同じ 〜o mesmo〜
「で?何を言いかけた?」
「この体制で聞きますか?普通」
組み敷かれた状態から解放はされたものの、今度は向かい合わせで、しかもルエはハヤトの膝の上に座る形にされてしまった。逃げないようにと、ご丁寧にルエの腰に手まで回して。
たくしあがったスカートを直したくも、それをしようとすればハヤトの手がすぐに制してくる。その際に太ももを撫でられたので、抵抗はしないほうが懸命だとそのままにした。
「早くしろ。夕食は陛下と摂ることになっている」
「どこで決めたんですか」
「お前が部屋に閉じ籠もったんだろ」
それを言われると、確かにその通りで何も言い返せず。しかしそれも元を辿れば、この目の前の彼の責任でもあるのだ。
「確かに、私が勝手なことをしました……でも」
「ん?」
「……ハヤトくんが、私を見てくれない、から」
今自分の頬は真っ赤だろう。それにしても、なんと面倒くさいことを言ってしまったのかと思う。いつから自分は、こんなに我儘になってしまったのだろう。
「ごめんなさい、今の忘れてくださ……っん」
いきなり吐息を奪われてしまい、ルエは思わずハヤトの服を強く掴んだ。少し離れた隙に息継ぎをしようとするが、開いた口からさらに口内を犯されてはそれも叶わず。
「ふ……んっ……」
角度を変えては繰り返されるそれに、次第に何も考えられなくなってきた頃。ハヤトの手がスカートの中へと伸びるのを感じ、寸でのところでルエは理性を引っ張り上げた。
このまま流されてはいけない。そうでないと、結局何も言えないままことに及ぶだけではないか。
「だ、め……です!」
ハヤトの手を掴んで少し強く睨みつける。しかしルエは気づいていない。その瞳は潤んでおり、既に熱が昂ぶっていることを。
「見ろと言ったのはお前だろう。俺があの日誓ったのは誰か、身体に教えてやる」
「やぁ……っ」
ゼロと比べれば確かにハヤトは非力ではあるが、だからといってルエの手を払うことくらい対したことではなく。その手がルエを快楽へと誘うのに、それほど時間はかからなかった。
※
あの2人が幸せならそれでいい。
けれど、そうしたら自分の居場所は何処になるのだろうか。
ルエを、妹を守るという体で側にいたが、これからもそれが続くのだろうか。いや、東で言っていたではないか、これからもついていくと。
それは何時まで?
自分はいらないと言われたら?
ベッドで横になっていると、それこそ嫌な想像ばかりが頭の中を占めていく。これでは駄目だと、ゼロは飛び起きるようにしてベッドから降りた。
隅にある時計は夕刻を示している。少し早いが、約束の広間へ向かう前に少し見学でもしていこう。何か面白いものでも見れるかもしれない。
腰に神機をぶら下げると、ゼロは伸びをひとつし、当てがわれた自室を後にした。
似たような造りになっているこの施設は、慣れた者でないとすぐに迷うように設計でもされているのか、ゼロはそれほど時間を立たずして途方にくれていた。
「やっぱハヤトに聞けばよかったなー……」
誰に言ったわけでもないそれは、ため息と共に反響しては消えていく。
それにしても、とゼロは考え込む。ここに来るまで、誰とも会わなかったのはなぜか。会えれば道を聞けたというのに、不思議さを通り越し、不気味さが漂ってくる。
「とりあえず、歩くか……」
次第に明かりの数も少なくなり、通路を占める空気が重いものへと変わりだした頃。さすがに来た道を戻ろうと振り返り。
「やぁ。キミ、ここで何してるんだい?」
「ぅお!?」
すぐ後ろに立っていたのは、あの気味の悪い国王レオだ。ゼロに対して微笑んではいるが、それはまるで張りつけた仮面のようで、余り気分がいいものとは到底思えず。
それでもゼロは、戸惑いと微かに感じた恐怖を奥底になんとか閉じ込め、引きつった笑みを浮かべた。
「い、いやー、約束の広間に向かおうとして、迷子になっちまってさ……」
