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僕を忘れた君へと紡ぐ。西編  作者: とかげになりたい僕
またいつでも 〜Volte sempre〜
21/30

拒否 〜recusar〜

 ※



 それはハヤトたちが西(ウェス)へ向かった次の日のこと。中央(セントラル)、サガレリエット家、団長室。

 ジェッタは、目の前で腕組みし自分を見下ろす黒髪の男に、嫌味たっぷりにため息を零す。もちろん、それでこの男、(イスト)の王ルドベキアが帰ってくれるとは微塵も思っていないが。

「よう、久しぶりだな、糞餓鬼」

「もうそれで呼ぶのはやめて頂きたいのですが」

 見下されるのは好きでもなければ、今の自分はあの頃とは違う。せめて餓鬼というのはやめてほしいのだが、それすらもこの王は聞いてはくれないのだろう。仕方なく、ジェッタは部屋にある賓客用のソファへ座るように促すと、いくつかの書類を手にし同じように座った。

 置かれた書類を手にしたルドベキアは、一通り目を通し、それからジェッタには目をやらずに書類を再び机に放り投げるようにして戻した。

「さて、糞餓鬼。俺様の大事な従妹殿はもう行ったのか?」

 呼び方を変えようとしないルドベキアに、ジェッタの顔がひくつく。しかし、ジェッタは大きく息をひとつし自らを落ち着かせると、ばら撒かれた書類を整頓しつつ答える。

「……昨日向かわれました。それはさておき、陛下、お付きの騎士はどうされました?まさか1人ではありますまい」

 ルドベキアはふんぞり返るように座り直し、長い足を見せつけるかのように組み直す。そして興味がなさげに「あぁ」と言葉を零すと、

「スノウなら俺様の代わりに政を任せてきた。あれは賢い。ドロップなら先に向かわせた」

「先に……?まさか陛下」

 気づいたように目つきを鋭くさせるジェッタとは逆に、ルドベキアはにやりと嫌味な笑みを深くする。

「糞餓鬼も嫌だろう?大事な息子を好き勝手に弄った西(ウェス)が」

「だからといって、私が自由に動ける身ではないのは、陛下もご存知のはずで」

「なぁ団長殿」

 いつもとは違う呼び方に、意図せず肩がびくりと震える。ジェッタをここまで焦らせるのは、最早この王くらいしかいないことを嫌でも実感させた。

「……はぁ。で?」

 肩肘張っていても仕方なし、ジェッタは諦めたように、しかしその表情は少し楽しげに口の端を持ち上げつつ、ルドベキアに改めて目を向ける。

(イスト)の王サマは、私に何をお望みで?」

 ルドベキアの笑みがさらに深くなっていく。(イスト)の王からの言葉に、ジェッタは、本当に面倒くさいことばかりが自分の周りに集まってくると、内心ため息をついた。



 ※



 淡い光に包まれたままのハヤトを眺めつつ、ゼロは自身の違和感をはっきりと感じ始めていた。最初は気のせいかと思っていたが、明らかにそれは、ゼロの身体の中を渦巻いている。

「……レイガノール様?」

 自分を呼ぶクレハの声で我に返る。不安げな瞳の彼女に、なんだそんな表情(かお)も出来るじゃないかと思ったが、それを口にする余裕がどこにもない。

 何かを察したのか、クレハがタブレットに走らせる指を少し急がせ、再びハヤトに視線を向ける。

「レイガノール様、お待ち下さいませ。ハヤト様の処置が済み次第、貴方様に施された力の排除もしますので」

「力……?」

 そういえば。

 一体自分が何をされたのかはっきりしていない。気づけばこの姿に戻っており、いや自分はその前に、レイガノールと話した記憶もある。クレハが言うように、あれが自分の闇なのだとすれば、自分が、ゼロという人間が抱える闇とは、表に出してはいけないものな気がした。

「オレの、闇って……」

 そこまで言いかけ、ハヤトの身体から小さな欠片が浮かび上がるのが見え口をつぐむ。その欠片はクレハの手の中に収まると、パリンとヒビが入り割れてしまった。

「ぅ……」

 呻き声と共に、その空色の瞳が開かれ、そしてその瞳は真っ先にゼロの姿を映し出した。驚きと喜びの混じるその瞳と、そしてハヤトが「レイ……」と口にした自身の名に安堵し。ゼロも彼の名を呼ぼうとし。

 それは急だった。足元からあの黒い帯がゼロを包んでいき、あっという間にゼロの姿は黒い球体へと変わっていく。

「レイ!?レイ!」

 飛び起きるように身体を起こしたハヤトが、やっと見つけた親友に向かって手を伸ばす。しかし、その黒はハヤトを拒否するかのように弾き飛ばし、近くにいたクレハに向かってその帯を延ばしていく。

