第5話 街に巣食う影
「都乙さん、おはようございます」
「おっはよう、で?」
「身元不明の遺体が出たのですが…」
朝5時、最早早朝だが連絡が入ればいかない訳にはいかない。それにしても今回は酷すぎやしないか?
「これが…遺体?」
「……はい」
ブルーシートをめくって最初に目についたのは体のほとんどが欠損した遺体だった。顔も判別出来ない。これでは身元もわからないはずだ。
「………」
都乙は遺体に向けて手を合わせる。犯人を捕まえ、被害者の無念を晴らすと誓いながら。
……………………………………………………………
「双葉ー髪ー」
「はいはい」
あれから一週間が経とうとしていた。部長もすっかり元の調子に戻り(数日はひどかったが)、部室内にはいつも通りの空気が流れている。
「最近都乙来ねえな」
「ですね」
「あの人だってあれでいて刑事なんだし、事件追ってるんじゃない〜」
玖音先輩がそう返す。忘れそうになるが、あの人はあんな感じだけど刑事なのである。来れなくても不思議はない。
「都乙さんが来ないと、あたしはしっくりこないな」
真姫が絵を描ききながら言う。真姫は唯一都乙に対して敬意を持っている。居ないのは思うところがあるのだろう。
「おーっす!」
「おぉ衛利、来たところ悪いがもう終わるぞ、都乙も来ねぇし」
時刻は午後5時、都乙が来なければいつも終わっている時間である。
「マジかぁ」
「せっかく来たんだし、ちょっと延長すれば?何やるわけでもないし〜」
玖音先輩にそう言われて、部長は「じゃあちょっとな」とソファーに座り直した。
「サンキューっす部長!」
そう言って衛利は自分のスペースに入っていった。
その後1時間程でその日はお開きとなった。
………次の日……………………………………………
「暇してるか少年少女!」
都乙がいつもの倍ぐらいの勢いで扉を蹴破って入ってきた。
「うるせぇな」
「冷たいなー圭」
部長が一蹴するが負けじと都乙が返す。
「久々だな」
「やーメンドイ事件でな、捜査に手こずってんだよ」
「どんな事件なんですか?」
真姫が興味有りげというように聞く。
「ん〜こればっかりはな〜」
「あ、これ〜?」
玖音先輩がパソコンの画面を見せてくる。
「なになに?『身元不明の遺体が見つかった。遺体は欠損が酷く、ほぼ原型を留めておらず捜査も難航しているようだ』っと、なるほどねぇ」
真姫が文面を読み上げ、興味深いとでも言うように腕を組む。
「身元不明としか発表されてないはずなんだが…てゆーか、流石にお前らにはこの件は任せられないぞ、相手は殺人犯だ。危険過ぎる」
「今までだって…」
「殺人は他の犯罪とは違う。いや犯罪って点では同じだが、相手が何をしてくるか分からん」
いつもより真面目なトーンで都乙が話をする。この前言っていた『護りたい』ってのはホントなんだな。
「まぁその間に発生したショボい事件があるから、そっちは頼んだわ」
「結局あるのかよ」
「もちろん」
当たり前だろ?というように都乙が資料を配る。
その後に事件の概要を話し終えると「ささ、頼んだぞ少年少女」と言って眠ってしまった。
……………………………………………………………
rrrrrr…
「はい都乙、ん?あ瑠偉か、進展でもあったか?」
電話の音で目を覚ました都乙は部下からの報告を受ける。
「なになに?遺体の傷は噛みつかれてついた?犬とかか?」
『それが…傷の並びからして…人間の歯らしくて…』
人間の…歯…
「じゃあなんだ、被害者は人間に食い殺されたってのか」
『恐らく…』
「…分かった、てか率人は?ちゃんといるか?」
『も、もちろんですよ〜』
「…瑠偉?」
『す、すいません!探してきます!』
そう言って電話は切れた。
(率人…あの野郎…)
一年前、一人で行って爆発に巻き込まれたの忘れたのか?
(まぁ、あいつなら大丈夫か)
それより事件の方だ。瑠偉の調べでは遺体は食い殺されたとのことだったが…
「食い殺せんのか?人間を」
考えられるのは、やはりヴァイズだろう。常人の歯で人間を食うのはまず無理だ。
(あいつらに任せなくて良かった)
ただの殺人犯ならまだしも、食人犯なんて、危険度が段違いだ。
rrrrr…
また電話の音が鳴る。
「はいはい」
『あ都乙さん、ターゲット、捕まえましたよ』
真姫からの連絡だった。
「オッケ今行く」
都乙はヘルメットを被り、法定速度ギリギリでバイクを飛ばした。
……………………………………………………………
「ふ〜〜」
自宅に帰った都乙はベッドに横になっていた。
「都乙さん、晩ごはんは…」
「後で食う、置いといてくれ」
「わかりやした」
都乙には血の繋がった家族が居ない。今住んでいる場所は都乙を拾ってくれた人のものである。
都乙は眠気の中に薄れゆく意識の中で、親代わりである恩人との出会いを思い出していた。
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(暗い…痛い…辛い…)
少女は暗い部屋の隅にうずくまっていた。両親は居るが、少女には全く興味が無さそうだ。少女がいる部屋とは別の部屋で酒を飲んでいる。
ガァァァン!
