第17話 俺、お前の魔法効かねぇんだわ
「ずいぶん頑張ってんな??」
大はダーヨになんと声をかけようか、基地からダーヨの元へ向かう数メートルの間に何度も何度も考えてはやめを繰り返していた。そして出てきた答えは何度も繰り返した末に出てきた言葉とは全く別のものであった。だからこそどんな言葉よりも素直であった。
「大・・・・、こんなところでどうしたのだよ??」
ダーヨが見つめる先にいるのはいつもの大だった。でも、今までの大ではない。今の大は私の過去を知っている。雰囲気という頼りない根拠からダーヨはそう感じとっていた。
「マースさんから全部聞いたよ・・・・」
「そうなのか・・・・・・だよ」
ダーヨは大の"全部"という言葉について問いかけなかった。声の抑揚、間の取り方、それらが全て"全部"とはダイのことなのだと言っているように聞こえたからである。
「ダーヨはね・・・・、人殺しなのだよ」
ダーヨは大の目を見ることができなかった。それは大にとっても少しだけ都合が良かった。なぜなら、大はダーヨの予期せぬ返答に驚いて、瞳孔が開いてしまっている自分に気がついていたからである。
こいつはそんな風に自分のことを思っていたんだな。あれから、どれだけ自分のことを責めてきたんだろう・・・・。
大の胸に熱いものがこみ上げてきた。
「そっか・・・・」
大は気安く"そんなことないよ"とは言わなかった。それがダーヨも嬉しかった。だからこそ、どうしてそう言ってくれたのかを知りたくなった。
「否定はしてくれないのか・・・・・・だよ」
「俺が、お前は人殺しじゃないよって言ったら、お前は納得できるのか????」
「そんなわけないのだよ・・・・」
「・・・・・・だろ」
大はダーヨが否定してくれることをほんの少しだけ期待していた。だから想像通りの言葉が返ってきたにもかかわらず、同調がもたついたのである。
「お前は今のままでいいのか????」
「いいわけないのだよ!!!!・・・・・・でも、どうすればいいのかもわからないのだよ!!!!だけど、それでも、少しだけでも、罪滅ぼしになるのではないかと思って、こうしてダイ君の見える場所で魔法の練習をしているのだよ!!!!」
「あれはダイってやつの体調も原因だったんだろ????」
「そうだよ!!でも、私が早くそのことに気づいて魔法を上手くコントロールできていたら、ダイ君は死なずに済んだんだよ!!!!」
「真剣なやり取りをしている場面で、そこまで気を回すなんて無理だろ!!!!」
「そんなのわかっているのだよ!!!!」
ダーヨの語気が強くなった。
「じゃあ何で・・・・・・??」
「無理だったからと言って・・・・・・・・・・・・、私は私を納得されられないのだよ」
これがダーヨの本音だった。ダーヨはわかっていたのである。自分のせいでダイが死んだのではないことを。わかりすぎるくらい、わかっていたのである。だけど、仕方のないことだと自分を納得させられなかったのである。だから苦しいし、どうすればいいのかわからなかったのだ。
「そっか・・・・・・」
大はこれ以上、言ってあげられる言葉が見つからなかった。ただでさえ自分の言葉が的を得ていない実感があるのに、このまま続ければダーヨを混乱させるだけだと思ったのだ。でも、何かダーヨの気が和らぐようなことを言ってあげたい。その思いが、今から奇跡を起こしていくのであった。
「まぁ・・・・、あれだな!!そのダイってやつも、俺みたいにどこかに転生してるかもしれねぇな!!!!」
キョトン!!!!
