表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を忘れた君へと紡ぐ。西編  作者: とかげになりたい僕
鏡のように 〜Espelhar〜
14/30

黒 〜preto〜

 ゼロの部屋に、彼はいなかった。

 どうしたのかと首を傾げる2人の元へ、迎えに来たらしいクレハが淡々と告げる。

「ゼロ様でしたら具合が良くないらしく、先程私がお連れしました。滞在中には直るかと」

「あんなに元気そうだったのに……?」

 訝しむルエとは逆に、ハヤトは余り気にしていないのか、表情を変えることなく「そうか」と一言だけ返す。ルエは、その態度に何か言いたそうな視線を向けるが、ハヤトから返された視線もまた、今は黙っていろと言いたげなもので。

 だからルエは、小さく手を握り締めただけで、何事もないかのようにクレハにふわりと笑った。

「……クレハ様、お世話をお掛けします。ゼロのこと、よろしくお願いします」

「お任せくださいませ。ではご案内を」

「いや、案内は構わない。変わっていないのだろう?」

 背を向けたクレハに問いかけると、クレハはそのままの状態で短く「はい」とだけ返した。ハヤトは納得したように頷くと、

「中を見て回りつつ向かう。少し遅れるが、まぁ陛下のことだ。案の定あちらも遅れてくるに違いない」

 その言葉に、クレハは思案するように視線を漂わせ、しかしすぐに頷き「お伝えしておきます」と2人に背を向ける。クレハの姿が見えなくなった頃、ルエは不思議そうにハヤトを見上げた。

「案内、なぜ断ったのですか?」

「俺とクレハのこと、聞きたいんだろ?それならいられると困るからな」

 大して気にも留めず答えるが、ルエはその気遣いが嬉しくもあり、そして悲しくもあり。そんなルエを知ってか知らずか、ハヤトは先に歩きだし、どこから話したものかと記憶を辿る。

「俺とクレハは……」

「あの!」

「ん?」

 急に声を上げたルエを、一体何事かと思い振り返る。ルエは何かを伝えようと、しかしどう伝えればいいのかわからないようで、引き止めた姿のままだ。

 ハヤトはそれをしばし見つめ、困ったように視線を床に彷徨わせる。聞きたかったのではないのか、自分とクレハのことを。だからあれほど不安になっていたのではないか。

「……ゼロの」

 先に口を開いたのはハヤトだ。

「ゼロの昔話、したことなかった、よな……」

 これならどうだろうかと、ちらりとルエを盗み見る。

「そ、そう、ですね。では歩きながら、話せるとこまでで構わないので、よろしくお願いします」

 どうやらこの話題はよかったらしい。

 ハヤトは内心胸を撫で下ろし、どこから話したものかと記憶を辿っていく。小さな四角い窓から見える景色は、既に薄暗くなっていた。



 ※



 声、だ。

 それは耳に囁くような、とてもとても小さな声。

 それが(うた)だと気づいた瞬間、ゼロの意識は瞬く間に覚醒していった。

「あ、れ……」

 口からごぼごぼと泡が出ていき、それは自分が、得体の知れない何かしらの容器の中で、水のような物に浸されていることがわかった。しかし不思議と苦しくはなく、息も出来れば話すことも出来る。水中だというのに、目を開けてても痛くもない。

 しかしそれが、この異常さをゼロに理解させるには十分なものだった。

「やぁやぁ、目が覚めたんだね。死ななくてよかったよかった」

 その声に鳥肌が立つのを感じ、ゼロは慌てたように辺りを見回す。が、自分は容器の中に寝かされているようで、どれだけ周囲を伺おうとしても、見えるのは硝子越しの天井と思わしき暗闇だけだ。

「おまっ、お前、オレに何してっ」

 恐怖で声が裏返るが、それを気にしている場合でもない。

「何?何っていうのは、あれかい?身体を分解されるとか考えてる?」

 ゼロの視界にあの不気味な笑顔が入り、ゼロは思わず叫び、その容器を力任せに殴ってみるがびくともしない。それを愉快だと言わんばかりに笑い飛ばし、レオは頭を手に取り胴体に付けた。

「大丈夫、貴重なヒトに乱暴はしないって。ただね、ボクは知りたいんだよ」

「な、何、を」

「感情を」

 大袈裟なほどに手を広げ、レオは笑いながら容器の周りを歩くが、ゼロから姿が見えず、ただただ薄気味悪い笑い声だけが聞こえてくる。それがさらに恐怖を煽り、ゼロはまた気でも失ってしまえたらと考えた。

「ボクら西(ウェス)の王族は、代々この身体に記憶と記録を継承していく。その中で、感情というのは余分なものでさ、余りよくわかってないんだ。でもボクは知りたい。例えば……」

