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僕を忘れた君へと紡ぐ。西編  作者: とかげになりたい僕
よい旅を 〜Boa viagem〜
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噴水 〜fonte〜

 ――元素。

 それは世界に溢れる、生きていく上でなくてはならないもの。


 火、水、地、風、(くう)から成るそれらは、神力(しんりょく)と呼ばれる力を(うた)に乗せ術として具現化することで、時に人を護る盾となり剣となる。


 そしてその神力を込め、武器として扱えるようにしたのが神機(しんき)である――




「っああああ!」

 持っていた分厚い本をばたんと閉じ、白髪碧眼の少年、ゼロは雄叫びを上げた。隣で同じように本を開いていた知らない誰かが、びくりと肩を震わせゼロを盗み見る。

「もう無理、無理なもんは無理!向き不向きってやつをハヤトは覚えたほうがいい!」

 机に本を放り出し、椅子の背もたれに体を預け天井を仰ぎ見た。高い天井まで本棚があるここは、中央大地(セントラルガイア)を治める王族、サガレリエット家の敷地内にある図書館だ。一般開放されている為、王族以外の者でも気軽に立ち入ることが出来る。

 さて、勉強嫌いのゼロがここに来た理由だが。

「ゼロ、またサボって!それ読めってハヤト言ってたやんな!?」

「あー……、何サナちゃん。監視でもしにきた?」

 欠伸をし、ゼロは反対側に座った齢10歳ほどの少女を頬杖をついて眺める。茶髪頭にゴーグルをかけた少女サナは、見た目はゼロよりも幼いが、これで20歳を越えている。


 中央大地(セントラルガイア)から西へ海を渡ると、西大地(ウェスタンガイア)と呼ばれる国があり、そこで生まれた人間は、ある一定の見た目から成長が止まる。西(ウェス)の人間は、生まれながらにあまり神力を持たず、その為、神機と呼ばれる道具に、予め決まった神力を込めてそれを持ち歩いている。


 サナはゼロの放り出した本に手を延ばし、パラパラといくつかページを捲り、また本を閉じるとため息と共にゼロに突っ反した。それを気が進まないとばかりに受け取り、ゼロは「あー」と項垂れた。

「いーよな、サナちゃんはこーゆーの得意で。オレ文字読むとかほんと無理」

「でも読めるんやろ?さすが騎士サマ」

「うっわー、ハヤトみたいな嫌味をありがとう」

 本をまじまじと見つめ、そうだと何か思いついたのか急にゼロは立ち上がる。余りの勢いのよさに、座っていた椅子ががたんと揺れ、その反動のまま床に倒れる。隣の見知らぬ誰かが、またもやゼロを面倒くさいとばかりに盗み見た。

「本借りて外で読もうぜ!そのほうが気持ちいいし!」

 倒れた椅子には気づかず、さて、と振り返ったところで。青筋を立てんばかりの怒りを静かに讃えた司書が、冷たい笑みを張り付けそこに立っていた。

「……貸し出し、ありがとうございます」

 司書は義務的にカードに記入を済ませ、それをゼロに持たせ、早く出ていけと言わんばかりに外へ放り出した。



 ※



 中央大地(セントラルガイア)を治めるサガレリエット家。そのサガレリエット家は、前王が起こした問題により王族の座を降ろされ、最近まで城すら持っていなかった。

 前王亡き後、残ったサガレリエット家の王族が跡を継ぎ、最近やっと王族が保有していた船と、城を返還してもらったところだ。

 そこに至るまでに、まぁ色々あったわけだが、それはここでは割愛する。



 借りた本を片手に、ゼロは図書館を離れ、少し遠目に見える城へ歩き出す。すれ違う騎士たちは、皆サガレリエット家と街を護っている優秀な者たちだ。その誰もがゼロに対し敬礼をし、それにゼロも返してやりながら通り過ぎていく。

 そんな光景を何度か見かけたところで、隣を歩いていたサナが、感心するような、しかしどこか馬鹿にしたような笑みをゼロに向ける。

「さすが剣の騎士(シュヴェルトリッター)サマ、皆の憧れの的やんな」

 ゼロはうんざり気味にため息をつき、

「オレは好きじゃないんだけど。ルーちゃん守る為に誓ったわけだし」

「知ってる知ってる」

 それでも尚、笑みを崩そうとしないサナに呆れた視線を送り、見えてきた噴水広場で足を止める。四ッ辻になっており、右手は城門、左手は城へ、正面は確か庭園へと続いていたはずだ。

