第7話 常軌を逸した天才
真姫が来なくなって2週間近くが過ぎた。
「流石に来な過ぎじゃね?」
「そうですね…」
前にもこういう事はあったが、その時は確か6日ほどだった。
「乗り込む〜?」
「乗り込むっつっても、ヴァイズのせいで開かないだろ」
以前も乗り込もうとしたが真姫がヴァイズで『開くな』と言っていたので、扉はびくともしなかった。
「話は聞いた!」
アホみたいな大きさの声がして、全員が声の方を見ると、扉(があるべき所)に都乙が寄りかかっていた。
「ここは扉開けの専門家であるこの私に任せてもらおう」
「専門家て」
蹴破ってるだけだろ
「開けてる事に変わりはない」
「だから」
返事すんなってと言おうとしたが、言っても無駄なのでやめておく。
「じゃ、行くぞ、案内しろ」
自由人都乙を連れて、俺達は寮へと向かった。
……………………………………………………………
「真姫〜居るか〜」
都乙がゴンゴン扉を叩く。案の定、返事は無い。
「開けるぞー、おりゃ!」
都乙の蹴りが炸裂するが、扉はびくともしない。
「かった…」
「硬いとかの問題じゃねえだろ」
圭が鋭いツッコミを入れる。やはりヴァイズで開かなくなっているらしい。
「どうするか…」
双葉が腕組みして考える。
「圭のヴァイズで鍵作れない〜?」
「あーやってみるか」
圭がナノを鍵穴に入れ込み、何やらガチャガチャとやる。
「ダメだ、構造が分からんと出来ねぇ」
圭が手を上げてお手上げのポーズをとる。
「やっぱ蹴破るか!」
都乙が構えの姿勢をとる。
「おりゃ!おりゃ!許せ真姫!おりゃあ!」
三度蹴りを入れられた扉は見るも無残な姿になり倒れた。
「ひしゃげてる…」
玖音先輩が若干引いてる。
「入るぞ」
圭が先陣切って部屋に入り、双葉達も後に続く。部屋のあちこちに壊れた画材や楽器まで落ちている。
「真姫!」
圭の声で全員が集まる。真姫はいた。厳密には倒れていた。
〜〜〜
「安心しろ、意識はある」
倒れていた真姫をベッドに運び込んだ都乙が戻ってきてそう言った。
「あいつ…」
倒れたところには描きかけの絵があった。大方、寝ないで作業を続けていたのだろう。
「双葉、お前が一番付き合い長いだろ、ずっとこんなんなのか?」
「…はい」
真姫とは中学が同じで、最初は少し話す程度だったが、そのうち授業を抜けた屋上でよく話すようになった。
「最初はお互い、会話もしなかったんですけど…」
そう、始めは会話なんて全くなかった。
ある日、いつものように屋上に行くと、何やら聞き慣れない音がした。
(楽器?)
乏しい知識の中から導き出した答えはバイオリンの音という事だけ、何の曲かもわからなかったが、悲しげな曲という事は分かった。
そっと音の方に近づき、誰が弾いてるのか見ようとする。貯水タンクの影に人影が見えた。
「"止まれ"」
その人影を見るのがはやいか、その声で俺の体は硬直した。
「盗み見は感心しないな、大谷双葉くん」
なんで名前を、そう言おうとしたが口も動かない。
「君も屋上の常連だろう?名前くらい調べれば分かる」
(分かるか?てかなんで言おうとしてること分かんだよ)
「こんな状況になったら、聞きたいのはまず相手が何者か?その中で自分の名前を知っていたら、まず理由を聞きたいだろうし、別に隠すようなことでもないからね」
(想像の範囲内ってわけか。)
目の前の彼女が目を閉じると体の硬直が一気になくなった。
「今のがお前のヴァイズか?」
「あぁ、まぁあまり好きではないけど」
「そうか」
まぁ、自分のヴァイズが好きじゃねえやつだっている。俺もそうだ。
「自己紹介が遅れた。あたしは心嶋真姫。芸術家だ」
「芸術家?絵でも描くのか?」
「絵でもなんでも、芸術なら任せてくれ」
「何だそれ」
そこからはお互い、待ち合わせるでもなく、居合わせたら話した。あの日弾いてた曲が自作であること。本当に芸術であれば何でもできること。俺のヴァイズの事。俺に10歳までの記憶が無いこと。
「記憶が無いってのはどんな感じなんだい?」
そんなことを真姫に聞かれたことがある。
「どんな感じっつっても、無いもんは無いからな、生活に支障はねぇし」
「つまらない返答だね」
「お前が聞いてきたんだろ」
ある時、パッタリと真姫が来なくなった。授業に出ているわけでもないらしい。
(待ち合わせてるわけじゃねぇけど、心配だな)
1週間くらい経って、真姫は屋上に来た。
「どこ行ってたんだ?」
「絵を描いてただけだよ」
「1週間も?」
「あぁ」
その後も何度か長い間来ないことがあって、その度に何か創作していたらしい。
「と、まぁこんなんなんですよ、昔から」
一言で言えば、真姫は天才だった。それも、常軌を逸した。
「なるほどねぇ…ん?」
都乙の携帯に連絡が入る。会話の内容からして事件のようだ。
「悪いな、事件だ」
圭と玖音先輩が立ち上がる。
「双葉は真姫のそばにいろ」
「でも…」
「二人で十分だ、部室戻れば衛利もいるだろ」
「そそ、真姫ちゃんを頼むよ〜」
そう言う二人を見送り、双葉は部屋に残った。
「ん、んん…」
「真姫?」
数分後、真姫がうなりながら体を起こした。
「………双葉」
「心配したぞ、大丈夫か?さっきまで部長達も来て…」
「…描かなきゃ」
「おい真姫!」
(あいつバカなのか?立つのもやっとの癖に!)