 レオがゼロを覗き込む。

「ねぇ。キミはルエディアが好きなんでしょ?だったらなんで、2人が幸せならそれでいいって思ってるの」

「ルーちゃんは、オレにとって家族だからだよ」

「家族?」

 意味がわからないというように、しかしレオは興味深いとばかりに、容器にさらにしがみつくようにしてゼロを見つめる。

「愛って、一緒だよね?好き、愛、恋。ねぇ、キミはルエディアを手に入れたいよね?」

「愛にもいっぱいあるんだよ!家族愛だ、家族愛!」

「よくわからないな。クレハも同じことを言っていたよ、愛してるから手に入れたいとは限らないって」

 鼻歌まじりに容器から離れ、レオは別の場所に置いてあったタブレットを手にし戻ってくる。指で画面を撫で、目的の何かを見つけたのか、満足そうに容器の中のゼロに見えるようにちらつかせた。

「これ……」

 ゼロは画面の文字を追っていく。ハヤトが西(ウェス)に来てからの記録、それからクレハと何があったのか、それらを簡素だがまとめたそれは、ゼロに怒りを覚えさせていく。

「お前!こんなん、こんなんやらせたのかよ!?ふざけんなよ!」

「知りたいと思うのは悪いことかい?自分に理解出来ないことを理解しようとするのは、そんなに糾弾されることかい?」

「やり方ってもんがあるだろ!あぁ、くそ!ここから出せ!出しやがれ!」

 内側からどんなに叩こうと、叫ぼうと、ただ虚しく響いていくだけのそれは、ゼロに、自分では何も出来はしないことを嫌でも自覚させていく。

 もっと、自分に力があれば。ハヤトのように神術を使えたり、それこそルドベキアのように物理的な力でも構わない。何もない、失くしてしまった自分が、今この時ばかりは恨んだ。

 必死に抵抗を試みるゼロを、レオは嘲笑うかのようにタブレットを器用に回してみせ、それから手元にあるスイッチに手を伸ばした。

「さてさて。キミにはね、試したいことは色々あるんだけど……。本当のキミ。まずはそれからいってみようか」

「本当の……オレ?」

 容器を叩く手が止まる。本当の、というのは一体なんなのか。

「そう。見せてよ。キミの、奥底にある、醜いもの、綺麗なもの、真実(ほんとう)を」

 レオがスイッチを押す。

 入っていた水は水位を低くしていき、ゼロの身体が次第に露わになっていく。代わりのように容器内に満たされていく煙は、先程の水とは違い、少量を吸い込んだだけで目眩がしてくる。

 吸ってはいけないとわかってはいるが、酸素を求める身体は、嫌でも大量のそれらを体内へと取り込んでいく。虚ろになる意識の中、やけに耳につく笑い声が印象的だったのを覚えていた。



 白は黒に染まる。

 自分のものではない、何かが這い回るような気持ち悪さ。

 感情も、意思も、自分そのものさえも、簡単に塗りつぶされていく。

 誰だろう、これは。



「やぁやぁ、寝起きはどうだい?レイガノール」

 最初に聞こえたのは、やけにカンに触る声だった。

 容器が開き身体を起こす。

 自分に笑いかけてきた少年の首を、手を薙ぎ払って落としてやった。転がる首と、立ったままの身体を忌々しく見つめ、そっと容器から立ち上がる。

「何か言いなよ。久しぶりでしょ、その身体」

「……貴様、オレに何をした」

 転がったままの首を拾い上げ、身体と器用にくっつけると、その黒髪の少年は狂ったように笑い出した。

「起こしてあげたんだから、あんまり酷いことはしないでほしいな。呪いをあっちに押しつけて、こっちに出てきた気分はどう?」

 肩を動かしてみる。確かに悪くはない。

 まぁ元は自分の身体なのだし、悪いも良いもないと思うのだが。

 ゼロ、いや王族の証とも言える黒髪黒目を持った少年は、何かを思い出すように口元に手をやる。しばしの後、興味深そうに自分を見上げるレオを蹴り上げた。

「ぐへっ」

 軽く吹っ飛んでいくレオに構わず、少年レイガノールは足早に部屋の出口を目指していく。途中、硝子に写る自分の姿に気づき、いきなり兄が出てきてはまずいかと考え。

「おい」

「な、なんだよ、もう……」

(イスト)にあった、アレ。早く出せ」

「はぁ?」

 レオが文句を言おうとしたところ、またもや胴体を切り離された為、言われた通りに白髪のウィッグを用意してやるしかなかった。とても不本意で、理不尽だとは思ったが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