8/86
暗闇の中の疾走
皇都に続く街道沿いの休憩所で、ある旅商人の一団が野営をしている。
深夜2時くらい、焚火の光の届くところ以外は、濃い墨のような闇だ。
見張りが、街道の先の闇の中に、馬が走ってくる音を聞いた。
「まさか、デュラハンでも出たのか」
夜間徘徊する魔物を想像する。
音のする方を見ると二つの白い点が近づいてくる。
思わず身構えて剣に手を添えた。
二つの点は女性の目の光だった。
女性が、闇の中馬を疾走させてくる。
夜の闇と同じような黒髪を風に流し、忍者装束と呼ばれる異国の装備。
焚火の光を反射する彼女の瞳は、エメラルドグリーンに色を変え、光の筋を残し闇の中へ消えた。
見張りは夢でも見たのかと自分の頬をつねった。
白百合騎士団員で猫族の獣人、ミャオ・ヤオは、皇都に向けて夜通し馬を走らせた。
騎士団本部に、主人の火急を知らせたのは、次の日の昼過ぎであった。
通常3日かかる道のりを半分で走り抜けたことになる。
明かりを点けなければ、どうということはない。