後継者争い
皇女は、リリアナに指示して馬車から折り畳み式のテーブルと人数分の椅子を並べさせる。
全員が椅子に座った。
「卿は、先の野盗をどう思った」
「率直に言って野盗とは思えません。装備が良すぎますし、訓練された動きのように見えました」
「その通りだ。ほぼ、第二皇女ローズ殿下の手のものだろう」
「ハナゾノの皇族は、6歳になったとき適当な領地を与えられ、皇位継承権争いに参加させられる」
「大体は母の実家や派閥の貴族が後ろだてになる」
「しかし、私の母は、私を産んですぐに亡くなってしまった」
「私の領地は、帝国の南を走る白眉山脈のふもにあって、良い温泉と古代遺跡がある」
「古代遺跡に、朽ち果てた溶鉱炉があった。溶鉱炉と、この地に古くから住むドワーフの一族でピンときた。この地に800年位前にミスリルで栄えた王国があったという伝説がある」
「そして、この遺跡は王国のミスリル鉱山の跡地なんじゃないかと」
「調べてみると、この地のドワーフは、枯れてしまったミスリル鉱山を密かに守ってきた一族だった」
「すぐに、この地を私の領地にした。当時は馬鹿にされたよ。所詮は無学な辺境伯の娘、田舎者の血筋だとね」
「そして、最新の技術を使って調査した」
「この一族はミスリルを知り尽くしてた。ミスリルは出た」
「いま、鉱山都市ができて急速に発展している」
「現在、第2皇女の派閥が、継承権の順位は一位だ。しかし、資金面では並んでしまったんだ」
「そのとたん、第2皇女から傘下に入れと、領地をよこせと言ってきた。冗談じゃない。散々馬鹿にされてきたんだ」
「ふふ。腹立ちまぎれに騎士団の装備を一新して、最新式の軍用飛行艦を買ってやった」
「結果的に、母の実家の東方辺境伯も含めると軍備面でも並んでしまったんだ」
「さらに、第2皇女の派閥の貴族がわざとうちの可愛いアイリスに婚約を申し込んで、トレントなんてあだ名を付けて断って周りに噂を流したんだ」
「そして、一昨日、第2皇女派の貴族の領地で行われていた秋の収穫祭の式典中に襲撃を受けた」
「式典装備とはいえアイリスの武装許可を取っていてよかったよ。こちらは護衛騎士三人に侍女一人だ。何とかギリギリ逃げだして、一人は皇都の白百合騎士団本部に向かわせてる。今、母の実家である東方辺境伯領に逃げ込んでいるところだ」
タンデライオンはため息をつく。
「今日の、野盗は偽装した第2皇女の追手だよ」
皇女が椅子から立った。残りの三人も続いて立ち、頭を下げた。
「ドラゴンテイル卿、追手から助けてくれて大変感謝する。そして、後継者争いに巻き込んでしまって申し訳なく思う」
「しかし・・・助けてほしい。私は命までは取られない。しかし、アイリスたちは違う」
皇女と言ってもまだまだの子供だ。小さな肩が微かに震えていた。
リントは、後ろを振り返って丸くなって寝ているイクシルを見た。
イクシルは目をつむったまま親指をグッと立てた。
リントは、相棒のしぐさにクスリと笑い
「わかりました。イクシルともども全面的に協力します」
その言葉に、皇女はほっとしたように笑った。
マーガレットはやるじゃないといった感じで、リリアナは少し目を見開いて、アイリスは感極まったように眦に涙を貯めた。
全員が、野営の準備に入った。
「ついかっとなってやってしまった。反省しているけど後悔はしていない」