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音魔術によって心を癒せる宮廷音楽家、戦争の役に立たないとリストラで追放されたが、隣国の剣姫に拾われて楽しい宮廷ライフを過ごす。~城内がギスギスして内部崩壊しそうだから戻ってきてくれと言われてももう遅い

作者: 高野 ケイ

今日も王城は様々な喧騒に包まれている。国の権力が集まっているのだ。多種多様な感情が溢れるのも仕方ないだろう。それは英雄に対する賞賛だったり、想い人への恋物語だったり……他者の称賛への嫉妬だったり、不貞の疑いだったり、負の感情もだ。だからこそ私のような存在が必要不可欠なのだ。



「あんたが、私の旦那に色目を使っているのわかってるのよ」

「なんの事かしら? 言いがかりはやめてくださる」

「よくも俺の手柄を奪ったな!! あいつは俺の獲物だったんだぞ!!」

「何をいってやがる。早い者勝ちだろうが!!」 



 私は罵詈雑言を聞き流しながら、今日も私は今は亡き母の形見である竪琴を持って音楽を奏でる。この曲に人々の心が癒されますように……信じあえますようにと想いを乗せて奏でる。すると、先ほどまで言い争いをしていた人達ははっとした顔をして何かに気づいたかのように、お互いを見つめあう。



「ごめんなさい、大した証拠もないの変な事を言ってしまったわね……」

「いえ、こちらこそ勘違いさせてしまう行動がありましたわ。お詫びにお茶でもしませんこと?」

「悪かった……お前も一生懸命戦ってたんだよな……」

「いや、こっちこそ……お前が見つけた獲物を奪って悪かったよ」



 先ほどまでの言い争いが嘘であるかのようにお互いが謝る。これが私の音魔術だ。私の奏でる音楽は人の心に作用する。マイナーで地味な魔術だが我が一族に伝わる秘術である。この魔術が認められて母がこの宮廷に雇われて私が後を継いだのだ。

 私は人の心が好きだ。美しいものが好きだ。確かに負の感情に支配される事もあるけれど、人は基本的に善なるものだと思っている。そして善い心を持った人間は私と同じくらい美しい。だからというわけではないが、みんなが善い心を持っていると幸せな気持ちになるのだ。



「まったく、そんなもので遊んでいるだけでお金をもらえるとは、羨ましい限りだな。私や兵士たちは前線で命をかけて戦っているというのに……」

「全くですな、この程度の仕事ならば誰にでもできますよ」

「マルク王子……おかえりなさいませ」



 私が振り返るとそこには質の高いミスリルで作られた甲冑姿の青年とその取り巻きがいた。彼の名はマルク、この国の王子であり、現王の体調が芳しくないこともあり、次期王と称される方だ。争い事が大好きで今日も、隣国と国境で小競り合いをしてきたのだろう。確かに周りに舐められないように武力を示す事も大事だと思う。だが私は思うのだ。国というのは人と人が支え合ってできるものだ。だから私は……私の魔術は人を癒すために使いたいと思っている。



「何で王は貴様なんで雇っているのだろうな? 音楽なんて所詮かっこつけるためのものだろうに……貴様も恰好だけは一人前だな」

「ああ、私がかっこよすぎてすいません。よく言われるんですy。ですが、ご安心を、マルク様も私ほどではないですがそこそこかっこいいですよ」

「マルク様はそういう意味で言ったんじゃねえよ!? 普通に失礼だろうが」

「ふん、こんな腰抜けと話しても時間の無駄だな。さっさと行くぞ」

「そうですね、それにどうせこいつは……」

「ふふ、その日が楽しみだな」



 何やら気になることを言っていたが、今はかまっている場合ではないだろう。マルク王子とは彼の依頼を断ってから目の敵にされているのでもうあきらめている。それよりもだ。彼が戦いから帰ってきたという事は他の兵士たちも帰ってきたのだ。戦闘は命のやり取りある。自分が思っている以上に心を削るものだ。早く癒してやらないと……確かに私の魔術は戦には役に立たないかもしれないが、人の心を癒すのには最高なのだ。例え馬鹿にされようとも人を癒せればいいなとそう思うのだ。さーて、今日はどんな曲を奏でようか。私は兵士たちの厩舎へと向かうのであった。




