表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕を忘れた君へと紡ぐ。西編  作者: とかげになりたい僕
鏡のように 〜Espelhar〜
13/30

同じ 〜o mesmo〜

 

「で?何を言いかけた?」

「この体制で聞きますか?普通」

 組み敷かれた状態から解放はされたものの、今度は向かい合わせで、しかもルエはハヤトの膝の上に座る形にされてしまった。逃げないようにと、ご丁寧にルエの腰に手まで回して。

 たくしあがったスカートを直したくも、それをしようとすればハヤトの手がすぐに制してくる。その際に太ももを撫でられたので、抵抗はしないほうが懸命だとそのままにした。

「早くしろ。夕食は陛下と摂ることになっている」

「どこで決めたんですか」

「お前が部屋に閉じ籠もったんだろ」

 それを言われると、確かにその通りで何も言い返せず。しかしそれも元を辿れば、この目の前の彼の責任でもあるのだ。

「確かに、私が勝手なことをしました……でも」

「ん?」

「……ハヤトくんが、私を見てくれない、から」

 今自分の頬は真っ赤だろう。それにしても、なんと面倒くさいことを言ってしまったのかと思う。いつから自分は、こんなに我儘になってしまったのだろう。

「ごめんなさい、今の忘れてくださ……っん」

 いきなり吐息を奪われてしまい、ルエは思わずハヤトの服を強く掴んだ。少し離れた隙に息継ぎをしようとするが、開いた口からさらに口内を犯されてはそれも叶わず。

「ふ……んっ……」

 角度を変えては繰り返されるそれに、次第に何も考えられなくなってきた頃。ハヤトの手がスカートの中へと伸びるのを感じ、寸でのところでルエは理性を引っ張り上げた。

 このまま流されてはいけない。そうでないと、結局何も言えないままことに及ぶだけではないか。

「だ、め……です!」

 ハヤトの手を掴んで少し強く睨みつける。しかしルエは気づいていない。その瞳は潤んでおり、既に熱が昂ぶっていることを。

「見ろと言ったのはお前だろう。俺があの日誓ったのは誰か、身体に教えてやる」

「やぁ……っ」

 ゼロと比べれば確かにハヤトは非力ではあるが、だからといってルエの手を払うことくらい対したことではなく。その手がルエを快楽へと(いざな)うのに、それほど時間はかからなかった。



 ※



 あの2人が幸せならそれでいい。

 けれど、そうしたら自分の居場所は何処になるのだろうか。

 ルエを、妹を守るという(てい)で側にいたが、これからもそれが続くのだろうか。いや、(イスト)で言っていたではないか、これからもついていくと。

 それは何時まで?

 自分はいらないと言われたら?

