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僕を忘れた君へと紡ぐ。西編  作者: とかげになりたい僕
恋に落ちて 〜Apaixonar〜
17/30

悩み 〜dificuldade〜

 ※



 それは昔の話だ。

 13になった頃か、自分が西(ウェス)に来たのは。

 中央(セントラル)で、ある騎士の元で任務についていた時。自分と、そして一緒に任務についていたゼロは、ある事故に巻き込まれた。

 任務自体はそれほど難しいものではなく、野盗が周囲の森でたむろっている為、それを制圧してほしいというものだった。任務は他の隊と共同で終わらせ、次の日2人が揃って非番だったこともあり、報告は騎士が済ませてくれるということで、2人は早めの家路についていた。

「なぁ、ハヤト!なんか帰りに食ってから帰ろうぜー!」

「何を言っているんだ。また隊長に怒られるだろう」

 この間も、報告帰りに寄り道をして怒鳴られたところだ。ハヤトとしては、何度も同じことで怒られたくはない。ましてやそれが父親、現団長ジェッタの耳に入ればどうなることか。

「まーたあれか、親父さんに怒られるの怖がってんのか。ったく、ハヤトはビビリだなー」

「違う。そうじゃなくとも、従騎士(エスクァイア)の俺たちがある程度自由なのはだな……」

「あーはいはい。期待されてるオレらだから、だろ?」

 期待。確かに間違いではない。しかしそれはゼロのほうで、ハヤトは自分自身をそうだとは思っておらず。

 天才型で、なんでもそつなくこなしていくゼロと、その何倍も努力をしないと追いつけない自分。墜ちた騎族と言われたウィンチェスター家を、筆頭騎族まで立て直した父親とは違い、取り柄が神術くらいしかない自分。

 実際ハヤトは、自分が周りから余り良くは思われていないのを感じていた。だからこそ少しでも真面目に、良く思われたくて行動したいというのに。

「お前は本当にお気楽でいいな……」

「まー、深く考えてどーにかなるもんでもないしなー」

 頭の後ろで手を組んだまま、ゼロはハヤトに笑みを向ける。ハヤトとしては呆れで言ったつもりだが、この笑っている友にはなんの効果もないらしい。今に始まったことではないが。

「なー、ハヤト。なんか焦げ臭くね?」

「ん?」

 言われて辺りの臭いを嗅いでみる。確かに、どこからか嫌な臭いが漂っているのは確かなようで、それがどこからするのかと気を配り。

 2人が歩いていたすぐ隣の家の窓が、激しくヒビが入り、そして瞬く間に割れていった。割れた窓からは炎がうねりながら飛び出し、それは一瞬にして家を焼き包んでいく。

 中から聞こえてきた子供たちの声が、尋常ではない恐怖を感じさせる。助けを呼ぶ声も聞こえ、中にいるのが1人や2人でないことは容易く想像できた。

「ハヤト!術!術!」

「わ、わかっている……!み、水の(スペル)、1の章。我が声に応え、水柱と成せ!」

 玄関に向かって右手をかざし、水を炎にぶつけてみる。が、それは熱さによって蒸発していき、全くの無意味な行為でしかなかった。

「あー!もー!オレが入って助けてくる!ハヤトは隊長たちとかなんやら呼んでこい!じゃ!」

 止める隙も与えず、ゼロは燃え盛る中へと駆け込んでいった。ゼロが入った瞬間に玄関は崩れ、続いて中に入ることは出きなさそうだ。言われた通りに、助けを呼びに行くことしかハヤトには出来なかった。


 神使(しんし)を連れて戻る頃には、騒ぎを聞きつけ駆けつけた父親の姿があった。ジェッタは腰に差している剣ーー神機を抜くと、その切っ先を燃え盛る家へ向け、ただ淡々と(スペル)を紡ぐ。

「解錠、展開、強雨」

 神機は淡い水色の光を放つと、無数の水滴へと姿を変え、家の中へと吸い込まれるようにして走っていく。別の水滴は空へと立ち昇り、そして雨へと姿を変えて降り注いでいく。

 術ではどうにも出来なかった。自分ではどうにも出来なかったが、父親はそれをいとも簡単にやってのけてみせた。それが、ハヤトには重みとなってのしかかった。

 消えていく炎をただ呆然と見つめ、騎士たちが中から残された子供たちと、そして火傷を負ったであろうゼロを抱えて出てくるのを見送る。すれ違いざま、ゼロが心配すんなとでも言いたそうに笑ったが、それを気に止める余裕などなかった。

 父親、ジェッタが歴代最高の神機の使い手であることは知っていた。本来ならば、もう少し長い(スペル)を紡ぎ神機を発動させるのだが、ジェッタはそれをせずとも(スペル)を紡ぎ発動させる。そしてその効果は、折り紙つきである。