-----------





 今日はマルク王子の20歳の誕生日記念パーティーだ。一向に王の体調がよくならない事もあり、マルク王子が臨時で王の仕事をするという事を同盟国に伝えるという事を発表する場でもある。『聖剣の担い手アーサー王』など各国の重鎮もいるため皆どこか緊張しているようだ。そして、こういう場は社交の場であるために権力争いに利用されてたりするため負の感情が溜まりやすいのだ。だから、私は竪琴を奏でる。人々が楽しくパーティーを過ごせるように、幸せな気持ちでいれるように想いを込めて奏でる。



「相変わらず素敵な音色ですね」



 竪琴を奏でていると声をかけられた。声をかけてきたのは青色のドレスに身を包んだ美しい少女だ。麦の様に美しい金色の髪を結いあげており、彫刻の様に美しい顔立ちと相まって一瞬絵画から出てきたのかと思ってしまった。どこかで見覚えはあるような気もするが、確信はもてない。これだけ美しい女性を忘れるはずはないので、他国の貴族の令嬢だろう。身に着けているものはすべて一級品の様で相当高貴な立場の方であろう。その証拠に、護衛だろうか、ガタイのいい礼服の青年と、これもまた美しいドレスを纏った妖艶な女性がすぐ後ろについている。



「初めまして、トリスタンと申します。この宮廷で音楽家をやらせております。よろしくお願いいたします」

「初めまして……ですか……」

「くっはははは、どんまいだなぁ」



 私は何かを間違えてしまったのだろうか? 少女は美しい顔を歪めて不機嫌そうに唇を尖らせており、護衛の青年はなぜか腹を抱えて爆笑し、それを見た少女に睨まれて足蹴にされている。どうでもいいけど、ドレスでそんなことをしているとパンツ見えてしまいますよ? ふむ白ですか……

 私がどうしようかと考えていると美しい女性が大人びた笑みを浮かべながら助けるかのように口をはさんだ。



「すいません、うちのお嬢様はトリスタンさんのファンなんですよ。ねえ、そうでしょう」

「はい……昔あなたの曲に心を救われたことがあるんです。それで、声をかけさせていただいたんですが覚えていらっしゃらないようですね」



 そう言うと彼女は拗ねたように頬を膨らませて顔を背けてしまった。まずいな……さすがの私も曲を聞かせた人全員を覚えているわけではないのだが……しかし、彼女の顔を眺めていると確かにどこかで見たことがある気がする。もう少しで思い出せそうなのだが……



「それは失礼しました。お詫びと言っては何ですがお好きな曲を弾かせていただきますよ」

「本当ですか、それでは『剣姫と吟遊詩人の恋歌』をお願いできますか」

「お任せください」



 私の言葉に先ほどまでとは一変してキラキラと目を輝かせて、リクエストする少女。その姿があまりに可愛らしく、嬉しそうで、つい、私までニコニコとしてしまう。ああ、これだ。この純粋な喜びの感情。これがあるから人が好きなのだ。

 ちなみにこの曲は身分を隠して剣士として生きているお姫様と、宮廷を追放された吟遊詩人の恋物語だ。他国の曲で、結構マイナーなのだが、良く知っているなと感心する。



「この曲を知っているとは中々通ですね。音楽に興味がおありで……?」

「それは……その……」



 私の言葉になぜか彼女は顔を真っ赤にしてしまった。何か変な事をきいてしまったのだろうか? 俺が困惑していると青年が口を出す。



「この子の想い人が音楽家なんですよ。昔悩んでいた時に救われたらしくてね」

「ケイ!! 余計な事は言わないでください!!」

「おーこわいこわい。俺は酒でも飲んでくるわ。マーリンも行こうぜ」

「ふふ、この子が可愛いからって変な事をしちゃだめよ」

「二人とも行くなら早く行ってください!!」

「いや、しないのでご安心を……」



 そういうと二人は少女を追いてどこかへといってしまった。護衛だというのにいいのだろうか? 大体そんな事はいわれなくてもわかっている。他国の貴族の令嬢に手を出してみろ。下手しなくても外交問題である。

