているのだろうか。

「……レイの周囲の神力を遮断した上で、レイから神力を抜ききるという解釈で間違いないでしょうか」

「うんうん、流石だね。でもそれには2つ問題がある。まず、神力を断ち切る役割を果たすヒトがいない。ルエディアが妥当なんだけど、王女は今視ることができない」

 (くう)の調和の力があれば、確かにレイガノールの周囲から神力を除くことは可能だろう。しかし、その(くう)を視ることが出来るのは、同じ(くう)のヒトか、もしくは神女(みこ)、そしてレイガノール本人に限られる。

 神女(みこ)の力を失くしてしまったルエにはもちろん出来ず、今は(くう)のヒトもおらず。ハヤトにはそれを確実に視れる自信がない。視えたとて、船上での二の舞になるのがオチだ。

「そして2つ目。誰が抜く役割を担うのか。あれほどの力だ、抜いた力を神機(しんき)に移動するとして、その中継を誰かが担わないといけない。それが出来るのはボクの知る限り……」

 上への扉の前で、レオがくるりと振り返る。いつもの嫌な笑みはどこにもなく、それは王としての慈しむそれにも見えた。

「キミだけだ」

 ハヤトも見たことのないそれは、しかしすぐにいつもの嫌味な笑みを張りつけると、レオは鼻歌混じりに廊下へと出ていった。

「……レイ」

 いつかの借りを返せるのなら、自分がどうなろうと構わない。レイガノールを妹の元へ必ず還すと決意を新たにし、ハヤトもまた廊下へ歩みを進めた。



 ※



 (イスト)の王族船が港に入ってくるのが見え、港町で待機していたグレイが青ざめた顔で、騎士たちをすぐさま整列させた。(イスト)が来るとは聞いていないが、しかし西(ウェス)の民の反応を見るに、彼らもまた自分たちと同じなのだろう。

 停泊した船から降りてきた黒髪の王と、そして疲れが滲む騎士団長を見、どうやらろくでもない船旅だったらしいことを察する。相変わらず(イスト)の王には振り回されてばかりの団長は、今だけは昔の少年だった頃を嫌でも思い出させた。

 グレイが率先して膝をつこうとするが、(イスト)の王ルドベキアは「構わん」と制し、騎士たちの顔ぶれをよく見回す。

「……あの(ガキ)んとこだな?」

「はっ。しかし陛下、なぜ団長と」

「あー、役に立ちそうなのがコイツしかいなくてな」

 コイツ呼ばわりされた団長をちらりと見る。その表情(かお)は変わりないように見えるが、内心では面白くはないのだろう。グレイには手に取るようにわかった。

 後ろに控える団長、ジェッタから咳払いが聞こえる。表に出していないように見えたが、それは騎士たちの手前ということもあるのだろう。やはり彼はまだ若い事実に、グレイは知らずの内に笑みが零れた。

「陛下、ならば早く向かうべきでしょう。神機(しんき)ならば多少の心得はあります。……そこの者、すまないが箱をひとつ頂けないか」

 近くの西(ウェス)の住人から、ジェッタは小さな箱らしきものを受け取り、その外見を少し眺め「解錠、展開」と言葉を紡いだ。それは人が乗れるほどの大きさへと変わり、ふわりと微かに地面から浮いた。

「なーにが、多少、だ」

 西(ウェス)の民でも、これほど神機(しんき)の扱いに長けた者はいないだろう。予め刻まれた(スペル)を紡ぐことで、神機(しんき)はその力を発揮し様々な元素を行使する。しかしジェッタや一部の西(ウェス)の民は、それを紡ぐことなく力を解放し、元素を行使してみせるという。

 誰にでも出来るわけでないことをしてみせ、全くどこが多少なのかと、ルドベキアもグレイも思うが、それが彼の、それこそ血反吐を吐くような努力の末の結果だということを、2人はよく知っている。

「んじゃ、行くぞ。早く出発しろ」

「はぁ、全く貴方は……」

 我先にと乗り込む背中を追いかけ、ジェッタも乗り物へと変化した箱へ乗り込もうとし、遠くから聞こえた爆発音に顔をしかめた。何事かとその方向に視線を見やると、黒煙が空を覆い尽くしているのが見えた。

 同じように箱から顔を覗かせたルドベキアが、小さく舌打ちし、早くしろと言わんばかりに、思いきり内側に蹴りを入れる。それにうんざりしながらも、しかし急ぎだということを理解したジェッタも乗り込み、そして箱をふわりと浮かせる。それを敬礼と共に見送ったグレイは、あの黒煙の方角から嫌な予感がするのを嫌でも感じ取っていた。

 近づけば近づくほど、それは嫌な感じを増していき、眼下に白と黒のコントラストが見え出した頃。

「止めろ」

 腕組みし、目を閉じたままのルドベキアから言葉が漏れた。うっすらと開けられた瞳に滲む光は、彼にしては珍しく焦りと緊張が見て取れた。

「マズいな……、荒れてやがる」

「というとルエ様が?」

 (イスト)に向かう途中で起こった出来事は、未だ記憶に新しい。ならばあの黒煙はルエが力を暴走させたのだろうか。

 ルドベキアは「いや」と首を振ると、何かを探るように再び目を閉じた。この王は、誰よりも神力を探ることに長けている。昔を思い出し、ジェッタは苦い顔をしつつその瞳が開かれるのを待った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