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移動

 巨獣除けの結界を張り、馬車の屋根の上にテントを作った。

 竜の食料となる、巨獣は当然人も襲う。


 簡単に携帯食で夕飯を終え、広間の真ん中の焚火に火をつけているうちに辺りは真っ暗になった。

 浄化の術式が馬車にあるので、全員服や体はきれいになっている。


 午後7時くらい、周りを高い木に囲まれて月の光も届かない。

 焚火の周り以外は真っ暗である。

 パチリと時々焚き火がはぜる。

 リントは、見張りのマーガレットと少し離れて座った。

 秋も終わりが近い。

 少し夜は冷える。

 ポケットから煙草を出してオイルライターで火をつけた。

 焚火の明かりに煙草の煙が一筋漂う。


 リリアナが、馬車から降りてきた。

 リントの近くに来て無言で一本の指を立てた。

 リントは、煙草の箱を少し振って一本だけ煙草を出した。

 リリアナが、煙草を受け取って口にくわえる。

 リントは、”ピン、ボッ”という音とともに、彼女の煙草に火をつけた。


「いいの」


 夜の闇にふさわしい声のように聞こえた。


「……いいさ。優しくないと生きている資格がない。最後には、弱気になって引退を意識した男の言葉だ」


「姉さんのこと?」


「それだけじゃない。がんばってる()()()はほってはおけないさ」


「そう」

 リリアナは、煙草一本分の沈黙の後「ありがとう」とつぶやいた。

 浄化の術式と状態異常治癒の術式で、煙草を吸う前の状態に戻しながらリリアナは馬車に戻っていく。


 二本目の煙草に火をつけるか迷っていると、ぶるっとマーガレットが身震いした。


「実家のウイスキーだ。体が温まる。見張りの間二人で飲んでくれ」

 スキットルを渡しながら言った。


「さっきの言葉、いい言葉ね。ありがとう。おやすみなさい」

 きゅっと音を出してスキットルの蓋を開ける音を聞きながらイクシルのもとへ眠りに行った。



 夜が明けて、簡単な朝食を食べながら大まかに打ち合わせをした。

 皇女は、長そでのシャツに長ズボンの動きやすい格好になっている。


「これから、東方辺境伯領の第一都市に向かう」

「とりあえず母の実家に匿ってもらうことと、ここから一番近い都市だからだ」

「野営地の関係で早くて5日でつけるはずだ」


 一行は、東方辺境伯の第一都市を目指して出発した。

 前を軍馬に乗ったアイリス、後ろをマーガレットが操る馬車が走り、馬車の上空をリントとイクシルが飛ぶ。


 昼食を食べるために少し休憩をした以外、走り続けて本日の野営地になる休憩所に着いた。

 昨日と同じように野営の準備をする。

 その日の夕食は、リントが広間の焚火を使って煮込み料理を作った。

 インベントリから出した、大きめの鍋と水、トマト、ジャガイモ、玉ねぎ、干し肉を入れ調味料で味をととのえる。疲れている人用に少し塩を多めに入れた。

 冷たい保存食が続いている。冷える夜に温かいスープがおいしい。

 意外と皇女に好評でお代わりをしていた。


 リントから言い出して今日から、リントも夜間の見張りに参加するようになる。 

 夕食後、全員焚火の周りに座って、一時間くらいとりとめのない話をして過ごす。

 リントとアイリスは、普通に会話できるくらいの雰囲気になった。

 午後8時ごろに皇女とリリアナは馬車に寝に行った。


 最初の見張りは”アイリス”である。


 リントが、イクシルの方へ寝に行こうとしたとき、アイリスが何か言いたそうに身動きしたので座りなおした。

 焚火を挟んでアイリスと二人になる。

 しばらく待つとアイリスが背筋を伸ばし、少し上目遣いにこちらを見た。 


「私のこと可愛いって本当ですか」

「からかっているのならやめ……」



「本当だ」

 リントは被せるように言った。



「でも」

 アイリスは、自分の180センチ近い身長を、少し悲しそうに見おろす。


「僕には、内面の柔らかさを外面の硬さで()()()としているように見える」

「可愛くてとても魅力的だよ」


 アイリスは全身赤く染めながらも、リントを初めて意識したような目で


「ま・だ・信じられません」

 とうつむく。


 リントはその答えに、満足して嬉しそうにほほ笑んだ。 

リント君は、オイルライター派。

「……優しくないと……」というセリフはもうそろそろ強がるのをやめて、落ち着こうかという情けない意味のものだと読んだことがある。

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