ダーヨは大の想像力に驚くと同時に、"確かにそういうパターンもあるかも"と思った。
「そしたらさ、そのうち出逢えるんじゃねぇか!!!!んで、恋人同士また切磋琢磨しながらDRSを盛り上げていけばいいんじゃねぇのか!!!!」
大は自分の胸が締め付けられていくのを感じていた。
「・・・・・・・・はぁ」
ここでまさかのダーヨのため息。
「なんだよ????」
「大もなのかだよ・・・・!!!!」
「何がだよ????」
「大も私とダイ君のことを勝手に恋人同士にするのだよ!!!!」
「え・・・・・・・・・、違うの?????????」
「違いすぎるのだよ!!!!!!」
大の胸の苦しさが和らいだ。
「だっ、だって、俺、マースさんから聞いたぞ!!!!」
「だから、マース隊長も勘違いしているのだよ!!」
「え????え????だって、ダイってやつとは同期で、お互い切磋琢磨して、お互いに理解しあって、いつしか恋に・・・・・・」
「はい!!!!そこなのだよ!!!!そこから勝手な解釈がはじまっているのだよ!!!!」
「いやいやいやいや!!!!そこまで来たら、誰だってそう思うだろ!!!!」
「私は勝手に決め付けられて困っているのだよ!!!!」
「だってお前、さっきまで私は人殺しとか、罪滅ぼしとか色々言っていたじゃねぇか????」
「恋人以外の人を殺しても、人殺しは人殺しなのだよ!!!!」
「おっしゃる通りだけども・・・・・・・・・・、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
大は取れた胸の苦しさも相まって、テンションが上がっていた。
「それに、私が好きなのは大なのだよ!!!!」
「なんだよ!!!!そうだったのか!!!!お前、大のことが好きだったんだな・・・・・・・・・・・・・って、え????え????えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
大の心は爆発した。
「な??え??な??な??え??」
「そういう、へんちくりんなところが大好きなのだよ!!!!」
「へんちくりんって・・・・・・、好きな人の条件に入ることあるんだ!!!!いやいやいやいや、今はそんなことどうでもいい。マジかよダーヨ????」
「マジなのだよ!!!!」
ダーヨの目はマジだった。
「そっか・・・・・・、そっかぁ・・・・・・」
大の顔はニヤニヤニヤニヤしていた。
「だから、さっき私が倒れそうになった時、大が支えてくれたのが本当に嬉しかったのだよ!!」
「そっか・・・・・・。じゃあさ、俺もお前がダイの死を乗り越えていけるように力になるよ!!!!一緒に乗り越えていこうぜ!!!!」
「よろしくお願いしますなのだよ!!」
「と言っても・・・・・・、そんなすぐには無理か????」
コクン
ダーヨはうなずいた。
「そうなのだよ・・・・。私はもう少しだけここで魔法の練習をするのだよ!!」
「わかった!!!!もうすぐご飯みたいだから、あんま遅くなるなよ!!!!」
「はい!!!!なのだよ!!!!」
笑ったダーヨを見て、大は基地の方へとスキップしながら帰って行った。
「アイスニードル」
「アイスニードル」
「アイスニードル」
「アイスニードル」
「アイスニードル」
基地へ戻っていく大の後ろでダーヨの練習する声が響いた。
「アイスニードル」
「アイスニードル」
「アイスニードル」
「アイスニードル」
「アイスニードル」
その瞬間であった。ダーヨが海へ向かって一心不乱に魔法を放っていたその軌道上に、大が勢い良く飛び出してきたのである。それはあまりにも突然で、ダーヨに魔法を制御する猶予を一切与えないほどのタイミングであった。
「大!!!!!!!!!!!」
ダーヨは取り乱した。それと同時にダイを殺してしまった時の映像がフラッシュバックしたのである。そして、ダーヨは大の死を予感した。
「デコボォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」
大に突き刺さろうとしていたアイスニードルはデコボによって大の鼻くそほどのサイズにまで小さくなった。それを大は右手の裏拳で岬の下の海へと叩き落とした。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンンンンンンンン!!!!!!!
鼻くそサイズになったアイスニードルは海にぶつかった衝撃で大きな爆発を起こした。その衝撃で海の水が空高く舞い上がり、大とダーヨの周りだけ雨が降っているかのようになった。
「わかったろ????俺、お前の魔法効かねぇんだわ!!!!だから、お前に俺は殺せねぇ!!!!それを言い忘れてたわ!!!!」
その言葉は、ダーヨにとって今までかけられた誰のどんな言葉よりも安心できる言葉であった。
「大・・・・・・・・」
舞い上がった水のせいなのか、はたまた・・・・・・。とにかく、ダーヨの頬はたくさんの雫で濡れていた。