 ベッドで横になっていると、それこそ嫌な想像ばかりが頭の中を占めていく。これでは駄目だと、ゼロは飛び起きるようにしてベッドから降りた。

 隅にある時計は夕刻を示している。少し早いが、約束の広間へ向かう前に少し見学でもしていこう。何か面白いものでも見れるかもしれない。

 腰に神機(しんき)をぶら下げると、ゼロは伸びをひとつし、当てがわれた自室を後にした。




 似たような造りになっているこの施設は、慣れた者でないとすぐに迷うように設計でもされているのか、ゼロはそれほど時間を立たずして途方にくれていた。

「やっぱハヤトに聞けばよかったなー……」

 誰に言ったわけでもないそれは、ため息と共に反響しては消えていく。

 それにしても、とゼロは考え込む。ここに来るまで、誰とも会わなかったのはなぜか。会えれば道を聞けたというのに、不思議さを通り越し、不気味さが漂ってくる。

「とりあえず、歩くか……」

 次第に明かりの数も少なくなり、通路を占める空気が重いものへと変わりだした頃。さすがに来た道を戻ろうと振り返り。

「やぁ。キミ、ここで何してるんだい?」

「ぅお!?」

 すぐ後ろに立っていたのは、あの気味の悪い国王レオだ。ゼロに対して微笑んではいるが、それはまるで張りつけた仮面のようで、余り気分がいいものとは到底思えず。

 それでもゼロは、戸惑いと微かに感じた恐怖を奥底になんとか閉じ込め、引きつった笑みを浮かべた。

「い、いやー、約束の広間に向かおうとして、迷子になっちまってさ……」

「あ、そうなんだ。ここ、わかりにくいからね、しょうがないね」

 背を向けたレオに安心する。正直、あの笑みを正面から見続けたくはない。

「ねぇ、キミ」

「あ、あぁ、何?」

 ゼロの背中を嫌な汗が伝う。

 早くこの場から逃げ出したい。それほどまでに、このレオという王は薄気味悪い。

「明かりが薄いはずなのに、ここまで来られたんだね」

 言葉の意図がわからず、ゼロは何も答えることが出来ない。いや、答えてはいけないと本能が教えている。

「キミ、もしかして王族なのかな?」

「……!?う、唸れ、狂風。嘆きを我が手に!」

 ゼロは後ろへ飛び距離を取ると、剣を腰から抜くと同時に振り上げる。それは回転を伴った風を巻き起こし、普通ならば触れるだけで風によって引き裂かれるはずだ。しかし、レオはその風の中、何事もなく背を向けたまま立っていた。

「あーあ、王サマなんだよ?ボク。でもキミもそうなんだね?」

「な……なんで、無事……」

 レオの首が、首だけが、ゆっくりと振り返る。

「ひっ……」

 思わず出た悲鳴に、レオがあの笑みを浮かべる。

 ゼロはその瞬間理解した。なぜレオがあんなにも薄気味悪いと感じていたのか、彼には生気も感情も感じられなかったからだ。

「ここはね、王族の血筋じゃないと入ってこれないんだ。例えば、(イスト)のルドベキア、中央(セントラル)のオディオ……は、もう死んじゃったけど。今ならルエディアがそうだよね。で、キミは?」

 首がふわりと浮き、ゼロにゆっくりと近づいていく。恐怖で竦む足を叱咤し、ゼロはレオから逃げるようにさらに奥へ向かって走り出す。

 後ろから、不気味な笑い声がずっと響いていた。



 ※



 身体が怠い。

 恨めしげにルエはハヤトを見る。部屋にある風呂場から戻ってきた彼は、濡れた髪をタオルで拭いており、この視線にも気づこうとしない。いや、気づいていて敢えて無視しているのかもしれない。

「……さっきからなんだ」

 やはり気づいていた。

「別に……何も……」

 頭まで布団を引き上げ、ルエは小さくため息をついた。結局は流されてしまい、さらには何度も溺れてしまい、気づけばもうすぐ約束の時間になろうとしている。

 出来れば自分も身体を流したい。けれどもこの怠さではそれも出来ない。矛盾した気持ちとは裏腹に、胸元につけられた痕が嬉しくもあり。

 ルエは服だけでも着ようかと、再び頭だけを出す。辺りを見渡そうとして、ベッドの縁に腰を降ろしてきたハヤトに視線が釘付けになった。

「それで?俺の誓いは誰の為か、ご理解して頂けましたか?」

「こ、こういう時だけ王女扱い、しないでくださいっ」

 ルエは堪らず起き上がり、ハヤトに弱々しい拳を振り下ろした。それを苦笑して受け止め、ハヤトは絞り出すようにして言葉を零す。

「……線引き、しているんだろうな」

「それは……」

「するさ。俺はルエとは違う。民の光となるお前と、その為とは言え犠牲を作り続ける俺とでは……」

 小さく「違う」と聞こえ、ルエは思わずハヤトを抱き締めた。彼がそれを選んだのは、選ばせたのは自分だというのに、何が違うというのか。

「ハヤトくん。違わないです、違わないんですよ。私を光だと言ってくれますが、光は影と常に一対です。貴方が影を背負ってくれているだけで、私も貴方と変わらない影でしかないんです」

「ルエ……」

「私は、私の命も、貴方の命も、もちろん民や他の皆さんの命だって。全部、全部等しく同じなんです。だから、自分のこととか、シアン様のこととか、違うなんて言わないで……」

 ハヤトもまたルエを抱きしめ返すと「あぁ」と、その柔らかな髪に顔を埋める。

「さ。レオ様が待っています!ゼロを迎えに行って、3人で行きましょう?」

 そう腕の中でふわりと笑う彼女に苦笑し、せめて身体くらいは流してこいと風呂場を示す。それに赤くなり、何かしら文句を言いつつ消えていく背中を見送りながら、ハヤトはあの番犬に礼ぐらいは言うかと思いを馳せていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