 私が気を取り直して少女の方を見ると顔を真っ赤にした彼女と目があう。すると彼女は恥ずかしそうにはにかんだ。確かに可愛い。そして視線で曲が聞きたいと訴えてきたので、私は竪琴を奏でる。

 彼女は何かをしゃべるわけでもなく、私の演奏を聞いていた。なぜだろう、会話はないのに不思議と気づまりはせず、むしろ楽しかったのだ。



「ありがとうございます。おかげでとても素晴らしい時間が過ごせました……もし、よろしければもう何曲か……」

「おお、ここにいらっしゃったのですね。ん? なんでお前もいるんだ。失礼な事をしていないだろうな」

「ご安心を、マルク様。私はイケメンですからね。レディに不快な想いはさせませんよ」

「こいつマジで頭おかしいな……」



 俺と彼女の間に入ってきたのはマルク王子だ。彼は彼女のそばに俺がいるのを見つけると憎々し気に吐き捨てた。ちなみに私は宮廷内で「しゃべらなければいい男ランキング1位」の称号を頂いているので、客観的にもイケメンなのだろう。ああ、でも彼女とは結構喋ってしまったな……粗相はなかっただろうか?



「まあいい、今日は来ていただけてありがとうございます。よかったら私と一曲踊りませんか?」



 マルク王子はわざわざ俺と彼女に間に入って声をかける。主賓であるマルク王子からのダンスの誘いか、彼女は俺が思ったよりも、高貴な立場の人だったのかもしれない。名前をおぼえてなかったが大丈夫だろうか……



「いえ、結構です。そろそろ疲れたので失礼させていただきます。トリスタン様、素敵な曲をありがとうございました。また聞かせていただけると嬉しいです」

「なっ……」



 そういうと彼女は踵を返して立ち去ってしまった。それを見たマルク王子が悔し気に顔を歪めた。そして俺を思いっきり睨んでくる。でも、私は別に悪くなくないか。イケメンですまないな、マルク王子。私は心の中で謝りながらも、気まずくなったのでさっさとその場を去ることにした。ああ、そう言えばあの少女の名前は何だったのだろうか。





-----------





「トリスタン貴様は首だ。どことなりと行くといい」

「は……?」



 私は突然の言葉に耳を疑った。パーティーの次の日に呼ばれたと思ったらこれである。何かやらかしてしまったのだろうか。いや、私の演奏は完ぺきだったはずである。みんな喜んでくれたはずだ。他に思い当たる事と言えば昨日の高貴そうな女性に対してか……確かに名前を覚えていなかったのは失礼だったが、彼女はそんな事で私を罰するような人ではなさそうだ。あとはパンツを見てしまったがあれは私のせいではないはずだ。



「説明をしていただいてもいいでしょうか?」

「言わなきゃわからないとは愚かだな。俺は父とは違う。戦争でこの国を豊かにするのだ。それにはお前の音楽は不要なんだよ。それともお前の音楽で兵士たちが強くなるのか?」



 マルク王子の言葉に私は無言でいることしかできなかった。厳密にいえば強くすることはできる。というか以前マルク王子に提案されたことがある。私の音楽は人の感情に影響を与えることができる。その気になれば臆病な兵士を好戦的に、反抗的な兵士を従順にすることも可能なのだ。だが、私の音魔術はそんなことのためにあるのではない。母は言っていた、我が一族の力は人を癒すためにあるのだと……ならばそれを裏切るわけにはいかないのだ。それに私は自分の演奏で他人が争うようなことはみたくないのだ。



「確かに戦争ではお力になれないかもしれません、ですが、戦争で傷ついた人々の心を癒すことはできます!! ですから何卒!!」

「ええい、うるさい。お前はもう用済みなんだよ!! たかが演奏に金をかけすぎなんだ。遠征費とか言って魔物に襲われたりした村にいったりしていたが観光のつもりだろう。大体演奏なんかで人が救われるものか!!」