「父さん……」

 無意識に零れたそれは、どうやらはっきりとジェッタに届いてしまったらしい。ちらりとハヤトを見、顔をしかめるのが見えてしまった。慌てて顔を反らすが、慌ただしく指示を出しているジェッタはハヤトに構う余裕はないらしく、いつもの説教が飛んでくることはなかった。


 夕方のあの事故は、どうやら子供たちだけで夕食を作ろうとした際に起こったものだと後から聞いた。いつも共働きしている両親の為にと思ったらしいが、それがあんなことになるとは思ってもいなかっただろう。

 幸いなのは、ゼロも含め、誰1人として死者がいなかったことくらいか。家は近いうちに、地の神使が造るということだ。

 相部屋の煩い友は、しばらくは治療の為、教会で過ごすことになったと聞きハヤトは内心ほっとしていた。少し前から考えていた西(ウェス)行きの件を、煩い友にがやがやと言われる前に決められそうで。

 術があるからと思っていたが、やはり父親を見る限り神機を持っていたほうがいいに決まっている。ゼロも正式に騎士になれば、神機を扱うことが既に許されている。

 それに何より。

 知らない土地に行けば、父親とも、友とも、誰とも比べられずに済む。それが1番の理由だ。

 伝えるなら早いうちがいいだろうと宿舎を抜け出し、ハヤトはジェッタがいるであろう母屋に向かう。道中何人かの騎士に怪しまれたが、団長に呼ばれたと嘘をついて切り抜けた。後で怒られるだろうが、もうこの際どうでもよかった。


 相変わらずいつ休んでいるのか不思議だが、ジェッタは机に向かって書類作成に追われていた。焦りからかハヤトはノックも忘れ入ってしまい、再びジェッタから冷たい視線を向けられることになってしまう。

 いつもならば小言が飛んでくるものだが、ジェッタは小さなため息をひとつ吐いた程度で、特に何か言うわけでもなく、ハヤトが口を開くのを待った。

「……西(ウェス)への話、引き受けます」

「そうか」

 一言だけ返し、ジェッタは手元からひとつの紙切れを手に取った。確認するように目を走らせ、一通り確認し終えるとそれをハヤトへ突き出す。受け取ればいいのか少し迷うが、早くしろと言わんばかりのジェッタからの圧に負け、ハヤトはゆっくりと歩み寄り、そして紙切れを受け取った。

 ハヤトも確認するように上から目を通し、中頃まで進んだところで、驚きから目を離した。信じられないとジェッタを見るが、既にジェッタは書類とにらめっこしており、ハヤトのことなど気にはしていなさそうだ。

「団長、これはどういうことですか!?貴方の、いや、ウィンチェスターの嫡男はショウのはずだ!ショウに名を継がせるべきだ、何を考えているのですか!」

「……くっ、ははっ」

「何笑って」

 堪えきれないとでも言うように笑い出すジェッタと、さらにわけがわからず顔を歪めていくハヤト。

 渡された紙切れ、いや正式な書類のそれは、ウィンチェスターの紋が背景に入ったものであり、その内容は、エイピアの名はハヤトに継がせることが書かれてあった。

「いや、すまない。お前が私に吼えるのは久しぶりだなと思ってな。くっ……」

 未だに笑うジェッタに顔をしかめてみせると、少しは悪いと思ったのか、やっとジェッタは笑うのを抑え、ハヤトを正面から見据えた。

「ハヤト、お前は母親に似て聡い子だ。自分の父親が誰か、という話ももう知った上で、今まで私を父と呼んでくれていたのだろう。気苦労をかけてしまい、本当にすまなかった」

 そう視線を少し下げ、しかしすぐにまたハヤトを見つめる。その瞳はいつもの冷たさではなく、いつか見た父親としての暖かさを含んでおり、ハヤトはすぐにでも「父さん」と呼びたくなるがそれを堪える。今呼んでしまうと、自分の中の決意が揺らぐ気がして。

「私がお前を引き取ったのは、確かに跡継ぎの為でもあるが、お前が能無しだった場合、この話はそもそもとして成り立たない。ハヤト、お前がお前自身の手で掴んだものだ、胸を張ればいい」

 ハヤトはもう1度書類に目を通していく。残りの半分を読み終え、噛みしめるように書類を力強く握りしめた。

「だからハヤト。中央(ここ)に帰ってこい。お前を待つ少女(ひと)がいる」

 そう微笑んでくれたジェッタに微かに頷き返す。既に用意されていた渡航証明書や、必要最低限の荷物をまとめ、ハヤトは次の日、朝1番の民間船にて西(ウェス)へと向かった。

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