 そこの噴水に、見慣れた空色の頭を見つける。空色の彼は、両手両足の袖を捲り、この間掃除したばかりだという噴水の中で何かを探していた。

「水遊びとか楽しそうだなー、盾の騎士(シルトリッター)サマ。オレには本を読めだのなんだの言っといてさ」

 これでもかというほど、嫌味たっぷりに声をかけてやると、空色の彼もまた、うんざりした顔でゼロを見る。

「お前にはこれが遊んでいるように見えるのか?それなら今すぐ頭か目を診てもらえ。もう手遅れかもしれないが」

「なんだよ、こっちは言われた通り本を読んでるってのに」

 厳密に言えばまだ読んでいない。しかし、持っている本をドヤ顔で彼に突き出す姿は、そんなことは全く考えていないのだろう。

 空色の彼もそれは気づいているようで、もう話すことはないとまた水の底に手を入れ始める。彼なら水を操り、すぐに見つけられるだろうに、一体何をしているというのか。

 ゼロが噴水の縁に座り、本を開こうとして。

「ハヤトくん!見つかりましたか?」

 聞こえてきた声に顔を上げ、ゼロは嬉しそうに微笑んだ。肩まである黒髪をハーフアップにまとめた少女は、ゼロとサナの姿を見、同じようにふわりと笑った。

「ゼロ、お勉強してるって聞きました!凄いです!」

「あ、あー、うん……」

 最初のページで手が止まりましたとは言えず、誤魔化そうと視線を彷徨わせ、それから「あ」と噴水を覗き込む。

「ハヤトは何してるんだ?なんか探してんのか?」

 ハヤト、と呼ばれた空色の彼は、手を止めることもせず黙々と底を漁っている。代わりに黒髪の少女が、申し訳なさげに目を伏せ、噴水をそっと覗き込んだ。

「この間、ここのお掃除をした際にイヤリングを落としてしまったみたいで。それに気づかずに水を入れてしまいまして……」

「あー」

 少女の左耳を見、それからハヤトの右耳を見る。動くたびに揺れる正八面体の青いイヤリングは、確かハヤトが母親からもらったものだったかと記憶を辿っていく。

 それをハヤトは、自分の右耳と、黒髪の少女ルエの左耳につけたのも記憶に新しい。まぁ、つまりはそういう関係なのだが、ゼロは未だに認めきれていない。

 そしてそのイヤリングは、普段は付けておらず、大切に持ち歩いているはずなのだが。ルエの焦り様を見るに、本当にここへ落としてしまったこともわかる。

「それでわざわざ、盾の騎士(シルトリッター)サマが探しているわけだ」

「嫌味たっぷりやん、アンタ……」

「うるせー」

 ゼロは手に持っていた本をサナに押し付けると、自分も両足の袖を捲り、勢いよく噴水に入る。暑いと思って半袖にしてきて正解だったと、内心ガッツポーズだ。

 入った勢いで上がる水飛沫に、ハヤトは隠そうともせず顔をしかめるが、特に何も言わないあたり、手伝うことへ不満はないらしい。

「気持ちいいなー!ルーちゃんも入れよ!」

「え?でも私は……」

 戸惑っているルエに、ゼロが思いきり水をかける。それは頭から足の先までルエを濡らし、ルエが声をあげるよりも早く、ハヤトが無言でゼロに水を浴びせる。

「ぶっ!ハヤト、何すんだ!?」

「こっちの台詞だ。遊びじゃないと言っ……!?」

 ハヤトに向かって水が飛ぶ。それは、押し付けられた本を噴水の縁に置いたサナからのものだ。してやったとばかりに笑っているサナに、ゼロが「ナイス!」と声をかけ、畳み掛けるようにハヤトに水を浴びせていく。

「お前ら……っ、いい加減に……!」

 怒りを2人に向け、もういっそのこと神術でも使ってしまおうかと考えたところで。

「えい!」

 背後からの予想もしない攻撃。振り向けば、水を滴らせながらふわりと笑うルエの姿。

「ルーちゃん、ナイス!今だ、やれー!」

 三方向からの集中砲火を受け、それはいつの間にか4人で水の掛け合いへと変わっていった。

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