「そんなことはありません、人々のケアは必要ですし、必須です。私の母が宮廷に入ってから権力争いや汚職が減ったのをご存じなはず!!」

「うるさい、こんなものわが国には不要だ!!」



 そう言って言い返す私の腕から、マルク王子が竪琴を奪い取る。そして、窓から放り捨てるのを私は見ているだけしかできなかった。



「ああ……」

「我が国はこれからもっと強くなる。貴様を雇っていたお金で強力な傭兵を雇うのだ。さっさと去るがいい」



 あまりの事に私は呆然とすることしかできなった。そしてそのまま宮廷を追い出されたのであった。




--



 宮廷を追放された私はゾンビの様に街の中を歩いていた。母の形見の竪琴をなんとか見つけたが高いところから落ちた衝撃で、もうまともな音を鳴らさないだろう。これからどうしようか……私が悩んでいるところだった。



「トリスタン様……?」



 声をした方を見ると、高級そうな飾りの馬車が止まったと思ったら、窓が開かれる。そこにいたのは金髪の中世的な顔をした美しい少年だ。以前お会いしたことがある。彼の名前はアーサー様だ。我が国の同盟国の王子であり、英雄にのみ抜くことができるという聖剣に選ばれた稀代の名君だ。



「アーサー様……お久しぶりです」

「どうされたのですか? 宮廷音楽家のあなたが何でこんなところに……それにその竪琴は……」

「おい、アーサー、勝手に降りるなって。それにあんまり他人と関わりたくないって言ったのはお前だろ」

「いいんです。彼は特別ですから」



 私がどう説明すべきか悩んでいると馬車からアーサー様が降りてくる。その、表情は本当に私を心配してくれているようで、ああ、あの時の私は間違っていなかったんだなと心が救われた気がした。私がなぜ他国の王と知り合いなのかは数年前にさかのぼる。




------



 数年前、私は前王に連れられて隣国に来ていた。なにやら伝説の聖剣を抜いた少年が数百年ぶりに現れ王として即位したというので挨拶に来たのだ。

 私の仕事は夜の新王お披露目会での演奏である。前王が挨拶をしにいっている間は暇なので許可をもらって、宮廷を散歩していたのだ。そして、人気の無い庭を歩いていると、押し殺したような泣き声が聞こえた。その音はとても小さかったけれど、音を扱うのが得意な私は聞き逃さなかった。



「何を泣いているのですか?」

「え……誰?」



 そこには木の下に身を隠すようにして泣いている金髪の少年がいた。どれだけ泣いていたのだろう。目は真っ赤に腫れていて、擦りすぎたであろう瞼は痛々しかった。彼の腰にある剣を見て私は悟る。彼がアーサーなのだなと……彼は私の視線に気づくととっさに聖剣を隠そうとした、まるで自分の正体がばれるのを恐れるかのように……



「私は音楽家のなのですが、今とても竪琴を引きたい気分なんです。よかったら一曲聞いてくださいませんか?」

「え……私を連れ戻しに来たんじゃ」

「それは兵士の仕事でしょうね。私はこの国の兵士ではないですし、音楽家の仕事は音楽で人を癒す事なんです。だから目の前のあなたが誰かは知りませんが、泣いている少年を放っておくことの方が問題なんです」



 私の言葉に一瞬困惑した少年だったが、意図を悟ってもらえたようで満面の笑みになった。賢い子だなと思う。

 アーサー王は噂ではまだ子供らしい。確かに目の前の彼はようやく12になったくらいだろう。噂では平民だったらしい。確かに目の前の彼は服を着ているというよりも着られているといった感じである。幼い年で、いきなり王になった彼はどんな気持ちなのだろうか? 聖剣の主としてのプレッシャーはどれくらいののしかかっているのだろうか? 私にはわからない。だから私はできることをするだけだった。私はなるべく元気の出る曲を奏でる。目の前の少年のこころが癒えるように奏でる。



