第四話 ②
むしゃむしゃ。
「やっぱり、お兄ちゃんのステータス上昇に比例して、皮の栄養も上がってるみたいだね。むしゃむしゃ」
むしゃむしゃ。
と、私が今、おつまみのようにむしゃむしゃ食べているのは、お兄ちゃんが『脱皮』して脱いだ皮である。
これがなかなか美味しいのだ。
うーん、濃い味のような、薄味のような。スパイシーなような、スイートなような。ジャーキーのような、ゼリーのような……奥深い味である。とにかくお兄ちゃんの脱いだ皮はめちゃ美味しい。
栄養満点だし、これ完全な万能食材じゃないだろうか? 美味すぎる。美味しすぎるのですがなにか? 何本でもいけちゃうよ。美味しい! むむむ!
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『栄養変換』
[栄養をMPに変換し回復する]
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『果実生成』で作った果実では私自身のMPを回復できないので、こちらのスキルを使うことになる。『栄養変換』である。
やっぱり樹の精霊だからこういうスキルあるんだろうね? 栄養を魔力に変換できるのだ。
本来なら栄養を得るには肥料や水や日光が必要なのだろうが、お兄ちゃんの『脱皮』した皮は栄養満点なので、数本食べて『栄養変換』をすれば、軽くMPが全回復しちゃってるのである。
しかも、味まで美味しいときたら、何からなにまで至れり尽くせり、神様ありがとう……と間違って言っちゃいそうなものである。
むしゃむしゃ……
この味は、お兄ちゃんーー!?
はあー、ホント美味しいなあ……
「カジュ……回復したなら早く……『果実生成』作って欲しいんだけど……」
『脱皮』後のグロッキーなお兄ちゃんが私に催促する。
「あーー! お兄ちゃん私のMPが回復するまでは絶対に『脱皮』しないでって言ったでしょ! 危ないんだから!」
『脱皮』を行うとお兄ちゃんのHPとMPが極限まで下がってしまうため、非常に危険なのだ。HP1とかの状態で敵に襲われたら、とんでもないことである。
「ご、ごめん……つい流れで……」
ひたすら『脱皮』をしていたらわけも分からなくなるかもしれないが、脱皮後はホントに危険なので気をつけてもらわないと困る。むむむである。
「『果実生成 《レプタイル・エルベリー》』!!」
回復の果実を生成する。ちなみにレプタイル・エルベリーは爬虫類限定の回復果実である。効果のある種族が限定されている分、生成する時のMPが安いのだ。スキル『植物図鑑』を読み漁って見つけたのだ。
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『植物図鑑』
[植物の情報を得る]
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ホント樹の精霊に生まれて良かった。
ここ一ヶ月ほど、私達は毎日、この《お兄ちゃん無限成長コンボ》を繰り返している。
一回の『脱皮』で上がるステータスは微々たるものだが、確実に上昇するというのはやはり強い。というか、めちゃ強い。
しかも、このコンボなら時間さえあればほぼ無限に『脱皮』できるため、最初は弱かったお兄ちゃんも今ではかなり強くなっている。
「『脱皮』!」
お兄ちゃんがまた、訓練という名の作業を開始する。でもこれで強くなるんだから何も問題ないよね!
「モグモグ……うーん、でもこれって努力してることになるのかな? 確かに強くはなってるけど、レベルは上がってないし……なんか、ずるくない?」
お兄ちゃん、これが異世界転生モノなんだよ!
「もちろんお兄ちゃんがある程度強くなったら、次はレベル上げをする予定だよ。森の魔物の強さを考えて、安全を確保した上での話になるけど」
「うん、せっかく強くなったんだから、早く戦いたいなあ」
お兄ちゃんは自分の成長を実感して、自信がついてきたみたいだ。良かった。
「そういえば僕もうカジュより強くなってるよね? どっちが強いか久しぶりにステータス確認しようよ」
「……え? う、うん……そだね……」
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ゲッコー・モリシマ
LV 1 《種族・モリゲッコー》
HP 5500
MP 3300
STR 3400
DEF 3600
MAG 3500
LUC 57
[スキル]
『脱皮』
『脱皮《離脱》』
『脱皮《爆破》』
『属性変化』
『自切』
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「すごいお兄ちゃん! めっちゃ強くなったね!」
スキルも増えてるし、とてもレベル1の数字とは思えないよ。完全にバグってるよ。
「いやー、努力した甲斐があったわー。やっぱり俺天才だわー」
ホントにあと一ヶ月もあれば、この森の魔物くらいなら余裕で倒せるようになりそうだ。お兄ちゃんすごい! かっこいい!
「まあ、俺は天才なんだけどさ、カジュのステータスはどんな感じ? そこそこ強くなってる?」
「あ、うん。私のステータスはね……」
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カジュ・モリシマ
LV 52 《種族・ドライアド》
HP 35000
MP 49000
STR 24000
DEF 20000
MAG 48000
LUC 870
[スキル]
『植物図鑑』
『果実生成』
『種子生成』
『植物成長』
『植物操作』
『栄養変換』
『植物結界』
『木隠』
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「うっそだろ……カジュ……」
お兄ちゃんは色んな感情が込み上げているのだろう、プルプル震えている。分かっていたけれども、やっぱりこうなったか。
「な、なんか、お兄ちゃんの脱皮した皮を食べてたら、レベルがガンガン上がったんだよ。だから私のステータスはお兄ちゃんのおかげでもあるんだよ! ありがとう!」
実際、お兄ちゃんのおかげなのは間違いない。脱皮した皮は栄養だけでなく、高い経験値を持っていたのだ。それは食べることにより吸収される。たぶんお兄ちゃんが強くなればなるほど皮の効果は上がるわけで……お兄ちゃん、すごい。すごいです!
「……と、とりあえず、あと一ヶ月くらい《お兄ちゃん無限成長コンボ》を続けようよ。そして魔物とのバトル! 本格的なレベル上げ開始だよ!」
「……なんか、もうカジュだけで全部何とかなりそうな気がするんだけど……」
あちゃーです。
お兄ちゃんのテンションが一気に下がってしまった。
またしばらくは励ましの日々になりそうだ……
でも、私だけでなんとかなるなんて、そんな寂しいこと言わないでよー。お兄ちゃん。
(^o^)/「カジュのポーチにはゲッコーの脱皮した皮がたくさん入ってます」