第四話 王道訓練パート①
僕達兄妹の当面の目標は『邪悪神』をシバくことである。
が、そんなに急いでないので、保留とする。
神に対するどうたらを考えるよりも、今日を生き残るコトの方が僕達には重要である。
ここは危険な魔物の森。まずは力が必要だ。
ギャオオォォと恐ろしい鳴き声をあげて、木々を倒しながら僕達の横を巨大な魔物が通りすぎていく。
確かにこの森で生き残るコトだけを考えるならば、カジュのスキル『木隠』を使えば難しくはないだろう。魔物達から完全に認識されなくなるからだ。隠れて暮らせば問題ない。
しかし魔物の森は危険である。僕達を認識できないとはいえ、凶悪そうな魔物達が常に近くをうろついているのだ。
なんかもう生きてる心地がしない。
ぶっちゃけ怖いのだ。
「魔物達が気づかないうちに、踏んづけられて殺される可能性もあるからなあ……僕トカゲだし、普通にありそうで怖い……」
「大丈夫だよお兄ちゃん! 私が守るから! そして、どうにか強くなろうよ。この森の魔物に負けないくらいに。お兄ちゃんなら大丈夫。私達の魔物人生の第一歩を踏み出そう!」
元気いっぱいのカジュが励ましてくれる。守ってくれるそうでありがたし。しかし魔物人生とはなんなのだろうか……魔物なのか人なのか。両方なのか。
「それに、私はこの森で一生を終えるつもりはないよ。せっかく生まれ変わった異世界だもの。冒険とか建国とかして、兄妹仲良く楽しく過ごそうよ! いや、森でこうしてダラダラしてるのも楽しいけどね!」
僕は木に登って森の様子を偵察しているつもりだったが、カジュはダラダラ休んでいると思っていたようだ。まあ木の上に登って降りられなくなったというのもある。
じっさい僕はわりと今の環境が気に入っている。トカゲだから森と相性が良いのかな? この木々の香りがたまらんのだ! サイコー! マイナスイオン! 他の魔物は確かに怖いけど……この森で一生過ごせと言われても別に苦だとは思わない。思考がトカゲになってきたのだろうか。
「ま、どちらにしろ力を手に入れるってのは大事なんだよな……弱ければ誰も守れないし。自由を掴むこともできない」
前世でのコトを思い出す。まだ子供だったから仕方ないんだけど、誰かが助けてくれることを期待しすぎてもダメなんだ。努力、すごい大事!
「とりあえず、この“レベル”っていうのを上げれば良いんだよね? 魔物を倒したら上がるんでしょ?」
トカゲな僕に倒せる魔物なんてたかが知れているだろうが、さすがお兄ちゃんというところも、たまには妹に見せねばなるまい。
カジュ、僕がやられそうになったら助けてね。
僕は意を決して戦いに向かう。初陣だ。トカゲ人生初バトルだ! どこか、弱い魔物はいないか! トカゲでも勝てそうなヤツいないか! 小さい虫の魔物なら勝てるよね? たぶん勝てるよね? トカゲの方が虫より強いよね? ね?
不安しかない!
しかし行くぞ、出陣じゃーー……
「待ってお兄ちゃん! お兄ちゃんには先にやるべきコトがあるんだよ!」
初の戦いに向けて覚悟を決めていた僕に、妹はそう告げた。
…………………
……………
………
一ヶ月後。
そして、僕は今日も皮を脱いでいる。
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『脱皮』
[皮を脱ぐ。少しだけ成長する]
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まず僕のスキルである『脱皮』。これを使って脱皮する。
僕は成長する。
そして次にカジュのスキルである『果実生成』。これによって作りだされた果実を僕が食べて、HPとMPを回復する。
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『果実生成』
[任意の果実を作り出す。生成した果実はすぐに使用しなければ腐ってしまう。また、生成した果実を自分で食べても効果を受けることはできない]
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モグモグ、シャキーン!
そして回復した僕はまた『脱皮』する。
ペリペリ、パキーン。
カジュの作った果実を食べる。モグモグ、シャキーン。
『脱皮』! ピリーン。
『果実生成』。モグモグ、シャキーン!
『脱皮』! プリーン。
『果実生成』。モグモグ、シャキーン!
『脱皮』! ぺリーン。
擬音がてきとーな気もするが、もう無心にひたすら同じコトの繰り返しなので、気にもならない。これが無我の境地だろうか。我ながらすごい集中力だよ。
とにもかくにも、これがカジュの考えた《無限成長コンボ》である。『脱皮』をひたすら繰り返すのだ。これがトカゲ流の訓練であり努力なのだ。あれ? 今日のノルマあと何回だっけ? 『脱皮』を連続でしてると色々と感覚がおかしくなってくる……
「今日はあと四十回だね、お兄ちゃん。ちょっとタイムで。私補給するよ」
タイム入った。よし。
カジュはスキル『果実生成』で果実を作り、僕のHPとMPを回復している。スキルを使用するのにカジュはMPを消費するので、カジュのMPが少なくなるとコンボは途切れるのだ。
補給タイムである。
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『果実生成』
[任意の果実を作り出す。生成した果実はすぐに使用しなければ腐ってしまう。また、生成した果実を自分で食べても効果を受けることはできない]
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カジュは自分で作った果実を食べてもその効果を受けることは出来ない。つまり自分の果実ではMPを回復することが出来ないのだ。MPがなければ『果実生成』は使えない。
MP問題である。
しかし、その問題の解決方法も、僕達にはすでに用意されていた。
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『栄養変換』
[栄養をMPに変換し回復する]
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