「なんだろう……胸がポカポカする」

「それはよかった……他にはどんな曲が好きですか……リクエストを聞きますよ」

「『剣姫と吟遊詩人の恋歌』って知ってるかな? 故郷の曲なんだ」

「ええ、もちろんですよ」



 そうして私は少年が満足するまで弾き続けるのだった。どれくらい弾いていただろうか、その間彼は何もしゃべらなかったけれど、本当に楽しそうに聴いてくれていて、それがとても居心地がよかった。



「おい、アーサー、どこにいるんだよ? 客を待たせてるんだぞ!!」



 二人だけの演奏会は彼を探す事声によって終わりを告げることになった。私がどうしようか迷っていると少年と目が合った。そして彼は力強くうなづいて立ち上がる。



「もう、大丈夫ですか?」

「うん、もう、大丈夫だ。ありがとう、君の曲はすごいね、勇気が湧いてきた。頑張れそうだよ。その……名前を教えてくれるかな?」

「もちろんです。私の名はトリスタンです。次までにもっと腕を上げておきますからいつでもお声をかけてください」

「じゃあ、私は立派な王様になるよ。そうなったら演奏をしてくれるかな? ケイ、私はここだ!!」



 そうしてアーサーは部下の人に連れられて城内へと戻っていった。立ち上がった彼の視線には迷いはなく、その手にはしっかりと聖剣が握られていた。私の音楽が彼の心のに勇気を与えたならば嬉しいなと思う。



-----------



「そんなことがあったんですか……」


 私はなぜかアーサーの馬車に乗せてもらいながら事情を話していた。他国の王の馬車に乗るというのはまずいのでは……? と思ったが、もう首になったのだから関係はないのだろう。イケメンである私でも流石に無職という事実はへこむものである。そして一つ気になることがある。



「あなた方は昨日の美しい令嬢の護衛ではなかったのですか? なぜ、アーサー様の護衛をしてるのです?」

「え……」

「ぶはははは、こいつマジか、こいつマジか!!

「あらあらまあまあ……」



 私の言葉に何故か、アーサー様は複雑そうな顔でうつむいて、ケイと呼ばれていた青年は爆笑していた。アーサー様の表情は怒っているようで、でもにやけそうな何とも言えない表情だ。一体どうしたのだろうか? 私は助けを乞うようにマーリンさんに視線を送るが彼女はあきれたとばかりに肩を竦めた。



「美しいっていわれて嬉しいけど、正体に気づいてもらえなくて拗ねてるのよこの子」

「え……」

「こうすればわかりますか……確かに昨日は化粧をしてましたが……普通気づきませんか?」



 そう言うとアーサー様は拗ねた顔で髪を結う。そこには昨日の令嬢がいるわけで……でも、アーサー様は男性では? 私の疑問にケイが肩を竦めながら答える。 



「ああ、聖剣を抜いたのが少女だと舐められるから少年ってことにしたんだよ。同盟国であるお前さんとこの王子には伝えてあったんだけどな……大体アーサーが、好き嫌いばっかりしてるから、育つところも育たないんだよ。だから初恋の相手にも男って思われ……うおおおおお、お前聖剣を抜くのはシャレにならねーよ!?」

「うるさいな、ケイ!!」



 アーサー様を抜こうとするのを必死にケイさんが止めている。マルク王子には嫌われているから教えてもらえなかったのだろう。それにしても女性だったのか……全然気づかなかったものだ……確かに中性的な顔だなとは思っていたが……俺は思わずマーリンさんとアーサー様を見比べる。マーリンさんのふくよかな谷間が目の毒である。そしてアーサー様は……



「何か言いたそうですね、トリスタンさん」

「いえ、なんでもないですよ」



 殺意に満ちた視線に私は必死に首を振る。マジでちょっとこわかった。アーサー様は仕切りなおすようにコホンと咳払いをする。



「事情はわかりました。こんな時に言うのもあれなんですが、トリスタンさん、私の国で宮廷音楽家として雇われてはもらえませんか?」

「え……でも、私の力なんて……」



 いきなりの提案に私は自虐的な言葉を返すことしかできなかった。だって私は、価値が無いと言われ首になったばっかりで……私の信じていた仕事は価値がないと言われたばかりで……だからいきなりそんな事を言われてもなんと答えればいいのかわからないのだ。



