第2話 唸る弾丸、響く命令
授業もそこそこにして部室に行くともちろん部長がいた。
「遅いぞ双葉〜」
「さーせん」
「授業なんて受けなくていいって都乙にも言われてるんだし、行かなくていいだろ」
俺達部は都乙に協力してヴァイズ犯罪を取り締まる代わりに授業を受けなくてもよいことになっている。(都乙が校長に申請したらしい)
「そうは言ってもっすよ、てか部長一人すか?」
「そーなんだよ…玖音のやつ…つーか、あれだ扉、直さねぇと」
「あ、もう受け入れてました」
「便利っちゃ便利だけどな。そうはいかん。今日真姫いるか?」
「多分寮ですよ」
「連れてこい」
「マジですか」
「行ってこい」
「う〜っす」
こうなったらもう言うことを聞くしかない。
(はぁ〜)
往復十分はかかるんだが…
……………………………………………………………
チャリをぶっ飛ばし、寮に戻った俺は真姫の部屋を訪れた。真姫は俺と同じ一年で、もちろん部のメンバーである。
「真姫〜いるか〜」
「………」
(返事がねぇ…どうせ居るんだろうが)
「…入るぞ」
「“開け“」
「うぉ」
(あぶっね)
顔から倒れるとこだった…
「いるなら返事しろ」
「んー」
「雑かよ」
(こいつ…)
床に散らばる画材の残骸を避けて、部屋の中央で絵を描いてる真姫の方へと進む。真姫の部屋は二部屋をぶち抜いて造った特別室なので広い。
「片付けろよ」
「片付けは苦手なんだ。双葉がすればいいだろ」
「俺の部屋じゃねぇ」
(なんで俺の周りには男っぽい女か女っぽい男しかいねえんだ)
双葉の脳裏に圭と玖音の姿がよぎる。
「"戻れ"」
そう真姫が言うと、床に落ちてる物の半分ほどが収納されていく。
「まだ残ってんぞ」
「ゴミは戻る場所が無いからな」
「ったく…」
双葉は辺りに落ちているゴミを一箇所に集める。
「ふぅ〜」
(綺麗になった〜って!)
「そうじゃねぇ!」
「どうした?ノリツッコミは部長の仕事だろ?」
「掃除しに来たんじゃねぇ。都乙が扉蹴破ったからまた直してくれ」
「あぁ都乙さんが。いいよ、行こう」
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「おおー毎度助かる」
「いえいえ」
彫刻刀をクルクルと回し、真姫が得意気に言う。
「彫刻はいらんだろ」
「だってあたし、芸術じゃないと扱えないからね」
真姫は絵画、音楽、彫刻など自らが芸術と認めたものなら何でもこなせる天才である。ただ芸術と思えないものはからっきしである。という訳で部の扉は芸術品となった。
「おはよ〜ってドア凄いことになってる〜!」
「おう玖音」
「玖音先輩」
「あ、真姫ちゃん」
「うぃーす」
玖音先輩も合流し、部屋が賑やかになる。
「真姫ちゃ〜ん、何描いてんの〜」
「芸術」
「答えになってないよ〜」
「芸術とは得てしてそういうものですよ先輩」
「おい双葉、髪結べ」
「自分でやってくださいよ」
そうは言いつつも部長の髪を結ぶ。
(またロリっ子ヘアーにしてやる)
高い位置でツインテールっと…
すると外からバイクのブレーキ音が聞こえてきた。その場の全員が扉を警戒する。
カッカッカッ
「"開け"」
「おっとっと、なんだ真姫のヴァイズか」
真姫の一声で扉が開き、都乙がよろける。
「作った当日蹴破るのは流石に都乙さんでもダメですよ」
「なんだ蹴破りがいがありそうなんだが…」
都乙が名残惜しそうに扉を眺める。
「数日経ったらいいですよ」
(結局蹴破りたいんか)
「挨拶だからね」
「だから返事すんな」
「さて今日のターゲットだが…」
「聞け」
こいつ…
「連続放火犯、石崎五郎。六件の放火容疑だ。元素系のHCメガス。ヴァイズは〈発火〉だろうね」
都乙が出した映像では、男が手をかざした場所が火元もないのに燃えている。
「あ、動いた。みなみ通りだ。せっかく四人いるし、今日は全員行ってこい。ほら行った行った」
そう言って都乙は圭のエリアに積んであるマンガを開く。
「あいよ、って双葉いつまで髪結んでんだ」
「あ、すんません」
(ついつい凝ってしまった)
ツインテールにおだんごまでつけてしまった。
「俺も弾丸込め終わったし、行こっか〜」
「それあたしも?」
「もちろ〜ん」
「あ〜い」
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「あれか〜、悪そうな顔〜」
「犯罪者ってのはつくづく芸術性に欠けるね」
玖音と真姫がターゲットを確認し、文句を言う。
「さっさと終わらせんぞ〜」
圭が部活着のポケットから小瓶を取り出し、叩きつける。すると中から大量の〈ナノ〉が飛び出す。
(短期決戦モードだ…)
今日の圭は本気である。
「俺も準備万端」
「よし、行くか」
ナノで下まで降り、真姫がターゲットに声をかける。
「おいにーちゃん」
「あ?なんだよ」
「あんた、放火犯でしょ?」
「っ!ッチ!」
ターゲットが踵を返し逃げ出す。
「"止まれ"」
「がっ!何だこれ!動かねぇ!」