「あ、そうなんだ。ここ、わかりにくいからね、しょうがないね」
背を向けたレオに安心する。正直、あの笑みを正面から見続けたくはない。
「ねぇ、キミ」
「あ、あぁ、何?」
ゼロの背中を嫌な汗が伝う。
早くこの場から逃げ出したい。それほどまでに、このレオという王は薄気味悪い。
「明かりが薄いはずなのに、ここまで来られたんだね」
言葉の意図がわからず、ゼロは何も答えることが出来ない。いや、答えてはいけないと本能が教えている。
「キミ、もしかして王族なのかな?」
「……!?う、唸れ、狂風。嘆きを我が手に!」
ゼロは後ろへ飛び距離を取ると、剣を腰から抜くと同時に振り上げる。それは回転を伴った風を巻き起こし、普通ならば触れるだけで風によって引き裂かれるはずだ。しかし、レオはその風の中、何事もなく背を向けたまま立っていた。
「あーあ、王サマなんだよ?ボク。でもキミもそうなんだね?」
「な……なんで、無事……」
レオの首が、首だけが、ゆっくりと振り返る。
「ひっ……」
思わず出た悲鳴に、レオがあの笑みを浮かべる。
ゼロはその瞬間理解した。なぜレオがあんなにも薄気味悪いと感じていたのか、彼には生気も感情も感じられなかったからだ。
「ここはね、王族の血筋じゃないと入ってこれないんだ。例えば、東のルドベキア、中央のオディオ……は、もう死んじゃったけど。今ならルエディアがそうだよね。で、キミは?」
首がふわりと浮き、ゼロにゆっくりと近づいていく。恐怖で竦む足を叱咤し、ゼロはレオから逃げるようにさらに奥へ向かって走り出す。
後ろから、不気味な笑い声がずっと響いていた。
※
身体が怠い。
恨めしげにルエはハヤトを見る。部屋にある風呂場から戻ってきた彼は、濡れた髪をタオルで拭いており、この視線にも気づこうとしない。いや、気づいていて敢えて無視しているのかもしれない。
「……さっきからなんだ」
やはり気づいていた。
「別に……何も……」
頭まで布団を引き上げ、ルエは小さくため息をついた。結局は流されてしまい、さらには何度も溺れてしまい、気づけばもうすぐ約束の時間になろうとしている。
出来れば自分も身体を流したい。けれどもこの怠さではそれも出来ない。矛盾した気持ちとは裏腹に、胸元につけられた痕が嬉しくもあり。
ルエは服だけでも着ようかと、再び頭だけを出す。辺りを見渡そうとして、ベッドの縁に腰を降ろしてきたハヤトに視線が釘付けになった。
「それで?俺の誓いは誰の為か、ご理解して頂けましたか?」
「こ、こういう時だけ王女扱い、しないでくださいっ」
ルエは堪らず起き上がり、ハヤトに弱々しい拳を振り下ろした。それを苦笑して受け止め、ハヤトは絞り出すようにして言葉を零す。
「……線引き、しているんだろうな」
「それは……」
「するさ。俺はルエとは違う。民の光となるお前と、その為とは言え犠牲を作り続ける俺とでは……」
小さく「違う」と聞こえ、ルエは思わずハヤトを抱き締めた。彼がそれを選んだのは、選ばせたのは自分だというのに、何が違うというのか。
「ハヤトくん。違わないです、違わないんですよ。私を光だと言ってくれますが、光は影と常に一対です。貴方が影を背負ってくれているだけで、私も貴方と変わらない影でしかないんです」
「ルエ……」
「私は、私の命も、貴方の命も、もちろん民や他の皆さんの命だって。全部、全部等しく同じなんです。だから、自分のこととか、シアン様のこととか、違うなんて言わないで……」
ハヤトもまたルエを抱きしめ返すと「あぁ」と、その柔らかな髪に顔を埋める。
「さ。レオ様が待っています!ゼロを迎えに行って、3人で行きましょう?」
そう腕の中でふわりと笑う彼女に苦笑し、せめて身体くらいは流してこいと風呂場を示す。それに赤くなり、何かしら文句を言いつつ消えていく背中を見送りながら、ハヤトはあの番犬に礼ぐらいは言うかと思いを馳せていた。