「いきなりという事は承知しています。でも、私の国にはあなたの力が必要なんです。あなたの誰かを倒す力ではない、人を癒す力が必要なんです。私と一緒に来ていただけないでしょうか」



 私の自虐的な言葉を彼女は即座に否定してくれる。そして、まるで元気づけるかのように手を握ってそのまま笑顔で俺を見つめる。その顔には嘘なんてなくて……だから私は信じたくなってしまう。彼女の言葉を信じたくなってしまった。



「あなたの力は本物です。だって、私は少なくともトリスタンさんに音楽によって救われたんですよ。聖剣に選ばれてプレッシャーに押しつぶされそうだった私を救ってくれたのはあなたなんです。あなたに救われた私が言ってるんです。私の国にはあなたの力が必要だと……信じてください」

「アーサー様……」



 どうやら私は思った以上に首にされたことに対してショックを受けていたらしい。だって、私が自分の魔術を……やってきたことを一番信じなければいけないというのに……彼女の言葉に心が救われる気がした。私は感謝の気持ちを表すというわけではないが、握られた手を強く握り返す。そうしていると厭らしい笑みを浮かべたケイさんがアーサー様に握られた手を指さしながら言った。



「いやぁ、アーサー様も積極的ですな、殿方の手を握るようになられるとは」

「え……ああ、トリスタンさんこれは違うんです!! 私がへこんでいた時にお母さんがこうしてくれていたもので……ケイ、ニヤニヤしないでください」

「だから聖剣を気楽にぬくんじゃねーっての!! 顔を真っ赤にしながらどなってもこわくねえぞ」



 馬車の中でまたドタバタ騒ぎが始まる。私はその光景に心が温まるのを感じながら、母の形見の竪琴を見つめる。仕事をするのならとりあえず、これを修理しないと……



「あら、それ大事なものなのかしら? あなたがうちに来るなら復元魔術で直せるわよ」

「本当ですか!!」

「それにうちのお嬢様は、理不尽な命令はしないし、人の心の大事さをよくわかってるからな。あんたを追放なんてしないぞ。だからさ、うちに来いよ」



 マーリンさんとケイさんが暖かい笑みを浮かべながら私を誘う。そして、もちろんアーサー様も……



「どうでしょうか、トリスタンさん、私の国に来ていただけませんか?」

「私は……」



 もう、答え何て決まっていた。 



-----------





 そうして私がアーサー様の元へ行って半年後の話である。近隣の村から魔物の群れが現れたので退治してほしいと言われ王自ら出陣となったのだが……



「カリバーンーーーー!!」



 聖剣からでた聖なる光が魔物を焼き払う。何度見ても圧巻である。むしろ魔物がかわいそうになってきた。私達にできることはただ見守ることだけだった。というかあれはなんなのだろう。



「剣からなんか変な光が出てるんですが……」

「聖剣だからな、そんなもんだろ」

「聖剣ですもの。これくらいできて当たり前なのよ」



 私は信じられないものを見るような目で言ったが二人は慣れた感じだ。よくわからないが聖剣というくらいだし変な光がでるのが普通なのかもしれない。



「ふぅー、今日も無事終わりましたね。どうでしたか、トリスタン、私の活躍は?」



 そういうとアーサー様がまるでピクニックから帰ってきたかのような感じでこちらへと戻ってきた。そして何やらニコニコと笑顔で私を見つめてくる。私がきょとんとしているとケイが耳打ちをしてきた。