「あたしのヴァイズ〈スリーカウントオーダー〉三文字の命令なら相手に行使出来る。圭先輩、手錠」
「お、おう」
「俺の出番〜」
「今日は真姫の独り占めっすね」
「ちぇ〜」
いつものように都乙に引き渡す。時間を見るとまだお昼だった。
「学校戻ります?」
「そーだな、寮開いてねぇし」
そのまま四人で歩いて学校へと戻った。
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部室に戻り、各々やりたい事をやっていると、都乙が駆け込んできた。
「おーい、もう一軒頼むー」
「「無理」」
「今日はいいかな〜」
「………」(うるさい、集中出来ない)
「こら真姫聞こえてんぞ」
「なんでだよ?さっき解決したろ」
玖音のゲームを見ていた双葉が声を上げる。
「それがさっきの放火犯。仲間がいることが分かってな、あと三人。しかも今日やらかそうってんだ。流石のこの私でも放っておけない」
「「「「………」」」」
全員顔を見合わせ、頷き合う。
「夕飯奢れ」
「ほしいマンガあんだよね」
「みんな行くなら俺も行くよ〜」
「あたしの創作タイムが〜」
「…悪いな。夕飯は奢るぞ、全員分」
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「都乙さんによれば、相手らは炎とか爆発とか系のヴァイズの集まりらしい。しかし、人類70億いるってのに、ヴァイズダブらないの凄いよね」
真姫がペラペラと続ける。
「どこだろ〜見えないね〜」
「暗くなってきたな」
時刻は6時をまわろうとしている。
バァン!!
「「「「!?」」」」
爆発音がなり、全員の視線がそちらへ動く。
ビルが煙を上げ、激しく燃えている。
「チッ!始めやがった、双葉!」
「はい!」
双葉と圭が下へ降り、ビルの方へと走る。
「人が見えないんじゃな〜、玖音先輩、頼んます」
「あーい、やっと出番だ〜」
玖音がライフルを構える。
「"W"ater」
発音良くそう言って、狙いを定め、火災が起きているビルへ撃つ。着弾すると同時にそこから大量の水が吹き出し、火は沈下した。
「火は消したよ〜」
「あざます」
真姫はビルの方を凝視し、ターゲットを探す。
「先輩〜なんかいい弾丸ないんですか」
「えっとね〜あ、これは?」
そう言って手にした弾丸をライフルに込め、言う
「"S"earch、えい」
「お誂え向き〜!」
弾丸はビルの方へ飛んでいき、うねうねと曲がり、ある場所で爆発した。
「もしもし双葉?うんそう今爆発したとこターゲットいるよ」
「これでいいね?」
「うん、ありがと真姫ちゃん」
しばらく煙を上げるビルを眺めていると真姫のスマホに連絡が入る。
『無事捕まえたぞ、三人』
「おう、お疲れだね」
『今から戻る』
「あ〜いいよ。圭先輩の手をとって?」
『握ったぞ』
「"戻れ"」
『うぉ!』
(圭先輩、照れてるだろうな〜)
あたしの見立てでは多分双葉の事…
「うわっと、着地」
「おかえり〜」
(お姫様抱っこだし、案の定圭先輩真っ赤だし)
芸術級だね、あのテレ顔。
「おい真姫!もうちょっと方法あったろ!」
「ないね」
「おかえり二人共〜」
「おう玖音、お手柄だな」
双葉の腕から降り、深呼吸した圭がそう言った。玖音が都乙に連絡をとる。
「もうすぐ都乙さん着くって」
集合した四人は、下まで降り、都乙を待った。
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「皆!今日もオツカレ!」
「お前が仕切るな」
「まぁこいつは唯一まともに高校生ですからね」
「お前は自分で払えよ」
「なんでー!」
もう一人の部員、衛利も加わり、焼き肉が始まる。(もちろん都乙の奢りで)
「こら衛利!食い過ぎだっつうの!」
「圭パイセンだって!」
「私は働いてんだよ!」
「俺だって学業してますよ!」
衛利と部長が言い合ってる。
「どうだ少年少女、人の金で食う焼き肉は?」
「ゴチになりま〜す」
「美味い」
「サイコー」
「美味いに決まってんだろ」
「俺も奢りっすよね?」
「少しは引け目に感じろ。そして衛利、お前はダメだ」
「えぇ…」
衛利かがガクッと肩を落とす。
その日の支払い額は2万を超え、都乙は学生の胃袋を甘く見たことを後悔したの言うまでもない。
三ノ葉玖音
みつのはくおん
身長 168cm
ヴァイズ AtoZバレット
AからZまでの刻印がされた弾丸に英単語を当てはめ、放つことで弾丸に様々な効果を付与することが出来る。
概要 ナヨナヨしているが過去に警察のサーバーをハッキングしたことで都乙に目をつけられ、部に入れられた。語尾を伸ばしがち。
心嶋真姫
ここしままき
身長 167cm
ヴァイズ スリーカウントオーダー
三文字の命令ならば確実に相手に行使できる。ただし、姿が見えていることが条件。
概要 絵画、音楽など芸術に関しては実に多様な才能を持つ。自身が芸術と認めたものに限る。唯一都乙を"さん"付けで呼ぶ。