第15話 閉ざした心
「ダーヨが最愛の人を自分の手で殺した・・・・????」
大はマースから告げられた真実に呆然とした。
「えぇ・・・・・・」
自分から切り出したマースもとても辛そうな表情をしていた。
「あれは誰がどう見ても事故でした。しかし、ダーヨさんの魔法で最愛の人を手にかけたという事実は間違いありません!!」
「よくわかんねぇよ!!マースさん!!もっと詳しく話してくれよ!!」
大は真相を知りたくてたまらなかった。それは野次馬根性ではない。出会ってからずっと感じていた、ダーヨのどこか辛そうな雰囲気。それは戦うことへの辛さというよりも、生きることそのものへの辛さを感じているようだった。ダーヨを見てなぜそう感じたのか??大の中でその答えが少しずつわかりはじめていた。
「DRSにはもともともう1人隊長がいました。名前をダイと言います」
「ダイ・・・・」
「ダイはダーヨさんと同期で、2人はお互いをライバル視しながら実力を磨いていきました。その中で、互いを尊敬し合い、互いを認め合う内に、2人はいつしか恋に落ちていったのです」
「・・・・・・」
なんだろう・・・・、この胸のモヤモヤする感じは・・・・????
大は自分の中にある言葉にできない感情に戸惑っていた。
「そんな中、事件は起きました。それは副隊長任命試験でのことです・・・・」
会議室に重たい空気が蔓延する。
「試験の内容はダイとダーヨさんの一騎打ち。勝ったほうが副隊長に任命されるというもの。もちろん、相手を死に至らしめるような行為は許されません。試合開始早々から激しい攻防!!お互いの実力は拮抗していました。5時間にも及ぶ真剣勝負。次が最後の一撃になる。そんな時でした。ダーヨさんの魔法がダイの胸を貫いたのです・・・・」
「は????どういうことだよ????」
「ダイは試合の直前まで任務にあたっていました。その時に軽い毒を受けていたのです。ダイの実力であればいつも通りだと自然に治癒していくレベルです・・・・。ダイ自身もそう考えていたと思います。その油断が引き起こした惨事でした。5時間にも及ぶ死闘はダイに大きなダメージと疲労を与えました。その結果、免疫力が低下していたのです。そして、試合の最後の最後で毒による体の麻痺が起こってしまいました。結果、ダイはダーヨさんの魔法を防御することができなかったのです。試合を見ていた他の隊長たちも、まさかダイが防御ができなくなるなど誰一人として思いませんでした。そのため試合を止めるのがほんの一瞬遅くなり、ダイは命を落としました・・・・」
「・・・・・・・・」
「ダーヨさんはその場から動けなくなるほどに泣き崩れ、自分を責めて、責めて、そして・・・・・・、自分の力を封印しました」
「封印・・・・????でも、俺はダーヨが魔法を使っているところを見たぞ!!!!」
「それはどんな魔法でしたか????」
「でかい水の玉を操って攻撃する魔法だった・・・・」
「やはり・・・・・・」
「やはりっていうのは????」
「大さん!!!!ダーヨさんは水の魔法使いではありません!!!!」
「え????でも・・・・、実際水を操って・・・・・・」
「ダーヨさんは水の魔法使いではなく、氷の魔法使いなのです!!!!!!」
「え・・・・・・・・??????」
そう。マースさんの話を聞いていて引っかかっていたんだ!!なんでダーヨの魔法がダイって人の胸を貫いたんだろうって・・・・。水の魔法にあんまり人の体を貫くイメージが湧かなかったから・・・・。でも、氷って聞いて合点がいった。
「自分の氷魔法によって最愛の人を殺してしまった。呪われた危険な魔法だと思うようになっても仕方のないことだったのかもしれません!!ダーヨさんはそれ以来、氷魔法を実践で使わなくなりました。一緒に戦う仲間や、助けようとしている人を、また傷つけてしまうかもしれないと思ったのでしょう・・・・。それか、そうなることが怖いのかもしれません!!そんな状態のダーヨさんを副隊長に任命することはできませんでした。しかし、それでもダーヨさんの力がDRSには必要です。ダーヨさんはやめようとも考えていたようですが、力を封印してもなお、その実力は他の隊長たちに遅れをとりません。ですから、お願いして残ってもらいました。・・・・というのは建前で、私たちの目の届くところにダーヨさんを置いておきたかったというのが本音です。それほどまでに当時のダーヨさんは不安定だったのです!!!!」
「ダーヨにそんな過去があったんだな・・・・・・」
知らなかった・・・・。確かに初めて会った時から、どこか影のあるやつだなとは思っていたけれど、俺の想像をはるかに超える傷みを抱えていたんだな。・・・・・・そうか!!!!だから最初、女の子を助けるためにダーヨが水魔法を使った時、俺が魔法の跳ね返りを食らってなんともない姿を見て、あんなに安堵の表情を浮かべたのか!!!!あの時は、なんでこれぐらいでこんなに泣くんだって思ったけれど・・・・・・。そうか・・・・、自分の魔法が出会ったばかりとはいえ、味方に当たってしまった。だけど当たった相手はピンピンしている。・・・・・・そりゃ安心するか!!!!
「私は、今のダーヨさんを次の総攻撃に参加させるべきではないと考えています!!!!」
「え????」
「本当の実力を出せない今のダーヨさんを参加させても、無駄死にさせてしまうからです!!!!相手は私たちの気持ちなどを汲んで、手加減をしてはくれません!!!!」
「・・・・・・」
「ただ、あと2週間でダーヨさんが覚悟を決め、本来の力を使えるようになれば話は別です!!!!そのきっかけがあるとすれば、私は大さん・・・・、貴方だと思うのです!!!!」
「・・・・・・」
「最初、ダーヨさんが男性と一緒にいたと聞いた時は驚きました!!!!あの事件以来、ダーヨさんは他の隊長たちとも一緒に行動することを拒んでいましたからね。そんなダーヨさんが隊長どころか見ず知らずの男性と一緒にいたのですから・・・・。もしかしたら、ダーヨさんは大さんに何かを感じたのかもしれません!!!!だとすれば、私もあなたの潜在能力に賭けてみたいと思います。できる範囲で構いません!!ダーヨさんをサポートしていただけないでしょうか????」
そう言うとマースは大に深々と頭を下げた。
「ちょっ、ちょっ、ちょっとマースさん!!!!頭を上げてください!!お願いですから!!!!そんなことされても困ります!!!!それに・・・・、ダーヨのサポートなんて、マースさんに言われるまでもなくするつもりですよ!!」
「本当ですか????」
「本当です!!!!・・・・・・と言っても、何をどうサポートすればいいのか皆目見当もつきませんがね!!」
「そうですね・・・・・・、まぁ今日のところは一旦このくらいにしておきましょうか。大さんも色々脳を使ってお腹が空いたのではありませんか??もうすぐご飯の時間ですので、後ほど食堂へいらしてください」
そして、俺は自分の部屋に戻った。
「まぁ、とりあえず難しいことを考えるのはやめてご飯だ!!!!ご飯!!!!」
テクテクテクテクテクテクテク!!!!
1階にある長い長い廊下の先に食堂はあった。その長い廊下の海に面した部分にはいくつもの窓枠があり、その廊下から見える景色は、水平線が見え、落ちてゆく夕日も良く見える。絶景ポイントとも言えるような場所であった。
少し視線を下にやると地面には少し小さな草原が広がり、よく見るとその草原の先は岬になっていた。その岬の先端にはお墓があった。
そして、そこにはダーヨの姿があった。