「何だてめぇら!」
勢いよく扉が蹴破られる音がして、争うような音が聞こえてくる。争う声はすぐに止んだ。
「殺すなー金払ってもらわんきゃいけないからな、ん?まだ部屋あるのか」
そして少女が居る部屋の扉も蹴破られる。
「おーい、死ぬぞ?少女」
「あ…」
入ってきた女性の呼びかけに答えようとするが、長い間人と喋らなかったせいで、少女は上手く話すことができなかった。
「少女」
「…ん」
「生きたいか?」
「…う…」
少女は力を振り絞って首を縦にふる。
「そうか、お前らーこの子も連れてくぞ」
「いいんですか!?お頭!」
「うるさい、私が育てる」
そう言って女性は少女の手を取る。
「いくぞ」
その手は、少女が触ったどんなものより暖かかった。
〜〜〜
それから数ヶ月。少女はすっかり元気になり、言葉も会話に困らない程度には話せるようになった。
「ほ~ら私の名前、言ってごらん?」
「な…しは?」
「合ってる合ってる!凄いぞ少女〜!」
なしはと呼ばれたその人は少女を高い高いしながらグルグルと回っている。
「お頭、戸籍の方なんですが…」
「ん?やっぱ登録されてなかったか」
「はい、これなら偽造も簡単です」
そう言うと男は一枚の紙を机に置く。
「あとはその子の名前だけです」
「名前か〜私達の名字を名乗らせるわけにもいかないし〜う〜ん」
なしはは少女を抱きかかえながら考える。
「そうだ、空っぽの街で見つけた乙女だから、空町都乙にしよう」
「承知しました」
「ほ~らお前は今日から都乙だ!」
「とお…と?」
「そうだぞ〜」
成長した都乙はそのうち様々な事を理解した。この家は裏社会では有名な"音伽一族"のものなのだと。自分を拾ってくれた人…音伽梨葉はその頭だということ。そして自分の両親はこの人達に金を借り、踏み倒した為殺されたという事。
最後の一つに関しては、梨葉本人が直接都乙に伝えていた。
「金は払わないってんでな、部下がそのまま殺した」
「……そうか」
「恨むかい?」
「別に、私にとっての親はあんただ」
「ほう?」
「あの日、あんたが扉を蹴破って入ってきてくれなきゃ、私は死んでた、ありがとう」
この人が何者だろうが関係ない。あの日、扉を蹴破って入ってきた梨葉は私にとってのヒーローだった。
「かわいいな〜このこの!」
「や、やめろ!もう子供じゃないんだぞ!」
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(…夢か…)
久々に梨葉の夢を見たな。
「どこ行ったんだか…」
数年前、梨葉は突然姿を消した。一部の奴の話では、ビルの屋上に足を運んでいたらしいが詳しいことは分からなかった。それをきっかけに"音伽一族"は事実上の解体となった。今都乙の世話をしてくれているのはそのまま残った連中である。
(連絡は…来てないな)
事件の方も進展は無さそうだ。
「さぁて、今日もお仕事始めますか」
伸びをしながらそう呟き、都乙は家を出た。
─ 都乙の!質問コーナー!
双葉:何だ急に。
─質問コーナーだよ質問コーナー、拒否権無しな。
双葉:ブラックなコーナーだな。
─1つ目の質問です。好きな食べ物と飲み物は何ですか?
双葉:何だそりゃ
─答えて下さーい
双葉:食べ物はチョコレートかな、甘くないやつ、カカオ90%とかの。飲み物はコーヒー多めのカフェオレ。
─苦いのばっかだな。
双葉:甘いの苦手なんだよ、あでもホワイトチョコは好きだな。
─ホワイトチョコも甘いと思うけどな。では2つ目の質問です。好きな教科は何ですか。
双葉:不登校の俺に聞くのか。
─いいから答えろ。
双葉:強いて言うなら体育だな。運動は得意な方だし。
─ふーん。3つ目の質問です。
双葉:今流したろ。
─好きな人は誰ですか。
双葉:さっきから中学生みたいだな
─いいだろ〜恋バナしようぜ〜
双葉:いねぇよ
─つまんねぇな、青春しろよ
双葉:別に俺の勝手だろ。
─それもそうか。では質問コーナーまた次回お会いしましょう。
双葉:何だったんだこの時間。