 それが(うた)であることはわかるが、何よりあのような色を見たことがなく、ハヤトはそれを詠む暇もなく壁へと叩きつけられた。

「ハヤト様、いけません!お逃げください!」

 帯に巻き付かれたクレハは、それだけハヤトに言い残すと、どぷんと球体に呑み込まれていった。何が起こっているのか理解が追いつかないが、それでも、この球体が王族特有の闇であることは確かだ。

 ハヤトは肩を押さえつつ立ち上がると、霞む視界の先にいる球体を睨みつける。なぜ親友、レイガノールがここにいるのか、いきなり闇に呑まれたのか、色々と疑問は残るが、それよりも大事なのは。

「レイ……、ルエが待ってる……!還ってこい!」

 声の限り叫ぶ。これで届いているのかはわからないが、届いておらずとも、今の自分には呼ぶことしか出来ない。

「レイ、レイ……!」

「……煩い」

「っ、……!?」

 凄まじい風が球体を中心に巻き起こり、その闇が次第に晴れていく。宙に浮かんでいたタブレットが、壁や床に叩きつけられ、その衝撃で割れては使い物にならなくなっていく。

「レ、イ……」

 闇が晴れた場所に立っていたのは、先程とは別人にも見える冷たい光を宿した、黒髪黒目の親友の姿だった。短かったはずの黒髪は、床に這うまで長くなり、それは一見すればルエとも見間違えそうなほどに美しく。

「久しぶりだな、親友。元気にしてたか?」

 ハヤトにかけられたその声はとても冷たく、記憶の中の暖かい彼とはかけ離れすぎていた。

「……本当に、レイか?」

「親友を忘れるなんて薄情な奴だ。オレはレイガノールだ、ルーはどこだ?ルーに会いたい」

 大げさに両手を広げるレイガノールに、ハヤトは小さく「違う」と呟き、そして術をいつでも紡げるように手をかざした。

「貴様……、親友であるオレに何をするつもりだ」

「悪いが、俺にお前みたいな知り合いはいなくてな」

 ハヤトに拒絶されたのが堪えたのか、レイガノールは悔しげに、忌々しげにハヤトを睨みつけ、そして言葉を吐きだしていく。

「貴様!貴様はいつもそうだった!ルーは!ルーはオレのものなのに!ルーはオレの妹なのに!貴様がいつもいつもいつもいつもいつもいつも!」

 レイガノールの周囲を漂う黒の帯は、先端を鋭く尖らせると、それらを一斉にハヤトへと向かわせる。その帯をなんとか避けていくが、足や腕を掠めていくそれらは、次第にハヤトの体力を奪っていく。

「今度こそ。今度こそルーに思い出してもらって。いや、オレと2人だけの思い出を作っていく!そこに貴様はいらん!」

 複数の帯と、そしてレイガノールの周囲を漂う他の色の(うた)も同じように帯の先端を細くしていく。ハヤトには、青のそれしかはっきりとは視えないが、その(うた)には悲しみと怒りと憤りがはっきりと描かれており、元素たちが望んで使役されているわけではないことがわかった。

「消えろ」

 レイガノールの一言で、それらはハヤトにまた向かっていく。明らかに逃げ場などなく、術で凌ぐしかないと(スペル)を紡ごうとして。

「兄様!?」

 頭上から聞こえてきた声に視線を上げると、信じられないと目を見開くルエが立ち尽くしていた。隣に立つレオもまた、苦虫を噛み潰したような表情(かお)でレイガノールを見下ろしている。

 妹の姿を確認したレイガノールだけが顔を綻ばせ、そして緑の帯を纏いふわりと浮き、ルエの元へ向かっていく。

「ルエ、逃げろ!そいつはレイじゃない!」

「で、でも……兄様が……」

 ルエは、目の前で浮かんだままのレイガノールから目を離すことが出来ず、ただ呆然と見つめるしか出来ない。隣に立つレオが、小さな舌打ちと共にレイガノールを睨みつける。

「ねー。ボクのお陰なんだし、ボクを無視すんのやめてくんな」

「黙れ」

「ぷぐっ」

 レイガノールが放った手刀によってレオの身体は吹き飛び、そのままハヤトのいる1番下へと叩きつけられた。その衝撃で頭や手足が胴体から離れ、ルエは思わず悲鳴を上げた。

「さてルー。このまま2人だけでどこか行こう。オレ、ルーのこと大事にするからさ」

「ぁ……いや、やめて……」

 階段を降りようとするルエの腰を引き寄せ、レイガノールは軽々と宙を舞い上へ翔び立っていく。ハヤトもまたそれを追おうとするが、レオの「待ってよー!」の叫び声に驚き、足が止まってしまった。





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