「あいつはあんたに褒めてほしいんだよ。初心だからかあれであんたにアピールしてるつもりなんだよなぁ。さっき教えたあれをやってやれ」

「はぁ……ですが不敬罪にならないでしょうか?」

「いいからやれって、絶対喜ぶからさ」



 よくわからないがアピールされているらしい。私は強いというアピールだろうか? もしかしたら、私が戦うから、あなたは安心して演奏してくれという事なのかもしれない。



「さすがですね、アーサー様。これで民も安心して過ごせますよ」

「もう、アーサーでいいっていってるじゃないですか。キャッ」


 彼女が不満そうに唇を尖らせたので頭を撫でて差し上げる。すると彼女は可愛らしい悲鳴を上げた。不敬ではとも思うのだが、ケイがこうしてやれというのだ。最初は何がおきたかわからず困惑していたアーサー様だったがやがて恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。普通女性はこういう事をされると嫌がると聞いたのだが、私のイケメン力のなせる業だろうか。その表情はともて幸せそうだ。



「うう……いつの間にこんな事を覚えて……」

「イチャイチャしてるはいいけど、トリスタン、あなたの仕事はこれからよ。魔物の襲撃で傷ついたみんなの心を音楽で癒してあげてね」

「マーリン、別に私はイチャイチャなんて……ケイもニヤニヤするな!!」



 そうして私たちは軽口をたたきながら村の方へと向かうのであった。最近難民も多くなったというし、これからどんどん忙しくなるだろう。疲れるが、誰かに頼られるというのは嬉しいし、やりがいがある。何よりこの人たちは私の仕事の価値を認めてくれるのが嬉しい。

 何気なくポケットに手を入れると何か固いものがあった。故郷からの手紙である。国外に逃亡したことは多めにみるから宮廷に戻って来いという内容だったはずだ。

 今更何をいっているのだろうか? 都合がよすぎるし、私はもうアーサー様の元で働いているのだから戻るつもりはない。もう遅いのだ……私は手紙を捨てて村へと向かうのであった。




-----------





「マルク様、また兵士たちが、不平不満を漏らしています」

「マルク様、貴族たちの間で口論が勃発しています」

「うおおおおおおお」


 次から次へと来る部下からの報告に俺は頭を抱える日々が続いた。トリスタンを追放した直後は何も問題はなかったのだ。だが、徐々に問題が発生する。それでも、最初はちょっとした口論くらいだった。だが、それはやがて、エスカレートしていき、兵士同士で乱闘をおこしたり、貴族同士も決闘を始める馬鹿まで現れたのだ。こうなっては戦争どころではない。兵士や貴族が団結しなければ戦には勝てないのだ。なのに今我が国は内部崩壊しかけている。

 原因を探ったが、みんな口をそろえてトリスタンの曲を聞けなくなったからギスギスしているというのだ。あんな音楽にそんな価値があるとは思えないが、こうでもしないとみんなの不満が収まらないのだ。個人的には気に喰わないが、仕方なく呼び戻すことにする。手紙はとっくに届いているはずだ。条件だってしかたないから以前と同じ条件にしてやったので文句もないだろう。



「もう少しだ、トリスタンが戻ってくればこれもおさまるだろう」



 彼は知らない、トリスタンがもう戻ってくることは無い事を……そして、マルク王はもう、戻ってこない彼を待ち続けるのであった。余談だがマルクはストレスで禿げた。




気分転換に流行りものを書いてみました。


ちなみにケイというキャラがいますが、私とは関係ないです。円卓にいるんですよ。いやマジで!!



面白いなって思ったらブクマや評価、感想いただけると嬉しいです。


特に評価ポイントは、『小説家になろう』のランキングシステムにおいてはかなり重要視されるんですよね。

↓の広告のさらに少し下に、ポイント評価を付ける欄がありますので、面白いなぁって思ったら評価していただけるととても嬉しいです。



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― 新着の感想 ―
[一言]  トリスタンて確か浮気性だったような…。
[良い点] ざまぁ感はほぼ皆無でしたが アーサーの初恋に光明が見えたのは良かったね [気になる点] 兵士たちの厩舎……マルクの国の兵士どんだけ冷遇されてんの⁉️ 厩で寝起きさせられてるなんて(T ^ …
[一言] 主人公の能力が結構好みです! マルク、よく王様なれたな……。
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