ふらふらと立ててある絵に向かって歩く真姫。
「…おっと」
ふらついて、絵を立ててあるやつ(イーゼルというらしい)に寄りかかる。
「真姫!無茶すんな!」
「"来るな"」
「がっ!」
身体が…動かねぇ…
「あたしの事はよく知ってるだろ?描けないあたしに価値は無いんだ」
(くそ!あいつ…)
「真姫!お前の事は多少なりとも分かってるつもりだ!でもそんなんになってまで描く必要無ぇだろ!」
「分かってくれ双葉、今スランプってやつでね、"絵"が描けないんだ。あいつが唯一認めてくれた絵が」
真姫はイーゼルの前に座り、絵筆を持つ。その手は震えていた。
(最悪殴ってでも止めねぇと…)
でも身体が動かなきゃそれも出来ねぇ…
(考えろ、動く方法。真姫のヴァイズを解く方法)
あいつは『来るな』と言った。つまり…
「………」
真姫の方へ向かわなければいい。
(真姫の方へは行かない)
そう心の中で念じる。すると少しずつ身体の自由が効くようになってきた。
「……よし!」
「え?」
俺が動き出した事に気付いた真姫は再びヴァイズを使おうとする。
「"来る…」
「おら!」
言い終わる前に真姫にたどり着いた。半ば押し倒す形になってしまったが。
「……分かった、今は描かない」
「…分かったならいい」
改めて見るとこいつ…性格と生活に難があるだけで顔はいいな。
「今変なことを考えただろう」
「なわけあるか」
心を読んでくるのは、都乙だけで充分だ。
……………………………………………………………
「双葉は料理が上手いね」
「別にこのぐらい普通だろ」
案の定、食事もろくに摂っていなかった真姫(聞けば6日は何も口にしていないらしい。死ぬぞ)に有り合わせでオムライスをつくる。
「いやいや、こんなにトロトロのオムライスをつくれる人は知り合いにはいないよ」
「お前、知り合いいないだろ」
「失礼な、あたしにだって知り合いぐらいいる」
あいつだろ、あいつだろ?と数える真姫。3で指が止まる。
「圭達にも食わせてやるか」
ターゲットを逮捕したら、ここに帰ってくるはず。
「おかわり」
「はいはい」
だが、その日のうちに圭達は帰ってこなかった。ターゲットからの攻撃で、病院送りになったからだ。
─都乙の!質問コーナー!
真姫:本編あんなんなのにやるんですか?
─当たり前だろ、一つ目の質問です。芸術の天才である真姫ですが、一番得意なのは何ですか?
真姫:難しいな。どれも簡単なわけではないし…
─そーなの?
真姫:もちろん。でも強いて言えば絵ですかね。
─よく描いてるもんな。2つ目の質問です。好きな食べ物は何ですか?
真姫:ん〜そもそもあまり食事にこだわりが無いからな〜。フランスとかイタリアの料理って芸術的ですよね。
─ちゃんと答えろ。
真姫:うーん…イチゴかな?
─急に乙女。
真姫:だってケーキ、シェイク、オ・レ。何にしてもあの味は変わらないんだよ?
─なるほど〜。さて、最後の質問です。気になっている人はいますか?
真姫:これ、みんなにも聞いてるんですか?
─うん。
真姫:部長、怒ったでしょう。
─うん。
真姫:でしょうね。まぁ、隠せてないですけど。
─おい、はぐらかすな。
真姫:はいはい。衛利です。
─真面目にこたえ…え?マジ?
真姫:では質問コーナー。また次回お会いしましょう。
─マジ?